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ハーレム,俺の義妹が天才漫画家だった件  作者: 下級生


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103/116

第105話 高城凌乃は退屈している


 9月25日、水曜日。

 夜の高城家。

 涼介は自室で、会社の経理から上がってきた報告書に目を通していた。

 東京工芸大学へ採用に出向いてから、すでに2週間が経っている。

 会社傘下のアニメーションスタジオも、作画スタッフの陣容はほぼ整いつつあった。

 とはいえ、経験のない新人ばかりを集めたところで、いきなり質の高いアニメを作れるはずがない。

 チーム全体を引っ張っていくためにも、社会人経験のある人材を中途で採用する必要があった。

 募集枠は合計30名。

 そのうち20名が原画と動画。残りは色彩設計、キャラクターデザイン、プロップデザインなど、制作上欠かせない重要ポジションだ。

 こちらについても、涼介は待遇を惜しむつもりはなかった。

 採用活動は斎藤律に一任している。

 彼の業界内の人脈もあり、わずか2週間ですでに半数以上の採用が決まっていた。

「来月からは、人件費っていう大きな固定費が乗ってくるのか……」

 現在のチーム編成で計算すると、毎月の給与総額だけでおよそ1500万円。

 さらに業務用PC、スキャナー、ペンタブレットなどの高価な機材も必要になる。

 机や椅子、各種備品まで一通り揃えれば、初期設備費だけで4000万円前後は飛んでいく見込みだった。

 6か月間の育成期間。

 これはチームとして息を合わせるために必要な時間だ。

 絵柄の統一から制作フローの定着までを考えれば、むしろ6か月という見積もりはかなり短い。

 幸い、現在も売れ続けている『Fate/stay night』の収益を考えれば、当面の運転資金には問題がなかった。

 発売から1か月で、販売本数はすでに3万本近い。

 会社口座に残る税引き後のキャッシュは、1億1500万円に達している。

 このペースなら、年間販売本数はおよそ10万本。

 最終的な利益は4億円前後に落ち着くだろうと、涼介は見積もっていた。

 その後も細く長く売れ続ける可能性はある。

 だが、会社を維持し、さらに制作体制を拡大していく費用と比べれば、決して潤沢とは言えない。

「入ってくるのも早いけど、それ以上に出ていくな……」

 涼介は小さく苦笑した。

 制作チームを一刻も早く形にするため、『Fate/stay night』から得られる総利益のうち、ほぼ3分の1をすでに会社へ注ぎ込むことになる。

「『まどか』の本制作に入る前に、まず『CLANNAD』を作るか」

「新人たちにとっても、実際の制作工程を経験するいい機会になる」

 一般的に、ADVゲームの制作には半年ほどかかる。

 だが今のANIPLEXには、70人規模のアニメーションチームがある。

 イベントCGの制作期間は、かなり短縮できるはずだ。

 プログラムに関しても、鳳凰院紗織なら1人で1本の作品を支えられるだけの実力がある。

 そうなると、もっとも時間を食うのは――涼介自身が担当するシナリオだった。

 ここが完成しなければ、ほかの工程も本格的には動き出せない。

「なかなか大仕事だな」

 『CLANNAD』のシナリオ量は、単純な文字数だけなら『Fate/stay night』以上だ。

 分岐ルートが多く、日常パートにもかなりの文章量がある。

 すべて書き上げるとなれば、どれだけ急いでも年末まではかかるだろう。

 涼介は新しいノートを取り出し、最初のページを開いた。

「まずはキャラクター設定から始めるか」

     ◇

「あいつ、最近まともに休んでないのよ」

 日曜日。

 新宿の街を歩きながら、高城凌乃は新垣瑠璃の腕に自分の腕を絡めていた。

「昨日だって夜中の1時なのに、まだ部屋の明かりがついてたんだから。もう1週間ずっとよ? 自分の身体のこと、全然考えてないんだから」

 そのことを思い出したのか、凌乃は不満そうに頬を膨らませる。

「凌乃、最近ずいぶんお兄さんのこと気にしてるよね。寝てる時間まで見てるの?」

 瑠璃がくすりと笑う。

 凌乃は少し恥ずかしそうに顔をそらした。

「まあ……同じ家に住んでるんだし。無理して体調でも崩されたら、こっちも困るでしょ」

 ぼそぼそと言い訳をする。

「あいつ、前は私に『夜更かしすると老けるぞ』とか偉そうに言ってたくせに!」

「自分のことになると全然守らないのよ。ほんと腹立つ」

 凌乃は口を尖らせた。

 もっとも、本当に心配しているのは、涼介が老けることではない。

 あいつが寝てくれないと、部屋に忍び込んで『まどか』の続きが探せないじゃない!

 以前読んだ『Fate/Zero』の余韻も、さすがに今ではかなり薄れていた。

 思い出せば今でも胸が熱くなる場面はいくつもある。

 けれど何度も反芻していれば、さすがに刺激にも慣れてしまう。

 好きなメーカーから新作が出たわけでもない。

 『カードキャプターさくら』の漫画も、残るは終盤の仕上げだけ。

 急に時間が空いてしまったことで、凌乃はひどく落ち着かなかった。

 要するに――暇なのだ。

 だから、涼介が眠った隙に部屋へ忍び込み、何か面白いものでも探そうと思っていた。

 以前読んだ『魔法少女まどか☆マギカ』の第3話までが、あまりにも気になるところで終わっていたからだ。

 続きを読みたい。

 ものすごく読みたい。

 なのに、涼介は毎晩自分より遅くまで起きている。

 これでは夜襲を仕掛ける隙がない。

 もちろん、そんな本音を親友に話せるはずもなかった。

 兄が寝たあとに部屋へ忍び込んで、こっそりノートを盗み読みしようとしている――などと。

 口に出した瞬間、恥ずかしさで死ねる。

「そうなんだ」

 瑠璃はどこか考え込むような顔になった。

 最近、凌乃の口から涼介の名前を聞く回数が明らかに増えている。

 以前よりもずっと、兄妹の距離が近くなっているように感じた。

 そのことが、瑠璃の胸の奥をわずかにざわつかせる。

 せっかく2人で買い物に来ているのに、凌乃の話題はいつの間にか涼介へ向かってしまう。

 去年、涼介と知り合う以前なら。

 凌乃との親しさで、あの兄に負けるなど考えたこともなかった。

 けれど、M展での一件以来――

 仲直りはできた。

 表面上は以前と変わらない。

 それでも瑠璃には、2人の間に薄い透明な壁が1枚挟まったような感覚が残っていた。

 どうしても、以前と同じところまで近づけない。

 一方で、あれほど仲の悪かった高城兄妹の距離は、この1年足らずで驚くほど縮まっている。

「お兄様は……どうやったんだろう」

「やっぱり、共通の趣味があるからなのかな……」

 瑠璃の脳裏に、あのゲームディスクが浮かんだ。

 涼介から渡された『Fate/stay night』。

 あれから何度か挑戦しようとはした。

 けれど、そのたびにケースからディスクを取り出したところで手が止まってしまう。

 遊んでしまったら、自分まで何か汚れてしまうような感覚が拭えなかった。

「でも……凌乃のことをもっと知りたいなら、やっぱり試したほうがいいのかも」

 今夜、もう一度だけ挑戦してみよう。

 そう決心した、そのときだった。

「瑠璃、ちょっと来て!」

 凌乃の声が飛んでくる。

 我に返った瑠璃が顔を上げると、いつの間にか凌乃は少し先にある店の前まで走っていた。

 瑠璃も急いで追いかける。

 すると周囲の景色に、妙な既視感を覚えた。

 つい最近、ここへ来たような――

 顔を上げ、店の看板を見る。

 ――島川書店。

「あ……」

 以前、時雨沢先生のサイン会が開かれた場所だ。

「そういえば、ここに来るのも久しぶりだな」

 学校が始まってからは勉強を優先していたため、瑠璃も最近は新刊を買いに来る時間がなかった。

「凌乃って、ライトノベルも読むようになったの? 前はあまり興味ないって言ってなかった?」

「まあ、暇なときに読むくらいよ。時間つぶし程度」

 凌乃はそう答えながら、店頭を見た。

「でも最近、すごく面白いのを見つけたの。これ」

「もう発売されたんだ……あいつ、何も教えてくれなかったじゃない」

 最後の部分だけ小さく呟く。

 そして片手を腰に当てると、店頭に大きく掲げられている1枚のポスターを指さした。

「瑠璃、ライトノベル好きでしょ?」

「これ絶対読んだほうがいいわ。私が買ってあげる!」

「え?」

 瑠璃が返事をするより早く、凌乃はそのまま島川書店へ入っていった。

 まさか凌乃からライトノベルを勧められる日が来るとは思わなかった。

 少し驚きながら、瑠璃は改めてポスターへ目を向ける。

 そして、わずかに目を見開いた。

 そこには、銀と青を基調とした甲冑をまとった1人の少女が描かれていた。

 手にしているのは、黄金の光を放つ聖剣。

 その背後には、異なる表情を浮かべた数多くの人物たちが並んでいる。

 そしてポスターの下部には、大きく作品タイトルが記されていた。

 ――『Fate/Zero』。

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― 新着の感想 ―
 Zeroから入るかー…… 逆にショックが大きくなりそうです。
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