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第六章「啼けない鳥」~③~

クライマックスまでもう少し……。では、次回。

~③~


―――大陸沿岸部移民湾岸特別区【希望の地】。


 一通りの打ち合わせを終えたフゥと千四の間に妙な間が出来たのも当然だったかもしれない。


 片や告白され、片や告白した当人。


 片や内戦を主導し、片や大陸の掃除に乗り出す本人。


 彼らの間には大きな溝など無い。


 要は何かしらの願があって、それに必要な力を持っていた。


 それだけだ。


 片方が内戦という武力に訴え、片方は持て余す力で誰かを助ける。


 対照的ではあるが、結局の所……彼らは似ている。


 千四はその力で己の日常を願い、彼女は大陸の改革を願った。


 出来る限りの力で戦わずに済まそうと少年は誓い。


 殺しても憎まれても少女は現状からの脱却を決めた。


 万人殺そうと一人殺そうと二人はもうたぶん全うではない。


 法に裁かれないというだけだ。


 世の中にだって裁かれはしない。


 彼らを裁く者があるとすれば、それは同じ使いだけだろう。


 其処に疑いはない。


 だから、使いというものが話から抜け落ちると途端に話題が無くなる。


 今正に彼らのせいで人が争い、死に往く今。


 個人的趣味を話し合うような雰囲気では無いし、さりとて更に個人的な恋愛を語るのも憚られる。


 少年は自分のせいで人が死ぬというなら、本来人間として止めるべきなのだろう。


 だが、止めたところで無限に決着が付かない泥沼になる事は目に見えている。


 少年は特定の対象を消し飛ばす事なら簡単に出来る。


 しかし、大陸規模の広範囲を何の準備も無く力で制圧する事は出来ない。


 そうするには力量も自らの力の制御も未だ習熟していない。


 例えば、弾丸に使われている火薬だけを能力によって消したところで戦争は止められないのだ。


 人には腕がある。


 硝子片だろうが、石ころだろうが、棍棒だろうが、戦おうと思えば、泥臭い戦い方はできる。


 塹壕の中で最も人を殺した兵器はスコップだなんて嘘か真か良い例だろう。


 無論、銃を大陸規模で失くせば、戦争は停滞するだろうが、そうなれば、今度は何処までも数の暴力に全てが飲まれていくだろう。


 人間を人間に殴り殺させるだけだ。


 此処でフゥを止めなかったのは止めようも無かったからなのだ。


 彼には自分に出来る事の限界がハッキリと見えている。


 何もかもを救おうなんて傲慢を口に出来るだけの実力も無い。


 出来るのは自分に関わる人々に対し、一貫して自らを貫く事だけだ。


 その為なら日常を守ろう、戦いもしよう、どうしようもなくなれば、人だって殺すかもしれない。


 しかし、フゥやツァオを黙らせたところで内戦は止まらないし、止められたとしても、残っているのは軍閥と延々に解放戦線が戦い続ける地獄のみ。


 それすら少なくとも千四が大陸から帰れば、即座に再開される。


 一時的な休戦に過ぎない。


 他国の介入や武器の供給が行なわれれば、再び内戦は燃え上がるだろう。


 千四は本の中の主人公達のように誰でも助けて、戦争も止めて、なんて事は言わない。


 現実を肯定し、能力を運用し、自らの行動を見極め、自分が譲れないと思う一線を守るので精一杯だ。


 それは……少なからず共に行動し、それなりに好意に値する少女や使いの仲間達の事であり、自らが帰る日本の我が家や地域の事なのである。


(誰も答えなんて持ってない……ただ、自分で掴んでいくしかない……手の届く場所にいつも答えがある主人公ってのが羨ましい限りだ……)


 内心、愚痴って。


 沈み込みそうになる気分を支えながら、リアルタイムで消えていく数字を見つめ続けて。


「センシ。どうか、そんな顔しないで欲しいアル」


「フゥ?」


「……さっきはセンシのせいだと言ったアルけど、どのみちこの大陸に内戦が起るのは必然だったアルよ」


「物資の枯渇でか?」


 コクンとフゥが頷く。


「現在、工場を動かす為のエネルギー不足が深刻な状況アル。また、裏社会から放出された拳銃やその他の兵器が大量に鬼城へ出回っていた」


「もうすぐだったと?」


「そうアルよ。でも、軍閥が最大の戦力を持っているのは明白できっと鬼城は互いに潰し合いをする事でしか生き永らえる事は出来なかったアル」


「そうか。今回の内戦は……」


 気付いた千四にフゥは頷く。


「そう……この内戦は大陸が何とかコントロール可能な内に軍閥という最大の食い扶持を減らして物資を開放し、時間を稼ぐ為の戦い。センシは確かに引き金ではあったけど、それは暴発直前だったアル」


「……その名目で国内から武器を掻き集めたんだな?」


「鬼城同士が戦えば、結局最後には物流が壊滅して、現状維持は不可能になる。そうなれば、後には緩やかに死滅していく未来しかない。けれど、武器を取り上げられるなら、枯死する限界まで争いは起らない。いや、起こせなくなる……その間に外国から統一政府として支援を受け取れれば……ツァオと一緒に考えた最後の策アル」


「……この戦いで死ぬ人間の年齢は幾つだ」


「やっぱり、センシは凄いアルね……お察しの通り、高齢者と中年を中心にしてるアルよ……」


 実際、これしかないという方法だった。


 放射能汚染がマシな地域はそれなりにあるが、汚染されていない場所は皆無と大陸は言われている。


 生産では食べれば、内部被爆確実と言われる食料が普通に出回っているのだ。


 汚染されていない食料や水などの支援物資があれば、子供の内部被爆は防げる。


 今現在の大人達はどうにもならないとしても、希望は残せるかもしれない。


「この戦いは鬼城を含まない全軍閥の拠点で行なわれるアル。兵士達には事前に……死ぬ寸前、自分が知る限り一番幸せだった時の記憶が甦るようにしておいたと通達してるアル。満足な体ではない彼らには最後の戦術として、汚染でもう長く生きられない人間を前に立て、盾として使うようにと。健全な者は温存、集めた武器と弾薬は最後の一つまで使い切る事を厳命。軍閥連中からすれば、きっと悪夢アルね。寝返った味方、鬼のような顔色で味方を盾にする敵、今まで金と引き換えにしてきた武器の全てが自分達に最悪の形で向けられ、今まで虐げていた弱者が肉の壁となって襲ってくる……我ながら、きっと死んだら地獄行き確実アルよ……」


 自嘲したフゥは今も減り続ける数字を目に焼き付けるよう凝視する。


「フゥ」


「?」


 少年が立ち上がる。


「案内してくれないか?」


「此処をアルか?」


「いや、お前が守ろうとしたモノを、だ……」


「センシ……」


「もう全部背負える数字じゃないのは分かってるはずだろう?」


「……そう、アルね……」


「少なくともお前は生きてる。このまま死者の数字に引き摺られても、ロクな事にならない。自分の為に利用したなら、背負うだけじゃなく、その結果にも目を向けろ。そして、それがどんなものか。僕に教えてくれ。沢山の人を殺しても、利用しても、守りたかったお前の大切なものを……見せて欲しい」


「あはは……敵わないアルね。本当に……昔、聞いた通りアル」


「昔?」


「“日本鬼子ズーベングイズ”は最悪の存在だ、なんてよく悪口を言う人がいたけれど、同時に彼らを見習えという人間もいたアル。センシが来た時は最悪のタイミングで来た厄介者だと思った……けれど、今はこうして尊敬出来る……」


「そんな風に言われるような事は何一つしてないつもりだ。ただ、自分に出来る事をしてたら、大事に巻き込まれ易くなっただけで……フゥと何も変わらない……」


「でも、この大陸の誰もがトン故に自らを滅ぼし掛けて……きっと、外にいる華僑や周辺国に愚かな奴らだって、ずっと嗤われるアルね」


「なら、お前が褒められるようになればいい」


「出来ると思うアルか?」


 その真っ直ぐな瞳に少年は苦笑した。


「日本にはこういう慣用句があるんだ。勝てば官軍負ければ賊軍、てな」


 手を差し出して、それを掴んだフゥが立ち上がる。


「勝てばいい。殺した人間や利用した人間を気に病むなとは言わない。ただ、それでも自分が求めたものが最後まで貫けたなら、それは勝ちだ。其処にもう一つ目標が増えたっていいじゃないか? 歴史は敗者に作れない。生き残って、書き記した奴にしか作れないんだ。それとも、この大陸を守ろうと自らの命を使い果たして戦ってる人間を悪人として仕立て上げるような政府を作るつもりか?」


「そんな事!!」


「なら、どうしてその中に自分の勘定が入らない?」


「フ、フゥさんは……」


「行動で示せばいい。それが何年掛かるか。何世紀掛かるかなんて分からないんだ。自分が出来るだけの事をして、自分の民族が尊敬されるような大きな功績を残せばいい。気にするな。結果なんて後になって振り返って見ないと良かったか悪かったかなんて、すぐ言えないんだ」


「何だか、投げやりアル」


「他人事だからな。でも、少なくとも、此処に一人、こんな大陸の人間がいる。こんなに褒めてやりたいと思う人間は他いない。そう思ってる奴がいる。後になって増えるかどうかは自分次第だが、今はこれで我慢してくれ」


 そっと手がフゥの頭を撫でる。


「頑張ったな。フゥ……」


「―――」


 思わずクルリと後ろを向いたフゥが小さく告げる。


「実は……センシ……ハーレム系主人公じゃないアルか?」


「何だか、今凄く俗っぽい単語を聞いた気がする」


「フゥさんは少し、顔を洗ってくるアル……ちょっとドアの外で待ってて欲しいアルよ」


「……分かった」


 少年は言われたようにドアの前まで歩いて行くとガチャリとノブを回して呟く。


「気長に待ってるぞ」


「はぃ。アル……」


 扉が閉めて。


 少しだけ少年は耳を塞いでいる事にした。


 年頃の同年代が少しでも気楽に出てこれるようにと。


 それでも……僅かに聞こえる声は激しく。


 けれども、ずっと聞いていられるような明るいものだった。

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