第三章「黒き軌跡」~②~
本格的に物語は深く進行していく事でしょう。では、次回。
~②~
結論を言うと四発のRPGが飛んで来た。
離陸した直後の事だ。
弾体を直接千四は見たわけではない。
が、しっかりと彼の乗る輸送機を中心とした半径40m圏内は守られた。
具体的には近付いた弾体が途中で爆発したのだ。
何かに硬い壁にでも当ったかのように。
無事に離陸した輸送機を追って地表から色々と地対空ミサイルの類が数発打上げられはしたものの、全てが途中でやはり機体を捕らえる事なく爆発。
相手は何らかの武装による迎撃が為されたと推測したのか。
高度が上がっても同じような兵器によって撃ち落そうという試みは行われなかった。
輸送機のパイロットは智紗が行なっており、緊急時にはすぐ千四の力を借りると言って早数時間。
早くも目標地点に彼らは差し掛かりつつあった。
「大体この辺アル。たぶん、そろそろ見えてくるはず……」
フゥが輸送機のコックピットの後ろから眼窩を見下ろし、小型端末の地図を確認していた。
その横には豊と千四がいる。
曇り空がようやく途切れた時、コックピット内にいる四人は黒い地表に僅か視線を細めた。
それが何なのか知っていたフゥはともかく。
三人が一人ずつ驚きに瞳を見開く。
「むろっち……まさか、これって全部」
智紗が気圧された様子で息を飲む。
「ああ、間違いない。都市の残骸だ」
彼らが見下ろした世界にはたぶん一面の都市が広がっていたのだろう。
しかし、航空からですら見るも無残に焼け落ちた世界は鮮明に見えた。
内陸にビルは少ないようだが、それも半ばまで焼け崩れているのが大半。
商業中心街よりも端の方に広がる住宅街らしき場所の方が焦げ方は強く黒かった。
「あの当時、殆どの人間は世界が終わるなんて嘘だと笑ってたそうアル。でも、それが現実なんだと知ってあちこちで暴動と略奪と放火、それに沢山の犯罪が起こった。停電に際して窃盗から強姦まで犯罪件数は鰻上り。それも誰が付けたのか分からない火に撒かれて、全部消えた……」
豊が眉を寄せて俯く。
「嘘……まだ燃えてる? 煙が……」
燃え尽きた黒い大地の一角から白い煙が上がっている様子に思わず智紗が顔を引き攣らせた。
「違う。アレはたぶん……」
「そうアル。軍閥がやっている除染作業の為に集められた人間の煮炊きの煙……確か此処には三万人くらいいるって、ねーさんが前言ってたアルよ」
「そ、そんなに……だ、だって、此処すぐ近くに事故原発があるんでしょ!? なのに近くで食事させてるの!?」
智紗が思わずフゥの方を向いた。
「汚染箇所は基本的に風任せ。比較的被害の少ない場所を選んでいるとは言ってたアルが……どっちみち、高濃度汚染された場所で毎日働かせられて、一ヶ月で“使い物にならなくなる”アルよ。それでもこの仕事にありつけた人間は幸せアル……」
「し、幸せって!?」
言葉を選んで死ぬとは言わなかったものの、幸せという言葉に智紗が反論しようとする。
それを千四が手で留めた。
「……何処が汚染されているかも分からない世界で食事も儘ならず、安全な水や寝床も無い。犯罪率を考えても飢餓か暴行を受けて死ぬ確率の方が高いような場所で食事や金銭、寝床が提供されるとしたら、何をしても其処まで行こうって人間は多いはずです。それが汚染源の近くだとしても……」
「そ、それは……そうかも、だけど……だけど……」
いつも遊んでいる風な智紗だが、中身は普通の女の子である事を千四は知っている。
仲間思いの少女は優しいのだ。
例え、カタギとは違う仕事や人生を送っているのだとしても、使いという能力に縛られた存在であろうとも、早々人間を止められる者は多くない。
「基本的に彼らは英雄として石碑に名前を入れられるアル。建前上、動員は無償。故に彼らは祖国の大地を守った人間として政治上は扱われる。勿論、その寝床や食事は軍閥連中からすれば、受け取った支援物資の微々たる量に過ぎないアルが、今のところ不満はあっても革命を起こそうなんて人間はいないアル」
「どうして……?」
智紗が呻くように訊ねる。
「今の大陸の現状は殆ど一部の人間による独裁アルよ? そして、此処は共産主義国家だったアル。実質的な体制が変わってない上に自分達が生き延びる為の方法が権力に縋るしかないと身に沁みて分かってるから、誰もが考えるアルよ」
「権力を握るか。それが無理なら権力に擦り寄るか。いつ死ぬか分からないなら、せめて上手いものを食べて、柔らかい寝床で眠って、英雄として……って事か?」
フゥが千四の言葉に首を横へ振った。
「身体をやられる前に金を手に入れて、その金でコネを買う。そうやって軍閥に入れれば、人生一発逆転アル」
「それって博打じゃない!?」
「そうアルよ? でも、男ならコレが確実に生き残る事が出来る方法。女なら殆ど唯一の方法と言っていいアル。全てが偽りだとしても……」
フゥが智紗へ当たり前のように頷いて、ポツリと呟いた。
「……軍閥はどんな広報をしてる?」
フゥが気付いた様子の千四にひっそりと答える。
「比較的線量の低い土地で単純作業をすれば、一ヶ月で止められる高収入の除染作業……意図的に一発逆転した人間の噂も流されてるアル。まぁ、現地の人間が大半死に絶えてるから、其処が何処かなんて誰も知らないアル。帰る事が出来るのは極一部でその極一部もすぐに原因不明の病で死ぬ、となれば……情報インフラが崩壊してる現在、報道と医療を牛耳る軍閥の嘘を見抜ける者はそういない。人の噂は噂を更に上塗りして、情報発信する人間を投獄するか処刑すれば、誰にも見破られない除染作業の実態が出来上がるアル」
「国連は知ってるんだな。その事を……」
「勿論アルよ。ねーさんが今回の一件を支持したのは各地の除染作業で死ぬ人数と軍閥の存在を天秤に掛けて、どちらがこの国の……民族の生存にとって重要なのかを考えたからアル……と言っている間にも見えてきたようアルよ」
全員が顔を上げると先の大地に巨大な施設の群れが見えてくる。
それと同時に彼らの端末がピーピーと鳴り始めた。
「センシ。本当にこの高度からで良いアルか?」
フゥに千四が頷いた。
「ああ、この間ので感覚は掴んだ。このままやる」
「むろっち……その、頑張って……」
大陸の悪辣な現実に力も無い智紗の顔が精一杯応援する様子に少年が頷く。
そうして、彼らのいる地方の大半が黒く、黒く、塗り込められ始めた。
全てを見ていたフゥも智紗も後部で待機して外を見ていた仲間達や空港の職員達も、誰もが驚いた顔で染まる世界を見つめていた。




