第六章「君は遣い使われる人」~①~
最後の章になりました。此処からは速足。主人公が何を選択するのか。そん回になるかと思います。では、次回。
第六章「君は遣い使われる人」~①~
第三校舎一階端連絡通路。
第二校舎までを全て虱潰しにした千四は最後の棟に辿り着いていた。
(もう逃げてる可能性も……)
緊張の糸を張り詰めさせながら、一瞬一瞬周囲に警戒を払い続けて来た代償か。
そろそろ集中力も切れそうな彼が最後の棟で足踏みするのも当然。
しばし、休んでから再び往くべきかとも思うが、それも難しい。
少なくとも炎使い以外にも何人か使いのいる可能性が高いと事前の作戦で伊藤から告げられている。
実際、此処で一度休める場所を探しに行くのも一苦労だろう。
そこをまだ見ぬ使いや人間使いの影響下にある生徒達に襲撃されれば、対処出来るかどうか怪しい。
生徒達を傷付けこそしているが、無闇に死人を出さない方針でギリギリの戦いを続ける新人にはその選択は厳しいと言わざるを得ない。
(このまま使いを全て炙り出すまでは現状の方法を続けるべきか……)
伊藤より彼が授けられた命題は三つ。
生き残る事。
人間使いに操られている人間達から相手の意識を外させる事。
そして、この一件に関わる使いを炙り出す事。
これら千四に課された使命は犠牲を最小限に抑える為に伊藤が知恵を絞った結果だ。
どうなるにしろ。
未だ人を殺せるような人材ではない彼に与えられたのは敵情報を露呈させて完全に把握する為の囮役。
“本命”が敵を討ち取る為にどれだけ相手の手の内を晒させる事が出来るのか。
それが今回の一件を解決する分かれ目だと伊藤は念押ししていた。
手札が限られている以上、その使い方一つで死人の数が大分違う。
まだまだ自分の本質を見極めていない千四が囮役をやるのは不安も付きまとうとされたが、六人の中で最も【外力排除能力】が秀でた者が彼だったのだから、他に選択肢等無い。
「行くか」
呟いて。
千四が虚空を指先でなぞろうとした時だった。
背後からの足音。
それに瞬間、飛び退けば。
「!?」
見えるのは校舎の反対側から出てきたのか。
複数の生徒が彼に突撃してくるという光景。
(使い捨てにして動きを止める気か?! だが、そんな事が出来ないのはあっちも)
指が一線し、横殴りの暴風が近付いてくる生徒達を次々に吹き飛ばして校舎間の地面に転がした。
相手が何を考えているのか分からず。
それでも迫ってくる危機を放ってもおけず。
周囲に風が逆巻き、次々生徒達を千四の周辺から排除していく。
(一体、何を考え―――)
校舎から出るか。
それとも廊下を進むか。
その一瞬の判断時間に炎使い宗道の策は決まっていた。
パラリと上からの埃が微かに彼の頭部に落ちて。
それがどういう意味を持つのか考えるより先に。
廊下の天井が落ちた。
「―――?!!」
轟々と雪崩を打って崩落する天井は二階と三階の廊下全てを巻き込んでいく。
炎使い。
その真価か。
膨大な量の粉塵が周辺へと広がり、熱量を持って発火した。
通常の爆発や粉塵爆発の類とも聊か違う。
周辺に満ちる全ての建材が熱量によって全て瞬間的に膨張した、というべきだろう。
内部にいた人間にしてみれば、細かい粒子そのものが熱量と圧力を伴って一斉に襲い掛かって来たに等しい。
ドゴンと瞬間的膨張後、グツグツと煮え滾るような熱量を帯びた粉塵が爆発で飛散するより早く周囲を高熱で囲い溶鉱炉の如く掌握していく。
当然の如く千四へと突撃を掛けていた生徒達が校舎の半分の崩落と爆発に伴う余波で他の校舎の壁に叩きつけられ、同時に硝子片の餌食となって倒れ込んでいった。
それでも、そんな状況になっても、風が吹く。
一瞬後、暴風が周囲の熱量を吐き出すように連絡通路内部へと噴出す。
「!!!」
コンクリートを煮蕩かしたような周辺。
その一部が瞬間的にキュゴッと音を立てて何処かへと消失した。
内部から風に背中を押されるようにして少年が転がり出てくる。
「―――?!! かはッ!? はっ―――ん、ぐ―――はっ、はっ、はっ、はっ!!?」
全身を汗に滴らせながら、千四が起き上がり様に呼吸を開始した。
(い、今のは死ぬかと―――周辺の空気を吸えないように―――こんな手を、ん、ぐッっ!? 一端校舎から距離を取って、そこから)
トスン。
「?!」
千四が反応するよりも先に彼の背中に付いた手が明確なる撃破音を告げる。
複数の生徒達が人間使いの撃破で影響下から脱し、激痛に絶叫を上げるのと、炎使い宗道が学生服姿で千四の背後、零距離から能力を行使したのは同時だった。
(殺った!!!)
絶対的な自信。
それが宗道の脳裏を支配する。
全ての仕込みは事前に済ませてあったのだ。
彼の能力は射程距離が恐ろしく長い。
故に相手が能力による現象に気を取られて、位置を見誤るという予測は正しかった。
人間使いの影響下にある“盾”の突撃も校舎の半分を崩して周辺から呼吸する空気を奪うのも、全ては宗道本人が生徒に紛れて千四の後ろを取る為の策に過ぎない。
排除。
そうとしか言えない能力を相手には如何なる宗道の攻撃も通らなかった。
だが、それは能力行使による明確な防衛が働いているからだ。
その常に働いている力は何を防衛して何を防衛しないのか。
そして、何を排除して、何を排除出来ないのか。
それを見極めた彼にとって、千四の使いとしての能力の穴は範囲と距離だった。
相手が肉体内部に入り込んだ毒物すら排除するような化物だとしても、外的な攻撃に対する迎撃が行われている以上は傷付けられる可能性があるという事だ。
ならば、相手が常に発動している能力をぶち抜いて攻撃が可能になる距離は何処か。
相手の能力を排除する圏域はどの程度のものなのか。
そして、その範囲内において何が防御能力を掻い潜るのか。
それを見極める為の校舎崩しだった。
結果、分かった事は二つ。
一つ。
排除能力は千四の必要とする空気を排除しない。
つまり、能力による攻撃を排除している領域でも気体に関しては例外として処理されている。
二つ。
一度起動した能力の発動起点における排除対象は追加出来ない。
つまり、排除対象の選別と排除は【並列起動限界(MLT)】一つに付き一つのパターンしかセット出来ない。
もし、新たに排除したいものが出来た時は新しい能力発動起点を作る必要がある。
排除対象を追加して能力発動起点を開き直すまでに隙が生じ、同時に展開される排除領域の性質が個別となるという事は起点の排除対象にバラつきが生じるという事。
同時に排除出来ない攻撃を【並列起動限界(MLT)】以上の個数用意出来れば、能力による防御の突破はたぶん可能に違いなかった。
(死ねッッッ!!!!!)
宗道の能力が起動した。
零距離である。
この状態では排除領域を展開したところでもう遅い。
デフォルト状態で宗道の能力を迎撃した排除能力の壁は物理的な接触を可能とする固体までは排除していない。
それは千四が服を着ている状態からも明らかだ。
再び、固体を排除する為の能力発動起点を作るより、宗道の能力が肉体を襲う方が速い。
そうして彼は―――相手の細胞―――命の螺旋たる遺伝子―――その全て断絶させ、貫き―――巨大な熱量までも発生させ―――。
キュグヲン。
そんな音色と共に即死した。




