第11話 絶叫体験
棚の上でカチャカチャと音を立てて震える植木鉢。執拗にロープで巻かれているその様子に、ツカサはただならぬ気配を感じていた。
「アルシア、あれなに?」
「魔道具かなにかかしら。あんなの見たことないわ」
2人が棚を見上げていると、店の奥から巨大なおじいさんが出てきた。ボロボロの服に伸びきった髭はとても清潔ではなかった。植木鉢に気を取られて、そのおじいさんの存在に気がついていなかった。
「坊や、その植木鉢が気になるのかね」
ツカサは突然話しかけられて、思わず肩をビクッとさせた。
「ま、まぁ気になります」
「あの植木鉢、なんであんなにぐるぐる巻きなんですか?」
おじいさんはガラクタを掻き分けながら、その棚の前に立つと、棚を見上げて少し考え込んだ。
「あの鉢には『マンドラゴラ』が植えられているんじゃ」
ツカサはマンドラゴラという名前は聞いたことがあった。映画などで出てくる叫ぶ植物程度の認識だった。
「マンドラゴラって……確か危険な植物よね?」
「お嬢さん聞いたことあるんかのぅ?」
おじさんが驚いたようにアルシアを覗き込む。大きな影がアルシアを隠した。
「本で読んだことある……。危険だからすぐに処分するんでしょ。なんでそんなもの置いているの?」
「危険だから処分……確かにそうじゃの」
アルシアの言葉を聞いて、おじさんは髭で隠れてよく見えないが、少し悲しそうな感じだった。おじさんは一呼吸して、言葉を続けた。
「わしは、売られたものは基本買い取ってしまう性分なんじゃ。買い取り先がないと処分されてしまうじゃろ?」
処分される。その言葉が少し引っ掛かった。少しもったいないと思ったが、それよりも好奇心が勝っていた。
「このマンドラゴラっていくらですか?」
ツカサの言葉が店内に浸透する。マンドラゴラの震えが止まった。店内の視線がツカサに集まった。
「坊や今なんて……」
「ツカサ、何言ってるのよ」
マンドラゴラが可哀想だったと言うのもあるが、なにより物珍しさで欲しくなっていた。深い理由はなかった。アルシアは少し引いていたが、おじさんは笑っていた。
「まさかマンドラゴラを欲しいと言い出す坊やがおるとは、驚きじゃわい」
「ちょっとツカサ、流石に買えないわよ?」
アルシアは困った顔をしてツカサを見た。おじさんは震えていた植木鉢が止まっていることに気が付いた。腕を伸ばして棚から植木鉢を大事そうに持ち上げた。しばらく植木鉢を見つめると、おじさんは優しくツカサに微笑みかけた。
「このマンドラゴラは坊やにプレゼントしよう。大切にするんじゃよ?」
「「え、いいんですか!?」」
ツカサとアルシアが驚いておじさんの方を見ると、手元の植木鉢から生えた葉っぱがゆらゆら揺れていた。
「マンドラゴラは引っこ抜くと叫びだすから、扱いには注意するんじゃよ」
ツカサはおじさんから植木鉢を受け取った。ずっしりとした重みがツカサの腕に伝わってくる。葉っぱがゆらゆらと揺れてツカサの視界を遮る。
「あ、ありがとうございます!代金はいつか払いに……」
「代金はその子を大切にすることじゃ。それでいいじゃろ?」
ツカサとアルシアはそのおじさんに礼を言うと、店を後にした。おじさんは2人が見えなくなるまで店の外に立っていた。その植物の門出を見送るように、静かに店先で手を振っていた。
「ツカサ、その植物どうするのよ?一応駆除対象らしいから気を付けなさいよ?」
「わかったよアルシア。どうにかする」
ツカサは嬉しそうに植木鉢を抱え、アルシアと酒場への帰路に着いた。外はすっかり夕暮れ時。カラスの声は聞こえない。ツカサが鉢を抱えて歩いていると、街の雰囲気が朝とは違っていることに気が付いた。
「なんか朝より賑やかじゃない?」
「ここら辺の通りは飲み屋が多いの。仕事終わりの人達が疲れを癒すために集まるの」
どこか居酒屋のような香りが漂っていて、ツカサの頭に日本の風景が浮かぶ。
そんな他愛のない話をしながら、2人はセレアの酒場に続く路地に入った。路地は夜になると、より一層暗くなって不気味さを増していた。街の音は聞こえない。月明かりだけが2人を照らしていた。
「それにしてもツカサ、そんな植木鉢持って歩けるの?」
「まぁお尻の痛みも引いてきたし、そんなに心配するほどでもないから大丈夫」
「ハハッ。お尻が痛んでいるのですか。その話、詳しく聞かせてもらってもよろしいですか?」
ツカサの背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。ツカサの動悸が激しくなり呼吸が浅くなる。どこかで聞いたことがあるダンディな声。思い出すだけで恐怖が頭を支配する。マンドラゴラの植木鉢が異常に震えている。ツカサ自身も、足がガクガクと震えていた。このまま目を背けたいが、背けることはできない。尻に緊張が走る。
ーーそしてツカサは後ろを振り返った




