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第四章「開かれぬ運命」~①~

第四章に入りました。此処から物語は過酷になっていくでしょう。では、次回。

第四章「開かれぬ運命」~①~


 鬼城グイチャン


 一言で言えば、廃墟の事である。


 第二次大戦後。


 世界各国から人件費の安さを見込まれて投資が集まった国は名実共に世界の工場という地位を得た。


 事実、それは膨大な生産能力を中国という国に与えた。


 しかし、それが加速しても尚、其処に虚実が織り込まれた事は経済学者達の大半にとって半ば予測出来ない事態だったに違いない。


 過去、自国で数千万人とも言われる死傷者を出した文革と呼ばれる一大セレモニーは時の指導者へ地方の役人達が数字の嘘を積み重ねていった事で被害を拡大させた経緯がある。


 鋼鉄の生産量を上げるという名目で農民の農具が接収、屑鉄にされ、田畑が荒れて食料生産は激減。


 しかし、数字を盛った役人達の上に成り立つ統計は素晴らしく。


 更に生産へ邁進する旨を地方は言い渡され、炉へ更に農具を放り込んでは塵を作り、数字は盛られた。


 このような虚栄の果てに多くの人民が飢餓に直面し、インテリ、知的階層が共産主義の前に消えていったのが時の文化革命の一端である。


 現代においても同様の事が起った背景は然程驚くに値しない。


 国内総生産(GDP)の異様な伸び率からも、それは一部国内の識者達からすれば自明であった。


 統計が信頼を失えば、それは数字に意味が無い事を意味する。


 自国の不利を反映しなかった富の値は右肩上がり。


 しかし、実際には多くの投資が回収不能の不良債権と化していた。


 二千年代に入ってからのGDPの内実、その大半が不動産の売買であった事を知れば、その富の内容が如何にバブルであった事かが窺い知れるだろう。


 無論、そうだとしても資産の実体が残っているなら、多少は回収が可能だろう。


 しかし、現実は小説よりも奇也。


 不動産売買による土地転がしが極限まで進められた結果は経済学者も首を傾げる物となった。


 一重に不動産が国家からの貸与物であるという国内法から来る認識がそうさせたのか。


 それとも不動産そのものに真摯に当る姿勢が欠けていたのか。


 どちらにせよ。


 それは大陸に現われた。


 運用不可能の烙印を押された大量の建築物群。


 マンション一つを例にとってみても、開発中のまま頓挫した建物が多過ぎた。


 更に明らかな手抜き工事の横行は施工業者によるものか。


 はたまたそう最初から建設する当事者からの指示だったのか。


 ドアの無い部屋や水道管が通らない部屋なんて当たり前。


 そもそも通路すらまともに完成していない事すらあった。


 コンクリートの中に入っているのは鉄筋ではなく。


 酷い時には竹か藁という事さえあったというのだから凄まじい。


 その実態は如何に国が隠そうと国民にも知れ渡るところだ。


 例え、まともに完成してもテナントが入らず廃墟化するショッピングモールは数多く。


 都市造成においても不要な箱物の粗製乱造、賄賂から来る売り上げの圧迫に手抜き工事が横行した結果。


 誰も住めない、誰が利用するのか、誰が債権者なのかも定かでは無い巨大な廃墟が数多く大陸には残された。


 大災害から四年。


 本来なら国が接収するか。


 あるいは単に放置するか。


 という其処に人々が住み着いたのは住む場所を失ったからというだけではない。


 仮にもコンクリート製の建造物が頻発する地震や嵐を防ぐ最後の術でもあったのだ。


 故に鬼城は今や軍閥すらも手出し出来ない一種の魔窟スラムの様相を呈していた。


 廃墟の住民達から彼らはしのぎを上納させているが、だからといって強権的に直接税を接収する事は劣悪極まる治安が壁となって不可能。


 結局は現地の統治層を通じてしか行なえていない。


「……此処が」


 一種の自治を有する鬼城の姿は都市国家という体に見えなくもないが、内実は災害を生き残った富裕層と瓦解した現地警察機構の生き残り、上部の共産党員達による共同の商業母体だ。


 沿岸部が沈み、無限とも思える災害の連鎖と疫病、飢餓にも関わらず大陸の人民が生き延びてこれたのは一重にそういった連帯する資本層が未だに力を持っていたからに他ならない。


 人民をただ搾取するだけではなく。


 実態としての富と必要な物資の生産が可能な設備を指導者層は多少ながらも有していたのだ。


 これは大陸特有の過剰な設備投資。


 つまりは不動産にも関連する大量の工場が残っていた事に由来する。


 本来なら過剰な生産能力は調整されて然るべきであるが、壊滅的な被害を受けても尚数億人の人間が生存する大陸において、その過剰さが全てを救った。


 災害からの復興に掛かる膨大な資材の要求。


 それに残された過剰な設備投資の残渣が僅かながらも応えたわけである。


 軍閥は元より、各地に点在する鬼城の都市国家達は其々に残った設備を使い物資を生産する事で細々とではあるが、物流を何とか維持し、人々の生活を支える事に成功していたのだ。


「大きいな……」


「そうアルね。此処は比較的物資の交換が盛んな場所アルから」


 フゥとセンシは二人で着陸した滑走路から東に69km地点にある鬼城、三階建ての広大な敷地を持つショッピングモールへと辿り着いていた。


 周囲はまだ昼時。


 草の生えた駐車場には涼やかな風が流れている。


 瓦礫の山に埋もれるようにして存在する其処は3分の1程が崩れている。


 が、崩れた場所は大きく鉄骨や厚塗りされたコンクリート、竹や縄などで補強されており、歪に膨れ上がって、100m近く広がっていた。


 駐車場の周囲には小銃を持った歩兵が八人程、監視に当っている。


 支部が話を付けた航空機の燃料を売ってくれる相手というのが、その場所を牛耳る人間だという話は今朝彼らに通達された。


 そして、支部の人員だけが荷台の空なトラックの運転席から降りてきたのを見て、全員が不吉なものを感じた。


 問題はこうだ。


 最初売ってくれると言っていた相手が渋っている。


 輸送機の搭乗者を連れて挨拶に来なければ、燃料は渡せない。


 最初、豊が行くと言い出したが、一晩中起きていた少女の顔色は悪く。


 全員が止めた。


 更に使い全員で出て行けば、問題もあるという事でメンバーの中で豊の次に強い千四と使いとして全員の安全を負かされたフゥが赴く事となった。


 輸送機の警備は自分が中心となり行い、二人の帰還まで守り抜く。


 そう残された少女が口にして、全てが決まり、フゥの運転でトラックは転がされ、そこまでやってきたわけだ。


 初めから話は通されているらしく。


 小銃を下げた男達はフゥと何度か会話を交わすと頷いて、あっさり二人は駐車場内部へ入る事が出来た。


「行くアルよ。センシ」


「ああ」


 車両から降りてフゥの先導でモールの増設された入り口から中へと足を踏み入れた千四は薄暗くも建材の隙間から漏れる光で満ちるストリートに僅か目を見張った。


 内部に人と物が溢れていたのだ。


 薄らと香るものが御香の類ではない事は彼にも想像が付いた。


 ケバケバしい化粧メイクと派手な色合いの布面積が少ない衣装を着た女達。


 何やらレーションの類を齧って、水のように透き通った刺激臭のする液体を飲む男達。


 店先で二十年程昔に発売された思われる携帯ゲーム機を手に番をする男児達。


 まだ幼いが玄関先で見た女達のように化粧をして原色の派手な下着姿でウロウロしている女児達。


 食料、衣料、そして娯楽物、怪しいアンプルと使い捨てらしき注射器がズラリと並ぶ店先。


 豚の顔が置いてあるかと思えば、猿と思しきお面を置いているところもある。


 老人達が数人囲碁と麻雀を打っている横を通り、その先に向かうとまさかと思うような光景があった。


「噴水?」


 このご時勢、何処から水を引いているのか。


 贅沢な話だ。


 飲料用も兼ねているらしく。


 水汲みをする子供達がちらほらといた。


 その瞳が今まで通ってきた道端にいた者達と同じく。


 何処か不思議そうな顔で二人を見た。


 フゥが珍しいのだろう。


 視線の大半は少年の横へ向いている。


 少年にしてみれば、もう見慣れた少女の姿であるが、確かに大陸では一際目立つに違いない。


「えっと、聞いてみるアル」


 少女が近寄って自分と数歳くらいしか違いの無い相手に何やら話し掛けるとすぐに複数の指が一つの方向を指した。


「こっちらしいアルね」


 ペコリとフゥがお辞儀をしてから千四を伴って、薄暗い道へと歩みを進めていく。


 水を汲んでいた子供達は一様に目をパチクリとさせて、コソコソと大人達に聞こえないよう喋っていた。


 どうして頭を下げたのだろう、と。

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