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第一章「遣わされた命題」~①~

本格的に投稿が始まりました。作者は基本的になろうとノムクンを掛け持ちしているのですが、今作品は前々から書いてみたかった題材で幾つかの小説大賞への応募に耐える作品であればと思い執筆しています。

第一章「遣わされた命題」


 ある日、世界が破滅した。


 凡そ四年前。


 比喩ではあるが、比喩では済まない被害が出た北極点の大消失現象【極点消失ポール・バニッシュ】によって世界は激変。


 環境の強烈な悪化及び大異変が惑星規模の災害を産み出した。


 連続した気象変動で既存の生態系は半ば崩壊。


 地軸が曲がった影響による地殻変動が大地震や水資源の枯渇を招き。


 国連加盟国に大小無数の問題を突き付けた。


 体力の無い国家では政府の支配が及ばない地域が拡大し、暴動略奪の限りが尽され、先進国の大多数は大幅に政府機能を麻痺させて、回復までに半年を要してしまった。


 現在までの死者数は全世界において約22億人。


 それから数年の月日が経ち。


 ようやく人々は平穏という言葉を取り戻しつつある。


「政府広報によれば、未だ大陸の方では地殻変動の余波が続いており、生き残った内陸部で大小の軍閥が鎬を削っているとも言われます。現在、国会で審議中の特別措置法は基本的に内陸部の軍閥との交渉次第で避難民のギガ・フロートへの受け入れを―――」


 カツカツと現代社会の教師が教鞭を取る最中。


 一番後ろの窓際で少年は一人小さな端末を開いてゲームに興じていた。


 それを咎める者は無い。


 教師にしても、そんな無駄な事をしている時間は無く。


 生徒にしても、其々の趣味と勉学に忙しい。


 この世紀末より世紀末なご時勢。


 わざわざ勉学に興味の無い生徒を叱る大人は少数の部類だ。


 教師にしても何とか日々の生活をやりくりする為、より良い配給や給料の為、必死にノルマをこなす会社員にしか過ぎない。


 質は二の次。


 とにかく社会の担い手が少子高齢化以上の速度で減ってしまったのが痛いのだ。


 成人年齢はとっくの昔に十四歳まで下げられている。


 世間でそんなのは昔の価値観だと顔を顰められていたのも今は昔。


 子供の間では元服ゲンプクという単語が日常的に使われている。


 大人なのだからと死刑にもなれば、働けもする。


 無論、そのような人倫に反する考えは止めるべきだと人権団体が声を上げたらしいが、国家の破綻か倫理の変更かの二択を迫られた国民は後者を選んだ。


 国民投票法なんてものが初めて使われた事態は多くの人々に自分達の状態を知らしめるに十分だったのだ。


「ぁ、レアゲット……よし」


 それでも親を亡くした“可哀想な大人達”がそれなりに暮らせるよう社会は取り計らう。


 例えば、独り暮らし用の公共住宅の整備と割り当て。


 例えば、昔の成人年齢までの無料教育支援。


 例えば、かなりの額になるだろう生活費の支給etc。


 今の時代。


 水商売に付く“大人”が多過ぎるとの理由で女性には取り分け手厚い精神衛生保護条例が制定され、学校界隈では“そういう仕事に就く女生徒達”に優しくてイケメンな臨床心理士がケアしていたりする。


「セーブ。セーブ。まさか、このダンジョン……セーブポイントが無い?」


「と、言うわけだ。そろそろ時間だな。日直」


 本日担当の男子生徒の「キリーツ、レイ、オツカレサマデシター」との声にイソイソと教師は半分しか埋まっていない教室からクーラーの効いた教員室へと引き上げていく。


「ダメだ。このままだと捕まる……どう、すれば……」


 ワイシャツをしっとり湿らせながら、滑る指を必死に操作しながら、少年はまだ端末と睨めっこしていた。


 今日はもう上がりだと生徒達が捌けていく。


 ジリジリと照り付ける真冬の太陽の下。


「……残念、過ぎる……はぁ」


 少年はアプリの終了を選び、課金兵たる我が身の不幸を呪いつつ、下校する事とした。


「熱い。それにしても、本当に……」


 白いワイシャツに黒のズボン。


 身長177cm。


 体重54kg。


 赤み掛かった黒髪。


 腹筋が割れているわけでもなければ、力瘤が出来たりもしない細身の肉体がグッタリと萎びる。


「熱い……」


 その平凡なる足取りは重く。


 その周囲は異界のように歪んでいた。


 と、言うのも彼が身に付けるアイテムが異彩を放っているからだ。


 左右の肩から少し下にはまるで防具のように黒い板状の物体が小さな茶色い革製のベルトで固定されている。


 それが端末の予備バッテリー×4を収納したウレタン製のホルダーだとは今の少年を見て誰も気付くまい。


 基本的には二枚目の顔と見える容姿。


 しかし、どちらかと言うと黒髪の殺し屋とか、殺戮者の瞳をしていると評判の目付きの悪さが祟って、落ち込んだ様子の彼は今から仕事コロシをしに行きますと言わんばかりの殺気を放っている(ように見える)。


「………熱い」


 ポケットから普通にハンカチを取り出して額の汗を拭う後姿にビクッと後姿を見ていた数人の生徒達が震えてスゴスゴ何処かへと消えていった。


「そうだ……コンビニに行こう!!」


 少し乱雑に切り揃えられた髪は微妙に跳ねっ気が有り、視線を横側からは見せない。


 楽園を求めて素早いゾンビのように動き出した少年はさっそく学校近くの店への立ち寄りを帰途に組み込んだ。


 何の変哲も無い少し曇った廊下の先。


 人気も疎らな玄関で靴を履き替えた少年は【空滝そらたき】の文字が入った校門を潜り抜けて獄炎の世界へと歩を進めた。


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