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エグザート~その遣いなるもの~エピローグ

これにて~その遣いなるもの~は完結となります。今後、新たな新編が書き上がったら、また同じように連続投稿していく事かと思いますのでどうぞよろしく。では、また新たなるお話でお会いしましょう。

エピローグ


 空滝高校の校舎が何者かに破壊されて数日。


 警察による封鎖が解けて二日。


 地域からの助成で何とか来月までには二つの校舎で授業を再開する事になったものの、そもそもそろそろ冬休みの時期だと学校側はすぐさま長期の冬季休校を決めた。


 あの夜の千四が起こした行動に関しては伊藤が不問とした為、問題にはなっていない。


 だが、死者行方不明者重軽傷者が多数出た事件を廻って警察との間で長い折衝を行っているらしく。


 ほとぼりが冷めるまでは大人しくしていてくれませんかねぇ、というのが彼に下されたペナルティーだった。


 だから、今日も今日とて六六千四の日常は静かなもの―――ではなかった。


「あ、千四君。そこ間違ってる」


「蘆夜さん。少しいいですか?」


「ん? 何かな?」


 カランとグラスの中で氷が融けて鳴る。


 真冬の熱さの中でもクーラーが程々に効いた室内は快適。


 しかし、その狭い住居で行われる行事は彼にとって辟易するに相応しいものだった。


 並べられているのは参考書の類ばかりだ。


 冬季休校に課せられた課題である。


 小さなテーブルを囲んで床に座る男女が一組という図は大まかに見れば、心時めく青少年の素晴らしき青春の1ページかもしれないが、女性側が黒尽くめのゴーグル姿では違和感しかない。


「さすがに二日目で課題の半分を終わらせたのは遣り過ぎな感が……もう少しペースを落としてもいいような」


「そうかな? でも、こういうのって早くやっちゃわないとやる気が削がれちゃうものだから」


「いえ、普通に毎日やっていれば、終わるものかと」


「……今、あたしの中で千四君が優等生に」


「そこまでですか?」


「だ、だって!!」


 ゴーグル越しに豊がズイッと少年の方へ乗り出した。


「せっかくの冬休みなんだよ!? 此処はもう思い切って遠出したり、旅行したり、遊びに行かなきゃいけないんだよ!? 君を守るのはあたしの役目なんだから、君が行くところがあたしの行くところ。つまり、ちゃんと課題を終わらせたら、【仕事バイト】中でも遊び放題なんだよ!?」


 身も蓋も無い。


 だが、年頃の少女らしい動機に千四は苦笑しながらも確かに、と頷いた。


「でも、さすがに普段着代わりに仕事着を着ながら課題をするのはどうかと思います」


「こ、これは伊藤さんが『千四君は今では重要人物ですから、いつでも戦いから守れるようにしなければなりませんねぇ』って言うから仕方なく。や、やっぱり、変?」


 一応は気にしていたのか。


 真昼から仕事着で妖しい姿を晒しているのは女性としてどうかと疑問を持っていたらしい。


(あの人は……はぁ)


 前回の一件で諸々の貸しを作ってしまったせいでイマイチ頭が上がらないナイスミドルの顔を思い浮かべ、彼はそっと傍らの水滴が付いたタンブラーから麦茶をあおった。


「変ではない、と言い切れませんが、せめてゴーグルは外してもいい気がします。それだけで随分、変じ―――普通に見えます」


「今、何か凄く重要な事を言い直したよね!?」


「気にしないで下さい。人間慣れれば何でも気にならなくなります」


「うぅ。凄く貶されてるような気がするよ?」


「気のせいです。熱いですから」


「そ、そう? そうかな?」


「はい」


「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」


 ゴーグルが外されて首に掛けられた。


 すると、愛らしい相貌がすぐに顔を出す。


 そんな時だった。


 チャイムが鳴る。


「は~い」


 出ようとした千四だったが、それを留めて豊が玄関へと立った。


「どちら様ですか?」


『げ、この気配は……ん、こほん。高弓智紗です。か、監察官……』


「ああ、高弓さん」


 チェーンが外され、ドアノブが回されると少女が一人。


 と、男が二人その場にいた。


 蝉の声が五月蝿くなる中。


 お邪魔しますと入ってきたのは支部の使いの三人トリオ。


 佐上、蒼雲、智紗だった。


「おお、千四君。あの一件ぶりだね」


「佐上さん。お久しぶりです。とりあえず上がってください」


「熱ちぃ……途中のコンビニで買ってきたボトルがもう温くなってやがる」


「あ、むろっち♪」


 ドヤドヤと入ってきた三人が三者三様に振舞い始めた。


 佐上は邪魔にならないようにと部屋の隅に移動し、蒼雲は冷蔵庫に買ってきたばかりらしい清涼飲料水のボトルを勝手に詰め、智紗はトコトコやってきておもむろに千四の真横へ座り込む。


「驚きました。今日はどういう要件で?」


「ああ、支部機能の方も回復してきて、訓練場や他の施設も解禁された事を伝えに来たのさ」


「それだけですか?」


「そっちは副題。本題はこっちだ」


 軽装ながらも、手に持っていた鞄から佐上が書類らしき紙を数枚取り出す。


「……七泊八日大陸観光ツアー……【仕事】ですか?」


「伊藤さんの肝煎りで決まった企画らしい。何でも、汚染された地域でちょっとやって欲しい事があるから『夏休みの旅行気分で遊びに行って来てくれませんかねぇ』云々だそうだ」


「それを伝えに?」


「伊藤さんは忙しくて来られないようで。支部の一番強い使いが話を持っていくようにって事で、来る事になったのはいいんだが」


 チラリと蒼雲と智紗が横目で見られた。


「そういう事ですか?」


「ああ、どうしてもと言うものだから」


「ねぇねぇ。むろっち!! あたし達も連れてってよ!! 絶対、役に立つから、ね!?」


 蒼いキャミソール姿の智紗は制服姿の時とは違って大胆な露出ではあるが、化粧は控え目になっていた。


 擦り寄ってくる姿は今時の女学生らしい愛らしさに溢れていて、さすがの千四も視線を逸らさざるを得ない。


「このクソ熱さで漫画雑誌が一ヶ月休みなんだよ。この間のバイト代も入ったし、どっかに行くかって話になったら、丁度あんたの話になってな。伊藤さんとしては一人で旅行させるのも忍びないから、使い仲間を三人くらい連れてって愉しく遣れってな言質を貰ってんだ。とりあえず、連れてけ」


 蒼雲が無断で少年の寝台に座ってゴソゴソと下に隠してあるブツを探しながら本日の目的を吐露する。


「千四君。皆で旅行だって!! 早く課題終わらせないと♪」


 再び床に腰を下ろした豊が嬉々として課題のペースアップを要求した。


「………」


 狭い一室に四人の使い仲間達がいる。


 その光景は今までの日常には無かったもの。


 千四にとって、もう二度と味わう事の無いと思っていた雰囲気。


(工藤さん。僕は……)


 視線を俯けた千四は僅かに唇の端を歪めて。


 今も寝台横にある一冊の本を意識した。


「どうかしたの? むろっち」


「何でも。とりあえず、課題は一端置いておいて、全員で何かレトロなゲームの類でも」


「え? あ、此処からが本番なのに!? 千四君!?」


「旅行の日程はもう少し先みたいですし、今日はこの辺で切り上げてもいいような気が」


「解った……どうせ夜も一緒なんだし、いつでも出来るから。あ、でも明日は朝からだからね?」


「はい」


「ちょ、ちょちょ、ちょっーと待ったぁああ!!?」


 頷いた千四と豊のやり取りに思わず智紗が声を上げた。


「何か?」


「む、む、むろっち!? 監察官と夜も一緒ってどういう事!?」


「色々とあったせいで毎日夜は護衛して貰っているだけですが」


「え?! それって同棲!? 同棲じゃん!? 普通に同棲じゃないの!?」


「ど、同棲……く、同棲モノは確かに燃えるが、あんた中々やるな」


 蒼雲が思わず尊敬の眼差しで千四を見て。


「そうか。監察官殿と千四君はそういう……」


 佐上が納得したようにふむふむと頷く。


「いや、単なる護え―――」


「あたしも同棲する!? むろっちは今現在あたしの玉の輿ナンバーワン候補なんだから!!」


「さすがにそれはちょっと……それと友達からと言ってたような記憶が」


 ガヤガヤと騒がしい炎天下の昼下がり。


 狭い一室で姦しい声が響き。


 日常は続く。


 使いの世界に現われた一人の少年の話はまだまだこれから。


 破滅した後に掴まれた日々は尊く輝きながら過ぎていく


 彼らが選び取った道の先にこそ。


 例え、亡びの運命を持とうとも色褪せない。


 そんな光景の見える場所がある。


 そんな気がして。


 豊は一人。


 小さく小さく笑みを浮かべた。


「使い使われ我ら他が為にならんと欲するならば、その過ぎし道に殉ずるべし、か。ふふ……」


 少年少女の熱い冬は続く。


 彼らの物語と共に……。


  エグザート~その遣いなるもの~fin

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