大パニック! 偉人学園!!
す、すごい……。私は、学園放送から流れる香子の熱弁を聞いて、胸が熱くなっていた。あの子、どちらかというと冷めたところがあると思っていたけれど、こんなにも燃えるような情熱を胸の内に秘めていたんだ。私、感動で体中がガクガク震えているよ。
「なかなかすばらしいスピーチでしたね。しかし、たとえ援軍が来たとしても、あなたたちは助かりません。……なぜなら、今すぐここでやられてしまうからだ!」
家康くんが刀を私たちに突きつけた。
私たちは信長くんの本拠地である食堂まで逃げようとしたけれど、運動場のど真ん中で家康軍の騎兵隊に先回りされてしまい、またまた包囲されていたのである。
家康くんの言う通り、香子のスピーチによってふるい立った生徒たちがここにかけつける前に、私たちはやられてしまうだろう。それに、学園の生徒たちのどれだけがそんな熱いハートを持っているのか、私にもわからない。もしかしたら、だれも来ないという可能性だってある。香子があんなにすばらしいスピーチをしてくれたのに、このままでは万事休すだ。
「騎馬隊、突撃開始!」
家康くんがそう命令すると、馬に乗っている家康くんの子分たちは「それー!」と馬にかけ声をかけて、私たちめがけて突進してきた。やばい! 馬たちに蹴り飛ばされる!
「香子!」
信長くんが私におおいかぶさるように抱きついてかばおうとした。それを見た光秀ちゃんが「信長さま!」とさけびながら、家康くんの制止をふりきってこっちに走ってくる。
「騎馬隊、攻撃中止だ! 光秀さんまで馬に蹴られてしまう!」
慌てた家康くんがそうさけんだけれど、一度走りはじめた馬をすぐに止められるわけがない。信長くんの前に背を向けて立ちはだかった光秀ちゃんが馬に蹴られる……! もうダメだ! 私がそう思った時――。
ヒヒーン!
馬たちが急に暴れ始めて、乗っている家康くんの子分たちをふり落としたのである。そして、学生寮の方角へと走りはじめた。私たちがあっけにとられてその方角を見ると、そこにも馬の群れがいた。いったいどうなっているの? そう首をかしげていたら、家康軍の馬たちは学生寮の前にいた馬たちと、顔と顔を寄せ合ったりしていちゃつきはじめたのだ!
「分かりました。あの学生寮の馬たちは全部メスです。家康軍のオスの馬たちは、突然、メスの馬が顕れたことによって恋に落ち、戦いをほったらかしにしてナンパ中なんです。サムライ学部の男子たちが他の学部の女子とたまに会うとデレデレするのと同じです」
玄白くんが冷静にそう分析した。男って、人間も馬も女の子には弱いのね……。
「わーはっはっはっ! 家康! オレのメス馬お色気作戦はどうだ?」
「ひ、秀吉⁉ お前は毛利元就と戦っていたのではないのか!」
なんと、メス馬を連れて来たのは秀吉くんをはじめとする信長くんの子分たちだった!
「さっきの紫式部先輩のスピーチで、信長さまと清少納言先輩がピンチだと知ったんだよ。それに、元就くんは、今はオレたちの味方だ。紫式部先輩のスピーチに感動して、オレたちに協力してくれると言ったんだ!」
「信長よ。君との決着はまだついていないが、今は偉人学園と僕たちの明るい未来のために、力を合わせようではないか」
「ありがたい! この借りは必ず返すぜ!」
「ふ、ふん! いくらあがいても、二百体のロボット兵士がこっちにはいるんだ。全員まとめて、やっつけてやる! ものども、かかれーーーっ!」
家康くんがそうわめいた一秒後、後ろからゲンコツぐらいの大きさの石が飛んできて、家康くんのお尻に命中した。
「だ、だれだ! 僕に石をなげたやつは!」
「オレさ。武田信玄、ただいま見参。清少納言先輩には治療をしてもらった恩がある。助太刀させてもらうぞ」
「僕も戦おう。乱暴な手当てだったが、いちおう受けた恩は返さないとな」
武田信玄くんと今川義元くん! それに、上杉謙信くん、浅井長政くん、朝倉義景くんも! みんな信長くんと戦っていたライバルなのに、かけつけてくれたんだ!
「お前たちが手足のように使っていたロボット兵士たちは、今はすべて僕の兵力だ。どれだけ束になってかかってきても、サムライ学部最強となった徳川軍団に勝てるはずがない! 徳川四天王! ロボットたちよ! 総攻撃をかけろ!」
なんか全面戦争になりつつある~! か、香子、早く来てぇ~!
「家康ーっ! お前、よくも豊臣家を滅ぼしてくれたなぁーっ!」
「それは初代・家康がやったことだ! 僕と関係があるかぁーっ!」
秀吉くんと家康くんの激しいチャンバラが続いている。サルとタヌキの大乱闘だ。
一方、徳川四天王は、毛利元就くん、武田信玄くん、上杉謙信くん、今川義元くん、浅井長政くん、朝倉義景くんたちに四対七の戦いを挑まれて、大苦戦している。
家康軍のロボット兵士と信長・元就軍のロボット兵士たちも槍や刀、弓矢で戦闘中だけれど、こっちは数でおとる信長・元就軍のほうが押されぎみである。家康軍はレモン汁のせいで鉄砲が使えないが、信長軍と元就軍はついさっきまで戦っていたせいで玉切れなのだ。
「よっしゃ! おいらも信長軍のロボットたちに加勢するぜ!」
源内くんが謎の箱をかかえて戦場に突撃していく。「あれ何?」と和泉式部ちゃんに聞くと、初代・平賀源内がつくったエレキテル(発明したのはオランダ人で、源内はこわれていたのを仕組みも知らないのに直した)という電気発生装置らしい。
源内くんがエレキテルの電気を起こすと、近くにいたロボットの兵士たちにビリビリと電撃が飛び、機械でできたロボット兵士たちは壊れて動かなくなってしまった。
「どうだ! 電力をパワーアップさせたスーパーエレキテルの味は!」
「源内先輩。ぼくも戦います! 猫さんたち、レッツゴー!」
漱石くんも手なずけた猫たちに号令をかけてロボットたちをおそわせている。
「ケガ人は、敵味方関係なく僕たちが治療するので、こちらへ来てくださーい! ただし、治療を受けた人は、再び戦闘に参加することをドクターストップさせてもらいます!」
玄白くんといつの間にかかけつけた鴎外くんたち医学部の生徒たちは白いテントを立ててケガ人の手当てを始めた。
「玄白くん、私も手伝うよ。戦いに参加しても足手まといになるし」
私はそう言いながら、味方の加勢に行こうとしていた信長くんの首根っこをつかんだ。
「何するんだよ」
「変身がとけちゃったんだから、あんたは私のそばにいなさい。四天王にやられてケガしたところを手当てしてあげるから」
「オレの子分たちが戦っているんだ。これぐらいのケガで大人しくしてなんか……」
「問答無用! はい! ここに座って!」
「お、おい⁉」
和泉式部ちゃんは私と信長くんのやりとりを横目で見ながらクスクスと笑っていた。
「ケガ人のみなさーん。治療が終わった後は、署名受付係の私、和泉式部のところまで来てサインをしてくださーい。学園を改善するためのご協力、お願いしまーす♡」
可愛い和泉式部ちゃんがウィンクしながらそう言うと、体中に包帯を巻いた家康くんの子分たちは目をハートマークにしながら、ふらふらと和泉式部ちゃんのところへ行き、あっさりとサインしていた。……どさくさにまぎれて、和泉式部ちゃん、すごい!
昼すぎからはじまった合戦は夕方になっても続き、最初は数でまさる家康軍と少数精鋭の信長軍が押したり押されたり互角の戦いをしていたけれど、香子の呼びかけに応じた学園の生徒たちが続々とかけつけて、ちょっとずつ信長軍が優勢になっていった。援軍に来てくれた生徒たちの中には、平家のもりもり一族のみんなもいた。でも、なぜか平家の親分である清盛くんの姿はなかった。
「家康さま、もうダメです! 敵の数がふくれあがって、支えきれません! こっちよりも圧倒的に多いです! たぶん、二千人以上はいます! 二千対二百では勝てません!」
「忠勝、あ、ああああ慌てるな! 僕たちには最終兵器の大砲がある!」
「家康さま? 何だかくさいですよ? もしかして、ビビッて大便をもらしたんじゃ?」
「そ、そそそそそんなわけあるか! 味噌がお尻についたんだ! 早くカルバリン砲を例の隠し場所から運んでこい!」
知らないうちに四天王の一人の忠勝くんが運動場からいなくなっていた。もしかして、家康くんを見捨てて逃げたのかしら……と思っていたら、細長い筒のようなものをロボット兵士たちと一緒に運んできた。
「あ! あれは、昨日、源内くんの気球をうち落とした大砲だわ! みんな、気をつけて!」
「何だって? みんな、さがれ! さがれ! 直撃したら、木っ端みじんになるぞ!」
信長くんが大声で怒鳴ると、みんなは「う、うわー!」と逃げまどった。
「逃げても無駄だ! このカルバリン砲は、初代・家康が豊臣家の大坂城を攻めるためにイギリスから買った大砲で、十四キロの重さの砲弾を六千三百メートル先まで飛ばす徳川軍団の最終兵器なのだ! いくら走っても、この大砲の射程距離から逃げることはできん!」
「やめなさい! そんな物騒なものをぶっぱなしたら、学園がめちゃくちゃになるわ!」
私は医学部のテントから飛び出し、大砲の前に両手を広げて立ちはだかった。
「なぎこ、なにやっているんだ! そういうカッコイイことは彼氏のオレにやらせろ!」
信長くんも私を追いかけて来て、一緒にみんなの壁となる。なんか、どさくさにまぎれて勝手に彼氏を名乗っているけれど、今はツッコミを入れている余裕はない。
「親友の私もまぜてよ」
和泉式部ちゃんもかけつけて、三人でカルバリン砲とにらみあった。今度は知らないうちに親友認定されている……。でも、二人が来てくれたおかげで心強くなり、恐怖による足の震えがピタリとおさまった。
「バカなやつらだ。わざわざカルバリン砲の真正面に立つとわ。忠勝! やれ!」
「はい! カルバリン砲、発射ーーーっ!」
忠勝くんがそう怒鳴ると、ロボット兵士は大砲の導火線にたいまつの火を近づけた。
もうダメだ! 今度こそやられる! 私は、ぎゅっと目を閉じた。
「………………あれ?」
砲弾が、飛んでこない。いったいどうしたのだろうと目を開けてみると、家康くんたちは大砲の前後ろをのぞきこみ、なぜか慌てていた。
「ど、どういうことだ? なんでだ? 導火線がないぞ?」
「家康サマ、導火線ガナカッタラ、発射デキマセン」
「導火線なら、私たちが切っておいたわ!」
こ、この声は……!
「香子!」
「なぎこちゃん! 遅くなってごめんね!」
香子と武蔵くん、一葉ちゃんが、家康くんたちの背後にいた。「な、なに⁉」と、家康くんと四天王たちはおどろいて振り返り、慌てて刀や槍をかまえようとする。しかし、
「のろまめ!」
二刀流の武蔵くんが電光石火の速さで家康くんたちに切りかかり、家康くんと四天王たちを峰打ちして気絶させたのであった。
香子「次の投稿予定は20時です! 学園の時間割は果たして変わるのでしょうか!?」




