第17話 コミュ障到来
おねばの入った鞄を背負い、ツカサは駆け足でセレアの酒場の前まで戻ってきた。すると、酒場の前には扉を塞ぐようにして鎧の騎士が2人立っていた。不安な気持ちを抱えながらも、騎士達に話しかける。
「あの……なにかあったんですか?」
騎士達はツカサを見るなり、顔を見合わせた。ツカサは緊張して鞄の肩ひもを握る。
「君、この店に用があるの?」
「お前、ここは酒場だぜ?こんなガキが飲みに来るわけねぇだろ」
左の騎士の質問に、右の騎士が突っかかった。右の騎士はツカサに近寄ると、威圧的に見下ろした。
「今取り込み中なんだ。用件なら後にしてくれ」
騎士の横から顔を出して窓の中を覗くと、ツカサは偶然アンズーと目があった。その手前には白いロングコートを着た男が座っていた。アンズーが窓越しに手を振っている。それに反応して、ロングコートを着た男も振り返った。
「ツカサ、ちょっとこっちに来てくれないか?」
店の中からアンズーの呼ぶ声が聞こえた。ツカサは2人の騎士を見上げる。騎士は困ったような顔をして、扉の前を退いた。
店に入ると、アンズーと白いロングコートに鋼の肩当てを着けた男が向かい合って座っていた。
「……彼がツカサ?」
その男は振り返ると、今にも死にそうな目でツカサを見つめた。紺色に水色のラインが入った髪は、ボサボサで伸びきっていた。とても手入れされているとは思えない。片目が髪の毛で隠れている。
「そうですが……あなたはどちら様ですか?」
その男は、怪訝そうな顔をしてツカサを見た。見てわかるだろと言わんばかりにそのコートを見せる。そのコートには一切の汚れがなく、青い花のデザインが施されていた。そんなものを見せられても、ツカサには何が言いたいのかわからなかった。
アンズーが困ったように頭を押さえると、静かに口を開いた。
「王国騎士団のセリアス・トリスタンさんだとよ」
セリアス・トリスタンと呼ばれるその男は、静かに頷いた。ツカサはおねばの入ったカバンを自室に置いてから、セリアスの前に立った。
「えっと、王国騎士団の人が何をしに……?」
セリアスはテーブルの上の資料を指差す。自分で読んで理解しろと言っているようだった。ツカサは困惑しながらもその資料に目を通す。しかし、まだ文字に慣れないツカサは、読むのに手間取っていた。すると、アンズーが口を割って入った。
「簡潔に言えば、昨晩のことについてだ。アルシアの血痕とか、街に残された傷痕とかの調査だってよ」
アンズーが目配せすると、セリアスは軽く頷いた。セリアスは首だけをツカサの方に向けると、死にかけの黄色い瞳にツカサを入れる。
「……昨日は何があった?」
酒場は静寂に包まれていた。おねばもカバンの中で大人しくしていた。ツカサはセリアスの視線に緊張していた。ツカサは頭で話をまとめると、スカルトロールに襲われたことを簡潔に伝えた。
「ーースカルトロール……」
ツカサの話を聞き終えたセリアスは、口に手を当てて考え込んだ。ツカサはセリアスが何かを知っているように見えた。
「な、なにか知っているんですか……?」
ツカサは思わずセリアスに聞き返した。しかし、セリアスは黙って考え込んだまま返事をしない。微妙な空気になってしまい、ツカサは聞いたことを後悔した。アンズーは腕を組んだまま退屈そうにしている。
「あの……」
ツカサが声をかけようとした時、セリアスはツカサの手首を掴む。力が強くてツカサは顔をしかめる。その様子にアンズーが静かに口を開いた。
「ツカサをどうするつもりだ?」
アンズーの言葉が酒場中に響き渡る。さっきまでとは雰囲気が違う。セリアスは足を止めてアンズーの方を振り返った。
「ーー王宮で事情を聴く」
それだけ言うと、セリアスはアンズーに背を向けて歩きだす。そんなセリアスの肩にアンズーが手をかける。
「……にしても、やり方ってもんがあるだろ?」
セリアスは面倒くさそうな顔をしてアンズーの目を見ている。アンズーはセリアスを掴んで離さない。一触即発の空気に圧倒されてツカサは声が出なかった。その空気を破るように、酒場の扉が勢いよく開かれる。そこには、外で警備していた2人の騎士が立っていた。騎士達は、その光景を見て頭を悩ませた。
「ちょっとセリアス様……またすか?」
騎士の1人が呆れたようにしてセリアスに近付く。もう1人の騎士がアンズーの前に立つと、頭を下げた。
「うちの団長が失礼しました!この人話さないからトラブルばかり起こすんです……」
ツカサもアンズーも状況が飲み込めなかった。さっきまでの空気が嘘のように吹き飛んだ。セリアスは唇を噛んでそっぽを向いている。
「べ、別に謝らなくても……。俺も怒って悪かったよ」
アンズーも軽く会釈をして謝った。騎士の人がセリアスの背中を軽く叩いた。セリアスが生気の宿らない瞳をアンズーに向ける。
「ーーすまん……」
セリアスの呆気ない謝罪を聞いたアンズーは、腕を組んで席につき、セリアスはツカサの手首から手を離した。ツカサは掴まれた手首に視線を移すと、赤い跡がくっきりと残っていた。
「とりあえず座れよ。話しはそれからだ」
アンズーの提案で、皆が席に着いた。




