楠野里高校:09 side-鈴木大河
“くろこ”が消えた舞台を体育館にいる全員が見たまま固まっている。それほどの衝撃を最後に落とされた。大河も動けないでいると横で立ち上がっていた良太がステータス画面を操作しだした。
「良太……何してるの?」
良太の顔を伺うと厳しい顔をしながらではあるが覚悟を決めたような目を向けられた。
「とりあえず、ダンジョンの入り口探しに行ってくる」
そう良太は言うと初期装備として配られていた武具と昨日ドロップした剣を装備した。
「待って。これから“くろこ”の話を話し合わないといけないから今すぐはダメだよ」
流石に許容できなかった。先ほどの話では初期装備でのダンジョン攻略は不可能と言っていた。今、良太という重要な存在が会議に不在にあるわけにはいかない。
そう大河は考えていたが、風は大河に吹いていたようだ。
「行かせたらいいんじゃないか? 実際、一番なんとかるだろうしな」
声の方向を見るとサッカー部主将の野口響が、なかば諦めたような顔をしながら俺たちの方向を見ている。
「でもいまはまだ方針が決まってないよ。まずは会議をしないといけないでしょ」
「まあ言い分は分かるんだけどよ。竹中は会議に座っていられるような性格なのか?」
「よくわかってるなヒビキ。大体わかったからあとは大河の方が得意だろ。俺がいてもどうしようもない。決まった方針には従うから」
「いやいや……」
会議を先にしようという発言は、響と良太が封殺しようとしてくる。恐らく良太をこのまま会議に参加させてもあまり興味を持たない事は分かっているが、1人でダンジョンに向かわせるのはイヤな予感がした。
「でしたら、生徒会から一人連れて行っていただけるのであれば、ダンジョンの偵察を認めましょう」
「……は?」
発言の意図が理解できず、声のした方を見ると生徒会長の細川有希子が片手で頭を抱えながらこちらを見ていた。成り行きを見守っていた体育館の全員が驚いたように生徒会長を見つめている。
「だったらうちの部活からも一人連れてってくれ。ダンジョンはいろんな奴が見た方がいいだろ?」
すかさず、サッカー部の野口が話に乗ってきた。こうなってしまってはもう止める事は出来ない。大河は大人しく話の流れに身を任せることにした。
「こちらとしてはダンジョンの入り口がどこにあって構造がどのようなものなのかが知りたいですね。ダンジョン内に関しては良太さんが十分に安全を確保できるのであれば知りたいです」
生徒会長は調査に関しての要求を大河に伝えている。大河がどう反応するのか伺っていると少し怪訝な顔しながら生徒会長を見つめた。
「了解、です。ちなみに大河か蓮太郎を連れて行くのは?」
「できれば置いて行ってほしいですね。あなた方3人は現時点だと重要人物であることを理解してください。こちらも大変なんですよ」
「……ハイ。……じゃあ比奈連れていきます。」
「エッ?私?なんで?」
「コミュ力高いだろ」
「そんな理由⁈」
良太は比奈を引っ張っていくようだ。多分本当に話せる相手が欲しかったのだろう。
「行っていいか?」
良太が申し訳なさそうに聞いてきた。もうこの状態では反対できない所まで外堀を埋めたのにちゃっかりしている。
「もう止められないでしょ。それよりも生徒会とサッカー部からは行く人もう決まっているの?」
悟りを開きそうな感覚ではあったが他の同行者が誰なのか気になった。良太と比奈も同様だったのか生徒会長を見る。
「探索には副会長の馬場綾が同行します。」
生徒会長の発言と同時に生徒会長の横に座っていた馬場綾が立ち上がり良太に向けお辞儀をしている。
次にサッカー部の方を見ると野口の後ろの席に座っていた生徒が一人が立っていた。
「うちからは前川宏太が行く。」
野口の口から紹介があった。立っていたもう一人が頭を下げているので、彼が前川くんなのだろう。
「了解。じゃあこの4人ね。すぐ行くから、行くよ‼」
良太が体育館の出口の方に歩いていく。その引っ張られるように比奈が続き、先ほど立った二人は驚きながらも良太たちを追いかけるように退出した。
「……それでは改めて会議を行います。今後さっきのように別行動を認める場合もありますが、ある程度実力があると判断した人間ではないと出来ませんので」
生徒会長が呆けたような空気になっていた体育館内の視線を集中させた。
「先ほどの“くろこ”からの情報を総合して今後の方針を考えなければなりません。意見のある方はいますか?」
生徒会長の細川さんからの問いかけに対して挙手したのは一名だった。
「どうぞ」
「弓道部主将の沢田です。まず先ほど自分の出過ぎた行動を謝罪します。」
「あの発言のおかげで新たな情報を引き出すことが出来ました。謝罪の必要はありません」
綺麗な所作で立ち上がった沢田さんの謝罪を細川さんは一蹴した。実際、特に問題があるわけでもないので謝罪を受け入れる必要もないと判断したのだろう。
「すみません。私の個人的な感想ではありますが、生産職の育成を最優先でするべきだと思います。レベルが重要なのであれば早いほどいいですから」
沢田さんの話が合わると同時に複数の手が上がる。大河自身も挙げていた。
「……挙手した人はそのまま起立して下さい。」
生徒会長に促されて生徒会が座る一辺を除き、「ロ」の字を形作っていた残りのすべてから、椅子を引く音が響いた。起立した面々をみて体育館にいる生徒たちから驚きが伝わってくる。
既に立っていた沢田さんを含め、立っているのは楠野里高校の部活動の看板を背負う主将・部長全員。
陸上競技部主将 鈴木 大河
男子サッカー部主将 野口 響
女子サッカー部主将 飯村 弓月
弓道部主将 沢田 里桜
男子バスケ部主将 風間 遼
女子バスケ部主将 杉本 さくら
バドミントン部主将 平野 颯真
吹奏楽部部長 新井 琴音
ダンス部部長 小林 舞
軽音楽部部長 菅原 朝陽
競技かるた部部長 二階堂 海斗
茶華道部部長 今井 杏
美術部部長 池田 瑠奈
総勢13名が起立した。彼らの発言には所属している部員たちも影響を受けるため、当然各々の部活の部員たちも積極的に参加せざるを得なくなる。体育館にいるが部活に所属していない生徒たちも会議の内容を無視できなくなり、自分たちの意見を伝えるためにどこかに加わるべきかと思案する。
かくして、会議は第2幕が開幕となる。




