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敵はサムライ学部にあり!(香子視点)

      ★


「紫式部さん。君みたいな優等生が、こんなことをするなんて信じられない。後でどんな罰を受けるか分かっているのかね。退学処分だ。絶対に退学させてやるぞ」

 武蔵によって縄で縛られた副学園長・道長は、さっきから大声で怒鳴っている。

「教師のくせして生徒を誘拐させようとした人が偉そうなことを言わないでください。一葉ちゃん、副学園長を黙らせて。今、スピーチのための原稿を書いているから集中したいの」

「はーい」

 一葉がガムテープを道長の口にはった。しゃべることができなくなった道長は、縛られた体でピョンピョンとエビのダンスみたいに暴れて、これをはずせと訴えている。

「紫式部先輩、そろそろ和泉式部先輩たちがサムライ学部の体育館に到着している時間です。清少納言先輩は本当にそこにいるんでしょうか?」

「あの人の占いは本物よ。直接会って話をした私を信じて。そして、ヒミコさまはこうも言ったわ。清少納言ちゃんを助けにいったら、家康くんがたくさんの手下をひきいて待ち受けている。多くの仲間の協力がなかったら、彼女を救い出すことはできないって。だから、私は学園中の生徒たちに檄を飛ばすためのスピーチ原稿を書いているの」

 「檄を飛ばす」とは、自分の考えを人々に広く伝えて、一緒に立ちあがろうとうながすことをいう。香子は今、放送室の机でそのためのスピーチ原稿を書いているのである。

文学部の生徒にとって文章を書くことが「偉人活動」にあたるので、今の香子はきらびやかな十二単の姿だ。筆を手にとり文章を書いている時の香子は、息をすることも忘れるほど神経を集中させている。いつもおどおどしていて自信がなさそうな香子とは別人のように凛とした横顔で、武蔵は思わず見ほれてしまった。

「できたわ!」

 香子はそうさけぶと、放送室のマイクの前に座り、何度も深呼吸をした。さっきから目まいや手のふるえが止まらない。目立つのが大嫌いでいつもなぎこの背中に隠れてばかりいた香子が、二千七百人いる生徒たちに対して放送でスピーチするのである。今にも心臓が破裂して死んでしまいそうなほど緊張していた。

(だ、ダメだ。やっぱり、私みたいな小心者がスピーチなんてできるわけないよ)

 香子が弱気になりはじめた時、スカートのポケットから何かが落ちて一葉の足元にころがった。一葉はそれをひろって香子の手ににぎらせてくれた。……なぎこのバッジだ。そうだ、なぎこを助けないと。そのためなら、心臓の一つや二つ破裂してもいい。

「武蔵くん! 放送のスイッチを押して! わ、私、手がブルブル震えているから!」

「だ、大丈夫なんですか?」

「大丈夫じゃなくても、大丈夫にしてみせる!」

「いきますよ? 放送スタート!」

 ピンポンパンポン♪

 学園のあらゆる場所に設置されているスピーカーから音楽が流れて、学園の生徒たちは「なんだ、なんだ?」と注目した。偉人学園ではそれぞれの学部がほとんど独立した学校のようになっているため、学園放送なんてめったにないから珍しいのだ。

『文学部委員長・紫式部です。偉人学園の生徒のみなさん、私の話を聞いてください』

 生徒たちに人気の『ピカリ王子とお姫様たち』の作者である香子は、学園の全員が直接会ったことがなくても名前は必ず知っている。紫式部さんが、僕たち、私たちになんの用だろう? と生徒たちは耳をかたむけた。

『私と親友の清少納言が、授業を改善するために署名活動をしていることは昨日の偉人学園新聞を読んで、みなさんご存じだと思います。偉人学園は、日本の歴史で活躍した偉人たちのDNAを受けつぐ私たち偉人のたまごのためにつくられました。しかし、大人たちは、文学者のDNAを持つ子どもは必ず文学者になれ、医者のDNAを持つ子どもは必ず医者になれ、芸術家のDNAを持つ子どもは必ず芸術家になれと私たちの将来を決めつけて、それ以外の夢を持つことを禁止しています。そうしないと、国の予算をたくさん使って行なった子ども偉人化計画がうまくいかないと思っているからです。今の学園の授業がこんなにもかたよっているのは大人たちの都合が原因なのです。

 でも、みなさん、考えてください。私たちの未来は、大人たちにあたえられたたった一つの道しかないのでしょうか? 自分で夢を探してはいけないのでしょうか? いいえ、そんなことはありません。私たちの将来は、私たちで探さないといけないのです。詩人の高村光太郎はこう言っています。

  どこかに通じている大道(だいどう)を僕は歩いているのじゃない

  僕の前に道はない

  僕の後ろに道はできる

  道は僕のふみしだいて来た足あとだ

  だから 道の最端にいつでも僕は立っている(『道標』より)

 それなのに、今の私たちは、文学部の生徒は国語しか勉強してはならず、医学部の生徒は医学、芸術学部の生徒は芸術、サムライ学部の生徒は体育や武術、政治学部の生徒は政治の勉強だけをやらされています。他のたくさんの学部も同様です。私たちは大人たちのペットではないのに、一方的な勉強(しつけ)を押しつけられ、いろんな才能や可能性を押さえつけられている。そんな現状を変えたくて、私と清少納言は授業改善を求める署名活動をしてきました。

 ところが、私の親友・清少納言は今、危険な目にあおうとしています。これは、私たちの署名活動を失敗させようとする副学園長の陰謀が原因です。私と清少納言が正々堂々と署名活動をしているというのに、副学園長の汚いやりかたには、怒りと悲しみを隠せません。

 偉人学園のみなさん、どうか力を貸してください。副学園長の陰謀によって、清少納言の運命は今、風前の灯火です。私はこれからサムライ学部へと向かい、清少納言を助けに行きます。ともに戦おうと考えてくれるかたたちは、サムライ学部へと結集してください。

 ……敵はサムライ学部にあり!』


      ★

なぎこ「香子の演説カッコよかった! 次の投稿予定は19時よ! 読んでね!」

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