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ハーレム,俺の義妹が天才漫画家だった件  作者: 下級生


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第12話 ちゃんとズボン履きなさい

(そんなこと考えるお前のほうがおかしいだろ……)


高城涼介は呆れた目で凌乃を見つめ、思わず額を押さえた。


ただ寒そうだったから、脚のほうへ視線を向けただけだ。


それなのに、どうして彼女の目には変態のように映るのだろう。


同じ屋根の下で暮らす妹が兄へこんなことを言うなど、いったいどれほど関係が悪ければそうなるのか。


たった数言交わしただけで、涼介はすっかり会話を続ける気をなくしてしまった。


「これからは、家の中でもちゃんとズボンを穿けよ」


そう言って立ち上がる。


これ以上、部屋に残るつもりはなかった。


「ちょっと、誰が帰っていいって言ったのよ!」


まだ秘密を守るとは約束してもらっていない。


もし父親に知られれば、凌乃にとっては大変なことになる。


彼女は慌てて引き止めようとしたが、涼介に睨まれた。


「止めるなら、今すぐ父さんへ電話して、お前の秘密を全部話すぞ」


「うっ……」


高城凌乃は、その一言でたちまち大人しくなった。


見るからにしおれ、肩を落とす。


「卑怯者……」


小さく呟くと、涼介が眉を上げた。


「何か言ったか?」


「何も言ってない!」



二人が抱える秘密は、家の中で特に波風を立てることもなかった。


夕食の時間。


四人はそろって食卓を囲んでいた。


テレビでは、いつものように『月魔女変身』のアニメが流れている。


しかし今夜に限っては、普段なら番組に釘づけになっている凌乃が、初めて画面から目を逸らしていた


熱のこもった視線を向けられても、涼介はまるで反応しない。


黙々と食事を進めている。


隣に座る高城勇夫が、食卓の空気の変化に気づかないはずがなかった。


勇夫は酒を一口飲み干すと、涼介へ声をかけた。


「涼介、東京はどうだった?」


「だいたい楽しかったです。それ以外は、特に変わったこともありませんでした」


「凌乃には会わなかったのか? あいつも東京へ行っていただろう」


何気ない質問のように聞こえるが、勇夫はわざと尋ねていた。


予想どおり、隣に座っていた凌乃の身体が一瞬で強張る。


娘が外で何か違法なことに関わっている可能性があるのなら、父親である高城勇夫は必ず真相を確かめなければならない。


百万円は、決して小さな金額ではない。


涼介が食卓で自分から何も話さないのは、実の娘に脅されているからかもしれない。


勇夫の問いに込められた意味は明らかだった。


彼は真剣な目で涼介を見る。


「会いましたよ。友達と一緒にデパートを見て回っていました」


涼介は平然と答えた。


「その子とも連絡先を交換しました。とても礼儀正しい子でしたよ」


「そうか。それならいい」


返答を聞き、高城勇夫はひとまず胸を撫で下ろした。


涼介が嘘をついていないことも、おおよそ見抜いている。


刑事である以上、その程度の判断力は持っていた。


勇夫はそれ以上追及しなかった。


わずかに緊張を解いた娘の様子を見て、何か考えるような表情を浮かべたものの、黙って食事へ戻る。


夕食を終えても、凌乃は自分の部屋へ戻らなかった。


落ち着かない気持ちのままリビングのソファへ座り、テレビで流れるアニメを眺めている。


しかし、内容はまるで頭に入っていなかった。


「涼介、ちょっと外へ来てくれ」


美恵子が食器を片づけている横で、高城勇夫が上着から煙草の箱を取り出した。


涼介へ手招きし、外で話そうと促す。


(まずい)


(見えないところへ行っちゃう!)


凌乃は緊張のあまり、息をすることすら苦しくなってきた。


あいつなら、父親に問い詰められたら全部話してしまうのではないか。


(終わった……終わった……)


高城凌乃は思わず頭を抱え、心の中で悲鳴を上げた。


この二日間、ずっとリビングに居座っていたのも、涼介が自分の秘密を漏らさないよう見張るためだ。


ようやく帰ってきた義兄は、少しも協力的な態度を見せてくれなかった。


(絶対に売られる……)


少女はソファの上で一人、絶望に苛まれていた。


二人が玄関から出ていく音が聞こえ、そのあと扉が閉まる。


すぐ外で、何か話しているようだった。


凌乃は近づいて聞き耳を立てたかったが、美恵子がまだ食卓のそばにいる。


あまり露骨な動きはできない。


(全然聞こえないじゃない……!)


一秒、また一秒と時間が過ぎていく。


高城凌乃は針のむしろに座らされているような気分だった。


次の瞬間には、父親から嵐のような追及を受ける気がしてならない。


耐えきれず、携帯電話を取り出した。


新垣瑠璃へ、すぐにメールを送る。


『どうしよう、瑠璃! バレちゃう!』


ほどなくして返信が来た。


『えっ? お兄様が凌乃のことを告げ口したの? まさか』


『お父さんに一人だけ外へ呼び出されたの。もう死ぬ。絶対に全部話されるよぉ』


携帯電話の向こうで、新垣瑠璃は親友から届いた大げさなメールを見て、思わず笑ってしまった。


『大丈夫よ。お兄様はいい人だから、信じてあげて』


『(?`^′?) 瑠璃、またあいつの味方してる。まさか好きになったんじゃないでしょうね? あいつ、今日帰ってきてから私を脅したんだから』


凌乃から届いた文章を読み、新垣瑠璃はちょうど口にしていた紅茶でむせそうになった。


(やっぱり昨日、私から番号を聞いたことで誤解されたのかしら)


そう考えると、頬が熱くなる。


確かに、男の子へ自分から連絡先を尋ねたのは初めてだ。


あの場面を思い返せば、恥ずかしくなるのも無理はない。


瑠璃は素早く文字を入力し、返信した。


『変なこと言わないで。私は凌乃のことを知るために、連絡できるようにしただけよ』


『╭(╯^╰)╮ ふん、信じない。あいつのどこがいいのよ。お父さんだって私よりあいつに優しいし、瑠璃まであいつにいい印象を持ってるみたいだし』


新垣瑠璃がさらに説明しようとしたところで、もう一通のメールが届いた。


『もう切る! 二人が戻ってきた!』


玄関から物音がした。


父と息子が談笑しながら、リビングへ戻ってくる。


「涼介、これから凌乃の勉強を見てやってくれ。あいつは本当に成績が悪いから、少し指導してやる必要がある」


「分かりました。父さん、僕が手伝います」


「凌乃も、お前くらい手がかからなければいいんだがな」


(何の話をしてるの?)


(どうして急に勉強の話になったのよ?)


高城凌乃は思わず二人を見た。


ちょうど、涼介と目が合う。


彼は凌乃へ軽く目配せした。


(何よ。二人で何か合図でも決めてるの?)


凌乃は少し不満を覚えた。


しかし、父親が自分を問い詰める様子を見せないことには、心の底から安堵した。


肩の荷がようやく下りた気分だった


そのとき、高城勇夫が突然、娘の名を呼ぶ。


「凌乃!」


「はいっ!」


気を抜いたばかりの凌乃は、驚いてソファから飛び上がった。


「何だ、その反応は。女の子らしい落ち着きが少しもないな」


高城勇夫は怪訝そうな顔をする。


「これからは夕食のあと、涼介がお前の勉強を見る。ちゃんと教わるんだぞ。分かったな」


「えっ?」


高城凌乃は呆然と立ち尽くした。


(どういうこと?)


彼女の視線は、階段を上がっていく涼介の背中へ向いた。


「何をぼんやりしてる。上へ行け」



部屋の中で、涼介は床へ腰を下ろしていた。


一方、高城凌乃は今度こそきちんとズボンを穿き、パソコン用の椅子に座っている。


身動き一つせず、涼介をじっと見つめていた。


「あんた、父さんに何て言ったの?」


「別に大したことは言ってない。お前のために保証しただけだ」


「何よ、それ。途中で止めないで、ちゃんと説明して」


「お前が、きちんとした方法で副業をしていると話した」


その言葉を聞いた瞬間、高城凌乃は慌てた。


「そんなことまで言ったの!?」


「そうしなければ、ベッドの下にある百万円以上の金をどう説明するんだ?」


「……え?」


高城凌乃は即座に床へ身を伏せ、ベッドの下を覗き込んだ。


隠していた金がまだそこにあることを確認すると、ようやく息を吐く。


「父さん、勝手に私の部屋へ入ったの? お金を隠してることまでバレたの?」


凌乃の顔から血の気が引いていた。


ほかのことなら、まだごまかせるかもしれない。


だが、これほど大きな原稿料について問い詰められたら、説明するのは難しい。


涼介は頷き、両手を広げた。


(愚かな妹よ)


(仮にベッドの下の金が見つからなかったとしても、身につけている高価なアクセサリーや服を見れば、父さんは気づく)


小遣いを少しずつ貯めた程度では、到底買えない物ばかりだ。


しかも、相手は刑事である高城勇夫。


適当な嘘一つでごまかすのは、あまりにも難しい。


「僕が保証したんだ。副業は学業に影響を与えないって。だから父さんも、それ以上は追及しなかった」


実際、高城勇夫が求めていたものは単純だった。


娘が違法なことに関わっていないこと。


そして、学業に悪影響が出ていないこと。


その二つさえ確認できればよかったのだ。


「何だ。父さんって、意外と話が分かるじゃない」


高城凌乃は完全に緊張を解き、初めて涼介の前で素直な笑顔を見せた。


「私の成績なんて、ずっと昔からこんなものだし。空いた時間を全部漫画とゲームに使っても、別に何も変わってないわ」


高城凌乃の成績が悪いのは、小学生の頃から続く伝統のようなものだった。


ここからさらに下がることも、そう簡単ではない。


学校では一応、授業もきちんと聞いている。


高校へ進学するくらいなら問題ないだろう。


「この程度なら、あんたに教わる必要なんてないわ。自分で何とかできるから」


高城凌乃は軽く手を振った。


目の前の義兄に対する印象も、少し変わっている。


(こいつ、案外いい人なのかも)


父親に秘密を隠してくれただけでなく、ある程度は認めてもらえる状況まで作ってくれた。


これなら今後、週末に仕事場へ出かけても、父親から根掘り葉掘り聞かれずに済むかもしれない。


凌乃はそう考え、礼を言おうと口を開きかけた。


しかし、その前に涼介が軽く咳払いをする。


「一つ、勘違いしているようだな」


「何が?」


「僕が父さんへ保証したのは――お前が千葉第一高校へ合格できるということだ」


高城凌乃は、一瞬だけ固まった。


次の瞬間には、怒った子猫のように両手を振り上げる。


「何を勝手に保証してるのよ!?」


千葉第一高校。


東京という国際都市の通学圏内にある学校の中でも、上位五校へ数えられるほどの進学校だ。


自他ともに認める落ちこぼれの自分が、そんな学校へ受かるはずがない。


それなのに、涼介はどうして父親へそんな保証をしてしまったのか。


(さっきの感謝を返してよ!)

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