スキル鑑定の儀式
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数日後、スキル鑑定の儀式に参加することになった。薬学や錬金術といった、勉強によって習得できるものではなく、個人に与えられた才能だ。
言ってしまえば、これは「適性検査」や「適職鑑定」と言い換えてもいい。
このスキル1つで、俺に何が向いているのかが決まる。
「……営業だったらどうしよう」
嫌だなぁ……。異世界でも「お世話になります、私、エルク・ラウルスという者です」って言いながら名刺渡すの。……想像したくねぇー!
クレーム対応とか営業ノルマとか契約書とか、そういうのが異世界まで付きまとってくるんだ。
やだよぉー! おじさんもう営業したくないよぉー! 契約段階で揉めて全部おじゃんになるのも、取引先に難癖つけられて、上司に詰められるのもヤダヤダヤダヤダ! 営業だけはいーやーだー!
……きっつ。
おじさんが駄々っ子になっても、キモいだけだな。
「楽しみね、エルク」
母さんがそう言って、俺の頭を撫でた。……全然楽しみじゃないです! 助けてください!
大聖堂と呼ぶに相応しい教会に、多くの子供達が集まっていた。俺もあの中に並ぶのか。
手鏡と櫛で髪を整え、襟元を正してから列に並んだ。
「エルクのスキル、どんなものになるんだろうな」
父さんが呟く。
「きっと、優しいスキルよ」
「いやいや、男気あふれる騎士道スキルかもしれないぞ」
「やーねぇ、この子には戦いなんてさせたくないわ」
「男なら、剣を持ってナンボだろうに」
ちょっとだけ言い争う両親。……本当に、本当に営業だけは勘弁してください! どうか神様お願いします! 営業以外で! それ以外なら何でもいいです! 料理とか掃除とかでもいい。何なら無職でも構わない。だから営業だけは、営業だけは……!
「そうそう、今年からスキル鑑定の他に、ジョブの神託も行われるそうだ」
信託? いや、神託か……。信託は課長が一人で大損ぶっこいたやつね。災害で投資先が倒産して、700万くらいすっ飛んだらしい。ヒエーッ。
今世は商売と関係ない仕事がしたいと祈りながら、列に並んだ。
「おいお前!」
不意に声を掛けられた。金髪でまん丸なお腹の、馬鹿っぽい5歳児がいた。
「お前、僕より前に並ぶな!」
「はい、どうぞ」
「フンッ、素直じゃないか」
流石に5歳の子と喧嘩なんてしないよ。どうせ鑑定の儀をする訳だし、お茶会があるから、終わり次第帰れる訳でもない。ここでの並び順に、大した意味はないのだ。
「お前、男爵家だろ」
「はい。私はエルク・ラウルス。ラウルス男爵家の長男です」
随分と偉そうな子なので、ですます口調の方がいいな。
「ふふん、僕はマルケス・ポーキン。ポーキン伯爵の子なんだ! どうだ、偉いだろう!」
「あのポーキン伯爵家の!? 素晴らしい、さぞや立派な才能をお持ちなんでしょうね」
……ポーキン伯爵って、誰?
「そうだぞ、僕は凄いんだ! 分かったか!」
「はい、しかと心得ておきます」
少し誇らしげに、彼は俺に背を向け、前を向いた。
伯爵家ってことは、そこそこ大きな街の領主なのかな。
マルケス君の派手な格好からして、結構見栄を張る家柄だということは分かる。ただ……
「……麻?」
服の材質に違和感がある。貴族なら、なるべく肌に優しいシルクや、丈夫なホワイトスパイダーの糸を使うことが多い。
それなのに、彼の服の素材は、ゴワゴワとした麻だ。よく見ないと分からないけど、上流貴族なら、すぐ見抜くんじゃないかな?
それに、身に付けていたエメラルドのブローチも……色付きガラスだな。宝石の光り方じゃない。本物のエメラルドは、天然物特有の濁りやムラがある。でも彼のブローチには、そういう不純物がない。
「……貴族の世界って大変だな」
ここで何のスキルを得るかで、更に立ち回りが変わってきそうだ。はぁー、何になるのやら……。
スキル鑑定の儀は、恙無く進行している。
「おお、素晴らしい! 其方のスキルは【剣術】、魔法は炎。ジョブは魔法剣士だ」
「魔法剣士! やったー!」
3つ前にいた子が、当たりジョブっぽい反応をした。なるほどね、当たりは戦闘系か。魔物が出る世界だから、戦える力は重宝されるのだろう。
父さんが騎士云々言ってたのも、戦闘スキルがあれば不遇になることはないからかな?
「むむ、其方は……【テイム】だな。魔法はクッキー魔法。その上ジョブも【テイマー】か。……忌むべき能力だ。神に見放されておる」
「っ……そ、そんな……!」
2つ前にいた女の子が、眉尻を下げて、トボトボと離れていった。テイムって、何だっけ? 魔物と仲良くできるとか、そんなんじゃなかった?
倒すべき魔物と仲良くなるスキルは、ハズレなのか。
良いスキルだと思うけどなぁ。俺が欲しいくらいだ。
「其方は……おお、【聖剣術】! 魔法は光、ジョブは【聖剣士】である!」
「やったー! お父様、やりましたよ!」
「おおおおお! マルケスよ、よくやった!」
聖剣士は大当たりか。ただ、戦士ってお金掛かるんじゃない? 大丈夫?
俺の番になった。
「この聖水に手を入れるのだ」
「はい」
祭壇の中央に貯められた水の中に、手を入れた。すると、キラキラと水が乱反射して、薄っすらと文字が現れた。
「ふむふむ……其方は【交渉】。魔法は鑑定、ジョブは【商人】である」
しょ、商人?
鑑定できて、交渉するタイプの商人……?
それって……
「営業じゃねえかあああああああああああ!!」
神様のバカヤロぉおおおおお!!
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