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第一章「遣わされた命題」~②~

前々から異能力バトルものを書きたかったというのは前回書きました。ただ、何分商業系に立派なものが沢山あるので敷居が高いなぁと常々思っていました。頭をひねって能力を考えるのは楽しいのですが……バトルものなので次々に強い敵が求められるのは考え物。という事で主人公に“僕の考えた最強の能力”が与えられているのです。

~②~


「まさに、至高……これぞ文明の利器……ふぅ」


 四年前からすれば半分以下の品揃えしか保障しない夜も閉まってしまう店舗は今や屯する学生の溜り場として機能していた。


 陳列された棚には“仕事熱心な女生徒向け”の護謨ゴム製商品が堂々と陳列されていたりするし、政府広報の“人口管理の観点から薬の経口摂取は行為後の義務です”の文字が躍っている。


 キャバ嬢かというケバイ化粧の女生徒も居れば、清楚な佇まいのやたら気品漂う女生徒もいて、場は混沌の海に沈んでいる。


 それなりに有名な私立校がすぐ100m先にある為に柄の比較的悪いと有名な彼の通う空滝高校女生徒との混在が起きているのだ。


 席の占有権を廻る争いが勃発しているとの話だったが、基本的に男子生徒には関係ない事態だろう。


 未だ守られる表現の自由とやらがちょっと年齢層低めの雑誌やアニメにも元服ゲンプクの影響を齎しており、四年前からは考えられない過激描写の書籍がR14指定で普通に販売されていたりもする。


 ヲタクという人種が世界規模で亡びつつある中、他国とは違って今も大手を振っていられる日本の事情は素直に賞賛していいだろう。


 今日も今日とて漫画週刊紙を手に取った少年は控えめに冷たいボトルの紅茶を棚から取り出して、女生徒達とは反対側の道を通りながらレジへと向かった。


 その耳には嫌味の応酬が聞こえてくる。


 彼の高校の方からは『ああぁん? テメェに言われるような事じゃねぇんだよッ!!? このド・ビィィィィッチが!!?』との声。


(……ぁあ、世の中変われば変わるな……本当に)


 私立高校の方からは『まったく、これだから空滝は……大人ぶってみたところで中身は唯の猿のようですわね。ほほほほ』との嘲笑。


(ほほほ、なんて聞く日が来ようとは。漫画は偉大、か……)


 やたら柄が悪い女にやたら高貴っぽい口調の女。


 どちらもきっと女性週刊紙の影響に違いない。


 元服ゲンプクが一般化して以来。


 人口の激減と助かった人々のとある比率が出版業界に変革を迫った結果だ。


 要は左右両天秤な雑誌の登場がそういう“大人達”を産み出した。


 出版関係者が多数失われた四年前。


 最も力のある書籍。


 否、極点消失後も著者が多数生き残った為に継続出来た書籍の種類は漫画だった。


 その最たる理由は世界最大の同人誌即売会が国内にあったからだ。


 と、いうのが専門家の意見だ。


 出版業界の玄人プロは大勢死んだがレベルの高い素人トーシロが漫画というジャンルに限っては民間に多数いたのである。


 活字の類が世の中から消えて、漫画が大多数を占めた此処数年。


 殺伐とした世界には薬同然の本達が大きな貢献を果たした。


 政府としては引き下げられた成人年齢を前にしても昔のように青少年健全育成というお題目は掲げなければならなかった為、影響力の強い漫画雑誌の出版元には当然の如く圧力が掛けられたらしい。


 それでも法律が認めているのだから表現の自由は守られるべきだと主張した大多数の素人漫画家達は公然とR14指定の漫画本の出版を継続。


 これに仕方なく暗黙の了解を与えつつも対抗して政府は“青少年が見るべき雑誌”とやらを半ば崩壊していた出版社を国営化して創刊する運びとなった。


 今までの人倫を守ろうという勢力の熱烈な歓迎によって広められた漫画雑誌は新規の素人漫画家達が立ち上げた無数の出版元と同等の人気を誇るまでに成長。


 今や左右を見渡せば、造りは粗くとも玄人並みの男のロマン溢れる漫画雑誌と造りはしっかりしているが健全路線な漫画雑誌が仲良く並んで棚に陳列されている


 売り上げは六・四、肉薄しているとも囁かれるが定かでは無い。


 無論、どちらが上かは誰に訪ねる必要もないだろう。


 元来、人間とは卑しいものに魅力を感じる生き物なのだからして。


「ありがとうございました~」


 どうやら早めに早退していたらしい男子学生の店員に見送られて少年はオズオズと楽園を後にした。


 まだ日差しは強いが、幾分冷えた身体は快適。


 水分を補給すれば、熱くともそれなりに快適な午後を過ごせるだろうと彼は一人、人気の無い道路を往く。


(公園に行こう……)


 所々、罅割れや雑草が目立つ道も更なる辺境地方に比べればマシだ。


 毎日のようにネットでアニメしか見ない少年もニュースの類は自然目に入る。


 アップされている画像データは外国のものもあれば国内のものもあるが、どれもこれも悲惨の一言に尽きる。


 それでも国内に限って言えば、外国よりはマシなのであり、国民性と強固なインフラが復興に大きな弾みを付けたのだと海外紙の紹介記事は伝えていた。


 事実、この世界規模での混乱が収束の暇を見せていない時期に先進国中唯一女性の夜間外出が可能な治安は誇っていいものだろう。


「ふぅ……」


 ようやく到着した近場の小さな噴水のある公園。


 その罅割れたタイルの上。


 少年は日陰のベンチに腰掛けてボトルの紅茶をグビリとやる。


 生きているって素晴らしいと染み染みしながら、漫画雑誌を開けば、お気に入りの作品が前回のムフフと思わず唸りそうな展開の途中から刺激的な有様となっていた。


(く……耐えるんだ!? 顔を平静に保てッ!!?)


 自分を鼓舞しながらの熱読。


 若き迸りは止められないものである。


 だが、別にだらしない顔を見られるという青少年的には頂けない事態の為に自制しているわけではない。


(す、凄過ぎる……かはッ!? 先生、あんた男だ!!)


 今にも鼻血くらい流しそうな少年であるが、突然数m先で上がった『ひっ!?』との声に顔を上げる。


「ッ~~~~」


 見れば、少年を通り掛かりの女生徒が引き気味に見つめていた。


 その足はプルプルと恐怖に震えている。


(や、やってしまった!?)


 明らかにまたやらかしたのだと理解した彼が声を掛けるより先に慌てた様子で小鹿の如き俊敏さを発揮した女性徒は早足に公園を駆け去ってしまう


「……はぁ」


 溜息も出よう。


 彼のニヤケ顔が熟練の暗殺者の迸らせる殺意の篭った視線ニヤリに見える(友人談)らしいのだから。


 だからこそ、無人の公園の木陰でベンチに座りながら読書していたのである。


 それなのに今日に限って人が通るとは不幸極まり無いと少年は雑誌を紙袋に戻して立ち上がった。


「もう今日は戻ろう……うん」


 そうして今日も今日とて人に誤解されがちな一般的ヲタクゲーマーは自宅へと向かう。


 歩いて徒歩二十五分。


 乳白色の箱の群が見えてくる。


 周辺は基本的に孤児の学生ばかりなので“高齢の大人”はあまりいない。


 一般的に“学生寮”なんて揶揄される一角は正に学生達の楽園だ。


 どういう意味でかと言えば、誰も叱る大人がいない、という意味で。


 四六時中とは言わないが、夜になればあちこちから獣の声かというくぐもった音色が引っ切り無しに聞こえてくる。


 最高級のヘッドフォン。


 外部からの雑音をカットする優れものが無ければ、一人身の学生は虚しく身悶えるしかないという魔窟である。


 が、基本的に恋人いない暦=人生という彼にしてみれば、ゲームに熱中している限り、そう関係ない。


 他者の恋愛に口を出すような性格でも無いし、耳栓をしていれば、熟睡余裕というのが理由だ。


「?」


 そんな少年は自宅の前の通りまで帰ってきて首を傾げた。


 と、言うのも見知らぬ“本当の大人”が自分の住宅へやの前にいたからだ。


 珍しい。


 かなり珍しい。


 それどころか限り無く人違いの可能性が高い。


 親とは死別しているし、友人は近くに住んでいない。


「あの、部屋間違えてませんか?」


 元服直後の猿の魔窟には今もそれなりに甘い声が響いていて、並みの大人ならば顔を赤らめてから足早に立ち去るか警察の少年課辺りに風紀粛清を申し入れるに違いないのだが、そんな様子もない。


 こんな場所で部屋の主を待っている大人なんて明らかに場違い。


 彼には覚えが無かった。


「ああ、君が【六六千四むろ・せんし】君だね?」


「え、えぇ……その、どちら様で?」


 一際珍しい名で呼ばれた彼。


 千四が僅かに作り笑いで答える。


 厄介事。


 あるいはそれに類する何かが、その大人だと直感的に感じていたからだ。


 仕立ての良い紺のスーツはたぶんテーラー製。


 更に高級そうなゴツイ腕時計に革製の茶色い手提げ鞄。


 おまけに白髪を後ろに撫で付けたオールバックのナイスミドルで顎鬚まで生やしているとなれば、出来過ぎな感のある“良い大人”である。


 顔は温和で背丈も中肉中背。


 レディースコミック辺りなら、歳の離れた恋人役でも張っていそうな落ち着いた佇まいは警戒するに十分なだけの“偉容”だった。


「ああ、警戒させてしまったでしょうか。僕は伊藤。伊藤圭太と申します。どうぞ」


 近付いて来て、懐から名刺を取り出された時点で自分の顔が引き攣った事を千四は自覚する。


「これはご、ご丁寧にどうも……」


 何とか造り笑いするものの、それが相手には邪悪な嗤いに見えているだろう事を彼は知っている。


 『世の中、顔じゃない』とご立派な大人達は言うが、実際に彼の引き攣った作り笑いを見て、正確にその感情を判断してくれる人類は絶無に近い。


「……【紅蓮朋友会フレア・フレンズ】外部顧問?」


 何処かの中二病―――いや、どちらかと言うと凝った名前がキラキラネームとすら言われなくなった昨今。


 そういう団体の名前もアリかと思い直して千四は伊藤に視線を向ける。


「はい。ちょっとした国連の外郭団体の顧問をしてまして。今日はその関係で貴方の下へお話に来たのですが、どうかなされましたか?」


 ダラダラと冷や汗を掻いた背中もそのままに千四は目まぐるしく思考する脳裏で相手の素性を推し量っていた。


 今のところ。


 三流公立高校に通う限り無く目付きの悪い学生として、国連とか大げさな固有名詞が入る団体の関係者に尋ねて来られる理由は“たった一つ以外”無かった。


「……どういうご用件でしょうか?」


 きっと、相手は殺意を持って睨み付けていると思われているのだろうな、と冷静な部分で察しつつ、千四が何とかそう訊ねた。


「此処では何ですから、どちらか落ち着いた場所で。ああ、近くにある喫茶店はどうでしょうか? お代はこちらで持ちますので」


「い、え……出来れば、此処でお願いします。伊藤さん」


「そう、ですか。いや、分かりました。では」


 パチンと伊藤と名乗ったナイスミドルが小さく指を弾く。


――――――。


「“これで静かに話せますか?”」


「………え、えぇ」


 千四は内心の驚きを己の内に押し込めつつ、音の消えた世界で妙にクリアなまま聞こえる伊藤の声へ何とかそう返した。


「端的に言えば、私は貴方を我らが団体に迎え入れる為にやってきたスカウトマンだと思って頂きたい」


「スカウト、マン……?」


「ええ、我ら【紅蓮朋友会フレア・フレンズ】は貴方のような人材を保護し、一連の情報を提供すると同時に管理も行う国連から委任された組織なのです。NPOとして日本国から正式に補助金も受けている、ね」


 ゴクリと唾を飲み込みたい気持ちを抑えて。


 千四が己に落ち着けと言い聞かせる。


「そう、ですか」


「おや、驚きではない? 普通、こういう話をすると皆さん驚くものなんですが、肝が据わってらっしゃるようだ」


 カラカラと世間話でもするように笑う男が続ける。


「そう、でしょうか?」


「はい」


「そんな事は……」


 世の中に貢献したりしない単なる普通の学生はきっとこんな顔をするに違いない。


 そう困惑した表情を浮かべようとしたところで、彼の顔面は僅かに瞳を細めただけだった。


「胡散臭いのは承知しているんですが、話しの性質上どうにも直らなくて。いやいや、壷を売りつけたりはしませんよ? よく間違われるんですが。はははは」


 冗談を飛ばす様子はとてもニコヤカなものだったが、千四にしてみれば壷でも売られた方が明らかにマシだった。


「それで今日は勧誘をしに来た、という事ですか? 伊藤さん」


「はい。期限を設けたりはしませんが、出来れば近い内に連絡かご来訪頂けると嬉しい。これを」


 伊藤が鞄からゴソゴソと厚手の大きな封筒を取り出して手渡す。


「貴方の能力。いや、才能に関して我々は明らかに出来るだけの智識を持ち、大きな期待を寄せています。もし、貴方が自らの事を知りたいと願い、我らの下へ尋ねてくるなら、仲間となれるだろう大勢もご紹介出来るでしょう」


「仲間……」


「はい。国内会員数は三千人程ですが、誰もが貴方のような“力”に溢れている」


「………」


「信じられないという気持ちもあるでしょう。ですが、これは紛れもない事実です。そして、公正明大な団体として【紅蓮朋友会フレア・フレンズ】はこの国の治安も預かっている」


 その遠回しな武力の保持宣言を彼はもう殆ど聞いていなかった。


 今まで何事も無く暮らしてきたというのに今更になって降って湧いた災難。


 それがどういうものか具体的なところは分からずとも、相手が明らかに個人に対して大きな力を持つ組織だと言うのはハッキリと感じられる。


 伊藤が嘘を言っていないというのはあまり人付き合いの無い千四にも分かった。


 誤解されがち。


 いや、誤解されっぱなしな人生を送ってきた彼にとって、上を向いて話す人種は自信と大きな力に恵まれている自分とは関わり無く生きる、ある意味で羨ましい類の相手だったからだ。


「不意に認知されるような、何かしらの事件や事故に巻き込まれた場合、我ら団体としては貴方にも厳しい視線を向けざるを得ない事があるのです。そういう不幸な機会を減らす為にも是非我が団体に一度おいで下さい。詳細は此処で話せませんが、きっとお役に立てると思いますよ」


 正に人の良い言葉を残して頭を下げた伊藤が通りの先へと去っていく。


 その背中に何かを、否定の言葉を投げ掛けなければと思ったものの、今し方遠回しに脅されたばかりの彼にはそんな勇気も無かった。


(………はぁ)


 多少、漫画で浮かれていた気分も完全に抜けて。


 というか。


 どん底まで落ちて。


 もう見えなくなった伊藤の背中を負い掛けるように視線は誰もいない道へと向けられる。


 いつの間にか。


 甘い声は周辺に戻っていて、途切れる事無く世界を包んでいた。


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