第二章「災い来たりて」~③~
本作品はテンプレのタグにある通り、オレTUEEな異能力バトルものなのですが、まだまだその本質は明かされません。主人公の能力がこれからどういうものなのかが話の主要な部分を占める事になるでしょう。では、次回。
~③~
千四にとって自分の力というのは殆ど未知数と言っていい。
というか。
何が出来るのかすらよく分かってはいない。
日常生活において、そんなものに頼った事は無いし、また頼らざるを得ない状況というのが世界が破滅して以降の四年間存在しなかったからだ。
大惨事を経験した地方都市で自衛隊に救助された後。
国内のいざこざが収拾されるまでは避難先のキャンプで過ごしていたし、その後も手厚い保護を受けて新規の住宅に移る事が出来て、生活環境は大幅に向上。
食事には事欠かなかったし、治安が悪い場所にいた事も無かった。
故に自分が特別な何かを持っているとは知りながら、そんなものは時折思い出される程度の事でしかなく。
一度も使う機会に恵まれなかったのである。
ほんの二日前までは。
「僕達【使い】って言うのは基本的に何を使えるかによって名称が決まる。自称したり、詐称したりするんだけど、それ以前に自分が何を使ってるのか分からないって人も結構いる。そういう場合はまず自分の使っているものの本質を見極める事が大事なんだ。あ、これは伊藤さんの受け売りなんだけど」
「そう、ですか」
さっそく佐上からレクチャーを受けた千四が自分の手を見つめる。
「ちなみに自分が何使いであるかは重要な情報なんだ。同じ使いでぶつかる事があれば、何を使うのか知られていると圧倒的に不利だから。そういう場合の事を考慮して自分の能力を隠したり、偽ったりするのは使いの世界では普通。つまり、安易に他人に教えていい事じゃない。でも、【新人】が自分の本質が分からずに能力を使って自滅するって話もあるから、出来れば自分の所属組織の一部の人だけに留めるっていうのが現実的なところかな」
「なるほど」
「それで此処からはオフレコにしておくけど、君は何使いなんだい?」
ヒソヒソと佐上が訊ねる。
「……よくは分かりません。ただ、出来る事と言えば」
千四が人差し指でツイッと虚空をなぞった。
するとソヨソヨ空調とは違った空気の流れが出来る。
「風……もしかして君って風使い?」
「さぁ?」
「分からないと?」
「出来るだけ、ですから」
「他には何が出来るのか見せてもらってもいいかな?」
「他には……こういう事も」
ツイッと再び人差し指が虚空をなぞると二人から数m離れた場所でバシュンと小さな破裂音が響いた。
「……気圧を変化させた?」
「よくは分かりませんが、物を弾けます」
「やっぱり君は風使いなんじゃないかな……此処に入って三年くらいの経験から言わせてもらうと」
「風使い」
千四が自分の手を見る。
「まだ断定というわけじゃないけど、風に関連した力なのは間違いない。もし違っていたとしても連想ゲーム的に想像出来る範囲の語彙に君の能力はあると思う」
「連想ゲーム……」
「例えば、風と言ったら、竜巻とか嵐とか大気とか。そういう風に関連して自然と出てくる単語が実は本質って場合もあるかもしれない。そう言えばソレに関しても言っておかないといけない事が一つ」
「?」
「この世界には同じ能力者は一人もいない、という事になってる。一応」
「一応?」
「そこら辺の事はまた別の詳しい人に聞くといいよ。ただ、単純に自分と同じ能力を持つ人間は存在しないと覚えておけばいいからさ。ただ、“同じような能力”は存在すると思うから、そこは気を付けるべきかな」
「そうですか。勉強になります」
「それでまずは能力の最大値が知りたいんだけど、やってもらった風の運用をどの程度まで大きく出来る?」
「試した事が無いので何とも」
「じゃあ、あっちの遠方に向かってとにかく強く風を送って貰えるかな? 基本的に出来る事の限界が測れないとどう鍛えていいか方向性が分からないから」
「ええ。では」
ツイッと虚空をなぞって遠方を見た千四の視線の先で風が吹き始めた。
傍目には何が起きているのか分かり難い。
しかし、すぐに異常が始まる。
急激に風音が強まると周辺で千四以外の全員が息苦しさを覚えた。
「ッ、ス、ストップ。ストップしてくれ!?」
フッと音が止むと何処かハァハァと息を切らして佐上が中腰で膝に両手を付いた。
「ん、く……い、今のが最大値かい?」
「強くなれと念じただけで、それ以上になるかどうかは……」
「そ、そうか。それにしても千四君は息が切れてないんだな」
「息苦しい、ですか?」
千四が首を傾げる。
自分はまったくそんな事態にはなっていなかったからだ。
「……大体理解した。たぶん、君の【外力排除能力】はとても珍しいタイプだ」
「防御力?」
「正式には外力排除能力。つまりは外側からの攻撃に対して能力がどれくらい強い耐性として顕れるのか。そういうものを俗称でボーギョリョクって使いは呼称する。でも、その基準外にも幾つか防御に関する能力の作用が研究されてて、自分の能力の直接影響を受けない特殊な作用を【履歴否定効果】なんて呼ぶ」
「ノン・ヒステリシス?」
「つまり、自分の能力による状態変化に晒されない。履歴を残さないって事。このタイプの作用を持つ使いは凄く少ないんだ。使えるもの次第では半ば軍隊より怖い」
「……さすがにそれは」
「冗談だと思うかい?」
年下とはいえ。
それでも自分とは違って長年そういう世界に身を置いているのだろう佐上の瞳に千四は何も言えなくなる。
「まぁ、冗談とも言えないけど【新人】には関係ない話さ。【仕事】も最初は単なる雑用や小間使いが多いし。それをこなしながら、自分が何を使ってるのか。その性質や特徴を掴むといい」
佐上がこれでお終いと片手を千四に差し出した。
「これからよろしく」
「はい。基本的なレクチャーをありがとうございました。佐上さん」
「いやぁ、年上からさん付けはちょっと……これでもまだ若いんだけど」
「すみません」
「そこで謝らなくても。はは」
打ち解けたのだろうかと。
千四もまた僅かに笑んだ。
今度は一人で少しずつ試してみるといいとの佐上からのアドバイスに三人から離れて訓練しようと歩き出した時。
訓練場の扉が開いた。
『六六千四君いる? さっそくで悪いんだけど【仕事】の話が君に来てて。話したいから五階の受付まで来て欲しいの』
声が響き。
彼が振り向くと。
其処には明らかに妖しい存在がいた。
声からして同年代の少女だろうと察したものの。
その装いは黒い外套に顔の半分を蓋うゴーグル。
下の衣装も全体的に黒色の上下だ。
明らかに固そうな暗褐色のブーツは傍目にも民生品とは見えない。
見えるのは目元から下の顔半分。
常識的に見て室内でも付けているのはおかしいのだが、それを笑うものは誰もその場にいなかった。
何故ならば。
今まで千四が来た時にも調子を崩さなかった三人が直立不動で額に手を当てて敬礼していたからだ。
「初めまして」
ドアの前まで言って物怖じせずに手を差し出した千四だったが、内心は少し穏やかではない。
理由は明白だ。
明らかに相手が伊藤のような組織にとっての重要人物だろうと感じていたからだ。
それでなくてどうしてグダグダと駄弁っていた三人が直立不動になるのか。
「初めまして。あたしは【蘆夜豊】」
「蘆夜さん、ですか」
「さん、か。あはは。それでいいよ。千四君。じゃあ、行こっか」
「はい……」
頷いて彼が付いていく後姿を三人が凝視していた。
途中、千四が軽く頭を下げたものの。
それでも不動だった彼らはバタンと扉が閉まるとようやく吐息を吐き出して身体を弛緩させる。
「し、心臓に悪いじゃない!? 止まったら訴えてやる!?」
「滅多な事言うんじゃねぇよ。死にてぇのか……」
智紗が冷や汗を拭いながら喚き、蒼雲がグッタリと呟いた。
「それにしても……彼、普通にしてたな……もしかして鈍い?」
佐上がドアを見つめながら、首を傾げた。
「普通、気付くだろ。あの階梯の使いが放つ気配なんざ、どれも同じじゃねぇかよ」
「やっぱり、大物になるかも……千四君」
「どうだかな。ただの鈍感かもしれねぇ」
「……でも、僕達に息苦しさを覚えさせるとか。使いとしては優秀そうだけど。彼」
「結局、あの目付き悪いのの能力は風なのか? 佐上」
「どうだろう。ただ、少なくとも規模はかなり大きい。もしかしたら【承醒】や【破常】の類かもしれない」
「マジで?! あの目付き悪いの、そんな階梯なの!? 佐上!?」
智紗が思わず驚く。
「断定は出来ない。けど、経験を積んだり、自分の本質を見極めたら【衛星】級になるかも……」
「あの目付きの悪さで幹部……うぁ、ウチの団体めっちゃ悪役じゃん!!」
「あはは、それは言えてる」
笑いながらも、佐上は静かに瞳をドアの先に向けた。
もうエレベーターで上に向かっているだろう。
来て一日目の新人に【仕事】が来るという時点で何かがおかしい。
「カリンちゃん。そ、そんな!? 凄、過ぎる……」
「キモッ!? このヲタクがッ!!」
蒼雲と智紗が溜息を吐きながら、唯一千四とのやり取りでその力の片鱗を感じた佐上がポリポリと頬を描いた。
(何も起こらなければいいけど)
これから一波乱有りそうだな、というのが彼の使いとしての勘だった。




