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第六章「啼けない鳥」~⑦~

今回で六章は終わり。次から最終章です。では、次回。

~⑦~


 ワンがコックピットに呼ばれたのはもう少しで海岸線。


 彼女の妹がいるという街に付く寸前の事だった。


 辺りは既に日が傾き始めている。


 英国製の最新鋭輸送機だとぽっちゃり系武器商人から説明された代物に運ばれて数時間。


 ようやく妹に会えると思った矢先。


 呼ばれた操縦席において上司の声を聞くとは思っていなかった彼女は思わず尋ねていた。


 どうして、こんな場所に貴方がいるのだ、と。


『いや~~何やら支部の施設が幾つか落ちたという話を聞いて、ちょっと遠出先から直接戻りついでの視察に来たんですよ。ははは、この歳でこの恰好は辛いですねぇ」


 伊藤圭太外部顧問。


 実質、紅蓮朋友会のナンバー2と黙される壮年は酷い風音が混じる声でワンに応えた。


「で、どうして此処に?」


『いや、それがですねぇ。ちょっとウチの方に久方振りに合同部隊の編成要請が来てまして」


「合同って、まさか……【大完全戒列シュテレーマ・テレイオン】を?」


 一瞬、自分の妹に差し向けられる部隊の話かとワンが内心で警戒した。


『ええ、どうやらこの海岸線沿いの近辺でクラスA以上の使いが暴走中だとそうで。見つけた団体の報告によると気化弾頭で根こそぎにしようとしたそうですが、すぐに再生されて無理だと諦めたとか何とか。何でもkm単位の災害となって今も増殖中との事です。まぁ、使いは結構惹かれ合うものですし、近くに連絡の取れない彼らがいないかと思いまして』


「そう、ですか」


『そう言えば、貴女はどうしてこちらへ?』


「連絡が取れなくなった妹がこの周辺にある街にいると連絡が入って……」


『そうですか。いやぁ、それにしても随分とお高い輸送機ですねぇ。よくチャーター出来ましたね? 確かインド辺りに英国がライセンス生産を許可した代物じゃなかったですか? ソレ』


「伝手を頼って色々と……それよりも伊藤さん」


『はい?』


「機影が見えないようだけれど、何処から?」


『ああ、すいません。何せ急ぎ機体が用意出来なかったものですから、ウチの使いの子に連れて来て貰ってるんですよ』


 コックピット内で操縦席に座る男達が驚きに目を見張った。


 窓の外からヒラヒラと手が振られていたのだ。


 それにさすがのワンも驚く。


『いや、本当に持つべきものは使える部下ですねぇ。では、一足先にこっちは化物を見てきます。そちらが降りる街で合流しましょう。千四君達がいたら、集めておいて下さい。それでは』


 何やら最新鋭の輸送機を大幅に超過する速度でスカイダイビングのタンデム用スーツに身を包んだ二人の人間がまるで見えない乗り物にでも乗っているような中腰で北部へ進路を曲げて消えていく。


「初めて見た。あれが紅蓮朋友会の気体使い」


 彼女の後ろでビッグマウスが目を丸くしていた。


「珍しいもの見ちゃったな。後で皆に自慢しよう……」


 ただ見に来ただけだったのか。


 イソイソとその丸い身体が扉から出て行こうとして。


「レーダーに機影。どうやら、戦闘機のようです」


「戦闘機?! 軍閥のものか確かめて頂戴!! もしも、応答が無かったら、こちらで何とかするわ」


「わ、分かりました」


 二人のパイロットがワンの指示に従った。


「一応、オプションとして機体の護衛用の使いも連れて来てますけど」


「必要無いわ。その時は自分でどうにかする」


「分かりました」


「応答在り」


『こちら【黄昏領ヴェスペラード】所属マイラック・コーエン。【被猫丘ビビアル】所属機体に告げる。当方はそちらに何ら干渉する気は無い。以上』


「え?」


 輸送機を軽々と追い越して


 ユーロファイターが悠々と空の果てに消えていく。


 明らかに常識を超える加速。


 何かしらの使いが操っているのは間違いない。


「愛想が無いのは良いけど、僕等って心底舐められる定めだと思う」


 ドアの横で何故か棒に付いた丸いキャンディーを口に含みながら、ビッグマウスがふぅと溜息を吐いた。


「相手にされたって困るでしょうに」


 ワンの最もな言葉に肩が竦められる。


「基本、欧州より南米や亜細亜の方が売り上げが良いのって、彼らのせいなんだよね。足元見られちゃって」


「“皇帝”が商売に興味無いって話?」


「そうそう。こっちの総代の人とは面識あるけど、あの人は基本的に良い人だよ。金回りは悪いけど、足元見たりはしないし。うん……まぁ、怖い金庫番が唯一の難点ではあるけどさ」


 その相手を容易に思い浮かべて、ワンはパイロットからの見えたとの報告に前を向く。


 其処には沿岸部に広がる大きな街が広がっていた。


「行くわ。高度を下げて、ハッチを開けて頂戴」


「じゃあ、こっちも準備しよう」


 彼らが今度こそ後部に向かおうとした時。


 ガタガタと機体が揺れた。


「乱気流か上昇気流にでも捕まった?」


「い、いえ、周囲にそのような前兆はありません。何だ? 計器の故障か……」


 ビッグマウスの言葉に応えたパイロットが操縦席のあちこちのスイッチを確認していたが、原因が発見される前に一際大きく機体が揺らいだ。


 思わず倒れ込みそうになるぽっちゃり武器商人の手を掴んで、フゥが周囲の壁を掴む。


「おっととと、あ、ありがとう。一体何が……」


「どうやら、何かあの街で起こってるようね」


 顎で示された街の上空に黒い球形が浮かんでいた。


 その周囲がグニャグニャと歪んで見える。


 光が曲がっているのだ。


 何をどうすればそんな事になるのか。


 彼女にはちっとも分からなかったが、その事象の中心にいる人間だけは分かっていた。


(……六六君。貴方なのね……なら、フゥもあそこに……)


 彼女が見つめる先で歪みが消えた数m程の球体が上空へと急加速して遠ざかっていく。


 そうして。


 世界は再び新しい場面シーンへと突入する。


極点消失(ポール・バニッシュ)


 四年前、世界が災厄を経験した日と同じ。


 大陸の各地は黒く黒く塗り込められ、あの日よりも濃い闇が全てを呑み込んでいった。


                  第六章「啼けない鳥」了

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