第21話 恐怖政治
ツカサが目を覚ますと、薄暗い牢獄のような場所にいた。手首は鎖で繋がれていて、その先は壁に繋がれていた。ツカサの視線の先には、甲高い声を出すウサギとネズミの中間みたいな顔をした何かがいた。
「目を覚ましたんだな!よかったぞ!」
そのウサギとネズミの中間みたいな顔をしたやつが興味津々にツカサの顔を覗き込む。身長は低く、身体は獣なのに二足歩行で歩いている。緑の布に革のズボンを着ている。まるでロビンフッドのような服装だった。木の細くて短い棒でツカサの頬をツンツンしている。少し獣臭い。
「おやぁ、ツカサ君が起きたようでぇすねぇ」
その奥からねちょねちょと音を立ててソイツは現れた。カレオトキシン・ヨルセニコプだった。ツカサは思い出してきた。酒場でカレオトキシンとスカルトロールに連れ去られたことを。
「ーーか、カレオトキシン……」
ツカサの声は震えていた。逃げ出したいのに鎖で繋がれて逃げられない。ジャラジャラと音が響き渡る。
「ワレの名前を覚えていてくれたのでぇすか?嬉しいでぇすねぇ」
思わず目をそらしたツカサの顔を覗き込む。口から糸を引く粘液をすすりながらギョロギョロとした目玉でツカサと目を合わせる。ツカサは目を合わせまいと視線を余計にそらした。
「そぉんなに怖がらないで下さぁいよぉ」
カレオトキシンが声を漏らすと、横にいる動物人間がカレオトキシンに突っかかる。
「お前がが気持ち悪い顔してるからだろ!」
「おだまりなさぁい!」
カレオトキシンはその動物人間に軽くチョップをした。その動物人間は頭を押えてカレオトキシンを睨んだ。ツカサはその光景に理解が追い付かなかった。まず自分はどこにいるのか。ツカサにはわからないことだらけだ。ただ目の前の光景に怯えることしかできない。
「いくらチンに愛嬌があるからって八つ当たりはだめだぞ!」
カレオトキシンと動物人間が睨み合っていると、コツコツと落ち着いた足音、そして鎖を引く音が聞こえてくる。ツカサは緊張と恐怖で唾を飲み込んだ。
「マーラケット、少し落ち着け」
奥から地を這うような声が響き渡る。その声を聞いて、動物人間、マーラケットは不満そうな顔をしながらも黙りこくった。その声の主がツカサの前に姿を見せた。その男は、二メートルはあるであろう巨体が影を下ろしながらツカサを見下ろしていた。
「ほぅ……貴様が小崎司か」
現れた男は、白いシャツの上に黒いモッズコートを羽織り、黒くスラッとしたズボン。革の靴を履いていて、どこか現代人を彷彿とさせる印象だった。
「俺の名はヴェクトル。小崎司、貴様はどこから来た?」
ツカサは恐る恐る顔を上げた。なにか探りを入れられているような鋭い視線がツカサに突き刺さる。その視線に威圧されて、ツカサは言葉がでなかった。ヴェクトルが手に持った鎖を引くと、ペタペタとした足音が奥から聞こえてきた。
「質問に答えろ小崎司。貴様はどこから来た?」
ヴェクトルの鎖の先には、ボロい麻布を着た少女の首に繋がっていた。その女の子は今にも泣きそうな顔をしてヴェクトルの横に立った。ツカサはその光景に理解が追い付かなかった。
「小崎司、貴様が沈黙を続けるのならこの女を殴る」
ツカサは理解できなかった。目の前の男の言っていることに。なんの脈絡もなくこんなことを言っているこの男に。
「あがぁ!?」
ヴェクトルの拳がその少女の腹に沈む。少女は白目を剥いて今にも倒れそうだった。しかし、その少女は震える足でなんとか踏みとどまっている。
「答えろ、小崎司」
ツカサは頭が真っ白になった。目の前で全く知らない少女が殴られた。自分が話さないからなのか。だからと言って殴るものなのか。この状況に男は平然としている。そしてヴェクトルはまた拳を握った。
「ま、待って……」
「あぎぃぃい!?」
また殴った。ツカサは理解できなかった。なぜ自分ではなくこの少女が殴られているのか。その少女は殴られてもなお、地面に膝をつけない。ヴェクトルがまた拳を握りしめる。
「は、話す!話すから!」
ツカサの声が部屋中に響き渡る。その声を聞いたヴェクトルは拳を止めてツカサの方を見た。ツカサは震えながらその少女に少し視線を移した。小声でボソボソとなにかを呟いている。目から涙を流し酷く怯えていた。その光景に心が痛くなる。
「酒場ーー」
「違う」
ツカサの話を遮るようにヴェクトルが口を開く。ヴェクトルが少女の髪の毛を握り、ツカサの目の前に見せつける。少女は涙を流して歯を食い縛っていた。
「貴様はこの世界の人間か?」
ツカサは息を呑んだ。日本と答えればいいのか。質問の意味はそうだ。だが、もし間違えればまたこの少女が殴られる。ツカサが考えていると、ヴェクトルが少女の髪を離した。少女はその場に倒れ込む。その少女の背中にヴェクトルが革靴で踏みつける。
「次は背骨をいくぞ」
ヴェクトルがじわじわと足に力を込める。その度に少女の顔が歪んでいく。ツカサは声を震わせながら声を絞り出した。
「に、日本!俺は日本から来た!」
その答えを聞いたヴェクトルは確信したような顔をすると、少女から足を退けた。少女はその場に倒れて呼吸を荒くして怯えていた。
「やはり日本か……」




