表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハーレム,俺の義妹が天才漫画家だった件  作者: 下級生


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
100/106

第102話 いざ出陣!



 高城凌乃がぼんやりと目を覚ました頃には、時計の針はすでに午後2時を回っていた。


 何か大事な予定をすっぽかした気がする。


 そう気づいた瞬間、凌乃はベッドから飛び起きた。


 バフィーラビットのスリッパを引っかけ、慌てて階段を駆け下りる。


「涼介を探してるの? 朝早くに出かけたわよ」


 美恵子からそう聞かされ、凌乃はむっとした。


 何よ。


 あいつ、また私を置いて勝手に行ったの?


「凌乃も起こそうとはしたのよ。でも、あんまり気持ちよさそうに眠ってたから、かわいそうになっちゃって」


 私、そんなにぐっすり寝てたの?


 そう言われてしまうと、涼介を責めるわけにもいかない。


 昨夜、遅くまで起きていたのは事実なのだから。


 凌乃は小さく鼻を鳴らし、簡単に顔を洗って食事を済ませると、自分の部屋へ戻った。


 携帯電話を手に取り、涼介へメールを送る。


 返事はすぐに届いた。


『起きたなら、自分のことでもしてて。こっちは東京工芸大の先生との話がまとまった。来週末に会社説明を兼ねた個別説明会を開くことになったよ』


「個別説明会?」


『簡単に言えば、学生相手の採用面接みたいなものだよ。向こうもポートフォリオを用意する時間が必要だから、今日来られなかったのは別に問題ない。来週は一緒に来ればいい』


『このあと鳳凰院とオフィス用品を買いに行く。夕飯も外で済ませてくるから、母さんに伝えておいて』


「……何よ。また女巨人と2人でご飯?」


 最近、この2人ちょっと一緒にいすぎじゃない?


 そう思った途端、なぜか胸の奥がざわついた。


 凌乃はむっとした顔で携帯電話をベッドへ放り投げる。


「ふん。ほんと、嫌なやつ」


 出かけなくていいのなら、昨日の続きを読むことにしよう。


『Fate/Zero』が思った以上に面白く、昨夜は一気に2巻分を読み切ってしまった。


 3巻も半分ほどまで進んでいる。


 セイバーが宝具を解放し、キャスターを跡形もなく吹き飛ばしたところで、ようやく読む手を止めたのだ。


「それにしても、あいつ……変態を書くのだけは妙に上手いのよね。あの悪魔がようやく死んでくれて、ほんとよかった。気持ち悪すぎるわ」


「次は令呪の再配布だったっけ……結末も気になる。『Fate/stay night』の冒頭を見る限り、切嗣は生き残るはずよね?」


 疑問は尽きなかった。


『Fate/stay night』で語られた内容から考えれば、第4次聖杯戦争の勝者は衛宮切嗣で間違いないはずだ。


 ここまで読んだ限りでも、『魔術師殺し』と呼ばれる彼は異様なほど冷徹で、敵には一切容赦がない。


 勝ち残ったとしても不思議ではなかった。


 そして、もう1人。


 凌乃がどうしても腹を立てずにはいられない人物がいた。


 遠坂時臣。


 名前を見るだけで苛立ってくる。


「自分の娘をあんな家に養子に出して、そのあと放ったらかしなんて……」


「思い出すだけで腹が立つ!」


『Fate/stay night』の全ルートを遊び終えた今でも、凌乃の中で最も強烈な印象を残しているヒロインは間桐桜だった。


 地獄のような環境に置かれながら、それでも救いを求め続けた少女。


 そして、その彼女を自ら深淵へ送り込んだのが、実の父親である遠坂時臣だ。


 間桐家がどういう家なのか、まったく知らなかったとは思えない。


 仮に最初は知らなかったとしても、あんな姿になった雁夜を見れば、何かがおかしいと気づくはずだ。


「この男、頭の中には根源に至ることしかないのよね。魔術師としての悲願だの、家の名誉だの……ほんと気持ち悪い」


 7人のマスターの中で、雨生龍之介を除いて最も嫌いな人物を選べと言われれば、凌乃は迷わず時臣を挙げる。


「まあ、こいつも死ぬんだけど。信頼してた相手に裏切られたって、ゲームでも言ってたし……やっぱりあの神父が裏切るのかな?」


 凌乃はノートを開いた。


 続きが気になって仕方がない。


     ◇


 涼介が家に戻ったのは、午後7時を回った頃だった。


 父親はリビングでテレビを見ており、美恵子は台所で洗い物をしているらしい。


 凌乃の姿はなかった。


 家族に帰宅を告げたあと、そのまま2階へ上がる。


 妹の部屋の前を通り過ぎたとき、中からドン、と何かを踏みつけるような音が聞こえてきた。


 ……何してるんだ?


 少し気にはなったものの、涼介は先に自室へ戻って着替えた。


 その後、勉強を教えるための教材を持ち、改めて凌乃の部屋へ向かう。


 扉をノックすると、すぐに中から物音がした。


 やがて扉が開く。


「……どうした?」


 涼介は思わず聞いてしまった。


 凌乃の目が真っ赤だった。


 どう見ても、ついさっきまで泣いていた顔だ。


「うるさい! あんたには関係ない!」


 凌乃は吐き捨てるように言うと、くるりと背を向けて机まで戻り、そのまま椅子へどかっと腰を下ろした。


「まあ……気分が悪いなら、今日の勉強は休みにしてもいいけど」


「いらない。問題出して」


 凌乃は枕の下に隠した4冊のノートへちらりと視線を向け、胸の中に渦巻く感情を必死に押し殺した。


 今ここで涼介に文句を言ったら、自分が昨夜こっそり彼の部屋へ忍び込んだことまでバレてしまう。


 ほんっとに性格悪い。


 なんでこんな話を書くのよ。


 つい先ほど読み終えたのは、ライダーがギルガメッシュの乖離剣の前に敗れる場面だった。


 胸の奥に大きな何かがつかえている。


 行き場のない感情が、次から次へと込み上げてくる。


 4巻に入ってからというもの、凌乃は何度も登場人物の死を目にしてきた。


 若き日の衛宮切嗣が、育ての親であるナタリアを飛行機ごと撃墜した。


 アイリスフィールが死に、舞弥も死んだ。


 セイバーは自らの手でランスロットにとどめを刺した。


 遠坂葵は夫を失い、雁夜の目の前で壊れていく。


 狂乱した雁夜は、愛していた葵の首を自ら絞めかけた。


 そして最後には、泥のような姿となって桜の前へ戻り、虫蔵へ落とされてその生涯を終える。


 物語の中で好きになった人物たちが、1人、また1人と消えていく。


 それまで積み重ねてきた思い入れが、そのまま鋭い刃となって胸へ突き刺さってくるようだった。


 それでも、凌乃は泣かなかった。


 ――あの場面を見るまでは。


『我がサーヴァントよ。ウェイバー・ベルベットが令呪をもって命ずる!』


『ライダー、必ず最後まで勝ち抜け!』


『重ねて令呪をもって命ずる! ライダー、必ず聖杯を手に入れろ!』


『そして最後の令呪をもって命ずる! ライダー、必ず世界を征服しろ! 敗北など許さない!』


『ウェイバー・ベルベット。お前は臣下として、余に仕える気はあるか?』


『……あなたこそ、僕の王です。あなたに仕え、あなたのために生きると誓います。どうか僕を導いてください。あなたと同じ夢を見せてください!』


『夢を示すのが王の務めだ』


『――生きろ、ウェイバー。すべてを見届け、王たる余の生き様を語り継げ』


『さあ――出陣だ、イスカンダル!』


 あんな場面を見せられて、泣くなというほうが無理だ。


 物語全体を通して最も印象に残った場面を挙げろと言われれば、凌乃は迷わずここを選ぶだろう。


 征服王イスカンダル。


 その生まれながらの王者としての風格に、凌乃は完全に魅了されていた。


 アレクサンドロス大王――イスカンダル。


 まさに『征服王』と呼ぶにふさわしい男だった。


「……くそぉ」


 だからこそ。


 そんな彼が退場する場面は、どうしようもなく悔しかった。


 どうして、この人が勝者じゃないの?


 頭の中には、さっき読んだ光景が勝手に蘇ってくる。


 凌乃は涼介に出された問題へ俯いたまま取り組んでいた。


 けれど、目に溜まった涙だけは、どうしても止められない。


 大粒の雫が、ぽたりと答案用紙へ落ちた。


 何よ。


 ただ、あいつが書いた物語じゃない。


 そんなもので泣くなんて、馬鹿みたい。


 止まれ!


 泣くな、凌乃!


 こんなところをあいつに見られたら、絶対に馬鹿にされる。


 凌乃は慌てて目元を拭った。


 だが、涙は枯れる気配すらなかった。


 拭っても、また溢れてくる。


 無理に堪えようとすればするほど、胸の奥に押し込めていた悲しみが決壊し、次々とこぼれ落ちていった。


「……?」


 なんで急に泣き出したんだ?


 しかも、こんなに。


 涼介は口を開き、事情を聞こうとした。


 だが――


 凌乃にものすごい目で睨まれ、言葉を飲み込む。


 その目には見覚えがあった。


 以前、ソファに押し倒されたときも――


 確か、こんな目で睨まれていた気がする。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ