可哀想だと思った。
間違えて朝4時に投稿してしまったので、上げ直しました。すみません。
「営業……」
「え、エルク、そんなに気を落とさなくても……」
「そ、そうだぞ。交渉と鑑定魔法を覚えている商人は、成功が約束されていると、司祭殿も仰っていたではないか」
まあ……そういう選択肢もあるとは思う。父さんがいる限り、当主になることはないから、それまで商人としてキャリアを積むことは、下級貴族の俺にとって、間違った道ではない。
でも……でも!
折角生まれ変わったなら、営業以外のことがしたいじゃんか! 何で生まれ変わっても営業なんだよ! 営業の呪いにかかってるのか! 誰か解呪してくれぇー!
もうしまいにゃ泣きますよ、あたしゃ!
「ほ、ほら、このクッキーなんて美味しそうよ! 一緒に食べましょ、ね?」
「……はい(ポリポリ)」
あ、美味しい。
「どう、落ち着いた?」
「はい」
人間って、単純だなぁ。美味しいもので機嫌が良くなるんだから。
……あ、そういえば前世の頃、突然契約を切られたとき、先輩が美味しい焼き鳥屋に連れてってくれたっけなぁ。「難しいよな、営業って。今日は奢るから、パーッとやろう」そう笑ってくれた、光川先輩……今何してるのかなぁ。まだコピー機を売ってるのかな。
「落ち込まなくていいのよ、鑑定と交渉は、私達貴族にとっても有利なスキルなんだから。寧ろ、戦争に行かなきゃいけないようなスキルじゃなくて、安心してる」
……たしかに、剣士や魔法使いになっていたら、俺は戦いの世界に身を投じることになっていたと思う。
営業という、安全な仕事の最中に事故死した俺が、戦争なんて出来る訳がない。味方の馬車に轢かれて、地面のシミになるのは容易に想像がつく。
まあ……それに比べればまだ……。
でもやりきれないこの気持ちは、どこに捨てたらいいんだ!
「あら、ストレートティーなんて飲めたの?」
「え? まあ……」
「大人ねぇー。ミルクティーもあったのに」
口の中が甘ったるくなるから、無意識に避けてた。
「でも、商人か……」
今のところ元手がないけど、魔法薬と錬金術で生産体制が整えば、そこまで重労働をしなくても、商売が出来そうだ。
ただ数字に弱いから、簿記をやってくれる人が近くにほしい。出納帳とか、あんなマメに書ける気がしない。絶対書き忘れる。見積書でさえ頭が痛くなるのに。
「それにしても、ルマーレ辺境伯家は悲惨ね。まさか、テイマーが生まれるなんて……」
「気になってたんですけど、そんなに非難されることなんですか? テイマーの才能って」
俺からすると、寧ろ良い能力に見えるんだけど。
「テイマーっていうのはね、魔物と仲良くなってしまう能力を持っているの」
「……良いんじゃないですか? そういう個性なんですし」
「駄目よ。だって怖いじゃない、魔物と仲良くするなんて……」
魔物は人類共通の敵だから、それと仲良くする存在もまた敵ってことか。
悪意を持って襲って来るならまだしも、そうじゃないなら、自分の手元に置いて何が出来るかを確認した方が、安全だと思う。
恨まれた結果、テイマーが魔物を人間に嗾けてきたら、それこそ本末転倒だ。
「ルマーレ家って、あっちでしたよね」
「ええ。……エルク、まさか……」
「何かされた訳じゃないんですから、怖がることはないでしょう」
今、誰も話しかけようとしてないって事は、接近するにはこれ以上ないベストタイミングだ。
さっきの子がいる場所へと歩いた。
「テイマーか……。お前がまさか、そんな力を持っているなんて……」
「ごめんなさい、おとうさま……」
「……」
「……ごめんなさい」
「すまんが、黙っていてくれ」
少女は俯いたまま、動かない。足元に、ぽたぽたと涙が落ちた。
ルマーレ家の空気は重い。使用人達がきまずそうに、当主達から目を逸らしている。
「こんにちは」
その空気を敢えて無視して、ルマーレ家のお嬢さんに話しかけた。
下っ端の貴族が娘に話しかけたというのに、当主は動かない。
「る、ルマーレ辺境伯……。ご、ご機嫌よう……」
「ラウルス夫人か。……ご丁寧にどうも」
大人達のやり取りは、大人に任せよう。……母さん、冷や汗かいてるけど。もしかして、人見知り?
「あなたは……?」
「初めまして、エルク・ラウルスです。よろしくお願いします」
そっと懐からハンカチを出し、渡しながら挨拶をした。喋りながら動くのは行儀が悪いけど、今は致し方なし。
女の子は、ハンカチを受け取った。
「ありがとう……でも、だめだよ。わたし、テイマーだから……。おともだちに、なれないよ……っ」
「大人の理屈なんて関係ありません。私とあなたとの、二人だけのことですから」
そう言うと、彼女はぱちくりと目を瞬かせた。
「そうなの?」
「はい。私があなたと友達になりたい。だから、話し掛けたのです。折角お茶菓子がありますし、少しお話しませんか?」
「そ、そうなんだ……! じゃあ、おともだちになる!」
傷心中につけこんだ形になった。
魔物を操れるってことは、上手くいけば素材採取を魔物に頼んで、ローリスクで魔法薬や錬金素材の回収ができるはず。彼女と手を組むことは、将来的に大きなメリットになる。
「わたし、フィーア! えっとね、えっと、よろしくね!」
「はい、こちらこそ」
……なんてね。実際は、除け者にされそうなフィーアちゃんが、可哀想だと思ったからだ。
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