第四章「開かれぬ運命」~④~
これにて第四章は終了。終盤に向けて第五章が始まります。では、次回。*これから投稿は午後三時からになるかと思われます。
~④~
夢を見ていた。
何処までも続く地獄の如き世界。
暴力、暴力、暴力の嵐。
天変地異に大地は割れ、草木が枯れ、空は雲に覆われ、死の雨が降り注ぐ。
砕けた瓦礫に移ろう死者の群れ。
痩せこけた肉体ともう助からない症状に苦しみ。
肌は変色し、諦観と絶望に打ちのめされて、今日食べるものも無く。
他者を襲っては返り討ちにあうか。
殺して犯して喜悦を得るか。
獣の如く徘徊しながら、終わりも定かでは無い夢幻を彷徨う。
擦り切れ、破れた衣服。
垂れ流された糞尿の臭い。
死者と煤煙の朽ちた馨。
さぁ、次の犠牲者は誰だと付け狙い。
人間とは思えない自分に嘆く。
止めてと泣き叫ぶ女を殴り、止めてと震える子供を売り飛ばし、僅かな金を誰かに奪い取られ、死に掛けて地べたに這いずる。
衣服は剥ぎ取られ、通り過ぎるものは誰も構わず。
涙すらも無く。
ああ、自分は死ぬのかと。
死んでしまえるのかと。
ようやく安堵して、空腹の中で笑みすら零せず。
恐怖すら麻痺したまま。
息絶える、はずだった。
――――――それは天使か。
何処かの誰かが説いた神の使いか。
紅の瞳に赤い髪。
抜けるような白い肌と華奢な身体。
手を差し伸べてくる温かな光。
心地良く響く声。
死なないで。
優しく撫ぜられて。
そうか、と笑う。
これはきっと夢に違いない。
幸せは何処までも続く。
その為なら何だってしようと。
『………』
それがお前の能力なのかと少年は―――脳裏から“幻想”を排除した。
そう、少年の力は【真空】。
その状況を作る過程においてあらゆるものを一定領域から取り除くもの。
如何なる物質、エネルギー、干渉をも撥ね退ける能力。
実態無き概念すら例外ではない。
何故なら、彼の産み出す真空は“概念上の真空”であるからだ。
何も無い空間。
虚。
ならば、其処には何一つとして存在してはならない。
この数週間で紅蓮朋友会より与えられたクラスはB+。
だが、それは対外的なものでしかない。
戦闘における戦略級の広範囲殲滅能力を保有すると確定された彼は眼鏡なアルカイックスマイル上司より内々に攻撃防御共にクラスS認定だと思って貰って構わないとのお達しを受けている。
正式名称【真空使い】。
六六千四。
目付き極悪ヲタゲーマー。
世界を滅ぼした“神”の力を【承醒】により受け継いだ男。
能力開放の限界である【制約値】。
能力の複数展開を可能とする【並列起動限界】。
自己の能力によって傷付かない【履歴否定効果】。
全てにおいて過去の破滅の元凶を上回っているのは確実。
分かり難くとも物理法則を超越している能力は【破常】で間違いなく。
過去、三人のクラスSSとの戦いに敗れた“神”を超える力を手に入れた彼は事実上の第四極。
その気になれば、新たな使いの組織を束ねる長にすら成れるだろうなんて上司から言われている。
(馬鹿な話だ……本当に……)
ゆっくりと意識を浮上させながら、少年は自分の中から排除した力が何を司るのか。
感覚で理解していた。
(約束は……守る……あんたに大見得を切ったんだ……あんなに可愛い子が泣かなくていいように……それくらいは通してみせるさ……この綺麗事を……)
自分を殺さなかった男を思い出しながら、少年は誓う。
この破滅した世界に生き残った誰もがそうであるように。
きっと、人は一人では生きられないから。
傍にいる誰かくらいには手を差し伸べようと。
「待ってろ……フゥ」
呟きは浮上した意識に刻まれた。
それは仕事ではない。
ただのヲタクの意地。
儚げな美少女が泣いているより、笑っている方が嬉しい。
そんな、たったそれだけの話に違いなかった。
第四章「開かれぬ運命」了




