大騒動の結末は?
「くっせー。家康のやつ、ちびっているぜ」
大将がやられるとロボットたちは自然と行動停止するシステムらしく、ロボットたちは運動場のあちこちで倒れている。信長くんは、秀吉くんたち子分に家康くんたち徳川軍団を縄で縛らせると、鼻をつまんで大笑いした。
「信長さま……。もうしわけありませんでした」
秀吉くんに頼んでみずから縄についた光秀ちゃんが、信長くんの前でひざますき、泣きながらあやまった。信長くんはしばらく黙って光秀ちゃんをにらんでいたけれど、「仕方ねぇやつだ」と言いながら脇差で光秀ちゃんを縛っていた縄を切った。
「信長さま、僕を……いいえ、私を許してくれるんですか?」
「許すも何も、お前はあやまる相手をまちがえているぞ。親分として、これだけは言っておく。たとえオレのためだと思っても、無意味に人を傷つけるな」
「分かりました。……清少納言先輩にあやまってきます」
「待て。後にしておけ。今、あいつは取りこみ中のようだ」
信長くんの言った通り、私は香子と再会を果たしていた。
「香子、来てくれたんだね。私、あなたにひどいことをしちゃったから、愛想をつかされているとばかり思っていたわ……」
「たとえケンカをしたって、私がなぎこちゃんを嫌いになるわけないよ。遅刻しちゃったのは、家康くんのカルバリン砲が隠されている柔道場裏の竹林に行っていたからなの。大砲が使えないように、導火線を切っていたのよ」
「よく隠し場所がわかったわね」
「ヒミコさまが教えてくれたの」
そう言って、香子はヒミコさまのサインが書かれた(学部名は書いていない)署名用名簿を私に見せた。ヒミコさまって、ただの七不思議だと思っていたけれど、実在したんだ……。
「なぎこちゃん。昨日のことは、ごめ……」
「ちょっと待って。今回は私のほうから言わせて?」
私はそう言って香子の言葉をさえぎると、呼吸を三回ほどして、深々と頭をさげた。
「香子、ごめんなさい。あなたの気持ちを考えず、たくさんひどいことを言いました。そして、勝手に日記を読んでしまったことは、何百回あやまっても足りないぐらい反省しています。香子が気のすむまで私を叱ってください。でも、お願いだから、親友をやめるとは言わないでください。あなたに絶交されてしまったら、私、ショックでもう二度と友だちをつくれなくなると思うから……」
涙をこぼしながらそこまで言った時、私の体はぬくもりにつつまれていた。香子が私を抱きしめていたのだ。香子も泣いているらしく、体が小刻みに震えている。
「なぎこちゃんに嫌われたらどうしようって、いつも心配していたのは私のほうだよ。私、自分に自信がなかったから……。でも、これでおあいこだね。これからは、私もなぎこちゃんに言いたいことがあったら、ちゃんと言うようにするよ。そうしたら、おたがいの気持ちがすれちがった時も、話し合って解決できるもん」
「香子……。うん、わかった。私たち、親友だもの。話し合ったら、何でも分かりあえるわ。……でも、もし口で言いにくいことがあったら、手紙とかで伝えてくれるとうれしい」
「だったら、交換日記を始めない? 私となぎこちゃんと、もと子ちゃんで」
「交換日記? 面白そう! ……あれ? さっき、もと子ちゃんて……」
「仲直り、おめでとう! そして、署名活動大成功おめでとー!」
和泉式部ちゃんが、抱きあっている私たちの頭の上に二百枚以上はある紙の束をドスンとのせてきた。お、重たい……!
「署名活動成功って、え? え? ……えええーーーっ⁉」
本当だ! 十人がサインできる名簿の紙が二百枚以上あるということは、副学園長と約束した千八百人を余裕で上回っているよ!
「い、いつの間に⁉」
「香子ちゃんの呼びかけに応じて集まった学園のみんながサインしてくれたのよ。二人が仲直りしている間にね。今まで集めたものと合計すると、二千五百七十九人! 学園の九割以上は私たちに賛成してくれたことになるわ」
「す、すごい! みんな、ありがとう! 本当にありがとー!」
「あ、ありがとうございます!」
私と香子が、二人で署名の束を持ちながら、運動場にせいぞろいした学園のみんなにお礼を言うと、パチパチパチ! と割れんばかりの拍手が夕焼け空にひびいた。
「こちらこそ、ありがとうな! オレたちのためにがんばってくれて!」
「わたしたちだって、いろんなことを勉強して、自分たちの夢を探したいもん!」
「ぼくたちの道は、ぼくたちでつくるんだ!」
みんなの声が、わたしの胸にじ~んと伝わる。何だかうれしい。私たち偉人のたまごは、今はじめて心が一つになったんだ。これだけのたくさんの仲間と……。
「なぎこ。感動の涙を流しているのはいいが、それを早く副学園長に提出しなくていいのか。提出期限、午後五時までだろ? 今、四時五十五分だぞ?」
信長くんに指摘されて、私は「あっ! しまった!」とさけんでいた。
そ、そうだよ! 提出期限に間に合わなかったら意味ないじゃん! で、でも、サムライ学部から副学園長がいる学園本館まで走っても五分じゃ間に合わないよ~!
「大丈夫だよ、なぎこちゃん。副学園長なら、私がつれて来たから」
香子が落ち着いた声で言うと、武蔵くんと一葉ちゃんが縄でぐるぐる巻きにされた副学園長をひきずってくる。せ、先生を縛っちゃったの⁉
「か、香子……。やっぱり、あんた、怒らせると私よりだいたん……というか恐いわ」
「え? なんで? 連れて来たほうが、手間がはぶけると思っただけなのに」
香子は不思議そうに首をかしげている。
「さあ、なぎこちゃん。副学園長に名簿を提出しよう?」
「う、うん。……副学園長先生。約束通り、千八百人以上の署名を集めました。授業の改善をどうか検討してください!」
「ふ、ふざけるな! 教師を縛っておいて、なにが約束だ! お前たち全員、退学だ!」
「だったら、私は先生が生徒に生徒を誘拐させようとしたとマスコミにたれこみます。黙っていてほしかったら、この二千五百七十九人の思いがこもった名簿を受け取ってください」
香子が、副学園長を冷やかに見下しながら言った。
「そ、そう言われても……」
副学園長は、さっきまでのいきおいはどこへ行ったのか、気弱な顔をして口ごもった。
「偉人学園は、日本中の学者の意見を参考に、国が今の学園のシステムを考え、ワシたちは言われるままに学園を運営していた。だから、ワシや今ここにいない学園長の力でも、時間割を大きく変更させるのは無理なんだ」
「そ、そんなーっ! じゃあ、どうして、あんな約束をしたんですか!」
私が怒ってつめよると、副学園長は「だ、だって、署名活動が成功するとは夢にも思わなかったから……」と子どもみたいにくちびるをとがらせて答えた。
「ひどいよ、副学園長先生。私たちの努力は無駄だったの?」
「いいえ、そんなことはありません」
「が、学園長先生⁉ どうしてここに?」
私たちがおどろいて振り向くと、アメリカにいるはずの聖徳太子学園長がいた。かたわらには平清盛くんもいる。
「昨日、清盛くんに国際電話で清少納言さんの署名活動の一件を聞いたんですよ。副学園長先生が強引な手段に出ないか心配で急いで帰国したのですが……。予想以上に学園は大パニックになったようですね」
「学園長先生! 副学園長先生が光秀ちゃんに私を誘拐させて……!」
「学園長、聞いてください! この生徒たちは、教師を縄で縛ったんですよ!」
私と副学園長が同時に学園長にギャアギャアとわめき、香子や和泉式部ちゃん、信長くん、秀吉くん、源内くん、武蔵くん、漱石くん、一葉ちゃんたちも口々に自分の言いたいことを学園長にまくしたてた。ハッキリ言って、だれが何を言っているのかわからない。
「はい。みなさんの言いたいことは、よく分かりました」
十人の話を一度に聞くことができたという伝説がある初代・聖徳太子のDNAを受けつぐ学園長は、ゆっくりとうなずき、そう言った。
「副学園長先生の言う通り、時間割を私や副学園長先生の一存で、ごく一部なら可能ですが、大きく変更することは非常に困難です。しかし、子どもたちが自主的に行動して集めた署名を無視することもできません」
「で、ですが、学園長先生……」
「私は、子どもたちに自分の頭でいろんなことを考え、解決できる大人になってほしいのです。清少納言さんたちは、今回、見事に自分たちで行動を起こし、署名活動を成し遂げた。彼女たちならば、新しい偉人学園をつくることができるかもしれない……。そこで、私は生徒諸君に、平日の授業の六限目に『子ども教師』の時間をもうけることを提案したいと思います。毎日、六限目に他の学部の生徒を数名迎えて、彼らに自分たちの学部の勉強を教えてもらうのです。これぐらいの時間割変更なら学園長の権限で変更可能です」
「それって、つまり、他の授業はいつも通りということですか?」
私が不満を隠さずに言った。だって、私たち、こんなにも必死に署名活動したのに、こんな結果では納得できないもの。
「清少納言さんの不満はよく分かります。教師が子どもと約束をしておきながら、それを守らなかったのですから。しかし、あなたたちはたしかに大変な努力をしましたが、夢や希望をかなえるにはほんの数日の努力では難しいのです。もっと長い歳月と、あきらめない心が必要となるのです。あきらめなかったら、学園の頭でっかちな授業システムをいつか変えることができるかもしれません。私たち教師も協力します。ただし、学校の主役はあくまでもあなたたち生徒なのです」
「う~ん……」
私が悩んでいると、香子が私の肩をポンとたたいた。
「やってみようよ、『子ども教師』の授業。たしかに、私たちの希望通りにはならなかったけれど、国語以外の勉強もできるようになったんだもの。大きな前進ではなくても、後ろには進んでいない。小さいながらも一歩前進できたよ」
「香子……」
こんなにも前向きな香子を見たのは初めてだ。今回の署名活動が香子を成長させたのだ。
「つまり、オレたちが『子ども教師』になって、すんげー授業をすればいいってことだろう? 簡単じゃねぇか。みんな、やろうぜ!」
信長くんまで乗り気……と思ったら、他の生徒たちまで「そうだな! やってみるか!」とやる気満々の様子。
たしかに、ここで学園長の申し出を拒否して、いつもの授業の日々にもどるより、『子ども教師』をみんなとがんばって成功させて大人たちをぎゃふんと言わせたほうが面白いかも……。そうだ、これは後退なんかじゃない。前進なんだ。もっと、もっと前進するためにも立ち止まったらダメなんだ。
「分かった! みんな、やってみよう! 『子ども教師』!」
私が「えい、えい、おー!」とさけぶと、いつの間にか陽が沈んで暗くなりつつあった夜空にみんなの「えい、えい、おー!」という声がひびきわたるのであった。
なぎこ「みなさん、ここまで読んでくれてありがとう! 同時投稿の三人の交換日記も読んでね!」




