3馬鹿アタック前編
翌日。
時刻は……時計がないからわからない。
外からは活気のある声が聞こえる。
起きたほうがいいのだろか?
昨日は昨日で筋肉痛になった。体中が痛いぜ。
カーテンを開けて朝日を浴びる。
「太陽よぉおお!おらに力をぉおおおぉぉぉ」
と、自分でも馬鹿をやっていることはわかっていたが、お約束♪
「おっは……ょ……ぁあ!!」
ちなみにお約束とは俺が太陽に向って“全裸”でいたことではなく、そんなタイミングで何も知らずに飛び込んできたミカちゃんなのである。
ラッキースケベの逆ヴァージョンである。
「……」
「……ぃ」
「いやん♪」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!」
入ってきた時と同じように勢いよく出て行くミカちゃん。
見事に俺のディ●イディング▲ライバーを見られてしまった。
この場合は、ラッキーというわけでもないのかな?
そう。男ならわかるはずだ、起きがけは下半身に血液が溜まるということを。
異世界での2度目の朝はなんとも刺激的だった。
朝飯は、とてつもなく柔らかいパン(口に入れると溶ける!)と薄味の牛乳。
食べた気がしなかったが、不思議なことに腹はいっぱいになった。
まるでダイエット食品だ。
少し遅めの朝飯になるようだが、この一家では普通らしい。
まぁ閉店時間を考えれば普通か。
「今日は買出し頼むわ。ミカと行ってきてくれ」
「了解です!」
おやじさんからメモを受け取ると、中身を確認する。
『そういえばグリン、この世界の文字って普通に読めるんだが何か魔法的な物でもかかっているのか?』
気霊は普通の人間には視認できないため、声に出さずに喋りかける。
存在自体を今さっき思い出したことは秘密だ。
『そうだよ。竜輔の視覚に理解できるようなフィルターをかけているんだ』
この世界では3日目だが、特別、文字が読めなくて困ったことが無かった。
お店のメニュー表や、街のいたるところにある案内看板も理解できた。
メモを見ると、継ぎはぎをして日本語が書かれているように見えるわけだ。
さて、それはそれで便利だから問題ないとして……
「ミカちゃん、そろそろ行こうよ」
「ぁ……ぅ……」
さっきの事故(?)以来、顔を真っ赤にして俯いたままだったりする。
でも朝飯は普通に食べてたんだけどな。
このやり方は逆効果かもしれないが、突っ立っているだけというのも歯がゆいので彼女の手を引いて走り出した。
「ぇ……えええ~~~~~!!!」
勿論、財布も忘れずに。万事ぬかりはないぜ!
朝市と言っても終盤戦なのか、人手はまばらになりつつあった。
「急がないと物が無くなるな?」
「……ぅん」
やっぱり元気がない。
無理矢理にでも走らせればいつもの調子に戻ると思いきやといったところだが、やはり手を握ったのがまずかったのか。
「いや……まぁその……悪かったよ」
日本男子たるのも、時には女子に頭を下げることを恥じてはいけない。持論だ。
「ぇ……いや、その……リュウスケは悪くないよ。こ……こっちがゴメンだよ」
「いやいや、俺だって。馬鹿なことしたって思ってますって。居候の分際で
ご迷惑おかけしてますから」
なぜ全裸でいたのかというと、理由は単純。
服を洗濯して乾かしていたからあの状態だった。
そういえば、着替えを買わないといけないな。
「……優しいんだね」
うわっ。上目づかいは反則ですよミカさん!
手でメガホンを作って、君に惚れてまうヤロー!と叫びたい。
気まずい雰囲気のまま、市場をうろうろと。
お店の馴染み(?)のおっちゃんに声をかけられるとそれがまた加速する。
「ミカちゃんおはようさん!おっ今日はデートかい?」
「で、ででででででででででぇええええ~~~」
世界は違えど、ミカちゃんの初さ加減は違わなかった。
いや、異世界補正で1.5倍増量(当社比)といったところか。
ここまでくると俺は逆に冷静でいられるが、ミカちゃんには開店までに元の調子に戻ってもらわないとな。
結局、ミカちゃんの調子が最後まであんな感じだったため、買出しの仕事はほとんど俺がやる羽目になった。
勿論、荷物持ちもだ。
「なぁーミカちゃん。悪かったって。からかい過ぎたって。だからいつもの調子に戻ってよぉ?」
出会って1日くらいなのに“いつもの”って何だ?とも思ったがこの際どうで
もいい。
「ぁぅ……でーでっででー……」
ねっておいしい駄菓子のCMか!とツッコミたくなったがこの世界では通用しない。
ミカちゃんはどこで覚えたんだろう?
店の前まで戻ってくると、柄の悪そうな男が3人が入っていくのが見えた。
まさかドラマとかでありがちな借金取立てのヤ●ザ屋さんなのか!?
とりあえず様子を見てみるか。
「おうおうおう!今日もやってきたぜェェェェァァァァ~~。とっとと返しやがれってんだシャアァァァァ~~~!!」
奇声のした方を見ると、すげー頭の悪そうな男が立っていた。
リーダーらしき男が大声を上げながら客席の椅子を蹴り飛ばした。
ん?なんかあのリーダー格の男、どこかで見たことある気がする。
元の世界で会ったことあるんだろうか。
姐さん、美佳ちゃん、おやじさんが出てくれば今更驚きもしない。
「あん?またテメーかコルぁ!!」
おやじさんが厨房から出てきた。
すげー。取立て相手にかなり強気だぁ……てか柄が悪い。
だがその理由もすぐに合点がいった。
「何回も何回も何回もぉ!!てめぇーの相手は隣だっつーてんだろボケェェェェ!」
「うるせェェェェー。いい匂いがするんだから仕方ねえじゃねーかァァァァ!」
「だったら開店してから来いっつてんだろがアアアア!」
開店は夕方から。まだお昼も過ぎてない。
どうやら取り立ての対象は、隣のお店(謎の雑貨屋のようだが……)のようだ。
「覚えてろこのクソおやじ!俺の名はカトー! カトー・ザ・ミドルナイスだっ!ハァァァァ!!」
語尾の悲鳴のような声は雄たけびのようだ。耳障りだ。
3人組は間違えたことに恥じらうことなく出ていった。
しかもお隣さんスルーか!一体何しに来やがったんだ!?
てかさ、カトーとかいうやつのおまけ2人も入る前につっこんでやれよ!
3人組が見えなくなるまで見送ってから店に入った。
「おぅ。戻ったか。ちゃんと買えたか?」
いつもの調子のおやじさんに戻っていた。
おやじさんの親分的な片鱗が垣間見えたってやつだな。
ただ、どことなく嬉しそうな顔もしている。もしかしてさっきのやり取りを楽しんでいるのか……?
買ったものを確認してもらいつつ、おやじさんは怪訝そうな顔でミカちゃんを見た。
「なんだミカ。風邪か?」
赤面俯き少女ミカちゃんはダッシュで自分の部屋へ戻っていった。
「お年頃なんすよきっと」
フォローしたつもりだが、おやじさんは首をかしげるだけだった。
ただ、おやじさんから変な疑いをかけられなかったは幸運だったのかもしれない。
その日の営業も終わり、まかない(晩御飯)も食べ終わり、やることないから寝るしかない。
この世界にはテレビもゲームも携帯もない。
仕事の開始時間が遅いからとは言え、夜更かしをして昼間ずっと寝ているわけにもいかない。今は寝るしかないのだ。
そういえば、朝市にでかけた時に、給料前借りで買った服のことを思い出した。
麻のような素材で出来た、つなぎとポンチョを合わせたような服で、南の島の部族的な模様が入っている。
う~ん。やっぱり異世界だな。
着てみると、サイズはぴったりだった。
安物なのか、少しゴワゴワしているが慣れれば大丈夫だろう。
着慣れる前に家(元の世界)に帰りたい。
ホームシックなのか? たかが2日しか経っていないのに。
まて、異世界だぞ?
俺はどうしてここまで馴染みつつあるんだ?
普通なら発狂するだろ!?
だめだ。冷静になればなるほど、ボケからツッコミに流れていくぞ??
俺のアイデンティティは“ボケ”だ。
いつからだって?
そんなもん、姐さんに出会ったその時からだ!!
あぁ~姐さん……
コンコン
ノックする音がした。
この世界、人の部屋に入る時はノックする文化があるようだ。
って、また俺は冷静になっている。
グリンのせいなのか?
「どうぞ」
恐るおそるといった感じで戸が開き、それは予想どおりミカちゃんだった。
今朝の教訓なのか?かなり警戒している感じだ。
どうかしたの?と聞くと、小動物がびっくりしたときのような飛び跳ね方をした。
そして戸がゆっくり閉まっていく。退場していくようだ。
お、面白い。
どうも昔から美佳ちゃんって珍妙な動きをしているといじめたくなる。
だが、今回は別人だ。別人だが、何から何まで似ているもので、いじめたくなる。
いや、これはいじめじゃない。
俺の周りにいじめはありません!あるのはちょっと可愛いイタズラです♪
さて、どうしたものか。
「何か用があったんじゃないの?」
「ぁぅ……」
ミカちゃんを『あうあう星人』に認定しよう。
特徴は「あぅあぅ」しか喋れない。人見知りが激しい。かなり初心。
偏った好みの人に需要がありそうだ。
そうでなくても容姿端麗で、いろんな年齢層から愛されそうでもある。
「ぇっと……朝の……ち、(自主規制)…………だいじょ……ぶ?」
「あぁ大丈夫だよ。何なら見てく?」
「ひぅっ#$%&¥*」
声にならない悲鳴を上げて退場していった。
やべー、やり過ぎたな。おやじさんに怒られるかも。
何を聞かれたかって?皆さんのご想像のとおりかと思うぞ?
日はまた昇る。
カトーさんのモデルも本編で登場しています。
立場は異なりますが、ギャグ要員であることは変わりません。




