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便所から異世界  作者: ビーフ・チキン・ポーク
第1章 異世界生活のはじまり
22/24

番外編 アルシアの1日後編

 酒場を飛び出したアルシアは大通りに出ると、色々な店を見渡した。フローリア王国は各国の街道が集まっていて、その分色々な店も出ていた。


「ツカサにはどんな服が似合うのかしら……」


 アルシアはキョロキョロと店を見渡しながら歩いていた。お洒落なドレスや高価そうなジャケット、麻布の安そうな服などが目につく。


「あ、ツカサのサイズってどのくらいかしら……」


 アルシアは立ち止まって考えた。背丈はアルシアよりも2cm高いくらいで、肩幅もアンズーほど広いわけじゃない。


「まぁそれっぽい大きさで良いわよね」


 アルシアは自分で納得して足を進めた。空は青く清んでいて快晴だった。心地よい風が吹いている。

 すると、人混みを掻き分けて一匹の猫のような魔獣がアルシアの方へ走ってきた。


「ちょっと何!?」


 アルシアは、驚いて横に逸れた。その後ろから2人の鎧騎士がその魔獣を追いかけていた。魔獣の足は早く、すぐに人混みに紛れてしまった。2人の騎士が息を切らして立ち止まる。


「アイツ、早すぎだろ……」


 右側の騎士は走り去る魔獣の方を見ていた。左側の騎士は疲れて膝に手を付いていた。


「何かあったんですか?」


 ふと気になったアルシアは右側の騎士に声をかけた。右側の騎士は鎧で隠れて顔は見えないが、面倒くさそうにアルシアを見下ろしていた。


「見てわかんねぇのか……あの魔獣を追ってんだよ。コイツのせいで」


 右側の騎士は左側の騎士を睨み付けるようにして視線を移す。


「だ、だって仕方ないじゃないか……困っている人がいたんだから」


 左側の騎士は息を切らしながら答えた。その様子に右側の騎士は苛立ちを隠すように頭を押さえた。


「魔獣探しなんて俺らの仕事じゃねぇだろ?んなもんはギルドにでも依頼だしとけばいいんだよ」


「僕は王国騎士として、人助けは当然だと思うけど……」


 左側の騎士の言葉に右側の騎士は呆れたようにしてため息を溢した。


「私も手伝いましょうか?」


 2人の騎士がアルシアの方へ同時に視線を移した。すると、右側の騎士が嬉しそうに声を出した。


「マジかよ、そりゃあ助かるぜ!」


「それはダメだ。この仕事は王国騎士の仕事。君みたいな子を巻き込むわけにはいかない」


 堅苦しいことを言う左側の騎士の言うことに右側の騎士は呆れたように口を開いた。


「こんな魔獣探しは元々王国騎士の仕事じゃねぇよ」


 そう言うと、右側の騎士はアルシアの方へ視線をおとした。


「そうは言ってもよ、本当にいいのか?」


「だって困ってるんでしょ?なら当然よ。服はいつでも買えるもの」


 アルシアの発言に右側の騎士は頭を抱えた。左側の騎士も不服そうな顔をしていた。


「服って……お前もコイツと同じこと言うのかよ」


 こうして2人の騎士と共に、アルシアは魔獣探しをすることにした。


*  *  *  *  *


「で、俺らが探してんのは魔道具店の飼い魔獣、ケイちゃん。特徴は琥珀みたいな瞳と灰色の毛並みねぇ……」


 3人は店の脇道で作戦会議をしていた。右側の騎士はアルシアに情報を伝える。アルシアはその顔を見上げて頷きながら聞いていた。


「なんか猫みたいな感じだったわよね。本当に魔獣なの?」


「まぁ、魔獣と言っても全部が全部危険な訳じゃねぇ。普通に動物みたいに飼ってるやつもいるくらいだ」


 2人の会話を聞いている左側の騎士はどこか納得していなかった。黙って聞いていた左側の騎士が静かに口を開いた。


「僕はやっぱりこの子を巻き込むのは違うと思う」


 アルシアが首をかしげた。右側の騎士は呆れたような口ぶりで突っ掛かろうとするも、左側の騎士は話し続ける。


「飼われているとは言え、魔獣であることに変わりはない。一般人を巻き込むなんて危険だ」


 また口論がはじまりそうな予感。その時、物陰でなにかが動いた。アルシアが目を向けると、薄暗い物陰から琥珀色の瞳がこちらを覗いていた。2人の騎士は口論で気が付いていない。


「あれ、ケイちゃんじゃない……?」


 アルシアが声を漏らした。2人の騎士はアルシアの指差した方向を同時に見た。


「「ケイちゃん!?」」


 2人の騎士が大声を出したせいで、ケイちゃんは路地裏に逃げ出した。騎士が動揺している間に、アルシアは走って追いかける。


「早いわね……」


 アルシアは走って追いかけるも、距離が縮まらない。道中の木箱の隙間を潜ってどんどん距離を離していく。目の前は大通り。出られたら見失ってしまう。すると、路地裏の出口で鎧の騎士が立ち塞がった。


「こっちは塞ぎます!」


 さっき左側にいた騎士が捕まえようと腰を落とす。すると、ケイちゃんはその頭を登って人混みに紛れてしまった。その騎士はキョロキョロと辺りを見渡している。


「馬鹿お前後ろ、さっさと行くぞ!」


 もう1人の騎士がその騎士の首もとを掴んで逃げるケイちゃんを指差す。アルシアはそんな2人を置いて走りぬける。2人は気合いで足を動かして、アルシアの方へ向かった。


「あ、あの子早くない……?」


「この鎧が重すぎんだよ」


 ケイちゃんは時々後ろを振り向きながら逃走する。しつこく追いかけてくるアルシアにケイちゃんは少し恐怖していた。しばらく走ると、行き止まりに突き当たった。ケイちゃんは壁とアルシアを交互に見る。


「あ、あなた早いのね……」


 アルシアが息を切らしながらケイちゃんに近寄る。壁を越えるような足場はない。アルシアは屈んでケイちゃんを見つめた。


「お家に帰りましょ?」


 ケイちゃんは背中を逆立てて威嚇している。そんなケイちゃんを見てもアルシアは一歩も引かなかった。


「や、やっと追いついた……」


 2人の騎士もアルシアに追いついた。アルシアの後ろを塞ぐようにして2人の騎士が立ち塞がる。ケイちゃんは後退りするも、壁に当たる。右側の騎士が一歩踏み出そうとするも左側の騎士が止める。


「こっからどうすんだよ……」


 右側の騎士に答えるものはいなかった。街の喧騒も聞こえなくなった。まるで世界が切り離されたような。


「……おいで?」


 アルシアが手に力を込めると、ケイちゃんの身体を暖かいそよ風が包み込んだ。ケイちゃんは最初こそ戸惑っていたが、徐々に威嚇を解いていった。


「す、すげぇ……あの魔獣を落ち着かせやがった」


 ケイちゃんは身体を丸めて小さく喉を鳴らした。静かな呼吸が聴こえてくる。アルシアはそっとケイちゃんに近寄ると、優しく抱き上げた。


「僕たちの出る幕はなかったね」


「だからギルドに任せた方がよかったんだよ」


*  *  *  *  *


 外はすっかり夕暮れ時だった。3人は依頼主にケイちゃんを送り届けた。


「ありがとねぇ騎士様」


 魔道具店のおばちゃん店主がケイちゃんに激しく頬擦りしている。ケイちゃんは不愉快そうな顔をしていた。


「いえいえ、お礼はこの子に」


 そのおばちゃんはアルシアに視線を向けると、ケイちゃんを抱いたままアルシアに顔を近付けた。ケイちゃんは抵抗はしないが嫌な顔をしていた。


「こんなに若いのに偉いわねぇ。ケイちゃんもお礼言いなさい?」


「いえ、私がやりたくてやっただけなので」


 謙虚なアルシアにおばちゃんは微笑みかけた。そうして3人はその魔道具店を後にした。


*  *  *  *  *


「今回は君が居てくれたから助かったよ。本当にありがとう」


「な、人に頼るって大切だろ?」


 軽い雑談をしながら3人は夕暮れの街を歩いていった。すると、空を眺めていた右側の騎士が思い出したように呟いた。


「そう言えばお前服がどうとか言ってなかったか?」


 その言葉を聞いたアルシアは少し考えると、橙色の空を見上げて焦り出した。


「私、ツカサの服を買いに来たんだった」


 その言葉を聞いた2人の騎士は申し訳なさそうに空を見上げた。周囲を見渡すと酒場や大人の店が開店しはじめ、服屋などは明かりを消しはじめた。


「僕、まだ営業してる服屋に心当たりあるんですよ」


 アルシアが驚いて左側の騎士を見上げる。その騎士は街の奥を指差して言った。


「この先に一応服屋があるんですけど、そこでよければ案内します」


「え、いいんですか……?」


 その一言に、右側の騎士がアルシアの肩に手を乗せた。アルシアはその騎士の顔を見上げる。


「魔獣探しを手伝って貰ったんだ、なんか礼くらいさせろよな」


 アルシアは嬉しそうに頷くと、3人はその服屋へ駆け出した。夜の街は仕事終わりの人で溢れていた。そんな人混みを掻き分けながら進み、服屋に到着した。入店したアルシアは、男物の服を一着ずつ見ていた。


「おいおい、服って男物かよ……」


 右側の騎士が驚いたように声をかけると、アルシアは当たり前のような顔をして振り返った。右側の騎士は頭を押さえた。アルシアが服を選んでいるのを、2人の騎士は店先で見ていた。


「お前もあの子も、なんでそこまで人助けに熱心なんだよ」


「その質問何回かされたような気がする」


 店先で2人の騎士が軽く雑談をしている間にも、アルシアは服選びに迷っていた。しばらく見ていると、ツカサの制服によく似ている服を見つけた。アルシアはその服を購入して店の外に出た。


「今日は服屋に付き合ってくれて、ありがとうございます」


 アルシアの言葉に2人の騎士は顔を見合わせる。左側の騎士が困ったように口を開いた。


「礼を言うのは僕たちの方だよ。魔獣探しを手伝ってくれてありがとう」


 すると、街の奥から白いロングコートをきた男がゆっくりと3人に近寄ってきた。


「あ、セリアス様」


 セリアスと呼ばれるその男は死んだような目をして3人の顔を見た。大きくため息を付くと背中を見せて歩き出した。その様子を察したのか、2人の騎士はその男に付いていった。


「今日はありがとなー!」


 2人の騎士は振り返りながらアルシアに手を振っていた。白いロングコートの男とともに、人混みの中に消えていった。


「アルシア!」


 アルシアが手を振るのを止めて歩き出そうとした時、後ろから呼び止められた。アルシアが振り返ると、そこにはアンズーがいた。心配になって迎えにきたのだ。


「こんな時間まで何してたんだよ」


 アルシアは少し考え込んで、正直にあったことを話した。話を聞いたアンズーは頭を押さえてアルシアの背中を軽く叩いた。


「魔獣探しって……」


 アンズーは呆れてものも言えないという顔をしてため息をついた。アルシアはふと、アンズーの周囲を見渡した。


「ところでアンズーさん、ツカサは?」


「アイツなら酒場だ。早く帰るぞ」


 アルシアはアンズーの話を聞き流しながら手元の服を抱きしめた。


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