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ハーレム,俺の義妹が天才漫画家だった件  作者: 下級生


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第20話 五話分の成果

「何よ。私の絵に文句でもあるの?」


「そういうわけじゃない」


涼介は首を振り、凌乃へ手招きした。


高城凌乃は、『月魔女変身』というヒット作を描き上げた天才漫画家だ。


純粋な画力について、涼介が口を挟めるような部分はほとんどない。


ただし、彼女の絵柄は涼介の記憶にある『カードキャプターさくら』とは大きく異なっていた。


特に気になったのは、ラフに描かれたキャラクターの、妙に肉付きのいい太腿だ。


「低年齢層向けの作品なんだから、体つきを必要以上に強調する必要はないと思う」


涼介は原稿を指差しながら説明する。


「全体的に、もっと可愛らしい方向へ寄せたほうがいい。こういう肉感的な絵柄は、男には受けそうだけど」


さすがに、そこまではっきりとは言わなかった。


涼介が本当に言いたかったのは、凌乃の描いた桜があまりにも大人びているということだ。


大人びすぎていて、どこか艶めかしさすら感じてしまう。


木之本桜は、設定上まだ小学生である。


それなのに、この膨らんだ胸は何なのだ。


前作の『月魔女変身』は、思春期の少女たちだけでなく、相当数の男性読者も獲得していた。


その理由の一つが、凌乃の絵柄にあるのだろう。


(市場に合わせて、こういう描き方を身につけたのか?)


(それとも……凌乃が女の子好きだからとか?)


とはいえ、新垣瑠璃の体つきは、凌乃の描く人物ほど豊満ではない。


むしろ、強いて似ている人物を挙げるなら――本人のほうだ。


そんなことを考えた涼介の視線が、隣に立つ妹の、白く滑らかな太腿へ吸い寄せられる。


「……どこ見てるの?」


凌乃が険しい顔で睨んできた。


涼介の視線に気づき、反射的に両脚を寄せる。


「何よ。今度は私の服装にまで口を出すつもり?」


「本当に寒くないのか?」


涼介は以前から気になっていたことを、素直に口にした。


「下半身を冷やすと、脚が太くなるぞ」


今は冬だ。


いくら何でも、生脚で出歩くには寒すぎる。


「寒くないわよ。それより、あんた変態なの? どうして女の子の下半身ばかり気にするのよ」


凌乃の頬へ、わずかに赤みが差した。


涼介は呆れてしまった。


兄として、ごく当たり前の心配をしているだけだ。


冬になれば、親が子供に厚着をするよう言うのと、何も変わらない。


とはいえ、今の二人の関係では「ちゃんとズボンを穿け」と言っても、素直に聞くはずがない。


涼介は肩をすくめ、それ以上弁解しなかった。


「話を戻すぞ。この作品に合わせて、全体の絵柄を調整してほしい」


「ふん」


高城凌乃はまったく納得していない顔で、そっぽを向いた。


「こういうキャラクターを好きなのが、男だけとは限らないでしょ……」


ぶつぶつと不満をこぼしたあと、投げやりに続ける。


「まあ、いいわ。あんたの作品なんだから、言うとおりにしてあげる。でも人気が出なくても、私のせいにしないでよね」


そう言いながら、凌乃は涼介を椅子から退かせ、自分がそこへ座った。


そして再び、猛烈な速さでペンを走らせ始める。


今度の涼介は、ソファへ戻らなかった。


妹の隣に立ち、その手元を見守る。


間もなく、先ほどとはまるで異なる、瑞々しく愛らしい桜の姿が原稿用紙へ浮かび上がった。


「髪には、可愛いヘアピンをいくつかつけよう。髪型は左右に短い毛束を残す感じで」


涼介は横から口を出す。


「制服は……友枝小学校のものを参考にすればいい」


「いちいち細かいのよ……」


高城凌乃は鬱陶しそうに呟いた。


それでも、手元では涼介の指示どおりに修正を加えていく。


「よし、できた」


涼介は作業机に置かれた桜のデザインをしばらく眺め、満足そうに笑った。


(これでこそ、初代萌え王だな)


「ほかのキャラクターも、もう説明はいらないだろ。この絵柄を基準にすればいい」


涼介は続けた。


「桜には何着も華やかな衣装を着せる予定だから、そのあたりは自由に考えてくれ」


「誰に向かって言ってるのよ」


高城凌乃は鋭く睨み返した。


(女の子の魅力なら、胸も腰もちゃんと描いたほうが伝わるのに)


(どうして、こんな棒みたいな脚のキャラクターにしなきゃいけないのよ)


確かに可愛らしくはある。


だが、色気はまったく感じられない。


「僕が渡したネームを全部描き上げるまで、どれくらいかかりそうだ?」


涼介が尋ねると、凌乃はざっと計算した。


「冬休みが終わるまでには」


「そんなに早く?」


涼介は素直に驚いた。


「当然でしょ。そうじゃなきゃ、週末だけで連載のペースについていけるわけないじゃない」


そう言うと、凌乃は誇らしげに胸を張り、涼介を見下ろした。


(手が何本あるんだ、この子は)


先ほど構図を描き直し、キャラクターを紙の上へ完成させるまで、二分もかかっていなかった。


それも、涼介が何度も修正を求めたうえでの話だ。


この妹は、絵を描くことに関しては、あまりにも規格外の才能を持っている。


「じゃあ、今日はここまでにしよう」


涼介は衣装掛けから自分のコートを取り、袖を通した。


続いて凌乃の上着も外し、こちらへ歩いてきた妹へ投げ渡す。


二人は並んで仕事場を出ると、帰りの電車へ乗り込んだ。



それから数日間。


涼介と凌乃は、家と仕事場を何度も往復した。


夜になれば勉強も教え、そんな生活が一週間ほど続いた。


凌乃の絵柄が作品に合う方向へ固まったことを確認してからは、涼介は再び家へこもるようになった。


最近は、早川留美から二度ほど電話もかかってきた。


『キノの旅』の出版作業は順調に進んでおり、近いうちに最初の刷り上がり分が書店へ並ぶらしい。


さらに、第三巻も翌月から正式に連載が始まるという。


このペースなら、学校が始まってからの負担を減らすためにも、冬休みが終わるまでに第四巻の原稿をできるだけ進めておく必要がある。


同年代の少年少女がゲームや友人との遊びに時間を使う中、涼介の日々は充実していた。


金曜日。


涼介が自室で原稿を書いていると、背後の扉が大きな音を立てた。


まるで蹴り開けられたかのような勢いだった。


高城涼介は机へ向かったまま、慌てることなく手元のノートを閉じた。


振り返ると、金髪の少女が腰へ両手を当て、威勢よく入口に立っている。


「ねえ、今日は私と東京まで来て」


高城凌乃は命令するような口調で言いながら、大股でベッドまで歩いてくる。


そして、涼介の返事も待たずに、その上へ胡座をかいて座った。


「島川からの補償金も振り込まれたから」


「『月魔女変身』の原稿を提出しに行くのか?」


涼介は首を傾げた。


「それくらいなら、一人でも大丈夫だろ」


東京までの往復交通費も、決して安くはない。


凌乃の懐には余裕があるが、涼介の貯金はそれほど多くなかった。


自分を誘うくらいなら、新垣瑠璃についてきてもらったほうが、凌乃も気楽だろう。


涼介も、暇を持て余しているわけではない。


「何言ってるのよ。わざわざ誘ったんだから、ほかにも用事があるに決まってるでしょ」


凌乃は不満そうに睨んだ。


「『カードキャプターさくら』の最初の五話分が完成したの。『月魔女変身』の原稿を提出するついでに、新しい担当編集者へ見せようと思ってる」


「もう五話も?」


涼介は目を見開いた。


通常の漫画家なら、週に二話仕上げるだけでも十分に速い。


それなのに凌乃は、『月魔女変身』の最終話を完成させたうえで、『カードキャプターさくら』まで五話分描き上げたという。


本当に恐ろしい作画速度だ。


それなら、自分も同行する意味はある。


涼介は少し迷ったあと、頷いた。


「分かった。行くよ」


「何よ、その渋々みたいな返事」


高城凌乃は鼻を鳴らし、そのまま大股で向かいの自室へ戻っていった。


(本当に腹が立つ)


(まるで、仕方なくついてきてあげるみたいな顔をして)


新垣瑠璃が最近モデルの仕事で忙しくなければ、涼介へ頼んだりしなかった。


『カードキャプターさくら』をきっかけに、凌乃は以前より涼介を見直していた。


とはいえ、二人の仲が急に良くなったわけではない。


勉強を教わっている最中も、この兄は何度も彼女の神経を逆撫でした。


たとえば――こんな簡単な問題に、どうしてそこまで時間がかかるんだ。


涼介の口からそんな言葉を聞かされるたび、思い返すだけでも腹が立つ。


高城凌乃は自室の姿見の前に立ち、鏡へ映る自分を眺めた。


今日の服装には、かなり満足している。


ピンク色のニットに、赤と黒のプリーツスカート。


全身から若々しさが溢れており、相変わらず脚には何も穿いていない。


「この格好を見たら、あいつ、また余計なことを言うかしら」


なぜか、そんな考えが頭へ浮かんだ。


少し迷ったあと、金髪の少女はクローゼットから厚手のタイツを取り出した。


ベッドへ腰を下ろし、つま先からゆっくりと脚を通していく。


白く、ほのかに赤みを帯びた肌が、黒に覆われていった。


太腿まで引き上げたところで、凌乃の手がふと止まる。


「……少しきつい」


凌乃は自分の脚を見下ろした。


「まさか本当に、あいつの言ってたとおり……寒い日に脚を出してると、太くなるの?」

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