第18話 爬虫類の入店
鎧騎士2人に挟まれるようにして、セリアス・トリスタンがソファ席に座っている。アンズーとツカサは木製の椅子に腰掛け、酒場には重たい沈黙が続いていた。
「ぼ、僕は王国騎士蒼碧団所属のレフト。こっちがライトです」
沈黙を破るように、レフトが自己紹介を初めた。セリアスはただ死んだような目でツカサとアンズーを見つめていた。
「で、そこの王国騎士さんはどうしてツカサを連れていこうとした。話ならここでもできるだろ」
「ーー保護……」
セリアスが口を開いたが、声が小さすぎてアンズーの耳にはよく聞こえなかった。レフトはその言葉を聞いて考え込んだ。ライトは腕を組んで窓の外を眺めていた。
「恐らくセリアス様は、ツカサ君が狙われているから王宮に連れていった方がいいと思ったんじゃないでしょうか……」
レフトがセリアスの方に顔を曲げた。セリアスは、時間差で小さく頷いた。セリアス様子にアンズーは困ったような眼差しを向けている。
「だからって乱暴はよくないだろ……俺も肩掴んだけどよ」
「団長は口下手だからよくトラブルを起こすんすよ……」
ライトが面倒くさそうに答えた。ツカサはどこに視線を向ければいいのかわからなくて、セリアスのロングコートを見ていた。
「それと、ツカサの質問にも答えてもらいたい。スカルトロールについて知ってるのか?」
アンズーの視線はレフトではなくセリアスに向いていた。この場に座る全員の視線がセリアスに集まった。セリアスは相変わらず疲れたような顔つきで黙りこくっていた。レフトがさりげなくセリアスの肩を揺さぶる。
「ーーいや知らん」
そう言い放つと、酒場に沈黙が戻った。アンズーもツカサもキョトンとしてセリアスの顔を見ていた。ライトがため息をついて天井を見上げる。レフトも驚いたように困惑していた。
「さっき知ってそうな反応してましたよね……?」
ツカサが思わず突っ込んだ。言ってしまったと思ったツカサは口を手で押さえてテーブルの隅に視線を移す。アンズーも訳がわからないと言いたげな顔をしている。そんな様子を目にして、レフトは焦った様子で口を開く。
「知らない訳じゃなくて、心当たりはあるんですよね……?」
少しの沈黙の後、セリアスが小さく頷いた。しかし、それ以上話すことはないセリアスにしびれを切らしたライトが呆れたようにため息をついた。
「セリアス様、考えてることがあんなら話すなり紙に書くなりして下さいよ」
そう言われるとセリアスは、懐から1枚の紙と羽根ペン、インクを取り出してテーブルの上に置いた。セリアスは目にも止まらぬ早さで綺麗な文字を書き起こした。レフトがその紙に目を通す。
「スカルトロールについては知らないが、似たような事例なら知っている……そうです」
「似たような事例……?」
ツカサが思わずセリアスに聞き返した。セリアスは黙ったままペンを取り、その紙に書き起こした。
「フローリア王国の外れに位置する泉下の森と呼ばれる場所に、骨の魔物の出現情報がある……って泉下の森!?」
泉下の森、その言葉を聞いた途端に文字を読んでいたレフトが驚いたように声を上げた。驚いたのはレフトだけではない。ライトも驚いたような反応をしていた。2人の反応を見たツカサは、泉下の森がどんな場所なのか気になった。
「その泉下の森って確か立ち入り禁止区域じゃなかったか?」
アンズーの質問に、騎士団は答えなかった。レフトはセリアスと紙を交互に見る。
「その、泉下の森ってなんなんですか?」
ツカサの質問に、レフトとライトがセリアスの顔を覗き込んだ。セリアスは表情こそ動かないが、どこか焦ったように見えた。セリアスは小さく頷いた。その頷きを確認したレフトは、慎重に話し出した。
「泉下の森は現在、王国が密かに調査を進めている区域なんです……。本来なら口外できない内容なのですが……ツカサ君にも関わることですし、名前が出てしまった以上、最低限の情報をお話しします……。」
レフトは言葉を選びながら泉下の森について最低限の説明をした。その森で骨の魔獣、そして死んだはずの人間を見たとの目撃情報があったこと、その森は広く調査が全く進んでいないことをレフトは教えてくれた。
「今、別の騎士団が調査に行っているのですが……1ヶ月も戻ってきていないんです」
アンズーとツカサが呆気に取られていると、その空気を破るようにして酒場の扉がゆっくりと開かれた。
「今は店を開けてねーんだ。看板に書いてあるだろー」
アンズーが扉に向かって叫ぶも、その影はゆっくりと店に入ってくる。逆光で姿はよく見えないが、人ではないことは確かだった。
「おやぁ?営業していなぁいのでぇすかぁ?せぇっかくお酒を飲む気分だったのにぃ……」
ツカサは、そのねちょねちょとした話し方に聞き覚えがあった。その影にライトが歩いて向かう。
「すいやせんね、今は取り込み中なんすよ。また今度に……」
ライトは徐々に声が小さくなる。逆光でぼやけていた影は、徐々に輪郭が露になる。明らかに人間ではないその姿に、ツカサの心が警鐘を鳴らしていた。
「あ、アンズーさん……」
ツカサは震えながらアンズーの腕を掴む。その影は呆気に取られたライトを無視して突き進む。影により隠されていた姿が露になった。その姿を見たアンズーがツカサを守るように腕を伸ばす。
「お前は誰だ?」
アンズーの視線の先には、頭上には大きく尖った突起が目立ち、ギョロギョロと落ち着きのない目玉は確実にツカサを捉えている。まるでカメレオンだった。その男は一呼吸すると、粘液まみれの口を開いた。
「申し遅れまぁした。ワレの名は、カレオトキシン・ヨルセニコプと申しまぁす」




