第6話 初体験の街
アルシアに肩を支えられて、ツカサはゆっくりと立ち上がる。尻の痛みに顔を歪めるツカサ。アルシアは華奢な身体で、ふらつくツカサを懸命に支えていた。
壊れた家具が散乱し、壁には大きな傷が沢山ついていた。木屑とホコリの舞うその光景に、ツカサは罪悪感でいっぱいになった。
「ごめんアルシア……俺のせいで」
アルシアは一瞬だけ壊れた家を見渡したが、すぐに首を横に振った。
「今はツカサの安全が大切よ。早く移動しましょ」
アルシアが慎重に足を前に出した。ツカサもそれに合わせて、歩き出す。
「ツカサ大丈夫そう……?床がへこんだりしてるから、足元気を付けてね」
「あ、ありがとう……」
それでもツカサの罪悪感は消えなかった。うつ向いて歩いていると、花のようないい香りがツカサの鼻をくすぐった。自分を支えているアルシアの香りだと気が付いた瞬間、ツカサの顔が赤くなった。
ツカサは普段から女性と話すタイプではなかった。学校で必要以上に女性と話すことはなく、彼女もできたことがない。そんなツカサが、アルシアに肩を持たれている。罪悪感はあれど、恥ずかしさと緊張でどうにかなりそうだった。
「ツカサ顔赤いけど大丈夫?風邪引いた?」
ツカサの体温が上がり、それに気がついたアルシアがツカサの方を見る。ツカサは思わず顔をそらした。
「だ、大丈夫。風邪とかじゃないんだ」
「何かあったらちゃんと言うのよ?」
ツカサは小さく頷くと、アルシアはツカサに合わせて歩幅を緩めた。
ツカサが目を覚ましてから今まで、アルシアは終始ツカサを気遣ってくれている。そんなアルシアの優しさに触れているうちに、ツカサの中にひとつの疑問が浮かんだ。初対面の相手になぜ、ここまで優しくできるのか。
「ーーアルシアはさ……」
「なに、ツカサ」
足元に気を配りながら、アルシアが聞き返す。ツカサは少し空を見上げると、言葉を選ぶように口を開く。
「アルシアは、どうしてここまでしてくれるの……?」
「ここまでって?」
アルシアはピンときてない様子で聞き返す。
「ーー俺のせいで、カレオトキシンに襲われて……家まで壊されたのに」
罪悪感で押しつぶされそうなツカサは、思わず下を向いた。そんなツカサを励ますように、優しい声でアルシアは話した。
「ツカサ、私がやりたくてやっているんだから、気にしなくていいのよ?」
アルシアはそう言ったが、ツカサは納得していなかった。アルシアは困ったように笑うと、静かに話し出した。
「昔からお母さんに言われてたの。困ってる人を見たら助けてあげなさいって。だから、困ってる人を放っておきたくないのよ」
理由はわかったが、家を壊されてまで助けるものなのだろうか。自分が同じ体験をしたら、果たしてそう思うのだろうかと。思わずアルシアの瞳を見つめたが、恥ずかしくなってすぐに逸らした。目を逸らしたツカサは、周囲に視線を移す。
周囲には木々の生い茂る森が広がっていた。その合間には、ぽつぽつと家が立っていた。鳥の鳴き声や水の流れる音が聞こえる、のどかな雰囲気。簡素な柵の立てられた土道が建物を繋いでいた。あれだけの戦闘があっても人が駆け付けるようすはなかった。家がまばらだったからだろうか。地面がごつごつしていて、尻を痛めたツカサには厳しい道のりだった。
しばらく進んでいくと、のどかな雰囲気が薄れ、ガヤガヤとした声や沢山の足音が聞こえてきた。土道から粗く敷かれた石畳の道に出た。
中世ヨーロッパを彷彿とさせる町並みに、オレンジ色や薄い青色、暗めの黄色や白色など様々な色の壁の家が並んでいる。しかし屋根は統一してレンガでできていた。
絵本の中のような街並みに、キョロキョロと周囲を見渡す。街には、動物の耳が生えたような人や角の生えた人など色々な人がいた。
「カ、カレオトキシン!?」
ツカサはあまりの驚きで、アルシアを振り払いその場に尻餅をつく。その衝撃で尻の激痛がツカサを襲う。ツカサは顔をしかめた。
「え、嘘!?」
アルシアが怯えるツカサの方を振り返ると、そこにはトカゲのような人間がいた。アルシアは少し怒ったような顔をして、倒れたツカサに手を差し出す。
「ツカサ、あれはリザードマンよ。気持ちはわかるけど、そんな反応したら失礼でしょ?」
ツカサは痛みに顔を歪め、謝りながらアルシアの手を取る。ツカサがあまりにも驚いたせいで、一気に人の注目が集まった。ツカサは恥ずかしくなって、手で顔を隠した。
「ところでアルシア、これはどこに向かってるの?」
自分たちがどこに向かっているのか気になったツカサは、アルシアに聞いた。すると、アルシアは複雑な表情をした。
「私のお姉ちゃんが経営してる酒場よ。心強い人もいるから、しばらくそこで匿って貰いましょう?」
そう話すと、アルシアの足が止まる。アルシアの見た方向は、薄暗い道だった。終わりが見えず、どこまでも続いていそうだった。アルシアとツカサは、大通りから外れた路地に足を踏み入れた。
その路地に足を踏み入れると、街の騒音が遮断された。賑わいを見せていた大通りとは違い、人通りが全くといって良いほど無かった。足音が壁に反射してよく響く。そんな路地を進んでいくと、一件の店が見えた。アルシアはその店の前で足を止める。
「ここが、アルシアのお姉さんの酒場?」
その酒場は、大通り沿いの建物とは違い壁にヒビが入っていたりと、かなり年期の入った建物だった。アルシアが軽く頷くと、酒場の扉に手を掛ける。
「ちょっと古くさいけど……一応営業してるわ」
アルシアが扉を開いた。そこには、カウンターで肘をついてダルそうにしている柄の悪そうな男がいた。鋭い目付きと、上半身には黄金のタトゥーが刻まれている。
「らっしゃ~い……ってアルシアちゃん!また姉さんの心配か?」
「もう、アンズーさん!ちゃん付けはやめてよね!」




