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第二章「帰来の王」~①~

第二章が始まりました。そして、主人公が何故呼ばれたのか。これから何をするべきなのかが示されるでしょう。では、次回。


第二章「帰来の王」~①~


 権力者という者の仕事は主に三つあると言われている。


 一つは象徴シンボルとして組織の頂点に立つ事。


 一つは組織グループの総意として決断を行なう事。


 一つは権力パワーを次世代へと受け継がせていく事。


 この三つが出来て初めて権力者というのは一人前、らしい。


 創作物フィクションの中の権力者の多くが腐敗している俗物か、魅力的な指導者か、という風に描かれているが、実際の権力者になる層は多くがどちらでも無い。


 政治の結果選ばれる権力者もいれば、世襲の為に大きな力を継ぐ者もいる。


 彼らもまた人間である以上、漫画に出てくる超人や単なる悪人の類ではない。


 組織の頂点に立てば、柵に囚われるし、意見が必ず通るとも限らない。


 権力を振りかざしても、権力そのものである主体。


 つまり、人間を否定し続ける事は出来ない。


 そのような輩が迎える末路はいつも悲惨であると相場は決まっている。


 世襲する類の権力ですら、一国を完全に掌握する独裁者であったとしても、人間の否定に繋がる行為は自滅への一歩だ。


 人間の否定とは何か。


 それは権力者達が所属する組織のルールを破る事かもしれないし、人間性を疑われる行為全般を指すかもしれない。


 だが、最も本質に近いのは権力の維持に手を抜くという一点だ。


 自らの持つものを維持していく為に労力が裂かれなければ、其処に人心は集まらない。


 そのような努力を全て他者に任せておけるだけの信頼を勝ち得ているのならば、そもそも権力者当人はその時点で手を抜いているとは言い難い。


 何れにしろ。


 人心を左右する事が上手いからこそ、権力者は権力者足り得る。


 その手段が能力スキルだろうと資金マネーだろうと門地クラスだろうと機構システムだろうと、だ。


 故に―――権力者に相応の期待を持つのは正しい。


 一体、何が言いたいのかと言えば。


「王様だーれだ♪」


 輸送ヘリの中でゲームに盛り上がる良い歳の大人が先導した挙句の権力おうさまだろうと彼には周囲からの無言の圧力(普通のものにしろ? いいな?)を汲み取る必要があった。


 ワンが何故五月蝿い輸送ヘリ内部でそんな事を遣り出したのか。


 それは前日、少年がミサイルを発見し、使用不能にした事から発覚した能力。


 音を遮断出来るという妹の一言を聞き逃さなかったからだ。


 それは素晴らしいと言わんばかりに王様ゲームを始めてヘリの音をシャットダウンさせた彼女はおもむろに懐から割り箸を取り出すと何処からか取り出した赤ペンで一つ先を塗った。


 近頃特技が増えた少年への風当たりは良くない。


 男性陣は気の毒ではあるが、そんな能力を持ってるお前が悪いと素知らぬ顔で。


 女性陣は豊やワン、フゥこそ楽しそうにしているが、智紗は虚ろな視線であった。


 というのも、前日から沢山のカルチャーギャップが彼らを襲ったからだ。


 付いた当日は上層階の一室で雑魚寝していた為に気付かなかったのだが、少年を筆頭に準日本人である彼ら使い達は……尿意を覚え、普通のトイレに入った時、見てしまった。


 戸の無い部屋。


 虚ろに開いた穴。


 並ぶ便器。


 個室無き空間。


『あ、ごめんなさい。言ってなかったっけ? あはは、あの国の人にはちょっと刺激が強過ぎたかな。でも、この建物も本当はちゃんとした個室付く予定だったらしいわよ。バブル期に納期守れなくて、放置されてたのを改修したんだけど、汚染されてない資源が足りなくて、ね。まぁ、致し方なくだから。悪気はないのよ。まぁ、こっちの内地の農村とかじゃコレが一般的ではあるけれど』


 殆ど聞いちゃいない女性陣(主に智紗)は喚いたが、それで何が解決するわけでもない。


 結局、そういう文化にも慣れているらしい豊が傍に付いて周囲を見張るという事で事態は決着した。


 男性陣にしても、トイレに行く時は人のいない時を見計らうという事で合意し、問題は無いように見えたが、前日は朝っぱらからミサイル騒動があったり、食事に使われている材料(肉類)の育て方(主に二つの意味で口にしたくない)を知ってしまったりとショッキングな事が相次いだので、誰もが疲れていた。


 精神的疲労。


 それでなくとも具合の悪い豊が明るく振舞っているので、皆心配しているのだ。


 そんな中、突如として開催された王様ゲームの原因に非難の目が集まっても致し方ない。


「一番が三番と握手」


 無難にやり過ごそうとした王様しょうねんに対し、ギラリと厳しい目を向けたワンがにこやかな笑顔で肩に手を置いた。


 ミシッと軋んだような錯覚を覚えながら、千四があまり見たくなさそうに視線を合わせる。


「オネーサン悲しいわ!! 王様はもっと傲慢に怠惰に欲望丸出しで理不尽なものなの!!? 君にはその素質があると信じてるッ!?」


 呆れた視線が王の名を冠する彼女に集中するも、意に介さない笑顔の前では無力。


 さすがの少年も顔を引き攣らせた。


 年季の違いは言うまでも無い。


 妙に据わった瞳で王様論を打たれては少年も内容をそのままにしておけなかった。


 此処での裏の王様は明らかにゲームマスターなのだ。


「四番は王様に忠誠を誓う」


 此処で重要なのはワンが微妙に納得するかどうかのラインで曖昧さを残す事だ。


「むむむ。これは……うぅん。認めるしかないわね」


 ワンが僅かに考えて静かに手を下ろして自分の席に戻る。


 少年は忠誠を誓うという言葉を使った。


 彼女がそれにどんな期待をしていたとしても、やる側の裁量が大きい。


 後、大陸の人々は面子を大事にするという事前のリサーチからも、これで何とか凌げるだろうかと少年は考えたわけだ。


 日本人の場合、遊びで忠誠を誓うというのはおふざけで済むものだし、多少メンタリティーが違う大陸の人間にしても微妙に難易度が高いと認めざるを得ないだろう。


「はい。フゥさんアル」


 白い少女が手を上げて、嬉々として少年の前にやってくる。


 ヘリは振動していて歩き難い事この上ないのだが、まったく意に介さず。


 素早く少年の前までやってきた彼女はニコニコとしていた。


 昨日、諸々の事態が終了した後。


 何だか妙に尊敬されたというか。


 フゥに懐かれた感がある。


 やはり、使いにとって少年の能力はとても凄いものに見えるのだろう。


 内実あまり知らないだろう豊以外の仲間達にしても、それは察したのか。


 可愛い後輩が出来て良かったな、というニュアンスで前日は終始ネタにされた。


 男性陣からは『く、これがクラスBの実力か』なんてからかわれるし、女性陣は『むむ?! どうしてむろっちはそういう事が上手いわけ?』とか『良かったね(にこにこ)』などの在り難い言葉まで飛び出した。


 そんな話の筋から言って、後輩に忠誠を誓わせるなんて、という妙に浮ついた空気が流れたのは必然。


 具合の悪さも忘れて自分を見る豊の何処かキラキラした瞳が彼を困らせたのは言うまでも無い。


「じゃあ、忠誠を誓うアルよ」


 そう言って、静々少年に近付いたフゥが少年の手を取り、その唇をワザワザ手袋に―――。


 ガゴンッ。


 一際強くヘリが揺れた。


 座席が壁際に向かい合うように備え付けられているとはいえ。


 鋼鉄の箱である。


「ッ、大丈夫か?」


「ぁ……」


 ふら付いて倒れそうになった目の前のフゥを抱き止めたのは正しい判断だろう。


 しかし、その咄嗟の行動は正にラブコメにしか存在しないであろうハプニングを誘発させた。


 カチッと歯と歯が鳴って、思わず引き離そうとした少年の耳に能力の解除で聞こえるようになったパイロットの叫び声と思しき絶叫が響く。


『どうしたの!!』


 ワンが突如として現地語で鋭く問いを投げ掛けると即座に操縦席から悲鳴が返る。


 何かあったなと一瞬で思考を切り替えた千四が座席から立ち上がろうとした時、また機体が揺れてフゥと共に座席へ叩き付けられた。


「何があったんですか?!」


 思わず佐上が訊ねるとポリポリとワンが頬を掻いた。


「追われてるわ。それも三機。今、至近でサイドワインダーが爆発したらしいけど、聞こえなかったから、ちょっと確認しちゃったわ。ま、ウチの国のは旧世代型のコピー品だから、そんなに顔を強張らせなくても」


 サァァッと支部の使い達の顔が青褪める。


「一応、ダイビングの為のバックパックは背負ってるし、大丈夫よ。いざとなれば、脱出可能だから」


 と言っているものの。


 ワンの顔にも渋いものが浮いている。


 思わず少年が声を上げようとした時。


 ダダダッと智紗が立ち上がって揺れる足元も構わずに操縦席に向かった。


 そして、何事かを喚くと今までパイロットをしていた男二人を後部へ押しやり、開かれた扉の先で計器と操縦桿を操作し始める。


「彼女、経験が?」


「いえ、智紗は―――」


 蒼雲が言おうとした瞬間、また揺れが機体を襲った。


 しかし、何かに憑かれたような形相で手を細やかに動かした彼女が僅かに呼気を吐いた途端。


 機体が左右どころか。


 一瞬、全員を無重力状態に陥らせ、落下する。


 墜落中だと思った全員の思考は正しい。


 智紗がエンジンを切って機体を墜落させ、恐るべきものを回避したのだ。


 それからの十数分間。


 誰も、何一つとして声を発さなかった。


 鬼気迫る操縦席の女神。


 そして、未だ自分達が生きているという事実が、それをさせなかったのである。


 機体がアクロバティックに揺れる度、少年はフゥを離さないようきつく抱き締め、片腕を座席横の手摺に絡めて動きを固定した。


 今、命を失ってもおかしくない状況。


 いざとなれば、少年の能力が最後の保険として存在してはいたが、それにしても常識的には絶体絶命の危機は疑いようも無い。


 だから、内心の冷や汗とは裏腹に顔を真剣にさせた千四だったのだが、その表情を何処か呆然としながら腕の中の少女は見つめていた。


「………」


 彼らが予定航路を消化し、目的地に付いたのは二十分後。


 命の危険に対する興奮。


 もう大丈夫なのかとの焦燥。


 やっと地面に着陸したという安堵。


 その全てを感じて。


 パイロット達すら使い達と同じく、揃って溜息を吐いたのだった。


「………」


 一人ずっと放心していたフゥが元に戻ったのは姉から揺さぶられてからの話。


 全員が心配そうにしていたが、本人だけはその心配そうな表情にも返す余裕が無かった。


 ただ、自分を抱き締めていた少年の『大丈夫か?』との声だけが、その脳裏には響いて。


「はい……アル……」


 少女はそう精一杯の様子で頷いたのだった。

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