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第六章「君は遣い使われる人」~②~

核心に付いての話となりました。エピローグまで後ちょっとです。では、次回。

~②~


「やはりか」


「!!?」


 千四が全ての事態を飲み込めずに棒立ちになって自分の周辺を見つめている最中。


 声の主は校舎屋上から降りてきた。


 ざっと10m以上上から飛び降りて無傷。


 前方数mの場所にいる相手に咄嗟、風を吹かせなかったのは単に千四が放心していたからではない。


 吐きそうな程の圧迫感を感じて、炎使いからの連続攻撃に乱れていた集中力が途切れたせいだった。


「っ」


 片膝を付いた千四を降り立った者が睥睨する。


 巨漢。


 そう呼ぶに相応しい体躯の相手だった。


 切れ長の瞳。


 短く刈られた白髪。


 190cm以上の背丈。


 肉体には鋼のような意思が通っており、それとは反比例するような美貌。


 男装の麗人の如き二枚目。


 その瞳には確固たる灯火が見て取れる。


 内側からはち切れんばかりの肉体をワイシャツとスラックスで覆ってはいるが、千四にはその男が軍人か何か。


 いや、何処かの神話に出てくる騎士か英雄に見えた。


 その厳然とした威圧感がキリキリと胃を痛ませて。


 声の一つすら出せなくなったのは本当の意味で自分という個人と相手の格が違うと悟ったからに違いない。


 まだ僅かに残っていた冷静さが自己診断を下す。


「私の名は雷同。雷同泉らいどう・いずみと言う。初めまして六六千四君」


「―――」


「喋れないか? ふむ。これは僥倖だ。ようやく気配が伝わるようになったわけだな。君の基礎防御は自動オートかと思っていたが、そうか……無意識下レベルでの集中が働いて維持されていたらしい」


「?!」


 思わず一歩後ろに下がった千四は蹈鞴たたらを踏んで尻餅を付いた。


 その炎使いを一瞬にして消し去った現象の跡地。


 半径1mにわたるドーナツ状の窪みに。


「先程の宗道を倒した手際は無様だが、君の真価を測る事は出来た。その点であの男はよくやったと言える」


「!?―――あの男は……」


「君が殺した。確約しよう。もう原子の欠片一粒とて、残ってはいない」


「僕が、殺した?」


 呆然と呟く千四に雷同が頷く。


「そうだ。君の能力による近接排除を受けて死んだ。君の能力に付いてあの男が理解した以上に分かった事は二つ。君の能力の発動起点は周辺領域をとある状態にまで持っていく場合、排除対象を指定し直さなくていい。そして、その状態を生み出した時、君の防御力はこの世界最高の使い達。クラスSSたる【三頭神トリグラフ】と同等かそれ以上だ」


 今正に自分の前で冷静に話す男の目的が殺害だとすれば、千四とこんな状態で話す事に意味があるはずがないわけだが、現実はそうなっている。


 これをどう解釈するべきか。


 考えをまとめようとするも、気配による威圧が強まる度に死の恐怖に集中力は乱されていく。


「どうして今殺さないのかと思っているだろう? だが、殺さないのではない。殺せないのだ。君の能力は瞬間的な集中力でも私を消失させるに足る。だから、こうして威圧させて貰っている」


「何故―――」


 そんな事を話すのか。


 いや、それ以前にペラペラと千四ですら知らない力の本質を語っているのか。


 やはり、不可解には違いなかった。


「その問いに対しての回答の前に答え合わせをしよう。そして、その後……私の提案を聞いて欲しい」


「提案……」


「そうだ。君がどうして狙われるのか。その理由に繋がるものだ」


「……話を聞こう」


「ああ、そういうと思っていた。君は少なくとも人が死ぬという事を今も大切に思っている。この死がありふれたご時勢に博愛主義と情に流されない冷静さをも兼ね備えている。その上、その能力を常時発動させる程の逸材でもある。君にならば、君が死なねばならない理由が理解出来ると私は感じている」


「ご託は、いい……」


「そうだな。時間もそう無い。君の護衛に付いた少女が目覚めるまでに話を纏めよう」


「―――ッ」


 全て見透かされている。


 それを承知で話に時間を割くという。


 正しく思考的強者だ。


 冷静に判断を下す男の判断を千四はその気配より肉体より恐ろしいと感じた。


「まず、炎使い。あの放火魔崩れ。宗道に付いてだ」


「宗道。それがあの男の?」


「そうだ。それに付いて一つだけ謝らねばならない事がある。君の友人なのだろう少女の事だ」


「やっぱり、あの男が工藤さんをッ!?」


「彼女がどんな使いだったのかは知らないが、宗道は下見中に出会って、標的にしたようだ。それを留められなかったのは私の非だ。だから、君の知りたかったことは伝えよう」


「工藤さんが使いだったのなら、殺された理由は……」


「君の考える通りだ。使いの力を強化する目的で予定に無い殺人が起こった」


「―――ッ」


 千四が顔を歪めた。


 図書館を愛する少女が何の使いだったのかは彼にも分からない。


 だが、その死の遠因は間違いなく千四という存在に違いなかった。


「………済まなかったと思っている」


「今更ッッ!! 今更そんな事言うなッッ!!!? 工藤さんはッ!! ただ本が好きでッ!!! ただあの場所が好きなだけのッ!!! そんな普通の女の子だったんだぞッッ!!? それだけ―――それだけだったんだ………ッ」


 吼えた千四の瞳が雷同を睨み付ける。


 周辺の明度が明らかに下がった。


「いや、彼女には一つだけ死ぬ要因があった。それは君が同じ学校に通っていたという事だ」


「―――?!」


「もし、君が別の学校だったなら、我らは彼女の事など歯牙にも掛けなかった。今回の一件で人間使いたる京前きょうぜんが無作為に車両へ押し込めなかったなら、生き延びる可能性は高かっただろう」


 反論出来なかった。


 それでも相手が悪いと殺した奴が悪いと言い返せたはずだ。


 だが、そう出来ないのは……何処かで自分の力が少女の死に結び付いているかもしれないと思っていたからに他ならない。


「クソッ、クソッ、クソッ、どうして彼女がッ、どうして―――」


 今までのように冷静では居られない少年の慟哭に雷同は瞳を伏せる。


「話を続けさせてもらう」


「………ッ」


「宗道は使いの世界では炎使いと言われていた。だが、実際の本質と使うものはまったく違うものだった。故に攻撃力に限って言えば、クラスAにすら届く逸材として我々は今まであの男を使ってきた。しかし、新人ルーキーの君が能力を防いだ時点で、気付くべきだったな……君はあの四年前の奇蹟を既に体現していた」


「四年前の奇蹟? あんな、あんな状態の何処が奇蹟だって言うんだ!? 全部救えたわけじゃない!!? 傷付いた誰かを癒せたわけでもないッ!! 核を防ぎ切ったからってそれがッ」


「そうだ。君は核弾頭すらも防ぎ切った。あの日、君の背後にいた多くの人間すらも護り切った。目覚めたばかりの使いで能力の何たるかも知らない君が、あの都市どころか。あの地域一帯を消し飛ばすはずだった弾頭の威力を最小限まで減衰し、全ての放射線と放射性物質を除去した事は真に奇蹟と言える」


「……それが僕を殺す理由だって言うのか? こんな力が欲しいって言うなら今すぐにくれてやりたいッ!!」


「君が宗道に襲われた廃コンビニで生き残れたのは君が無意識に今までに防いだものの中で最も重要な排除対象を常に意識していたからなのだろう。最初から不思議に思っていたが、何の事は無い。君はたぶんあの日、あの時から、ソレを防ぐ術を身に付け、常に自分の身を守っていたわけだ」


「あの男の能力はまさか……!?」


 ようやく千四も理解した。


 宗道と呼ばれる炎使いが何使いであるのか。


 そのおぞましい一致に背筋がざわめく。


「粒子線使い。そうだ。放射能、中性子線にしても粒子線には違いない」


 雷同が僅かに溜息を吐く。


「炎を起こすのも、相手を焼くのも、廊下を崩したのも、全ては一つの能力に拠る。君が風を起こし、周囲の明度を下げ、今気圧を操作して私の肉体を沸騰させようとしているように」


 もう看破されている事に千四は動揺しなかった。


 今も威圧に集中は乱れたまま。


 周辺の気圧を恒常的に変動させるという慣れない操作も少しずつしか出来ていない。


 それでも着実に気圧は僅かずつ下がっている。


「君の能力の本質は排除に似ている。だが、実際に使っているものは概念使いのソレだ。粒子線を完璧に防ぐ“何か”というものを私は知らない。少なくとも減速材に用いる物質で君のやっている事は実現出来ない。故に君は理論上の現象や概念上にしか存在しないものを使う、そういう類の使いだと私は推測した」


「それで、答えは見つかったか? ナイスガイ」


「ふ、随分と余裕を取り戻しているようだ。では、簡潔に答えよう。君の本質は全てのものを排除した後に残る状態を指す。即ち―――」


 声を発するより早く。


 ポンと背中に触れられた巨躯がグラリと傾いで横に倒れた。


 一瞬、身構えた千四だったが、すぐに相手の後ろにいる姿を見て、安堵の息を吐いた。


「蘆夜さん……」


「だい、じょうぶ? 千四君……」


 ゴーグルを掛けていない青褪めた顔がゆっくりと血の気を取り戻すと少年に駆け寄ってくる。


「助かりました」


「ううん。ごめんね。こんなに遅くなって」


「いえ、タイミングとしては最高のはずです。たぶん、一人じゃ逃げ切れませんでした」


 差し出された手を握って立ち上がった千四が倒れている雷同に視線を向ける。


「この男で最後だと思う。他に学校内に気配は感じられないから」


「そうですか……」


「千四君」


「はい」


「何を、話してたの? 今さっきまで殆ど身体の機能を止めて気配を消してたから、聞き取れなくて」


「……大した話じゃありません」


「千四君?」


「人間が如何に不完全でどんなに罪深い生き物なのか。何処かの神曲ばりに並べられてただけです」


「な、何だか難しいよ?」


 思わず困惑した表情となる豊に少年が苦笑した。


「それよりも、気配を殺す為とはいえ……本当に大丈夫でしたか? その、ヘモグロビンを操作して此処まで身体を持ってきて貰ってたとはいえ、心臓が止まってたはずですよね?」


「あ、うん。途中で少しだけ目覚めたんだけど、凄い気配が出てたから、出来るだけ隠密行動したくて。酸素は全部使い切っちゃった。あはは……さすがに死体ゾンビみたいに歩くのってキツかったよ……」


「そうですか」


「途中から倒れてる人達の声が聞こえなくなってたと思うんだけど、分かってた?」


「ええ、能力で領域内部の治癒を行ってたのは一応」


 千四はかなり追い詰められていたとはいえ、それでも周辺の状況把握を疎かにはしていなかった。


 最初、絶叫して痛みにのたうち回っていた生徒達が少しずつ大人しくなっていく過程を雷同は気絶や死に掛けていると理解したのだろうが、最初から命使いたる豊の能力が起動しているのだと事前の打ち合わせから千四は気付いていたのだ。


 まだ、気配が無いからと雷同が話を持ち掛けてきた時点でどうにか不意打ちの機会が廻ってこないかと薄い期待を抱いていた千四の当ては外れなかった事になる。


「そういう、事か」


「「!!?」」


 二人が同時にゆらりと立ち上がる男を凝視して目を疑った。


「そんな!? 昏睡状態にしたはずなのに!??」


 豊は自分の能力に絶対の自信を持っていた。


 少なくとも直接接触で命を弄った相手が起き上がる事など、想像の範囲外でしかない。


「命使い。侮っていた事は詫びよう。だが、残念な事に私は君にとっての天敵だ」


「蘆夜さん!?」


 ザッと千四を後ろに庇って、豊が懐から拳銃を取り出して構える。


「無駄だよ。私は肉体強化系の【破常オーバー】だ。物理手段では殺せない。此処にいる戦力ならば、彼以外に不可能だろう」


「!!?」


 いきなり自分の能力を明かした雷同に豊は驚く。


 使いにとって何使いであるかを知られるのは致命的な事態だ。


 しかし、それを僅かなりとはいえ敵に聞かせることは自殺行為以上の意味を持つ。


 嘘を言っているという事も有り得るが、命使いたる豊にも雷同が言っている能力系統以外で自分に対抗出来る存在は殆どいないと理解していた。


「……下がってください」


「千四君!?」


 豊の前に出た姿に少しだけ感心した様子で雷同が片眉を上げた。


「ほぅ? その意気や良し。話し合いを続けようか」


「蘆夜さん。能力が効かない以上、時間稼ぎは必要なはずです。此処で蘆夜さんがもしも倒れたら、此処で倒れてる人間にしても、僕にしても助からない可能性が高い。ですから、今は話をさせて下さい」


「……分かった。でも、危ないと思ったら……」


「構いません」


 二人の掛け合いに雷同が頷く。


「因果なものだが、これこそ必然かもしれん。破滅と奇蹟。全てを救う救世の女神が見届けるとするなら、これ程に相応しい立会人も無い」


「ご託はいい。僕の能力の本質は何だ?」


 急かす千四に雷同はゆっくりと告げた。


「真空」


「真空、だと?」


 あっさりと明かされた本質。


 それが正しいかどうか千四が思考を廻らせるより先に雷同は話を続ける。


「四年前。確かに君は奇蹟を起こした。その未熟な力で核弾頭さえ防ぎ、五千人の命を救い、家族や隣人の全てを失った。だが、その元凶たる破滅の事にまでは考えが及ばなかったようだ」


「破滅? 【極点消失ポール・バニッシュ】の事か」


「そうだ。君の能力はこの世界に少なくとも一度は確実に顕現した力であり、何処かの誰かが使っていた力……【承醒ノーティス】だ。そして、その相手こそ……本来、我々が相対するべき相手。いや、事象なのだろう。本当に使いの世で言われているような存在が、その力の所有者だったのか。今では知る術も無い。知っているのはこの世に三人のみ。【三頭神トリグラフ】だけだろう」


「その言い方じゃ、まるで千四君が―――」


 豊が言い掛けて。


「だから、そう言っている」


 雷同が肯定した。


「―――六六千四。君が今使っている能力こそ、この世界を破滅させた元凶……使いの世でまことしやかに流れる四年前の事実。それを証明する力なのだ」


 巨漢の男はそっとワイシャツのボタンを片手で外しながら、ポツリと言う。


「極点が消えた日も世界は暗かったのだよ」


 一滴、汗が夜風に落ちた。

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