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氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~  作者: 雨宮羽那
第4章

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38・星空茶会への道すがら


 クラリッサ様に星空茶会のチケットをもらった日から数日が経った。


 今日は、星空茶会当日だ。

 マーサたちの見送りを受けた私とシリウス様は、いつものように向かい合って馬車に乗り込んでいた。


 今日着ているのは、袖や裾に小さな星の刺繍が施された淡い色のドレスだ。

 以前シリウス様から贈られたドレスの山の中を前にして何を着るか迷っていると、マーサが「このドレス、星空みたいで素敵じゃあありませんか!」と言って選んでくれたものだった。


 (マーサの見立て通り、今日のお茶会にピッタリでワクワクするわ)


 流れゆく窓の外では、夕日がゆっくりと沈んでいた。

 茜色から群青へと変わっていくグラデーションが美しくて、つい見入ってしまう。


 馬車は真っ直ぐに城下町の方へと進んでいく。


 向かいの席では、シリウス様が優雅に足を組んで静かに私の方を見ていた。

 夕陽を受けたオッドアイが柔らかく細められていて、まるで浮かれた私の様子を楽しんでいるようだ。

 シリウス様は、いつも身につけている魔術師長の証のような堅苦しい外套を脱ぎ、深い紺色の正装に身を包んでいた。

 見慣れない華やかな姿に、思わずどきりとしてしまう。


「そ、そういえば、星空茶会ってどこで行われるんですか?」


 なんだか沈黙に耐えられなくて、私は今更のようにそんなことを尋ねた。

 クラリッサ様から聞いたのは、『招待制の夜のお茶会』ということだけで、詳しい場所までは知らない。

 チケットをもらった時のシリウス様の反応からして、シリウス様ならば知っているだろう。

 

「城下にある、王立庭園ですよ。普段は夕刻で閉園になりますが、星空茶会が行われる夜だけ特別に開放されるんです」


「なるほど……。シリウス様は、参加されたことはあるんですか?」


「いいえ。何度か招待状をもらいはしましたが、不必要な社交だと判断したので行ったことはありません。だから、私も初めてですよ」


 (……もしかして、私が行きたいと言ったから来てくれている?)


 嬉しいと思うのと同時に、無理に付き合わせているのではという不安が顔をのぞかせた。

 この人はそもそも、人に囲まれることが好きではなかったはずだ。


 私の思考を見透かしたのか、シリウス様はふうと小さく息を吐いた。

 

「あなたとだったら、行きたいと思ったんです」


 私が行きたそうにしていたからではなく、私とだったから?

 その二つは似ているが、受けるニュアンスが違うように思えた。

 

「面倒なはずの社交も……あなたとなら、魅力的なデートになる」


「……っ」


 私を見つめるシリウス様の瞳は優しいものだった。

 胸の奥が熱い。

 そんな風に愛おしそうに言われては、もう何も言えなくなってしまうではないか。


 私たちが話している間にも馬車は進み、城下の大通りへと入っていく。

 窓の外には、夕暮れの光に照らされた店々が並び始めた。


 (あ……雑貨屋さん。それに、アクセサリーのお店も……)


 視界に入ってくる店の看板に目が吸い寄せられる。

 ずっと思い悩んでいるシリウス様へのプレゼント。

 探すとしたら、こういう場所が最適だろう。


 (馬車を降りて歩いてもいいかしら。そうしたら、シリウス様が興味を惹かれるものがなんなのかわかるかも)

 

 私がちらちらとシリウス様の様子をうかがっていると、視線に気づいたらしいシリウス様が声をかけてきた。


「どうしました?」


「い、いえ……その……」


 問われて、言い淀んでしまう。

「馬車を降りて歩きたい」と言うのはいいが、理由を聞かれたらどうしよう。


 (でも、こんな絶好のチャンスなんてそうそう訪れないわ)


 私は膝の上で手のひらをぎゅっと握りしめると、意を決して口を開いた。


「あの、少し外を歩きたいなと思いまして……! いいでしょうか?」


 シリウス様は私の突然の発言に驚いたのか、ぱちりと瞳を瞬かせる。

 けれど、すぐに表情を和らげた。


「構いませんよ。茶会の開催時間まで多少の余裕がありますし」


「あ、ありがとうございます……!」


「馬車を止めさせましょう」


 シリウス様が御者へ合図を送ると、馬車の速度がゆっくりと落ちていった。

 やがて大通りの道沿いに馬車が停車して、扉が開かれる。

 シリウス様は先に降りると、私へ手を差し伸べた。


「足元に気を付けてください」


「はい」


 シリウス様の手を借りて馬車から降りる。

 大通りには、以前シリウス様と行ったようなブティックや雑貨屋、アクセサリー店が並んでいた。

 街のあちこちに立っている魔道灯がちらほらとつきはじめている。

 夜はもうすぐだ。


 私は服の上から、ポケットに入れていた小さな財布を握りしめた。


 手持ちのお金はほんの少しだけれど、持ってきている。

 これは、バクスター家にいた頃に義兄から必要経費として渡されていたお金の残りだ。

 少し前までは、乗り合い馬車の代金や昼食代に使っていた。

 けれど、シリウス様と暮らすようになってからは当然使う機会もさほどなく、残ったままになっていたのだ。


 (そんなに高価なものは買えないけど……絶対にシリウス様へのプレゼントを見つけるんだから……!)

 


 

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