なぎこ危機一髪!
私は、サムライ学部にある体育館内の倉庫に監禁されていた。縛られたりはしていない。そのかわり、槍を持ったロボットの兵士三体が見張りについていて、私が少しでも動いたら串刺しにしようと目を光らせている。どうやら、ここは信長くんの縄張りの一つで、光秀くんが管理を任されているらしい。
体育倉庫はとてもほこりっぽく、私はさっきから何度もくしゃみをしている。
「くしょん! くしょん! へっくしょん!」
「オイ! 動クナ! 動イタラ串刺シダゾ!」
「く、くしゃみぐらい大目に見てよ。なんて融通のきかないロボットなの? ……あれ?」
自分のスカートのポケットからぽとりと何かが落ちた。それは香子の日記帳だった。私は、昨晩の自分の最悪な行動を思い出し、胸が痛くなる。
「香子……。ごめんね」
私はそう言いながら、香子の日記帳をひろった。そして、落ちた拍子に開いたページに書かれている香子の小さくて丸っこい文字をそっとなでた。
――なぎこちゃんの親友をやっていると、毎日落ち着くひまもありません。でも、そんななぎこちゃんだからこそ、人が考えもしないことを思いつき、みんなをビックリさせる才能を持っているのだと思います。引っこみ思案な私は、ちょっとなぎこちゃんのことを見習うべきかなぁ……なんて思ったりして。
――なぎこちゃんにいつもふりまわされるわたしの身にもなってほしい! わたしがどれだけなぎこちゃんのことを心配しているかなんて、なぎこちゃんには分からないだろうなぁ。だって、私の親友はなぎこちゃん一人だけれど、なぎこちゃんはだれとでも仲良くなれるんだもの……。
――なぎこちゃんに「好きだよ」と言われたら、何の疑いもなく彼女とは親友でいられる……。もし、なぎこちゃんが和泉式部ちゃんと今よりもずっと親しくなって一番の親友同士になったら? 私が二番目になったら?
――二番目になるくらいなら、なぎこちゃんの友だちなんかやめてしまって、私は二度と友人をつくらない。そう思っています。
「香子……。私のことばっかり書いてる……。こんなにも私のことを大事に思ってくれていたのに、私はなんてひどいことをしたんだろう」
ぽとり、ぽとりと涙が香子の日記に落ち、彼女の文字をにじませる。香子にあやまりたい。でも、こんな状況ではもう香子に会えないかもしれない。
「ふふ、恐怖で泣いているのか?」
光秀くんが体育倉庫に入ってきた。相変わらずの鎧すがたで、頬当てで顔を隠している。
「人が感傷にひたっている時に何の用よ。あんた、信長くんに黙ってこんなことをして、後で叱られても知らないからね。それとも、戦国時代の明智光秀みたいに、また本能寺の変を起こして信長くんを裏切るつもり?」
「なんだと? わた……僕があの人を裏切るわけがない! お前のせいで信長さまはたくさんの敵をつくってしまったのに、よくもそんなことを言えるな!」
「私のせいで信長くんが敵をたくさんつくった? どういうことよ」
「お前は信長さまをたぶらかし、サムライ学部の生徒の署名を集めさせた。信長さまは合戦ごっこを嫌って隠れていた生徒たちを探し出して会い、お前との約束を守って無理やりではなく、ちゃんと説得して署名を集めていた。しかし、信長さまのライバルの戦国武将たちは、信長さまが自分の子分を増やすために生徒たちと会っていると誤解して、信長さまをやっつけるための包囲網をつくっていっせいに攻撃を始めたのだ」
そうか……。それで、昨日、あんなにも信長にやっつけられたサムライ学部の生徒たちが医学部の病院に運ばれてきたんだ……。信長くんは約束を忘れて戦っていたのではなく、私との約束のために追いつめられていたのね……。
「信長さまは今、戦国一の知恵者・毛利元就との戦いに苦戦している。僕は信長さまを苦しめたお前を許さない。信長さまは、どうしてこんな女を……」
「言い分はわかったわ。それで、家康くんに私をおそわせたのね。でも、あんた、やることが卑怯よ。人を利用したり、大人数で私を誘拐したり、それでも男なの?」
私がわざと挑発的に言うと、光秀くんはピクリと体をこわばらせた。でも、「なんだと⁉」と怒ってくる気配はない。普通、男子は「それでも男か!」なんて言われたらカチンとくるはず。人間、怒るべきところで何も言えないのは、それは図星をつかれているからだ。昔、そんなことを私のじいちゃんが言っていた。
「光秀くん。あなた、もしかして女の子?」
「な……なぜそんなことを言う。私が女のはずがないだろう」
「わたしがそう思った理由は五つあるわ。まず一つ、ずっと顔を隠していて素顔をだれにも見せない。二つめ、ふだんは自分のことを『ぼく』と言っているのに、興奮や動揺をすると『私』と言ってしまっている。三つめ、それでも男かとバカにされても怒らない。四つめ、恋する女の子みたいに信長くんのことを慕っていて、私にやきもちを焼いている。……そして、五つめ、私の直感はだいたい当たる」
「さ、最後のは全然理由になっていないわ! わ、わたしは別に信長さまのことを……」
「六つめ追加。さっきのは完全に女の子のしゃべりかただった」
「ば、バカにして! お前みたいな女、ショウシの刑にしてやる!」
ショウシの刑ってなに? ……もしかして「焼死」⁉
「わ、私を焼き殺すつもり⁉」
「連れて行け!」
光秀くん……いや、光秀ちゃんがそう命令すると、ロボットの兵士たちはわたしの両腕をつかみ、体育館の舞台に連行した。
「あんた! 焼き殺すなんてあんまりじゃない! この人でなし! はなしてよ!」
「何をごちゃごちゃと言っている。兵士たち、やれ!」
「い、いやーーーっ‼」
一体のロボット兵士が私をはがいじめにし、残りの二体が私の体をこちょこちょとくすぐりはじめた。
「あはははは! あはははは! く、くすぐったい! あはは!」
人間にくすぐられているのとはちがい、ものすごいくすぐりテクニックである。人にはそれぞれくすぐられたら弱いツボがあるけれど、私の場合は左わき腹で、ロボットたちはそれをすぐに見ぬいて左わき腹を集中的にくすぐってきたのだ。
「ぎゃーーーっ! やめて、やめて~! 笑い死ぬ! わらいじぬ~っ! あはははは!」
ハッ! もしかして、「ショウシ」の刑って、「焼死」じゃなくて「笑死」⁉
笑いすぎて死ぬなんて、そんなかっこうの悪い死にかた嫌だぁ~!
「あはははは! 息が、息が苦しいよ! だ、だれか助けてーーーっ!」
「あきらめろ。どんなにさけんでも、助けなんて来ない。お前の文学部の仲間たちは本ばかり読んでいるもやしっ子だ。たとえお前がここにいると知ったとしても、学園一の危険区域であるサムライ学部の奥深くの体育館まではかけつけられないだろう。信長さまは毛利元就に苦戦していて、お前が死にかけていることなんて知るよしもない」
「いや、それが知っているんだなぁ」
「の、信長さま⁉」
光秀ちゃんがおどろいてふりかえると、体育館の入口に信長くんが立っていた。昨日から戦国武将たちとの激戦続きで南蛮具足はぼろぼろで、信長くんに従っている二体のロボット兵士も戦いすぎのため体から煙を出していた。
「信長さまが、ど、どうしてここに?」
「オレの情報網をなめるなよ。サムライ学部で起きた出来事はすべてオレの耳に入るようになっているんだ。毛利元就との戦いは、サルたちにまかせてきた。光秀、たとえオレの子分でも、なぎこを泣かせるやつは許さんぞ」
「あはははは! くすぐったい! くすぐったいよ~っ!」
しまった。信長くんがせっかくカッコイイことを言っているのに、大笑いしてしまった。さすがの信長くんもずっこけている。いや、悪いとは思うけれど不可抗力なのよ。
「生きるか死ぬかのピンチの時まで面白おかしいやつだ。待っていろ、今すぐ助けてやる!」
信長くんはそう言うと刀をぬいた。白刃がキラリと光る。
もしかして、今の私、王子さまに救出されるお姫さま的な立場にある? そんなロマンチックなシチュエーションなのに、助けてもらうお姫さまがよだれをたらして大爆笑中とかどうなのよ……。
信長「ヒロインを救うため、オレさまカッコよく再登場! 次の投稿予定は16時だ! 楽しみにしておけよ!」




