薄青の魔女ごっこⅠ
良乃視点のお話です。莉音と良乃の初めまして。
「――それ、人間の仕業だよ」
おれの言葉に、目の前に座っている白乃が首をかしげる。
「その生徒の探し物が見つかったって話。たまたま誰かが拾ったんでしょ」
その誰かには見当がつく。
神学部の方にまで出向く物好きは一人しかいない。
「でも、その人もどこで落としたか覚えてなかったって言ってたよ」
不思議そうな顔をする白乃を横目に、日替わり定食を食べ進める。
まぁ、あんまり難しい話をしてもわからないか。
「別にそのなくしものは珍しい物でもないんでしょ?」
「多分そうだと思うよ。今流行ってるマスコットなんだって」
「ならどこでも手に入るし、最悪同じものを買って置いておけばいいでしょ」
一昨日莉音が趣味でもないマスコットを買っていた。本当は同じ子を見つけてあげたかったんだけれどね。なんて言っていた気がする。
「うーん、じゃあ幸福の魔女って何なんだろうね」
「変人じゃない?」
趣味じゃないものを知らない誰かのために買って、気づかれないように置いておく人間は変人でしかない。
それ以外にも変なところばっかりだと本人に言ったら、おれには言われたくないと返された。
「そうかな、僕は優しいと思うけれど」
食べ終えた白乃がへらりと笑う。まぁ白乃はそういうよね。
「優しいっていう人の方が多いと思うよ」
実際幸福の魔女のおかげだなんて言う人は、あのころより増えている。
これに関しては首謀者の思い通りらしい。
「僕も幸福の魔女にお願いしてみようかな」
白乃に叶えてもらいたいことってあったんだ。
「なに頼むの?」
「うーん、今は思いつかないかなぁ」
無いんだ。
「今度思いついたら頼んでみようっと」
そう笑う白乃と別れて午後の授業に向かう。
教科書を取りにロッカーへ向かうと、噂の根源がうろうろしていた。
「あ、良乃」
おれを視認した莉音が駆け寄ってくる。薬学部のエリアで何してるんだろう。
「薬学部のロッカーってこの辺?」
「そうだけど、何か用?」
うん、とうなずいた莉音がカバンから一通の手紙を取り出した。
「薬学部、今度小テストあるんでしょ? そのテスト範囲メモしたんだけれど、困ってる子のロッカーがどこかわからなくて」
そういえば昨日、やけに薬学部のこと聞いてはメモしてるなと思った。
やっぱり変わっている。
「誰?」
「えっと……同じ学部の子の友達なんだけれど」
聞いてみたけれど別に学年の人間の顔と名前はあまり覚えていない。
当然莉音が口にした名前も、見覚えはあるかもしれないけれど顔と一致はしなかった。
けれど、このロッカーは学籍番号順に割り当てられている。
自分の番号から推測していけばある程度の位置はわかる。
そのあたりに置いておけば、あとは本人が勝手に自分のものだと認識するはずだ。
「この辺置いておけば?」
おれが指さすと、莉音はわかったと頷く。それからじっとおれを見つめてきた。
「なに?」
「届かない」
手紙がおれに差し出される。確かに莉音の背丈だとロッカーの上には届かないな。
莉音から受け取った手紙をロッカーの上に置くと、もう少し見えるようにと指摘が入った。
「それじゃ見えないかもしれないから、もう少しはみ出させて」
「莉音より小さくなかったら見えると思うけどね」
手紙の角を少しはみ出させれば、莉音は笑った。
「ありがとう。じゃあ授業あるからまたね」
軽く手を振って莉音がその場を去る。本当にこれだけのために来たんだ。
大学にいると噂されている幸福の魔女。ささやかな願いをかなえてくれる誰か。
その正体は心理学部にいるただの変人だ。




