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ハーレム,俺の義妹が天才漫画家だった件  作者: 下級生


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第29話 九十二点

凌乃の悲鳴が響き渡る中、冬休みはついに終わりを迎えた。


月例賞から、すでに一週間。


涼介は昼間に『カードキャプターさくら』のネームを進め、夜になると妹の勉強を見る。


慌ただしくも充実した毎日を送っているうちに、時間はあっという間に過ぎていった。


そして気づけば、始業式の日を迎えていた。


一月六日、月曜日。晴れ。


高城兄妹は時間をずらして家を出ると、それぞれの学校へ向かった。


学生としての、本来の『仕事』を果たすために。


涼介は、千葉第一高校へ続く通学路をゆっくりと歩いていた。


県内屈指の進学校だけあり、立地も周辺環境も、その名にふさわしい。


校門へ続く道の両脇には、プラタナスが整然と植えられている。


冬から春へ移り変わろうとする季節。


葉を落とした枝先には小さな芽が顔を覗かせ、どこか清々しい景色を作り出していた。


教室へ入ると、大半の生徒が友人たちと冬休み中の出来事を語り合っていた。


旅行へ行った。


親戚の家で過ごした。


年末年始に何をした。


あちらこちらから、楽しげな声が聞こえてくる。


涼介は窓際の最後列へ向かい、椅子の背もたれに鞄を掛けた。


席へ着くと、自然と一つ前の机へ視線が向く。


そこには、今日もまだ誰も座っていなかった。


「おっす。久しぶりだな、高城」


声をかけてきたのは、隣の席にいる木村明彦だった。


日焼けした肌が目立つ少年で、学校のバスケットボール部に所属している。


明るく活動的で、人見知りとは無縁の性格だ。


「久しぶり」


涼介も礼儀として返事をする。


二人は特別親しいわけではない。


かといって仲が悪いわけでもなく、廊下や街中で顔を合わせれば普通に挨拶を交わす程度の関係だった。


「相変わらず冷たいな、お前は」


木村は悪びれもせず、にやにやと笑った。


涼介も軽く笑い、その冗談を気に留めなかった。


身体は高校生のままだ。


それでも、記憶や精神の在り方まで同年代というわけではない。


そのせいか、学校にいる生徒たちの輪へ自然に溶け込むことは、今でも少し難しかった。


木村はその後も何度か話しかけてきた。


やがて始業を告げるチャイムが鳴ると、ようやく会話を切り上げる。


担任教師が教室へ入り、それまで騒がしかった空気が静まった。


四十代を過ぎたその教師は、分厚い眼鏡を掛け、両腕に大量の用紙を抱えていた。


教壇へ着くと、それを机の上へ置く。


「皆さん、休みは終わりました」


「これから実力テストを始めます」



高城凌乃は、前の席から回ってきた試験用紙を受け取りながら、内心で緊張していた。


(何よ……始業初日からテストなの?)


そんな話は聞いていない。


当然、何の心構えもできていなかった。


後ろの席には、新垣瑠璃が座っている。


凌乃が助けを求めるような目で振り返ると、瑠璃は可笑しそうに微笑んだ。


「始業日にテストがあるのは当然でしょう?」


「あと半年で受験なんだから、凌乃も頑張らないとね」


そこで少し身を乗り出す。


「お兄様に勉強を見てもらっていたのでしょう?」


「ちょうど成果を確かめる機会じゃない」


「どうだか」


高城凌乃は不満そうに唇を尖らせた。


「あいつが出してくる問題、すごく難しいのよ」


「しかも、いちいち私のことを馬鹿だって言うし」


先週の勉強風景を思い出すだけで、気が重くなる。


第一段階とやらを終えてから、問題の難易度は一気に上がった。


二時間かけて、どうにか最後まで解き終える。


それでも、採点をすれば間違いだらけ。


そのたびに涼介から散々皮肉を言われた。


しかも実際に解けていない以上、言い返すこともできない。


ただ黙って耐えるしかなかった。


試験が始まると、新垣瑠璃もそれ以上話しかけてはこなかった。


凌乃は諦めて、目の前の問題へ意識を集中させる。


「えっ……?」


問題文を読んだ瞬間、少女は驚いて口元を押さえた。


(何、これ……?)


これまでの凌乃にとって、始業前の実力テストはかなり難しいものだった。


ところが今、実際に問題を目にしてみると――


どれも見覚えがある。


(私、これ……解けるかも?)


時間が一分、また一分と過ぎていく。


凌乃の手にしたシャープペンシルは、迷うことなく答案用紙の上を走っていた。


やがて、最後の空欄まで埋め終える。


彼女は大きく息を吐いた。


全身に、不思議な爽快感が広がっていく。


(楽勝じゃない!)


答案用紙を見下ろし、凌乃は自信に満ちた笑みを浮かべた。


(何よ、この程度なの?)


(あいつが出してきた第二段階の問題より、ずっと簡単じゃない)


「高城さん」


突然、すぐ横から小さな声が聞こえた。


凌乃が顔を上げると、いつの間にか担任教師が隣に立っていた。


「冬休み中も、ずいぶん勉強していたようですね」


「塾か何かに通っていたのですか?」


「まあ……そんなようなものです」


凌乃は少し迷ってから頷いた。


涼介による一日二時間の指導も、広い意味では補習と言えなくもない。


担任教師は満足そうに微笑み、そのまま教壇へ戻っていった。


その後、試験終了のチャイムが鳴るまで、凌乃は何度も答案を見直した。


以前、涼介の第一段階の指導を受けていた頃。


解き方は合っているのに、うっかりミスで間違えることが何度かあった。


そのたびに嫌味を言われ続けた結果、最後に必ず見直す習慣が身についていたのだ。


「どうだった、凌乃?」


休み時間になると、新垣瑠璃が声をかけてきた。


「たぶん、かなりできたと思う」


「本当に?」


凌乃の顔には、はっきりと自信が浮かんでいた。


「最初から最後まで全部見直したもの」


「今回のテスト、かなり簡単だったし。絶対に大丈夫よ」


新垣瑠璃は、わずかに首を傾げた。


(簡単……?)


そこまでではなかったはずだ。


瑠璃は普段から、学年でも上位の成績を維持している。


そのため、問題の難易度にはかなり敏感だった。


今回の実力テストは、標準的な難しさだったと思う。


決して、簡単と呼べる内容ではない。


(お兄様の勉強指導が、本当に効いたのかしら?)


冬休みは、わずか十数日しかなかった。


それなのに、ここまで変わるものなのだろうか。


(これなら凌乃、本当に千葉第一高校へ合格できるかもしれない)


新垣瑠璃は心の中でそう考えた。


もう少し詳しく聞こうとし、自分の答えと照らし合わせてみようとする。


しかし、その前に凌乃が話題を変えた。


「もう、テストの話はいいでしょ」


高城凌乃は、すでに試験の緊張感など忘れていた。


そして楽しそうに、少女同士の内緒話を始めるのだった。



放課後になると、始業前実力テストの結果が返却された。


涼介は予想どおり満点。


答案を鞄へしまうと、一緒に『カードキャプターさくら』のネームノートも入れる。


高校の授業内容は、今の彼にとって難しいものではない。


すでにかなり先まで独学で終えており、授業を受けながらネームを考えるくらいなら十分に両立できた。


放課後、自宅へ戻ると、高城勇夫はすでに仕事から帰宅していた。


リビングでは、美恵子と楽しそうに話している。


その表情は、これ以上ないほど上機嫌だった。


右手には、一枚の答案用紙。


そこには、赤字で大きく――九十二点、と記されている。


「ああ、涼介。ちょうど帰ってきたか」


声をかけるより早く、勇夫が手招きをした。


そして答案用紙を掲げながら、嬉しそうに笑う。


「凌乃がこんな点数を取ったのは初めてだ」


「やっぱり、お前が勉強を見てくれた成果なんだろう?」


「本当に助かった。ありがとう」


父親は上機嫌のまま、涼介を何度も褒めた。


隣にいた美恵子も、いたずらっぽく片目をつぶる。


その表情には、娘を誇らしく思う気持ちが隠しきれなかった。


涼介は勇夫から答案用紙を受け取る。


問題をざっと見渡したあと、静かにテーブルへ戻した。


「当然のことをしただけですよ」


「父さんと約束しましたから」


「それにしても、こんなに早く成果が出るとはな」


勇夫は感慨深そうに頷く。


「これからも凌乃のこと、よろしく頼む」


娘の成績に悩まされ続けてきた父親としては、これほど嬉しい出来事はなかった。


学年でも下位が定位置だった娘が、九十点を超える答案を持ち帰ってきたのだ。


その喜びは、親でなければ分からないものだろう。


涼介は苦笑しながら、二、三、謙遜の言葉を返すと、自室へ向かった。


部屋の扉を開けようとした、そのとき。


ちょうど私服へ着替え終えた凌乃が、自室から出てきた。


胸を張って廊下の真ん中へ立つ姿は、まるで尻尾を高く掲げた猫のようだ。


得意げな表情が隠しきれていない。


涼介はそんな妹を一瞥しただけで、そのまま自室へ入っていく。


「ちょっと!」


凌乃は頬を膨らませ、そのあとを追いかけてきた。


「何か言うことないわけ?」


涼介は振り返り、不思議そうに首を傾げる。


「何か用?」


「あなたねぇ……!」


凌乃は悔しそうに歯を食いしばった。


「私、あんな点数取ったのよ?」


「さっきだって、お父さんがすごく褒めてくれたじゃない」


「つまり、俺にも褒めてほしいってことか?」


涼介は納得したように頷く。


「ち、違うわよ!」


凌乃は腕を組み、ふんと鼻を鳴らした。


「ただ、もう少し私を尊重しなさいって言ってるの」


「いつもいつも馬鹿だ馬鹿だって言って」


「今回は瑠璃より五点低かっただけなんだから! 順位だってかなり上のほうだったのよ!」


「ふっ」


涼介は思わず笑みを漏らした。


「な、何よ、その笑い方!」


凌乃は一瞬で顔を真っ赤にする。


涼介は気にも留めず、鞄を畳の上へ置いた。


そこから自分の答案用紙を取り出す。


満点と書かれた答案を、そのまま凌乃の前へ放った。


「俺が勉強を見て、この程度の問題で九十二点しか取れなかった」


「それで満足しているのか?」


鋭い視線が、まっすぐ凌乃へ向けられる。


「うっ……」


まるで生活指導の教師に睨まれたような威圧感だった。


さっきまでの勢いが、一気にしぼんでいく。


「答案も見た」


涼介は淡々と続ける。


「今回の問題、お前には見覚えがあったはずだ」


「何度も似た問題を解かせてきた」


「それなのに、まだ同じようなミスをしている」


凌乃は思わず一歩後ずさった。


「う……」


胸を張っていた姿は、もうどこにもない。


叱られた子どものように肩を落とし、目には涙が浮かび始める。


「やっぱり……」


唇を噛み締めながら叫んだ。


「やっぱり、あんたなんて大っ嫌い!」


そう言い残すと、自室へ飛び込む。


バタン、と勢いよく扉が閉まった。


凌乃がいなくなると、涼介はようやく厳しい表情を崩した。


「……少し言い過ぎたかな」


小さくため息をつく。


褒めること自体に抵抗があるわけではない。


だが、今の凌乃は少し浮かれすぎていた。


成績の悪かった娘が急に結果を出せば、両親が喜んで褒めるのは当然だ。


しかし、それで実力以上の自信を持ち、気を緩めてしまえば意味がない。


だからこそ、自分が嫌われ役になるしかなかった。


「千葉第一高校に受かるには……」


涼介は独り言のように呟く。


「まだ、この程度じゃ全然足りない」


そう言って部屋着へ着替えると、一階へ降りて夕食を取りに向かった。

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