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この世界で何を求める  作者: 七支 刀
楠野里高校編

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楠野里高校:11

 大空間は西洋の玉座の間を思わせるようで、圧巻としか表現できなかった。


 石造りの空間全体は黒っぽい石で覆われた石造りで、壁中に設置されている松明の光があっても薄暗く感じるが、壁一面の精緻な壁画やインテリアを引き立たせている。天井はさっきまでの階段を降りたすべての高さではないかと錯角するほど高い。


 そしてこの暗い空間を貫く深紅のカーペットはこの場の異様さを物語る。薄暗い室内の中で、目が眩むほどの赤はなぜか空間の雰囲気とマッチしていた。


 カーペットの先には王座ではなく、城壁のような扉が鎮座している。一枚岩から切り出されたような扉には遠くからでも細かな装飾が見える。


「……これはさすがにすごいですね」


 どれだけその場で固まっていたのだろう。それだけ長い時間動けなかった事を前川君が呟いた言葉を聞いたことで良太は自覚した。


「さ、さっきの“くろこ”の話では、ダンジョンは大量にあるって、はなしでした。まさかこれが、地下に大量に埋まっているって言うんですか……」


「断定はできないけど可能性はあるよな……。階段とかここまでの道とかもちゃんと凝ってたけど、……これは格が違い過ぎる」


 絶句している馬場さんに良太も言葉を返しながら、自分の考えを整理する。実際問題こんなものが地下に無数に埋まっているのであれば、良太たちが想定した以上にこの異世界転移は大規模に、しっかりとした下準備で行われていた可能性が高い。それこそ魔法があるという方が信じられる状況だった。


「とりあえず、奥のでかい扉がダンジョンの入口だろう。行ってみよう」


 良太は意を決し歩き出す。他の三人は一瞬逡巡したようだが、付いてきた。歩いてみて気が付いたのはこの部屋の奥行である。扉が巨大すぎて気付かなかったが、深紅のカーペットは100m以上の距離があった。


(どんなサイズの部屋なんだ。規格外すぎる……)


 もう驚きではなく、終始雰囲気に圧倒されていた。


 観音開きの扉は至近距離で見ると脈動を感じるほど精密なレリーフが施されていた。恐らく悪魔を模した飾りが俺たち4人を見下ろしている。


「これがダンジョンに繋がる扉なんだろうな。覚悟は出来てるか?」

「いつでも行けるわ。もうこれ以上驚くことはないでしょうし」

「「いけます」」


 3人の返事を聞き良太が扉に手を触れると扉はひとりで動き出す。観音開きの扉が徐々に開いていく。

 徐々に開く扉の間から光が差す。それは薄暗い空間にいた面々にとっては目を開けられないほどまぶしかった。


 咄嗟に目を細めた4人を大きな風の塊が包み込む。まるで玉座の間の威圧的な空気まで一緒に連れ去ってくれるような、軽やかな風。

 眼を開けると開いた扉の奥に、草原が広がっている。遠くには森が、さらに遠くには山脈が連なっているのが見えた。


「おいおい、ほんとにもう一つの世界があるみたいだな。」

「とんでもないわね。」

「どこでもドアってこんな感覚なんでしょうね」

「理解できない……」


 今4人が立っている側は地下の玉座の間だが、扉の先には草原が広がっている。非現実すぎて全く理解が出来なかった。


 4人が扉の奥の世界に一歩踏み出しても扉はそのまま存在していた。だが、洞窟にたたずんでいた風格のある扉もこちら側からは、草原に大きな扉だけがそびえているは不自然な見た目になっていた。


「ここまで現実感がないと逆に落ち着けるんだな」

「いやあ、夢心地とはこのことなんですかね~」


 良太と前川君が通ってきた扉を見ながら悟りを開こうとしていると馬場さんが呆れた目で見てくる。


「何の話してるんですか?ダンジョンの中調べてみましょうよ」

 馬場さんに促され扉の前から動き出す。と言っても扉がまだ見える程度しか動いていないので、モンスターの気配はなかった。


「もっとウジャウジャいると思ってたけど違うんだな」

「最初だからチュートリアル的な感じなんじゃないですか?……ほらあそこに」


 前川君が指さす方向には一本の角の生えたウサギのようなモンスターがいた。サイズは普通のウサギのように見えるが、果たしてその実力はどうなのか。


「かわいい~!」


 比奈が反応している。その声が聞こえたのかこちらに顔を向け、一目散に逃げていった。


「逃げちゃった…」


「何してんだ?せっかく油断してたのに。……あのウサギっぽい奴どんなことしてくると思う?」


「逃げるか、突進か、後ろ脚で砂かけとか? あんまり好戦的じゃなさそうですよね、さっきの感じ」


「やっぱそうだよな。おいどこ行く気だ。危ないから勝手に動くな」


 前川君とウサギの対策を考えていると比奈がフラフラと良太たちから離れようとしていた。比奈の肩をつかんで引き戻すと少し残念そうにしながらだが正気を取り戻したようだ。


「そうよね。ごめんなさい。」

「まったく……、とりあえず倒してみるか」


 目を凝らして周辺を見てみると少し遠くに一本角ウサギの姿を確認できた。良太は静かに担いできた大太刀を抜いて歩いて近づく。比奈たちは付いてくることは無くそのまま、良太のことを見守っている。


 特に意識して足音を消している訳ではないが、大太刀が当たる間合いになってもウサギは気が付いていないようで明後日の方向を向いていた。


「フッ!」


 そのまま大太刀を振り下ろす間際、ウサギはやっとこちらに気が付き振り返る。が、為す術なく一刀両断された。


 両断された一本角ウサギは淡い光に包まれ、亡骸を残さずそのまま消滅していった。


「昨日のは何だったんだ」


 あまりの手応えのなさに身体を起こした良太の第一声は紛れもない本音だった。

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