ピンチ到来
昨日投稿し忘れたので、本日2話目です。
しかし災厄は突然訪れた。
「うーん……」
父さんが、書類を見てため息をついていた。
「どうしましたか?」
「ああ、エルク。……何でも──いや、ちょっと待てよ?」
父さんは何かを考えている。
「エルク、お前の商才に相談がある」
そう言って父さんが、デスクの上の書類を広げた。
「これが税収をまとめたもので、こっちが出費。軍備費がこれ、そして村の貿易による差引額がこれ。で、債権がこれだな」
見せてくれた書類を、一通りチェックする。数字に弱いけど……これくらいなら読める。
「黒字が多いですね。農作物のおかげですか」
「ああ、そうなんだよ。ただ、飢饉が来たら黒字は赤字に転じる。常に繰越金を用意しているが……先日、ポーキン伯爵家から金をせびられてな。一応関係構築を狙って、そこから融資をしたんだが……」
「融資? 絶対駄目ですよ!」
ちょっと待て、いきなり領地がピンチなんですが!?
「そ、そうなのか? しかし──」
「自分よりも下位の立場の人間に貸すならともかく、上位の貴族に貸してはいけません! 返済を迫ったとしても、向こうの軍事力で押し切られますから!」
「た……たしかに!」
「どうするんですか、返ってきませんよ、このお金は」
父さんは、事の深刻さに気付いたようだ。
「ど、どうしよう!? 断れなかったんだ!」
「いくら貸したんですか? ……いえ、自分で見ます」
適当な帳簿に書き込まれた融資額を確認すると……
「8000万ディル!? 大金じゃないですか!」
「すまん! 断りきれなかったんだ!」
これは流石に……まずくない?
どうしよう? どうすればいい? このままだと、8000万が消える!
何でピンチってこんな急に降って湧くんだよ!
貸金業なんてやったことないし、ローンすら組んだことがない。
前世の知識をフルで使え! どうする? 何ができる!?
「……まずは契約書を3枚用意しましょう。1枚だと、言い逃れをされてしまいます。いいですか? 必ず3枚です。2枚じゃ駄目です」
「分かった、後日ポーキン伯爵にサインを貰ってくる!」
少なくとも、これで「ラウルス男爵は、ポーキン伯爵に対して債権を持っている」という証明が出来る。それさえ出来れば、後はどうとでもなる。
……契約書の内容は、俺が書いておこう。
父さんが護衛を連れて、ポーキン伯爵家へと向かったので、俺は改めて書類の確認をした。
「うぅー……」
悩ましい、悩ましすぎる!
確かにポーキン伯爵がお金に困っていた事には、気付いていた。でも下位の貴族に借金するほどとは、思ってなかった。見通しが甘かった。
「これ、あれか……? 息子さんの装備代だな?」
「分かるの?」
母さんが首を傾げた。
「……ポーキン伯爵家のマルケス様の服が、安い麻でできてたんです。お金に困っていることは容易に想像がつきます」
「そうだったの!? 気付かなかったわ……」
俺らは比較的安定して生産できる、小麦やじゃがいも、ナス、トマトなどによって、それなりの収益を得ている。他の領地との貿易で得た酒の売買もまた、それなりに儲けとなっている。
「そんな中で、自分の息子が「聖剣士」なんてジョブを神から授かった。多少無理をしてでも、子供に良い装備を持たせてやりたいでしょう?」
「そうね……エルクが勇者になってたら、私も絶対そうしてたわ」
子供には良い思いをさせたい。それは親の愛であり、エゴでもある。……係長が、自分の子には公務員になってもらいたいと、口癖のように言ってたのを思い出すなぁ。
「それにしても、エルクは賢い子ねぇ」
「しょ、商売関係は、頭が回るみたいです。ジョブの影響ですかね、ハハハ……」
油断すると、内なる沢田勤(前世の俺)が出てきてしまう。危ない危ない……。
父さんには、契約書等、相手方のサインが必要な書類は、同じものを三枚用意して、全てにサインをさせろと口酸っぱく伝えておいた。
1枚は、こちらの控え、もう1枚は相手方の控え、そして最後に、王家保管用。この3つが揃ってないと、後から「言った言わない論争」に発展しかねない。
口約束や不完全な契約ほど、守られないものはない。経験則だけどね。
「エルク坊っちゃんは、商人として大成するかもしれませんな」
執事長のグラーフが笑う。彼も書類の確認を手伝い、父さんが適当に書いた帳簿の書き直しをしている。
「……領地運営の粗が凄い出てくるなぁ。黒字になってるのは奇跡だ」
「そんな酷いの?」
「酷いですな、これは……」
父さんが仕事の振分けをせず、一人で抱え込んでいたから、所々に粗がある。責任感が強いのはいいけど……仕事を頼むことも、仕事のうちだ。
まず、貿易の利益がどんぶり勘定という、悍ましい状態。全ての収支額を見たら、どれも10万以降の端数を切り捨てているという暴挙。
何だこれ、事務方じゃなかった俺でも分かるぞ、この酷さ。簿記の資格を持ってる人が見たら、気絶するんじゃないか?
こんな帳簿、見れたものじゃない。よく破綻しなかったな……。
「今後は、私共も積極的に領地運営のお手伝いをさせて頂きます」
「うん、頼むよ」
俺も可能な限り手伝おう。あと、商売も本格的に始めないと、足元を見られる。いや……既に見られていると思っていい。
今は黒字だけど、来年以降はどうなるか分からない。農作物の生産が安定している、ということ以外の地盤が皆無だ。領民は、無自覚に綱渡りをさせられているに等しい。
「今後の資金繰りは、俺とグラーフがやります。母さんも書類整理を手伝ってくれますか?」
「はい、畏まりました」
「任せて! 字を読むのは得意なの」
一抹の不安が過るものの、一旦仕事を四等分する方針で固めた。あとは必要に応じて、資金調達と人員確保に努めよう。……予算が足りなくなりそうだ。
8000万……。ナス100万個分だ……。
ちょっと、紅茶飲んで落ち着こう……。怖くなってきた。
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