第五章「戦闘というもの」~②~
サックリと一人片付いてしまいましたが、基本的には合理的な戦闘になるよう心掛けています。主人公は普通にバトル予定。では、次回。
~②~
『【統括者】……全ての罠を抜けられました』
『では、プランBに移行。市街地の観測はそちらに任せる。宣言通り、高階梯の使いが侵入した時点で人質は処分するよう』
『了解』
『んだよぉ。結局、あれだけお膳立てして成果ゼロ。はっ、都市型最強様が聞いて呆れるぜ』
『……』
『宗道。次はそちらの番となる。“盾”を使いながら接近して後は言った通りに攻めろ』
『了解。了解。で、一つ聞きてぇ』
『何だ?』
『アレは本当に倒せるのか?』
『倒せる』
『ボーギョリョクを見る限り、クラスC以上。こっちの能力はAまで届くが、相性次第。実際には初手の奇襲時に効かなかった時点で詰んでる可能性が高い。っつってもか?』
『理由ならある』
『どんな?』
『あの能力は少なくとも過去に一度だけは倒されたものだからだ』
『おいおい。【承醒】だなんて聞いてねぇぞ。【統括者】」
『聞いたところで問題があるか?』
『……今日の一件もある。あの餓鬼はこっちの罠を全部掻い潜りやがった。大抵の使い。クラスBだろうと、あの罠を突然喰らえば、相性次第じゃ殺せる。だが、あいつは生き残った……そろそろ能力を教えてくれてもいいんじゃねぇのか? あぁ?』
『推測になるが?』
『知らねぇよりマシだろうが』
『物質、エネルギーの排除能力だ。それも体内に混ざった有害物質の類まで排除出来る、な』
『つまり、何だ? 何使いなんだ? あの餓鬼は』
『概念使いの類と上は見ていた。こちらの仮称では【排除使い】とされている』
『どうやって勝つんだよ……』
『辛うじて前回の発現者に関して拾えた情報は二つ。【制約値】は発動起点一つに付き限界は半径100km。【並列起動限界(MLT)】は最大で11。つまり、今回の発現者に関しては最高で12から24以上の始点を持った全方位攻撃でのみ、対応が可能という事だ』
『………おい。そんなバケモンがいつ使いの世界で死んだってんだ? そこまでの大物はAかS以外に在り得ねぇ。それとも何か? 何十年、何百年前の力が今更現代に発現したってのか?』
『知らない事は知らないままでいい。それと今回の発現者に関しては事前調査も済んでいる。少なくとも“盾”を巻き込んでまで能力の拡大はしないはずだ。とにかく、叩き込める機会に全ての力を使って“貫け”……それがお前の仕事だ。これ以降の通信は無い。仕事を終えたら何処へともなり行け。だが、全力も出さずに逃げる事は許さん。その場合はあちらがしなくとも、こちらで貴様を処分する』
『チッ、わあったよ。これであんたとも最後だな【統括者】……精々無様に死んで笑わせてくれ』
ブチリと闇の中で通信が途絶える。
『宗道が逃げるかもしれませんが』
『もし、あの能力で殺せないなら、最後のカードを使うまでだ』
『……分かりました。こちらは引き続き監視を続けます。では』
プツンとついに通信が全てを途切れた。
闇の中で影は自分達を指揮した者がこの一戦で己を使い切る覚悟である事を感じ取っていた。
半ば、使い専門の掃除屋となって数年。
新興団体にも付かず。
ほぼフリーだった自分達の才能を拾い上げた組織に恩を売る形で貢献してきたが、影にしても裏家業が限界に近付きつつある事は分かっていた。
名前が売れ過ぎた。
能力が知られ過ぎた。
今や世界の何処に行っても彼は様々な団体のブラックリストに乗っている。
名前や経歴や素性が分からずとも。
使いの殺害で稼げば、【紅蓮朋友会】を筆頭に他の組織からも追手が掛かる身。
今回が最後の仕事だと高額の依頼料に吊られて召集を受けたのはいいが、相手もそれなりに対策を立ててくる。
となれば、もう彼の仕事は監視役をきっちりこなして【統括者】の最後を見届け、逃げるだけになるだろう。
放火魔崩れの同僚はさっさと消える算段でもしているのだろうが、影的は組織にそれなりに稼がせて貰った身だ。
最低限の仕事はきっちりと履行、その上で組織に最後の奉公でもして覚えをめでたくしてから逃げようと考えていた。
危険を犯しても実を取る誰の為でもない自分の為の処世術である。
国内から海外に逃げても新興三組織の網は広い。
逃走資金が底を付いてのたれ死ぬような事は影としても避けたかった。
「最後に大仕掛けを拵えては見たが……やはり酷いものだな……この力は……」
人間を部品のように取り扱う才能。
人間使い。
そう呼ばれて早十年以上。
この能力さえあれば、世界の王にだって為れると奢った若き日も霞む年齢になって、初めて影は自分のしている事がロクでもないと思うようになった。
例え死体ですら人間のように使える能力はゾンビを大量に生産して相手を物量で押し潰す事すら出来る。
老人も子供も等しく自分の人形として放蕩の限りを尽してきた影にとって、能力を使い込んだ末に辿り着いた結論というものは本来、素晴らしいものでなければならなかった。
そうでなければ、たぶん力の副作用に精神が耐え切れなくなると若い時から本能的に分かっていたのだ。
(だが、これだけ人間を弄ってきて、それでも自分が人間である事は止められなかった……)
人間を好き勝手に出来る。
昔なら与えられた玩具に笑う子供みたいに喜べたのだろうが、歳を重ねるに連れて能力への忌避感や拒絶感は大きくなるばかり。
どうしてだ。
何でだと。
そう、己に問い掛ければ、笑ってしまうくらいに答えは単純だった。
人間を人形としか、能力の対象、ただのモノとしてしか見られなくなれば、世の中に自分以外の他者が消えてしまうのだ。
人間に価値を見出せなくなる。
その空恐ろしさを真に理解出来る者はたぶん殆どいないだろう。
人命を幾らでも消費出来る独裁者を長年やっているような者だけかもしれない。
どんな犯罪にも言える事だが、犯罪者にとって犯罪とは手段だ。
心を満足させる手段。
身体を満足させる手段。
自分の充足を得る。
あるいは危険やリスクを排除する為のものだ。
多くの犯罪が人間に価値を見出すからこそ、起こるものだと能力を使い続けてようやく影は気付いた。
炉辺の石ころと然程人間が変わらなく見えるようになった時。
影は人間として自分が真に大切なものを磨り減らしてしまったのだと気付き、ゾッとした。
人生が冷たくなっていく感覚。
自分の周りにいる他人が、自分を喜ばせてくれるはずの他者が、ただの肉の塊にしか見えなくなって初めて、人間は人間無しには生きられないと影は知ったのである。
それ以来、多くの喜びが影の人生から去った。
まず一番最初に気付いたのは女を抱けなくなった事だ。
肉の塊と寝たい男はいない、という事なのだろう。
どんな劇にもドラマにも感動出来なくなった。
肉が台詞を喋っても、それが肉である事は変わらない。
たぶんはそういう事に違いない。
他者の喪失。
それは相対的に維持されている人間の根幹的な価値観の喪失でもあったのだ。
だから、影は今ならば人間を何とも思わずに縊り殺せる。
若き日の万能感など微塵も無く。
あの他者を踏み躙る喜悦も無く。
単なる肉の塊の形を変える程度の事として“処理”出来る。
それがどんな年齢のどんな性別の人間だろうと苦も無く残虐にただの血肉の塊として扱えるだろう。
その血の付いた手で食事をしても、何ら気分も悪くならない。
だから、影は市街地に仕掛けた車に適当に街を歩いていた人間を詰め込んでも何とも思わなかった。
子供だろうが妊婦だろうが老人だろうがお構いなしに車へ詰めて、ただの自動で動く人形にしたのだ。
昔はもっと愉しい人生を想像していたのに今や世界に一人だけの狂人。
彩りを失い、他者が消え失せた世界に、影の安住の地なんて存在するはずもなかった。
だからなのだろうか。
幸せとは他人がいてこそ成り立つと今更に知って、影は少しだけ思うのだ。
せめて、自分の能力が人間使いで無ければ。
更に欲を掻くなら、使いで無ければ。
自分は今も幸せを少しくらいは感じられる人間だったのではないかと。
四年前。
まだ僅かでも他者に何かを感じられていた頃。
最後に影へ幸せを運んでくれたのは母親の声だった。
時折、電話する家族に心配ないと伝えている時だけはまだ自分も人間なのだと信じられた。
信じられていた。
しかし、全てが災厄に飲み込まれて、あの無限のような嵐と津波を、自分の母がいるはずの地方が沈んでいくのを見つめながら、影は気付いた。
最初から自分にそんな母親はいないのだと。
本当に滑稽な話だが、彼にとっての他人はいつの頃からか既にもう全て自分の人形に挿げ変わっていた。
電話越しに話すのが母なのか。
それとも自分が作った人形なのか。
その区別すら、もう出来なくなっていたのだ。
「まったく……酷い力だ……」
影は思う。
もしも、自分が死ぬのなら、その時はこの能力が誰にも受け継がれないで欲しいと。
例え、如何に便利な能力だろうと幸せを見失わせる力は人間にとって害悪でしかないはずなのだからと。
「……ふ、本当に今更だな……」
苦笑して。
無数の人間達から送られてくる情報をモニターで監視しながら、最後まで影は気付かなかった。
情報を受信しているという事は情報が何処に集まっているのか教えているのだと言う事に。
故にその時も、その刹那も……自分が死んだ事にすら気付かず、影は影のまま、途絶えた。
都市上空数千m。
空自御自慢の最新鋭機。
F-2の後継機として異例の短期開発・投入まで漕ぎ付けた純国産汎用ステルス機F-3から発射された空対地ミサイルが市街地の一角にあるビルを爆砕した。
陸自の電子戦部隊からの情報を速やかに分析し、割り出された敵位置は完全に一致。
ラムジェット推進を使用した超音速の槍は運動エネルギーだけで分厚いコンクリート壁を貫通し、起爆。
人間が生き残れる余地は露程も残らなかった。
『そちらは終わったようですね』
都市の一角。
路地裏に伊藤の声が通信機越しに響く。
「はい。気配が完全に途絶えました。千四君達を襲った車両内部の人間も瞬間的に凍り付いてから倒れてるようです。使いの力が解けたと見ていい。ただちに自衛隊の医療部隊の派遣をお願いします」
答えたのは佐上だった。
『了解しました。どうやらビル内部に立て篭もっていたウチの職員達も倒れたようですね。これで殆どの問題は解決したと見ていいでしょう。ただ、空滝高校周辺には近付かない事をお勧めします』
「何故ですか? 今からなら十分に千四君への援護が間に合うはずですが」
『いえ、あちらの炎使いですが、事前情報からしてかなりの射程があると見ていい。近付けば、能力を偶然に受けて死亡する可能性が非常に高い。出来れば、監察官が到着するまでは近付かずにいる方が無難だと思いますよ。ええ』
「……分かりました。伊藤さん」
『今、こちらもそちらへ増援部隊を伴って向かっています。いやぁ、それにしてもやっぱり空自と陸自は頼りになりますねぇ』
「それを我々が言うのはどうかと」
『今回は多数の民間人が人質に取られ、更に相手が大規模なテロまで起こせる特殊なタイプだと説明して動かしましたから。例外中の例外ですよ。今作戦が使いだけなら、何人死んでいた事か』
「それは……」
『まぁ、今回はこちらからの持ち出しでしたから、費用はお高いみたいですが、何。自分の財布じゃありません。はははは』
「だ、大丈夫ですか? 戦闘機に陸自の部隊まで動かしたとなれば、かなりの……」
『【人間使い】相手です。致し方ない必要な予算だったと総代には連絡しておきます。それに投入したあの機体の開発にはウチも一枚噛んでましたから、ご祝儀レベルで済ませてくれるよう防衛省の方には掛け合ってみますよ。ちなみに相手のボーギョリョクがクラスG以下の“紙”だったのは情報で仕入れていましたから。無駄にならないとも分かっていましたし、結果オーライというやつでしょう』
「後は炎使いと一人か二人だけ、ですね」
『そう見て間違いありません。そう言えば本部が動いてくれたようで、今回の一件を仕組んだ組織は根こそぎにしたようです。辛うじて灰にならなかった情報から【旧式派】の中でも指折りのクラスAが現場指揮している事が分かりました。そちらはさすがに我々が受け持たなければなりませんが、本部から超特急で【衛星】が二人向かってくれています。明日の朝までには到着する予定ですから、それまで彼と彼女が持ち堪えてくれれば、何とでもなりますよ』
「……そうですね」
『どうかしましたか? 貝塚君』
「いえ、何でもありません。それより智紗の回収は?」
『もう既に済ませてあります。でも、何だか心配そうな様子でソワソワしているようで』
「そわそわ?」
『仕切りに千四君は大丈夫だろうかと聞いてくるものですから、通信機の前に座らせていますが』
「そうですか」
『いやぁ、若いというのは素敵な事だ。昔は私もそれなりにモテた時期がありましたが、懐かしい……』
「そ、それではこれで通信を終わります。合流予定ポイントの変更はありませんか?」
『予定通りに。ああ、そう言えば一つだけ』
「はい。何ですか?」
『君の能力で空滝内部は覗かない事をお勧めします。人間、知らない事は知らないままの方がいいという事もありますから。では』
プツンと通信が切れ。
佐上は一人路上でパーカーを羽織ったまま。
小さな携帯端末を見つめていた。
「覗かない方がいい、か。さて……どうしたものかな……本当に」
『お~い。佐上』
「蒼雲。どうだった?」
路地に表通りから戻ってきた蒼雲が状況を事細かに報告していく。
「で、オレ達はこれからどうすんだ?」
「まずは伊藤さんと合流しよう。話はそれからだ」
「ああ、分かった。それにしても伊藤さんの読み。当たってたな」
「そうだな。人間使いの潜伏箇所や潜伏先の割り出し方法。全部、正しかった……」
「その上、こっちの能力も把握済み。使いっぱしりにするのも様になってると、さすが外部顧問様ってところか」
「顧問役として一番の古株だって話も総代の後見役って話もたぶん事実なんだろうさ」
「つーか、空自と陸自を動かすとはさすがに凄過ぎて付いていけねぇ。こういうのは地道に白兵戦ってのが漫画のお約束なんだがな」
「だが、そのおかげで正義の味方よろしく犠牲は最小限だろう? こっちもケガ一つ無い」
「そう思えば悪い人じゃねぇんだろうが、それを電話三本で実現するところはまるで悪役にしか見えなかったよな……」
「はは、違いない」
佐上は数時間前の作戦会議を思い出す。
仕切られる事は分かっていたが、和やかにとんでもない案を出す笑みに背筋が寒くなった事は今も記憶に新しい。
市街地への突入時、襲われる事は予測済み。
その上で移動手段を準備し、各自の能力に見合った分担と役割を与え、必要最小限度の手際で戦闘機まで飛ばしてみせる。
まるで詰め将棋でもしているような軽さで作戦を立てていく姿は正しく使いの世界で長年生き抜いてきた最古参の風格。
のほほんとしているようでたった一人の使いを戦闘機で爆殺するなんて狂気染みた悪魔の所業を平然とやってのけるのだから、さすがアジア全域の使いを束ねる組織の幹部に違いなかった。
あれくらいでなければ、組織で上に昇っていく事は出来ないのか。
それとも単に伊藤が特別なだけなのか。
どちらにしても、使いの世界は魔窟だと佐上は改めて思い知らされた気分だった。
「じゃあ、運搬頼む」
「ああ」
蒼雲がヒョイと佐上を背後に負ぶる。
その光景は冗談のようだ。
百人が百人中、同じ事をするなら立場を逆にする事を勧めるだろう。
だが、しかし、いつも漫画に齧り付いている気だるそうな眼鏡君が実際には筋肉質なインテリ体育会系な佐上を背負うという構図。
違和感が半端ではない。
タッタッタッタッと軽快な足取りで蒼雲が合流ポイントに向けて路地裏を走り出す。
「さすが肉体強化系。地味に早い」
「地味は余計だ。こっちは地道に弱ぇー力で強化の日々。三年掛けて、この程度。クラスFの悲哀舐めんな」
「すまんすまん」
「血色素使いだぞ? 何だよ。ヘモグロビンて!! せめて、魔眼にしろよ!! ちょっとお色気ハプニング起こす程度の能力でいいから!! あのクソ御使いが!!?」
切実な叫びだった。
「まぁ、そう熱るなって。使いの能力は授ける“アレ”にしか分からないってのは今も定説。それに間接的に酸素使いと言えなくもない能力だろ」
「なら、酸素とかにしろよ!? 何でヘモグロビンなんだよ!? ふざけてんのか!?」
「こっちに言われてもな。それにその能力だってそう悪くは……通常の数十倍から数百倍以上まで酸素を身体に取り込めるなんて、運動部からしたら羨ましい限りだ」
「お前分かってて言ってるだろ?! 酸素は有毒物質だぞ!? 取り込み過ぎたら死ぬんだよ!!」
「いや~有酸素運動は身体に良さそうだ。はは……」
「くッ、その外見で何でインテリやカッコイイ戦闘能力じゃないのとか!! 今でも腹が立つ!!」
支部では頻繁に使い同士の交流を深める目的で隣県や遠い県からもお客様がやってくる。
そういった場でのステータスは無論、能力だ。
勿論、隠す者もいる。
が、殆ど戦闘に関係なく、社会的影響力も低い使い達は自分の能力を明かす事も多い。
そういった輪の中ではクラスが能力の代わりにステータスになるのだが、クラスFはギリギリ戦闘可能人員と見なされる為、ちょっと気軽に能力を聞けてしまえる微妙な立場だ。
どんな能力なのかと興味津々に訊ねられて答えなければ、そんなに大そうなもんでもないだろうと顰蹙を買うし、明かして微妙な能力だった場合は気まずい雰囲気になったりもする。
蒼雲のトラウマ現場を佐上は今も鮮明に覚えている。
ルックスは悪くなく。
いつもの漫画フリークスぶりや自堕落ぶりが分からない他支部の女子にとって彼は恰好の獲物。
そこに来て能力トークが挟まれたとなれば、結果はお察しである。
へもぐろびんてなーに?
と、頭部にクエスチョンマークを浮かべた今時女子達からのカッコイー能力じゃないなんだ……というレッテルは今も蒼雲の心にクッキリ傷痕を残していた。
「あの新人みたいに本質が分かってないと答えりゃよかった……うぅ」
「そう愚痴るなって。もし海で遭難したり、船が難破したり、水難事故にあっても動かなきゃ二時間余裕で水中に潜ってられるお前はこの時代に一番必要な能力を手に入れたと見て間違いない。水泳なら全国制覇どころか。もうやってない世界大会だって楽勝レベルって支部の技術班も太鼓判押してくれてたじゃないか」
「オレは―――根っからの文科系だッ!! 水と戯れるような危険極まる趣味は無ぇ!!」
悲しいかな。
それが現実。
自分で授かる能力が選べない使いは自分の現状に必要な力を得るとは限らない。
水泳なら世界も狙える魚介系能力も海が魔窟な現代日本の現状ではまったくと言っていい程使う機会が無い。
ヘモグロビンによる血中酸素濃度の操作を可能としたところで、大抵が低酸素運動や有酸素運動のような肉体を鍛える目的でしか使用出来ない。
能力を生かせる職業やスポーツや趣味が社会基盤によって保障され整っていた四年前ならまだしも、今や蒼雲の能力は有用性が高いとは言い難いものとなっていた。
「千四君の事も気になる。何はともあれ合流しよう」
「く、文系インテリってのは【破常】とかだろ。普通!!」
「世の中、そういうのに振り回されてる連中だっている。お前には丁度いい能力だと僕は思うがなぁ」
男達は路地裏を強かに駆け、今も監視しているだろう者達に見付かる事無く。
合流ポイントへと向かっていった。




