家康の野望
信長くんは、私をくすぐり殺そうとしていたロボットたちをあっという間にやっつけた。ようやく笑い地獄から解放された私はよろめき倒れそうになる。
「だいじょうぶか、香子」
信長くんが抱き寄せて助けてくれたけれど、笑いづかれて魂がぬけてしまったみたいになっている私はコクリとうなずくことしかできない。
「光秀。なぜこんなことをした。言え!」
「わ、わた……僕はただ信長さまのためを思って清少納言を始末しようとしたのです。この女のせいで信長さまはたくさんの敵と戦わなければいけなくなりました。そんな時、副学園長が清少納言を誘拐しろと言ってきたので、この命令を利用して清少納言をこらしめようと考えたんです」
「なんて卑怯なやつだ。それでも男か!」
「いいえ、女です」
そう言うと、光秀ちゃんは頬当てをはずし、さらにカブトもぬぎ捨てた。
うわ! す、すごい美人! 顔小さい! まつ毛長い! 髪の毛さらさら!
こんなにも美人さんだったら、顔を隠していないとすぐに女だとバレちゃうよ。まあ、初代・清少納言ゆずりの観察能力を持つ私にかかったら、変装なんて簡単に見ぬいちゃうけど。
「み、光秀が女だと?」
信長くんは今までちっとも気づかなかったらしく、目をまん丸にしておどろいている。
「今までだましていてすみません。男ばかりのサムライ学部では、こうやって男装をしているよりほかはなかったんです」
光秀ちゃんもいろいろと苦労が多かったようだ。男子校みたいなサムライ学部で生活していてきっとつらかったはずだ。
「わははは! 信長の兄貴、光秀さんが女の子だと知って、そうとうビックリしているようですね。僕はとっくの昔に知っていましたが」
「家康? お前、昨日の午後からどこに隠れていたんだ」
いつから体育館にいたのだろう。家康くんが、私と信長くんが光秀ちゃんに気をとられている間に、信長くんのロボット兵士たちを倒していた。信長くんは険悪な表情で家康くんをにらんでいる。サムライ学部にすごい情報網を持っているという信長くんは、昨日、家康くんがわたしをおそったことを知っているのかもしれない。
「隠れていたのではありません。兄貴を倒すための準備をしていたんです」
タヌキ顔の家康くんがニコニコとそう言うと、ドドドというけたたましい足音が外からして、巣から飛び出したハチの大群のように大量のロボット兵士が突入してきた。
「……ざっと二百体といったところか。家康、こんな数のロボットをどうやって用意した」
戦い慣れしている信長くんは、ほんの数秒で敵軍の数をかぞえ、家康くんに言った。
「兄貴が倒した今川義元、武田信玄、上杉謙信、朝倉義景、浅井長政たちのロボットを修理して、僕の言うことを聞くようにプログラミングをしたんですよ」
「家康くん。信長さまを倒すとは、どういうことですか。標的は清少納言だけです」
おどろいた光秀ちゃんが言うと、家康くんはフフフと笑った。
「僕はこの時を待っていた。信長の兄貴が手強い戦国武将たちをやっつけた後、僕が兄貴を倒してサムライ学部のトップに立つ時を。そして、光秀ちゃんを僕のものにする時を。鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス。辛抱強く待ったかいがあったよ」
どうやら、家康くんは光秀ちゃんに私をこらしめるのを協力してくれと頼まれた時から、私を助けにきた信長くんをたおす計画だったらしい。だから、昨日、家康くんは私たちをしつこく追いかけてこなかったのだ。……ん? つまり、私、信長くんのついで狙われていたの? この物語の主人公なのに……。
「オレがお前みたいなタヌキに負けると思っているのか?」
これだけの大軍に囲まれても信長くんは強気で、戦う気満々だった。
「信長くん。ここはさすがに逃げたほうがいいって。多勢に無勢とはこのことだよ」
「バカか。体育館の出入り口は家康のロボットたちに封鎖されているんだぞ。こいつらを倒さないかぎり、ここから脱出する方法はねぇよ」
「バカって言うな! 逃げる方法ならあるわよ。舞台わきの体育倉庫に窓があったから、そこから逃げられるわ。さあ、早く!」
「あっ、おい! ひっぱるな!」
私は信長くんをなかばひきずるようにして、さっきまで監禁されていた体育倉庫に向かった。ロボットたちがおそいかかってきたけれど、信長くんが刀をふるって三体たおした。
「の、信長さま!」
「光秀さん。君はすでに信長の兄貴を裏切っているんです。兄貴の心配なんかもうやめて、僕といっしょにサムライ学部を支配しましょう。さあ、ロボットたち、信長を倒せ!」
私と信長くんは何とか体育倉庫まで逃げこんだ。窓は高い場所にあって背が届かない。私たちは跳び箱を窓の下まで移動させ、跳び箱を踏み台にして外へ脱出したのであった。
体育倉庫の窓から外へと脱出した私たちは、信長くんの本拠地である学生寮の食堂までダッシュで逃げることにした。
「何も考えずにひたすら走れ。走る体力がもうないのならオレがおんぶしてやるぜ」
「だ、大丈夫よ。いくら体力ゼロの私でも、こんな時ぐらい必死になって走るってば」
「そういう強気なところ、好きだぜ。さあ、行くぞ」
「おっと、そうはさせんぞ」
私たちが走りはじめた直後、前方から酒井忠次くんと本多忠勝くん、後方から井伊直政くんと榊原康政が顕れて、私と信長くんをはさみうちにした。
「と、徳川四天王⁉」
「お前たちの行動など、家康さまはお見通しだ。信長よ、いざ勝負!」
「香子、さがっていろ!」
忠勝くんが自慢の槍さばきで信長くんを攻撃してきた。昨日から戦い続けている信長くんはさすがに疲れていて、押されぎみである。そこを背後から直政くんまで切りかかってきて、信長くんがギリギリでかわしたら今度は忠次くんと康政くんが同時におそってきた。
「あっ! しまった! 刀が!」
四天王の猛攻により、信長くんの刀がボキリと折れた。すると、信長くんの「偉人活動」による変身がとけ、普通の学生服に戻ってしまった。折れた刀はサムライ学部の生徒が武将の姿に変身するための道具だったのだ。
忠勝くんにお腹をけられて、信長くんは「うぐっ……」と苦しそうにうずくまる。
「オレたちサムライ学部の生徒は、鎧すがたに変身することで戦国武将としての力を発揮することができる。変身がとけた今のお前はただの子どもだ。覚悟しろ」
忠次くんがニヤリと笑った。サムライ学部の子たちが小学生なのになぜこんなにもドンパチ戦うことができたのかというと、鎧が生徒たちの武将としての秘めた力を最大限に引き出していたからだ。私や香子が偉人活動で十二単に変身する場合は特に身体能力があがったりせず、文才――つまり、作文の能力があがる。ちょっと地味だ。
「信長くん!」
「香子。オレが何とかして四天王を足止めするから、お前だけでも逃げろ。集めた二百四十九人分の署名はサルにあずけているから、この学園のために役立ててくれ」
二百人は集めると言っていた信長くんはそれよりも四十九人分多く集めてくれていた。敵と戦いながらの署名集めはきっと死ぬほど大変だったにちがいない。信長くんが約束を破ったかもしれないと疑っていた自分が恥ずかしいよ……。
「もう戦う力がないくせして、何を言っているの。私のことをバカと言ったけれど、あんたのほうこそバカよ。なんで、私なんかのためにここまで命をかけるのよ」
「人間、生きるも死ぬも一度かぎりなんだ。たった一度の人生、好きなやつのために生きなきゃつまらないだろう?」
「年下のくせして生意気なんだから……」
そう言いながらも、私の心には温かい感情がひろがっていた。信長くんのそういう直球勝負なところ、本音を言ったら嫌いじゃない。ちょっと私に似ているかも。
「二人でイイ感じになっているところ悪いですが、そろそろトドメをさしてもいいですかね? 信長の兄貴」
「もうちょっと空気を読もうぜ、タヌキ……」
四天王だけでなく、家康くんとロボット兵士の軍団まで私たちを包囲しはじめた。家康くんのそばにいる光秀ちゃんは、清少納言はどうでもいいけれど信長さまは助けてくれと家康くんに泣きながら頼んでいる。おい、こら。私はどうでもいいとか言うな。
「信長、破れたり! あと、ついでに清少納言も!」
四天王たちが信長と私におそいかかる直前。考えもしていなかった奇跡が起きた。
空から大量のレモン汁が降ってきたのだ。
光秀「次の投稿予定は17時です。みなさん、あともうちょっとですので、どうか最後までお付き合いください」




