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ハーレム,俺の義妹が天才漫画家だった件  作者: 下級生


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55/118

第55話 高校入試

千葉第一高校は、東京都市圏でも屈指の難関校として知られている。


 公立高校でありながら、県内有数の進学校でもあり、入試難易度は多くの私立高校を上回る。


 教育水準も高く、周辺地域では圧倒的な競争力を誇っていた。


 日本の高校入試制度は、涼介が記憶している前世のものとは大きく異なる。


 都市ごとに統一された合格点を設け、その点数に応じて上位校から順番に振り分けられるわけではない。


 公立高校の入試問題は、各都道府県の教育委員会が作成する。


 その筆記試験の結果に、中学校から提出される内申書を加え、総合的に合否が判断される仕組みだ。


 内申書には、学業成績だけでなく、中学校での生活態度や活動実績なども記録されている。


 時間が流れるのは早かった。


 涼介の補習を受けながら、凌乃は毎日のように悲鳴を上げ、一週間を乗り切った。


「そんなに気負わなくてもいい。もし千葉第一に届かなかったとしても、栄洋私立高校という選択肢がある」


「涼介も、今のお前ならそっちは確実に合格できると言っていた」


 高城勇夫は、涼介の判断を強く信頼していた。


 それも、この半年で凌乃の成績が飛躍的に伸びる様子を、間近で見てきたからだ。


「何よ。私じゃ無理だって言いたいの?」


 凌乃は不満そうに兄を睨み、鼻を鳴らしてから父親へ向き直った。


「心配しなくても、絶対に合格するから。じゃあ、行ってくる!」


 高城家の三人は、千葉第一高校の正門前で、凌乃が試験会場へ入っていく背中を見送った。


「涼介、凌乃は大丈夫だと思うか?」


 父親である勇夫には、今の光景がまるで夢のように感じられていた。


 半年前まで勉強が苦手だった娘が、今では千葉第一高校の受験会場へ向かっている。


「まあ、筆記試験なら問題ないと思います」


 涼介は長いあいだ、凌乃の勉強を直接見てきた。


 現在の実力についても、当然把握している。


 焦らず、普段どおりに解けば、十分に満足できる点数を取れるはずだった。


「そうか。それなら安心した」


 勇夫は、ようやく肩の力が抜けたように息を吐いた。


「本当にお前のおかげだ、涼介。正直に言えば、以前は凌乃が高校へ進学できるのか、本気で心配していた」


「あの子は小さい頃から、勉強だけは苦手だったからな」


「そんなことはありません。凌乃は頭が悪いわけじゃなくて、今まで本気で努力してこなかっただけです」


 それは涼介の本心だった。


 普段は妹を口先で挑発しているが、それも一種の発奮材料として使っているにすぎない。


 半年間の補習で、ここまで実力を伸ばせたのは、凌乃本人が努力を続けたからだ。


「美恵子、君には本当にいい息子がいるな。君と結婚できてよかった」


 まるで表彰式の受賞者のような口調でそう言うと、勇夫は美恵子の両手を取った。


「もう、子供の前で何を言っているんですか」


 美恵子は照れたように笑いながら、涼介へ視線を向けた。


 その目には、隠しきれない誇らしさが浮かんでいた。


 ◇


 高城凌乃は試験会場へ入り、自分の受験番号と名前が記された席に腰を下ろした。


 必要なものを机の上に並べ終えても、試験開始まではまだ五分ほどある。


 少女は頬杖をつき、教室の中を見回した。


(私が通っている中学校と、そんなに変わらないじゃない)


 そう思っていたとき、視界の端に見覚えのある姿が映った。


(あれ? どうしてあの人がここにいるの?)


 肩まで伸びた黒髪。


 白いブラウスに、黒と赤のプリーツスカート。


 額にかかる前髪の一房だけが青く染められ、窓から入る風に揺れていた。


 陽光を受けた肌は、白く輝いているようにさえ見える。


 試験会場にいる男子の多くが、気づかれないように彼女へ視線を向けていた。


(あのアイドルじゃない)


 名前は確か、星見静香だったはずだ。


 凌乃は驚きを隠せなかった。


 涼介の話では、相手は彼と同い年で、東京に住んでいるらしい。


 それなのに、なぜ千葉第一高校の受験会場にいるのか。


 凌乃の視線に気づいたのか、アイドルの少女がこちらを振り向いた。


 目が合った瞬間、相手も少し驚いたように目を瞬かせる。


 だが、すぐに笑みを浮かべ、軽く手を振ってきた。


 向こうから挨拶された以上、無視するわけにもいかない。


 凌乃は眉を寄せたまま、小さく頷いて返した。


(何だろう。何かがおかしい気がする)


 考えをまとめる前に、試験開始を告げるチャイムが鳴った。


 監督官が教室へ入り、筆記試験の問題用紙を配り始める。


 ◇


 早川静香もまた、同じ教室で高城凌乃と会うとは思っていなかった。


「偶然ってあるものね」


(お兄さんと同じ高校へ進みたくて、ここを受験したのかしら?)


 二か月前に会社へ復帰して以来、静香は涼介と一度も会っていない。


 適当な理由がなかったこともある。


 だが何より、彼女自身がひどく忙しかった。


 仲間たちと初舞台を経験し、正式にデビューしたあと、『No, Thank You!』は予想以上の反響を得た。


 その結果、結成されたばかりのアイドルグループにも、すぐに商業イベントへの出演依頼が舞い込むようになった。


 今日こうして試験会場へ来られたのも、伊東慎平が無理やり予定を空けてくれたからだ。


『会社は君たちのCDデビューを決めた。今が大事な時期だ。絶対に気を抜くな』


『試験が終わったら、すぐに戻ってこい』


 昨日の伊東の言葉を思い出し、静香は少し残念そうに息を吐いた。


 本当は、帰りに涼介とも会いたかった。


「でも、これから機会はいくらでもあるわよね」


 なにしろ今、自分はこの高校の受験会場にいる。


 合格すれば、今後は毎日のように通うことになるのだ。


(高城君は、私が学校に現れたらどんな顔をするんだろう)


 静香は、その瞬間を想像して少しだけ笑った。


 やがて答案用紙へ視線を落とし、雑念を振り払う。


 ペン先が紙面へ触れ、彼女は試験問題に集中し始めた。


 ◇


 終了のチャイムが鳴り、高城凌乃は最後の答案用紙を提出した。


 これで五教科すべての試験が終了したことになる。


 凌乃は、先ほどまで早川静香が座っていた席へ目を向けた。


 しかし、すでにそこには誰もいなかった。


 彼女はかなり早い段階で答案を提出し、会場を出ていたのだ。


(何なの、あの人)


(問題が難しくて、途中で諦めたのかしら?)


 凌乃は、相手がそれほど早く試験を解き終えたとは考えなかった。


 そこまで頭がいいなら、涼介と同じくらいということになる。


 凌乃は、勉強をあれほど簡単そうにこなす人間を、涼介以外に見たことがなかった。


 試験会場を出て、校舎の廊下を歩いていると、新垣瑠璃の姿が見えた。


 親友同士なのだから、進学先も同じにしたい。


 新垣瑠璃も、この高校の入学試験を受けていた。


 ただし、試験会場は別の教室だった。


 凌乃が声をかけようとしたところで、親友が早川静香と話していることに気づいた。


(何よ。あの二人、知り合いなの?)


 短い会話を交わしたあと、早川静香は瑠璃と別れた。


 そこでようやく、瑠璃が凌乃の存在に気づく。


「凌乃!」


「あの人、誰? 知り合いなの?」


「うん。業界の先輩だよ」


「最近正式にデビューしたばかりで、仕事も順調みたい。芸能活動をしながら勉強まで続けるなんて、すごいよね」


 新垣瑠璃は、夢を追うために学校を辞めた少女を数多く見てきた。


 早川静香のように、将来のことまで冷静に考えて行動できる者は珍しい。


 もともと瑠璃は、彼女がこの会場にいることに気づいていなかった。


 ところが向こうから声をかけてきたうえ、何度も礼を言われたのだ。


 瑠璃としては、少し戸惑っていた。


 自分は特に何かをした覚えがない。


 何に対して感謝されているのか、よく分からなかった。


「そういえば、お兄さんから早川先輩に音楽の仕事をお願いしたいって相談されたんだ」


「その後どうなったのか、ずっと聞いてなかったよね。今度、私にも聴かせてくれる?」


「えっ?」


 高城凌乃は目を瞬かせた。


(瑠璃に紹介してもらったのね、あいつ!)


(危なすぎるでしょう。あのアイドルが余計なことを話したら、私の秘密までばれるじゃない!)


(この馬鹿!)


 凌乃の額に、冷たい汗が浮かんだ。


 適当な言葉で話を濁し、なんとかその場を切り抜ける。


 成人向けゲームに使う音楽など、どう考えても瑠璃に聴かせられるものではなかった。


 ◇


 二人は校舎を出たあと、正門前で別れた。


 父親と美恵子、そして義理の兄がまだ自分を待っているのを見つけ、凌乃は自然と足を速めた。


「どうだった?」


 高城勇夫が真っ先に尋ねる。


「楽勝。絶対に大丈夫」


 凌乃は胸を張り、当然のような顔で答えた。


「さすが高城家の娘だ」


 美恵子は口元を押さえて笑い、勇夫も嬉しそうに頷いた。


「ちょっと、あんた。どこ見てるの?」


 凌乃は、涼介の視線が別の方向へ向いていることに気づいた。


 その先を追うと、ちょうど早川静香が黒い車へ乗り込むところだった。


(何よ。私のことなんて、全然見てないじゃない!)


 その光景を目にした瞬間、高城凌乃の胸に、理由の分からない苛立ちがこみ上げた。


 少女は右手を伸ばし、涼介の腰に指をかける。


 そして、そのまま思いきり右へひねった。


「っ……!」


 涼介の口から、押し殺した悲鳴が漏れた。


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