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第六章「君は遣い使われる人」~④~

これでその遣いなるもの編の全編が終了しました。残りはエピローグのみとなります。今後、また新編全てを書き終えたらの投稿になると思われます。では、次回。

~④~


 事前に伊藤が敷いていた包囲網を突破して、隣県との県境の山林。


 道無き道を歩いて逃げていた巨漢。


 雷同泉は休む事無く海沿いを目指していた。


 周囲を照らすのは月ばかり。


 文明の光届かぬ闇は濃密に全てを覆い隠して。


 逃走者の道行きを確保する。


 そのまま壊滅したという己の組織が本拠を置く場所まで行くつもりだった彼は不意に己の前に人影が立つのを見て、止まった。


「【紅蓮朋友会フレア・フレンズ】の追手か?」


「そういう事になるかもね」


 ザクザクと枝が折られて。


 彼は相手がこんな山道には不似合いな女子学生の姿をしている事を知った。


 革製のブーツを履いて。


 蒼と紅のチェック柄のスカートを穿いて。


 ブレザー型の制服を着込んだ相手。


「へぇ~ステレオタイプにも結構良い男っているんだ。意外かも♪」


「名前を尋ねたい」


「あはは、そんなぁ!? 良い男からさっそくお誘い?! いやぁ~ホント、惜しいなぁ……」


 一歩女学生が踏み出した途端。


 ゾワリと言い知れぬものを感じて雷同が跳び退る。


「お? これを避けちゃうなんて、ますます惜しい♪ ねぇ、君。ウチにおいでよ。もし、君が僕らの一翼を担うなら、それなりの体で持て成すよ?」


「……名を、名乗れ」


「こういう時は何だっけ? 伊藤ちゃんが言ってたけど、コウフクカンコク、だったかな? あ~あ~【自分使い】雷同泉君に告げる。君は完全に包囲されている。大人しく能力を停止して手を上げなさい。なんちゃって♪」


 雷同がガッと足を地面に踏み付け、その衝撃に浮かび上がった枯木の枝や小石を横殴りの拳で前方へと撃ち込んだ。


 同時に背後へと跳躍した肉体が、数十年ものの杉へと真横に着地し、高速で周辺からの離脱するべく、太腿を倍以上に膨れ上がらせる。


 跳躍は一秒以内。


 姿は完全にその場から消え失せ、足場となった杉が折れて回転しながら、更に後方の山林を薙ぎ倒していく。


 時速700km近くまで加速した彼はそれでも人類にあるまじき速度のまま周辺を警戒し、相手からとにかく遠ざかるべく、次の足場を探し―――。


「ハロー」


「!!?」


 山岳部中腹で上半身と下半身が真っ二つになって中身がぶちまけられた。


 が、それでも残った上半身の下にすぐ皮膚、骨、内臓、筋肉、血管、と諸々の肉体が再生。


 否、復元されていく。


 だが、一度失速したのは如何ともし難く。


 山肌を片腕で削りながら、彼は動きを止めて。


 周囲への警戒を最大限まで引き上げた。


「さすが物理法則を無視する【破常オーバー】。しかも、自分なんて概念使いで肉体強化系とくれば、寿命すら克服する超人英雄まっしぐらなのかな♪」


 ゾッとする程真直からの声に彼は―――。


「おっと、動かないの」


「―――ッ」


「ねぇ、死ねない使いの殺し方って知ってる?」


「な、にッ?!」


「みぃーんな。この説明すると泣いて許しを請うか。あるいは単にポカンとするんだけどさ。バトル漫画とかだとお約束だったりするんだよね~。一番簡単なのはもう復元しても無駄な場所に放り込む事なんだ。例えば、太陽とか宇宙空間とか。あるいは深い深い地層の中とかマグマ溜りやマントル辺りって手もあるかなぁ」


「貴様クラスA以上の……」


「ふふ、どうでしょ~か」


 背後から雷同の前にわざわざやってきた女学生が天を指した。


「でも、そういうのって何かロマンチックじゃないなぁって、いっつも思うの。だから、僕はこういう時、いつでも取り出せる場所に置いておく事にしてるんだ」


「取り出せる、だと」


「そんなに睨まなくても♪ そんなに目付きが悪いと今すぐ外国の詩みたいに連れて言っちゃうよ? あそこへ、さ」


「ッッ」


 男は自分がたぶん少女に勝てないという事実を瞬時に悟り、皮肉げに顔を歪めた。


「ん?」


「名を、名乗れ」


「覚悟までしちゃうんだ……ふ~ん」


 何処か嬉しそうに少女が微笑む。


「じゃあ、名乗らせてもらうよ。僕は東……東朱ひがし・あけ


「そうか。貴様が―――」


「あ、ちなみに一回取り出した人に聞いてみたんだけど、太陽光に焼かれるのって結構痛いらしいから、精神が摩滅するか廃人になるかしたら、能力維持が出来なくなって大抵は普通に死んじゃえるって」


「必ず、戻ってくる……私は彼と約束したからな」


「彼って?」


「貴様のような輩の万倍信用に足る男だ」


「そう。でも、今はさようなら。旧き世界を守護したモリビトさん。後の事は僕達【紅蓮朋友会】に任せて心安らかに、ね?」


 ウィンク一つ。


 雷同の姿はその時、地球上から消えた。


「ば~いば~い♪」


 空へ大きく手を振った少女の周囲にユラリと数人の人影が滲む。


「総代。伊藤さんからのお電話です」


「伊藤ちゃんから?」


「はい。何でも、今月のお小遣いは……は、半分、だとか」


「え!? えぇええ!? マジ!? 本当!? それ、どこ情報!? 伊藤情報!?!」


「は、ハッ、ど、どうぞ……」


 人影から衛星端末がそっと少女の手に渡され、それが耳に当てられるとのほほんとした声が響く。


『あ~あ~おっと、ようやく安定して繋がりましたか。こんばんわ。総代』


「あ、あの~伊藤ちゃん? その~今月分のお小遣いの事なんだけど……」


『いやぁ~それがですねぇ~今回の一件で自衛隊の方々にお手伝い頂いた金額が結構な額になりまして』


「そ、そんなぁ~~~ッ!!?」


 ガックリと少女が山中に膝を付く。


 すると、その膝の下にはいつの間にか白いハンカチが敷かれていた。


「う、うぅ……こ、今月は新作リップが出るのにぃ……他にも日本初上陸の店にすっごく可愛いバッグがあるとか……」


『まぁ、予算の都合上来月まで待って頂かないと中々……あ、既に請求書は会計部門に回してあるのでご心配無く』


「それどこが心配じゃないの!?」


『それとしばらくはこっちでやる事が出来ましたので、本部に当分戻りません、悪しからず。何かあったら電話して下さい。他にも急なのですが、蘆夜豊を転校させる事になりまして。そっちに帰れるかどうかは未定の状態に……』


「え!? ええぇ!? 何!? どうしてトヨちゃんが帰ってこないの!? どういう事なのよ!? 伊藤ちゃん!!」


「色々あったんですよ。本当に色々と……」


 伊藤が言い辛そうにゴニョゴニョと誤魔化した。


「色々って何!?」


「具体的には個人情報なので申し上げられませんが、此処だけの話……恋、というやつですねぇ」


「何よ!? 恋って!!? 親友の僕より大切な恋人が出来るなんてあるはずないッッ!!?」


「済みません。力及ばず……若い二人のリビドーに当てられた老体はこれ以上の無粋が出来ない身体になってしまったのです。げほげほ」


「あ、ちょ、芝居染みた言葉で煙に巻こうったってそうは……」


 ザラザラと端末からの音声に都合よくノイズ?のようなものが奔る。


「あぁ、どうやら通信状態が良くないようですねぇ。しょうがありません。この話は次の機会にと言う事で」


「あ、ちょっと!? 伊藤ちゃん!? 伊藤ちゃんたら!!?」


 ブツンと通信が途切れた。


「くぅ~~~ッ!? こういう都合が悪い時だけ、いっつも!!」


「総代。その~大変言い難い事なんですが」


「何よ!? 今の僕は傷心したばっかりの乙女なんだよ!? これ以上、僕を追い詰めるって言うの!?!」


「本当に済みません。マジで済みません。でもぉ……その、そろそろ帰った方が。明日までの課題を終えないと総代は確か単位が取得出来なくて留年に……」


「ぅ!? 人が思い出さないようにしている事を!? そ、そんなの皆が助けてくれるからいいもん!? ね? 皆!!」


 すると人影達がスッと一人ずつ消えていった。


「ナンデよ!?」


 喚いた朱に電話を受け取って残った一人が答える。


「いやぁ、そういうのは業務内容に含まれないって伊藤さんが。それと総代にはちゃんと勉強してもらわないといけないので丸写しや回答をまんま教えるとペナルティーとして給料下がるんです。ええ、割りと生活掛かってるんで、こういうのは今後ちょっと……」


 頭を下げた人影が恐縮しながら、姿を消す。


 そうすると山中には唯独り。


 朱だけが残された。


「うぅぅうぅ~~~~っ!? せっかくサプライズでお仕事手伝いに来たのにぃ~~っ!?」


 まるで獣が唸るような声を発した後。


 絶叫が放たれた。


『伊藤ちゃんのバカァアアアアアァ。トヨちゃんのアホォオオオオオオ』


 虚しく響き渡る声は何処にも届く事なく。


 月はいつも通り。


 何も語らず。


 されど、美しく。


 静かに全てを等しく照らしていた。


                      第六章「君は遣い使われる人」了

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