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第二章「災い来たりて」~②~

入会した怪しい組織で怪しい訓練を始めてしまう主人公。こう書くと改めて怪しい……ですが、怪しい人々がこれからどう絡んでくるのかが物語に大きく影響するでしょう。人は見かけに寄らないものだという話でもあります。では、次回。

~②~


 伊藤との会話から数時間。


 さっそく入会した千四は施設の案内と利用に付いてのレクチャーを受けていた。


 どうやら会員の寝泊りする場所も設置されているらしく。


 必要があれば、各種の施設利用は無料らしい。


 渡された会則は用紙にして二枚半。


 それ程長いものではなかった。


 しかし、同時に彼が今まで表側の世界で知りようも無かった情報が多数含まれてもいた。


 どうやら【紅蓮朋友会】以外にも同じような団体が幾つか世界には存在しているらしいという事。


 それらの団体が【不破協定】と呼ばれる規則によって、彼らのような能力者を束ねている事。


 会は国連の外郭団体として機能しているが、同時に国連との折衝役でもあり、【管理条約ジョーヤク】と呼ばれる約束事を国家に対して守らせている事。


 会員となった者は【特権ステータス】と呼ばれる一種の特権を保有し、それは会則と【不破協定】の遵守によって守られ、同時に会への貢献によっては引き上げられ、大きな利益を得られる等々。


 だが、千四が最も驚いたのは“使い”と呼ばれる能力者達が自分以外にも実はかなり多く。


 同時に世界的に見れば、吹けば飛ぶような数しかいないという事実だった。


 会に入っているのは日本国内でせいぜいが数千人。


 【紅蓮朋友会】と同規模の団体が後二つあるというが、それを足しても1万数千人。


 小規模な有象無象の団体に限っては全世界合せても3万人いないという。


 しかも、彼らの数は基本的にあまり増減しない。


 ちらほら何かしらの理由で死んで、ちらほら何かしらの理由で見付かって、+-は全世界規模でも一年せいぜいが数百人単位。


 稀少ではあるが、日本国内に限って言えば、一県で六十数人いる計算になるらしい。


(それにしてもやはり“同い年の大人”ばかり……か)


 ビルの全階層にある施設のレクチャーを受けた後の疲労感に少し息を吐いて廊下に背中を預ける。


 彼を案内したのは何処か育ちの良さそうな四十代の女性だった。


 薄く化粧して桜色のケープに地味な色のスカートを履きこなした彼女は屋上から順に施設の使い方を教えてくれた後、何処かへと行ってしまった。


 屋上は公園。


 六階はサーバーの設置されたコンピュータールーム。


 五階は各種書類の提出場所たる受付。


 四階は一般物資が置かれる資材倉庫。


 三階は会員に開放されているレクリエーションルーム。


 二階は会員の交流に使われる談話室。


 一階は来客を迎えるエントランス。


 地下一階はビル全体の給湯と電源と空調を預かるボイラー兼配電ルーム兼空調設備兼駐車場。


 地下二階は訓練用の温水プール。


 地下三階は物騒な資材の置かれた武器庫兼貸し出し部門。


 地下四階は全会員を集めての集会を開く講堂。


 地下五階は会の運営を取り仕切るオペレーションルーム。


 地下六階は完全な防音防爆防諜対策の施された訓練場。


 どうやら能力者だけではなく。


 一般人からも一般企業のように人材を受け入れているらしく。


 どの階でも多数の人員が立ち働いていた。


 外から内部の動きを全く察知出来ないだけで、実際のビル内部は活気がある場所ばかりだ。


 しかし、彼らは全員が肝心の“使い”では無い。


(同年代しか能力者がいない? いや、実際のところを尋ねない限りは決め付けるべきじゃない……)


 とりあえず。


 会則の全てを読み終えた千四は通路脇に置かれた自動販売機から炭酸飲料を買って喉を潤した。


(……これから会費に当たる【仕事バイト】が来て。それをするかどうかの話になる。僕みたいな【新人ルーキー】は【先達スペシャリスト】に師事する事も出来るけど、一人でやるかどうかも決められる)


 案内してくれた女性曰く。


 まだ新米の会員はまず自分の能力を十全に使えるよう鍛えるのが先決。


 そうしなければ、命を落とす事すらあり得る、らしい。


(企業にしたらブラックこの上ない。それを学生にやらせる時点で法にも反する。それでも警察や行政が動かないのなら、これは秘密結社というより、暗黙の了解で設置された政府のゴミ箱に近いのかもしれない……)


 まだ色々と分からないことはあった。


 それでも千四には使いと呼ばれる者達を管理する会がどうして存在していられるのか少し分かった気がした。


 この四年でもしもこんな能力を持つ者達がいますなんて話題が世間に出たら、混乱の種として何かしら酷い事態を迎えていた可能性が高い。


 しかし、そうなっていない。


 という事は政府としては使い達を管理するツールとして会を運用しているという推測が成り立つ。


 正しいかどうかはまだ分からなかったが、少年の脳裏には肝心な情報が幾つも整理されつつあった。


「まず、これから……」


 どうする?


 そう己に問えば、生の情報を集めるという回答が出た。


 説明されたものではない。


 自分の目で耳で見て聞いた事実。


 それこそが必要だと。


 ならば、行く場所は決まっている。


 まだ同い年の使い達が途中で何人か屯していたのは地下六階の訓練場。


 敵意を向けられるかもしれないが、それでも何か話してみなければと足は下の階へと向けられた。


 地下六階には地下四階までエレベーターで降り、徒歩で行くしかない。


 四階の通路脇にある非常階段を降り、五階の内部を通り抜けて反対側まで行き、その角にある特別な扉の先にある階段を下りるのである。


 角の扉には使い達にのみ貸与されたカードを認証する機器が設置されている。


 カードを入れると一度だけ扉が開いて内部に入るとロックされ、帰りに内側の網膜認証の機器を覗くとカードが壁際のスロットから出てきて扉が再び開く仕掛けだ。


 そうして、階段を下りた先の少し錆に軋むドアを開ければ、訓練場が現われる。


 ビルの総面積よりも広いだろう。


 ビル四つ分程の面積が柱も何も無く広い空間を晒していて。


 コンクリートの地肌を晒している。


 特殊な仕様だとの事で重火器の類でなければ傷付かないらしい。


 天井との距離は約5m。


 壁の全方位に埋め込まれた集光用のファイバーから降り注いでいる為、暗くはない。


 各壁面は15mという原子炉建屋よりも余程に分厚いコンクリートで固められているとの事。


 嘘か真か。


 分からずとも。


 彼が探した仲間あるいは師になるかもしれない同年代達は其処にいた。


「でさ~そいつが馬鹿みたいに突っかかってくんのね」


 まだ中学生程だろう。


 ケバイ化粧に脱色した茶髪。


 今時、誰が見ているのかと思うようなゴテゴテのドぎついピンクの付け爪をした女生徒がケラケラと同年代の男達に笑っていた。


「男遊びも程々にしといた方がいいんじゃないか? そう馬鹿にしてると、いつか刺されるぞ」


「きゃははっ、何ソレ!? ウケルんだけど?! このあたしが死ぬわけないじゃんっ」


 溜息を吐いてヤレヤレと肩を竦めているのは体育会系と思しき男子学生だった。


 同じ年代とは思えない程に筋骨隆々とした体躯はスポーツ特待生と言われても頷けるだろう。


 紺のジャージ姿で千四よりも背が高い。


 無骨な掌にはタコが出て来ており、何らかの武術を習っている形跡があった。


「此処でんな話すんなよ。んな事してる暇があったら、技なり能力なり磨け」


「漫画見ながらニヤニヤしてるキモメンが粋がってんじゃねぇよ!? そんなにアホみたいにおっぴろげるヒロインが好きなら、そこらのビッチとやってりゃいいでしょ!!」


 ケバイ女生徒が唾を飛ばして吼える。


 苦言を呈したのは千四よりも年上に見える背高ノッポの学生だった。


 眼鏡を掛けているが、その下の顔は三人の中で一番整っている。


 気だるそうに何処からか持ち込まれた座椅子へ腰掛け、片手の漫画を器用に繰りつつ、片手で缶コーヒーを呷る姿は自堕落そうに見えた。


「おま、お前ぇ……カリンちゃんはなぁ!? 一言で言うと天使なんだよ!? 分からねぇなら黙ってろ!!」


 態度を豹変させた眼鏡が食って掛かった。


「はんっ!? カリンちゃんとか。絵にちゃんづけ? 頭イッてんじゃないの?」


 そこまでの一連のやり取りを近付きつつ見ていた千四に気付いたのか。


 途中、ジャージの男子学生がケバイ女生徒に肩を少しぶつけて知らせた。


「ん? あんたさっきの新入りじゃない。見世物じゃないわよ!!」


 八つ当たり気味の女生徒の横では男達がやれやれと肩を竦めている。


「初めまして。六六千四と言います」


「君はさっきの……あの伊藤さんにガン付けてタイマンとか。凄い度胸だと思ってたけど、さっそく鍛錬かい? あ、一応聞いとくけど、学年は?」


「高校一年ですが」


「やっぱ年上かぁ。でも、鍛錬必要そうに見えないな」


「そう、ですか?」


「何となく。色々とご同類を見てきた感じから言って」


 洞察力に優れる体育会系なのか。


 厳つさの中に繊細な側面を見た気がして千四は意外に思った。


「名乗ってなかったけど。僕は貝塚佐上かいづか・さじょう。こっちのケバイのは高弓智紗たかゆみ・ちさ。それで其処の自堕落が入間蒼雲いるま・そううん


「貝塚さん。高弓さん。入間さん。どうぞよろしくお願いします」


 改めて千四が頭を下げると三人がかなり意外そうな顔でその頭を凝視した。


「い、いや、何て言うか。見た目に寄らず……こ、こちらこそ」


 面食らった様子で佐上が自分からもお辞儀をする。


 他の二人にしてもどうやら目付きの悪い新人の礼儀正しさは予想外だったらしく、軽く頭を下げていた。


「それでオレ達に何の用だ。挨拶か?」


 蒼雲が眼鏡を弄りながら訊ねる。


「それもありますが、まずどう鍛えていいのかと」


「ああ、そうか」


 佐上が納得した様子で二人の間から出ると少し付き合えと親指で遠方の壁際を指した。


 二人が歩いていくと残る二人が静かに顔を見合わせる。


「あいつのあーいうところは真面目に見習うべきなんだろうな」


「あんたと一緒にすんな」


 妙に年季の入ったやり取りだった。

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