第四章「開かれぬ運命」~③~
物語にはやはり気の良い仲間達が必要不可欠だと思います。では、次回。
~③~
『輸送機で送った指定座標まで来られたし、千四と共に其処で待つ』
燃料を積んだ車両を持ってきた軍人らしき男は一枚の地図と日本語の伝言を残して去っていった。
むざむざ相手を逃がしたのはこのような状況でも一人冷静さを欠かなかった豊が全員に言い聞かせたからだ。
何があったかは分からない。
だが、燃料は届き。
フゥの伝言という体でメッセージが来た。
千四が負けた事に驚きを隠せなかったのは全員が同じだ。
あれ程に強い能力を持っているならば、万一の事は無いと思っていたのだ。
それが何故か囚われたらしいとなれば、相手の能力は想像を絶しているに違いなく。
「で、どうするんだ? 監察官殿。昼間の夜空の事といい。あの子が裏切ったようにも捉えられるメッセージに地図の場所。どう見ても軍閥の罠のように見えるんだが」
輸送機の外。
暮れ掛けた世界で粗末なテーブルを囲んで。
使い達は一枚の地図を見る。
現在の大陸の地図だ。
そして、その一点に印が付いている。
場所は大陸が沈む事で新たに発生した沿岸部の一地域。
それをずっと睨んでいた豊が考えを整理するように話し始める。
「……迎えに行くよ。あたしの任務は皆を国に帰す事。千四君を守る事だもん」
「そうは言うが、相手の姿を見りゃ分かっただろ? 完全武装の兵士がやってきた一人だけだなんて思えねぇし、オレ達の戦力じゃ、どうやっても太刀打ち出来ない。勿論、あんた一人でどうにかするって手もあるが、実際軍閥相手に何処まで出来る? 十人や百人ならどうにかなるかもしれねぇ。だが……」
蒼雲が自分で吐き気がするような事実を連ねながら、言葉を切った。
それに誰も異を唱えない。
「監察官。さっき来た燃料を合せて計算したら、台湾の空港まで行ける事が判明した」
「ちょっと、佐上!? 見捨てようって言うの!!?」
「そうは言ってない。だが、明らかに戦闘向きじゃない僕等だけでも逃げるってのはアリだ。少なくとも、監察官が守る対象は減って、後ろを気にしなくてよくなる」
「そ、それは……で、でも!?」
智紗が自分達の纏め役が言っている現実的な案にそれでも食い下がる。
「まぁ、聞け。オレだって、千四君を見捨てたいとは思わない。だから、ギリギリの線でどうにか出来ないか無い知恵を絞ってみた。全員、これを見てくれ」
佐上が原発の位置と支部が持っている滑走路の位置。
更に渡された地図を全てテーブルへ並べる。
「いいか? この地図と今まで全員で辿ってきた道。この位置、分かるか?」
「……来いって言われた場所が隠し滑走路の一つと近いのか?」
蒼雲の言葉に佐上が頷いた。
二つの地図を見比べると確かに隠し滑走路の位置と来いと指定された場所は重なるようにして見える。
「近いと言っても93km離れてるが、これは使えるはずだ」
「使える?」
「幸いにして現在確認されてる軍閥の空軍基地は周辺に無い。航路は一先ず安心だ。相手がその場所まで先回りしてくる事も無いと言い切れる」
「どうしてだよ?」
「放射能汚染の地図を見てみろ」
「あ、此処って……」
豊が気付いた様子で広げていた幾つかの地図を脳裏で重ね合わせた。
「そう。標高が高い場所に設置してるからだな。周辺は重度の汚染地帯だが、滑走路のある一帯は無事だ。この地図は約二週間前のもの。信用度は高い。汚染が広がっていない確率の方が高いだろう」
「どうするつもりだ? 確かに陸からの待ち伏せは無いかもしれないが、これじゃ陸上は通れないんじゃねぇか?」
「そうだな。普通ならそうだろう。だが、監察官は肉体強化系。どちらかと言えば、治癒が行なえる方向で強いと聞いた事がある」
「おいおいおい!? 重度汚染地帯を渡らせようってのか?!」
「佐上!!?」
蒼雲と智紗がどちらも責めるような視線となる。
「うん……いいかもしれない」
「ちょ、監察官!!?」
智紗が思わず止めようと肩を掴む。
「大丈夫。あたし、これでも頑丈な方だから。それにこれくらいの汚染地帯なら能力を使い続ければ、死んだり、後遺症が残ったりはしないと思う」
「そんな!? 確かに監察官は強いかもしれないけど!? むろっちはそんなの絶対ダメって言うはずだよ!?」
「あはは、うん。千四君ならそう言うと思うけど、皆を守るのもあたしの仕事だから」
「監察官……」
智紗が拳を握って俯いた。
「あたしを此処に投下した足で台湾の空港まで行くって事でいいのかな?」
佐上が豊に頷く。
「台湾には確か【衛星】が一人常駐してます。無線封鎖されている大陸から抜け出せば、連絡を取るのは容易でしょう。輸送機さえ無事なら、取って返す刀で増援を送り込む事も出来るかもしれません」
「……うん。合理的な判断だと思う」
もう決めてしまった様子の豊の様子に蒼雲は溜息を一つ。
「あんた漢過ぎて、こっちが泣けてくるぜ。なら、今から貸せる限りの手は打っておくか? 空気吸っただけで内部被爆なんてのも詰まらねぇだろ?」
ヘモグロビン使い。
その真価はあらゆる場所において無呼吸での高度な運動を可能にする。
マスクの類はあっても、微量な放射性物質でも吸い込めば、内部被爆は確実。
例え、治療系の能力があっても、甲状腺に蓄積した場合や内部からの被爆はかなりのダメージとなる。
それを思えば、外部からの被爆を自身の治療で可能な限り低減出来る豊にとって、蒼雲の能力は現在最も相性の良い力と言っていいだろう。
「ありがとう」
「……そりゃ、あいつを助けてから言ってくれ」
「何カッコ付けてんのよ? 漫画ヲタクの癖に」
何処か頼もしいものを見る視線で智紗が苦笑する。
「ちっとは空気読め!? 締まらねぇ……」
「あははは」
豊の笑いに全員が釣られて唇の端を歪める。
―――良い仲間を持ちましたねぇ。
不意にそんな声が聞こえた気がして。
豊は内心、頷いた。
「では、決行は明日の朝。全員で最善を尽くそう」
「ああ」
「うん」
「そうだね」
頷き合った四人であったが、ふと智紗が今思い出したように周囲を見回した。
支部の職員達が遠巻きにして何を話しているのだろうかと自分達を見ているのに気付く。
「あ、あのさ」
「どうした?」
首を傾げた蒼雲に智紗が真面目な顔で訊ねる。
「あの子がいないのにどうやってソレ、あの人達に教えるの?」
「あ」
「おいおい。此処まで来て言語の壁かよ!?」
「大丈夫」
「え?」
三人に豊はニコリとして端末を取り出した。
「一応、翻訳アプリ持ってきたから」
「ぅ……旅行気分でごめんなさい」
智紗が思わず謝った。
豊以外の三人はどちらかと言えば、夏のバカンス気分だったのも相まって、現地語の翻訳手段を一切持ってきていなかった。
「ま、まぁ、とにかく。まずは今どんな状況なのか教えよう。どちらにせよ。彼らだって生き残る為にはこの輸送機が必要なはずだ」
佐上が豊の端末を借りて、アプリを起動し始める。
(千四君……必ず助けるから……どうか無事でいて……)
紫雲に染まる空は雄大で夜は少しずつ迫っていた。




