楠野里高校:13
「そろそろ帰った方がいいかな。“集合~‼”」
ダンジョンの草原でバラバラに狩りをしている3人に向かって叫ぶ。
時計がないため時間がよくわからないが、ダンジョンの空が夕焼けになっているので、最低でも1時間は経っただろう。良太のもとに戻ってきた3人は疲労の色が見えるものの、足取りは軽かった。
「お疲れ様」
「おつかれ。思ったよりもいっぱいウサギいたわね」
比奈は完全に吹っ切れたようで疲れを感じさせない涼しい顔をしていた。
「そうだな。どれぐらい狩れた?」
「15匹。ドロップは肉と毛皮とツノだけ。」
「俺は14匹です。肉と毛皮と、あと何本かツノが出ましたよ」
「12匹です。私は肉と毛皮だけですね」
前川君と馬場さんも続けて報告してくれる。話を聞いているとやはりツノはレアドロップだったようだ。
「まあそんなもんよねえ。良太は何匹狩ったの?」
「ん? 27。俺もツノが何本かあっ……どうした?」
インベントリを見ていて視線を比奈達に移すと3人は固まってしまっていた。心配になって声を掛けたが誰からも反応がない。
「あの~? ドウシマシタ~?」
「……どこにそんな数のウサギいたのよ?」
「俺たち平均13匹くらいなんですけど……?」
比奈には呆れられ、前川君は興味津々な目で、馬場さんは言葉を失ったまま三者三様の反応で質問が飛んできた。
「そ、そこらへんにいっぱいいたから」
流石に予想外の反応に焦って答えてしまったが回答を聞いた3人は同時に周囲を見渡した。だが、すぐ目に付くところに成果はなかったようですぐに向き直る。
「どうやったの? なにかカラクリがあるんでしょ?」
「いやあ、カラクリっていうか……。感覚なんだよ」
「感覚?」
比奈に睨まれ、焦りながら返事をするがそれ以上適切な言葉がなかった。
「なんていうか、4人でバラバラになってから集中してみたら、思ったより“気配”みたいなのを感じられたんだよ。それを根こそぎ狩ってたから」
「気配? まさかウサギの気配を感じてなんて言わないでしょうね?」
「つまりはそういう事かな」
自分でもまだよくわかっていない能力なので控えめに言うと、比奈は絶句してしまった。前川君も声が出ないようでパクパクしている。唯一、納得していないような顔の馬場さんが質問を投げかけてきた。
「ですが、竹中先輩はあまり動いてないですよね。私は竹中先輩を基準に遠くに行きすぎないようにしてましたがあまり大きくズレませんでした」
「それは多分動いてはいるけど皆よりは狭い距離を動いてたからじゃないかな。大きくは移動しないようにしてたし」
「………」
「なんなら、感じた気配はポコポコ産まれてくる感じだったんだ。それこそ何もなかったところから」
「「え?」」 「は?」
「だから気が付いたんだけど、やっぱり普通の草原じゃないだろうな」
「ちょっとまって。理解できてないから。つまりどういう事?」
「何もない所からウサギが出現してるのではってことですか?」
馬場さんの発言を肯定すると3人は一様に顔が固くなった。
「そんなことがあるわけ……巣穴から出てきたとか」
「いやそれはないと思う。だって巣穴がそもそも見当たらないんだよ。ここに来てから躓いた?」
「たしかに結構動いていたのに、気が付かなかった。」
「まだ検証しないといけないけどね。とりあえず今日はもう帰ろう。日が沈んだら面倒だから」
「それは……そうね。帰りましょうか」
4人はこの草原にきた扉に向かって歩き出すが、それまでの道中でも巣穴を見つける事は出来なかった。扉の前に着くと扉は通るときに開けて、そのままになっていた。
「それにしてもこっちから見ても、向こうの部屋は不気味ですね。」
扉の中をみた前川君が正直な感想をこぼす。夕焼けとはいえ明るい草原と比べると玉座の間は淀んだ、重い空気を纏っているようでみんなが思っていたことを代弁したものだった。
「まあ、なんか危険なことがあるわけでもなかったから演出なんだろうな」
「そうですね。どちらにしてもこの草原には兎しかいないようですし危険は低いかと」
良太の意見には馬場さんも賛同を示してくれる。実際、気味が悪いという以外特に他に特筆する部分はない。
「ああ……一応閉めといた方がいいか。ウサギがこっちに来ても困るしな」
「確かにそうね。開けとく方が不安かも」
扉を通りそのまま帰ろうとしたが、一応扉を閉めておくことにした。扉を閉めるために触れようとするとひとりでに扉が閉まっていく。それを見ていた比奈達が怪訝そうに良太のことを見てくる。
「……今何かした?勝手に閉まったようにみえたけど」
「何もしてない。“開ける”とか“閉める”とか考えて扉の前にいるだけで勝手に動くのかも?」
首を捻りながら呟くと前川君が呆れたように天を仰ぐ。
「便利な機能~。自動ドアより便利ですよ?」
「合ってるかは知らないよ。でもそれくらいしか説明できないし?」
男2人で呆れたように天を仰いでいると、横で話を聞いていた馬場さんは何を探しているのか理解したようで扉の上部を睨み始めた。しかし何を見つけられないようだ。
「……なんで3人して見上げてるの?」
比奈は何をしてるのかわからず困ってしまっていた。前川君が天井から目を離し、首をマッサージしながら比奈に答える。
「自動ドアのセンサーみたいなのがあるのかなって。」
「あぁ、なるほど」
「まあ、薄暗いし、天井が遠いので何もわからないんですけどね」
前川君は苦笑いを浮かべていたが、良太も同じような表情だろう。今の時点ではこれ以上調べようもなさそうだった。
「これ以上は分からないし、学校に戻ろうか。」
良太が3人に向けて話しかけるとみんなも頷き、玉座の間を縦断するように敷かれた深紅のカーペットを出口に向かって歩きだす。




