第三話 ママ
___翌朝
華恋は目を覚まさなかった。
その日の夜、一日中目を覚まさない華恋を陰陽師はおぶって、お屋敷の裏山にある清水の泉へ連れて行った。
泉へ着き、華恋を寝かせると陰陽師は、泉の清水をすくい飲ませた。
しばらくすると華恋がうっすらと目を開ける。
「華恋、母君は本当に君を恨んでいると思うかい?」
陰陽師は、諭すように優しく話す。
「母君は、君を想っているから君の無事を確認出来るまで、側に居たいと思った。でも、君が目覚めるのが少し遅かった。
もう、現世には留まっては居られないのに、無理に留まろうとして、君の後悔と想いが母君の想いと混じり合って深く暗くなってしまっている。
気をしっかり持つんだ。
君の母君は、そんな事で君を恨むような人だったかい?」
陰陽師の言葉を聞いて、華恋は瞳を揺らした。
「ママは、恨んだりしないっ。」
華恋がそう、言い放った瞬間、怨霊の穢れが少し揺らいだ。
その瞬間、陰陽師は形代に怨霊を移し、泉に投げ入れた。
泉は一瞬にして真っ黒に濁る。
「な、なにこれ。」
しばらくすると、泉は月明かりに照らされキラキラと輝いて、美しい清水に戻る。
形代の周りにポチャンッと波紋が広がる。
「ママ……」
華恋の目線の先には、淡く透ける母親の姿があった。
月明かりが身体をすり抜け、水面を照らす。
華恋の母親は、ニコッと笑った。
『貴方が落としたのは、こっちのクマさんのキーホルダー?それとも、うさぎさんの帽子かしら?ふふっ。こんな体験初めてしちゃったわ〜♪
もぉ、ずーーーっと頭の中がモヤモヤだったんだけど、パーッて!晴れて、気づいたら世界で一番可愛い娘が目の前で好青年と居たのよ!!』
そう、賑やかな母親を見ながら、華恋はボロボロと涙を流した。
「ママ……ごめんね。ママが全部正しかったのに、怒って出て行ってごめんなさい。
事故も……ママが庇ってくれて……ウチ。」
『もぉ!ほんとよ!あんなクズ男!!
私の可愛い娘に手を出すなんておこがましいにも程があるわ!!大丈夫よ!華恋は世界一可愛いもの〜♪
いつか素敵な好青年が現れるわ❤︎』
母親は泉をゆっくり歩きながら、落ち着きを取り戻し話し出す。
『事故の事もね、気にしないでいいのよ。
私が華恋を庇ったのは、貴方を失う事以上に辛い事は無いからよ。だから、ママが勝手にした事。恨んだりしないわ。
華恋が生きていてくれるだけでママちょー幸せ者だもん♪』
母親は華恋の肩に手を添えた。
『てか、ここ何処なの!?愛しのマイダーリンは!?』
母親はキョロキョロと周りを見渡す。
華恋は頬を掻きながら、母親から目を逸らした。
「いやぁ。その話はすごく長くなるから……」
そんなこんなで___
ウチのママは普通の幽霊になって、一度陰陽師のお屋敷に戻った。
数日幽霊のママと、千年前の町を楽しんだ。
形代を持って行けば、ママも一緒にお出かけが出来た。
幽霊って便利〜。
『ねぇ、華恋こっちで買った物現代に持って行けるの?』
「うん〜、多分ダイジョブ!!」
『これ、パパ似合いそうよ!!』
「わ〜!ほんとだ!買ってこ買ってこ〜!!」
ウチは一緒に買い物へ付き添いで来てくれていた、陰陽師に両手を出した。
「はぁ。君が騒々しいのは母親譲りか。」
そんな小言を言いながら、陰陽師はお金くれた!やったね⭐︎
ウチはママと相談して扇をパパへのお土産で買った。
「ウチも欲しいなぁ〜。」ってチラッと陰陽師を見ると、ため息をつきながら、お小遣いくれた!!イェイ⭐︎
お屋敷に戻り、夜ご飯を食べて部屋に戻る。
ママとウチが部屋でくつろいでる所に、陰陽師が来てママに話しかけた。
「今は、安定していて大丈夫だと思うが、穢れに触れればまた怨霊になってしまうかもしれない。君達が望むなら私が供養しよう。」
「それって、もぉママと会えなくなるって事。」
「そうだ。けど人に害をなさずに済む。」
『このまま、娘と居たらまた娘を傷つけるって事?』
「いや、そうと決まったわけでは無い。神域に居続ければ神聖な存在に近づく事もある。けれど逆に、穢れの場所に居ればまた近くの者を傷つけてしまう事もあるだろう。」
『そう。』
「ママ……ねぇ。この話やめよ!てかどっちにしてもさ!一旦パパに会ってから決めようよ!!ね??」
『そうね。最後のお別れくらいはしたいわ!!』
「そうか。わかった。」
ウチはママの形代を握って眠った。
___翌朝
ウチは千年前で過ごす最後の日を楽しんでいた。
ウチは貰っていた着物を着せてもらって、陰陽師に写真を撮ってもらっていた。
「ウチちょー似合うくない!?」
『最高!!ちょー可愛いわ!!』
「でしょでしょ!!ママも着よ〜!!」
『霊体で着れるのかしら??』
「着れるんじゃないか?」
「まじ!?だって!!ママ一緒に着て写真撮ろ!!」
『そうね〜♪』
ママも着物に着替え、2人並んで写真を撮った。
「おぉ!ちゃんとママも写ってんじゃん!!」
「あぁ、このカメラ??とやらは霊体を見やすくするな。これなら普段見えない者でも見れるんじゃないか?」
『まぁ!すごいわね〜!!』
ウチは着物を着たまま、スーツケースに荷物を詰め帰り支度を始めた。
「華恋、君が居なくなるとこの屋敷も静かになるな。」
「え〜?なになに!寂しいのぉ〜??」
ウチはニヤニヤしながら陰陽師をつっつく。
「寂しくはない。いつもの日常に戻るだけだ。」
「え!!ウチまた来るつもりだよ!?」
「は……」
「え……?」
「来ないわけないじゃ〜ん!!せっかくお友達出来たのに〜!!」
「とも、だち、?」
「そそ!!もぉウチら友達っしょ!!それにウチ命まで助けてもらっちゃったし。友達兼命の恩人的な?」
「ふっ。そうか。ではまた華恋、君が枝垂桜の元に降ってくる事を待っているよ。」
「うん!!待ってて待ってて〜!!まじすぐ来るから!!パパが許してくれたらだけど……学校もあるし!!」
「気長に待つよ。しばらくは勉学に励みなさい。」
「はぁ〜い!!」
ウチはパンパンのスーツケースをガラッと持ち上げて、着物の裾を引き摺りながら枝垂桜の根元に立った。
陰陽師は縁側に座って、優しく笑ってる。
「じゃぁ!!帰るね!!また来るから!!色々ありがとぉ〜!!」
ウチが大きく手を振ると、陰陽師も小さく手を振って見送ってくれた。
長く感じた2週間。
ウチの初タイムトラベルは終わった。




