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第五章「戦闘というもの」~①~

第五章突入、ようやく終盤です。主人公達の選択が物語の行方を大きく左右するでしょう。では、次回。

第五章「戦闘というもの」~①~


『伊藤とか言ったか? この支部で最高意思決定者としてお前に申し入れる。こちらで預かっているビル職員と実働部隊合せて十五人。死なずに返して欲しいなら、本日の午前零時に空滝高校に使い…ええと、むろ、むろ、せん、し、か? むろせんしを一人で寄越せ。単独で来訪が確認された時点で職員と部隊は全て解放する。尚、高階梯ハイレベルの使いが市街地に入った時点で人質は殺害させて貰う。もしこちらの要求を呑む用意があるなら、午前零時までに―――』


 パチンと録音機材からの音声が途絶える。


 旅館の一室に垂れ込めた空気はとても重いものだった。


 学生と二十代三十代の使いが合せて十人。


 職員が数人。


 衛星端末からの声を慌てて録音したからか。


 ノイズ交じりの声は男か女かも判別し難い。


 電灯の下。


 場の座長を務める伊藤は溜息を一つ。


 まず逃げる者と残る者の選別から始めた。


 それから二十分後。


 そろそろ八時を回ろうという頃合。


 脱出組みを送るミニバンが出発すると残った六人は暗い廊下から作戦会議室となった和風の一室へと戻った。


「さて、これで綺麗サッパリ後顧の憂いは断ちました。ここからが本番です。皆さんもよろしいですか?」


「伊藤さんに慰留されたら、断り切れませんよ」


 ナイスミドルに佐上が肩を竦める。


「君達がいなければ今回は作戦の立てようも無かったですから、本当に感謝していますよ。皆さん」


「その代わり、伊藤さん。弾んでくれよ? こっちも何かと入用なんでな」


 蒼雲が携帯端末で漫画を読みつつ、お茶を飲み干す。


「あんたの場合は限定ナンタラとか、特典フィギアとか。そーいうのでしょ。うざ」


「お前とは一生分かり合えねーと近頃思ってんだよ。ホント」


 智紗と蒼雲が「あぁん?」と互いにガン飛ばし合う光景を微笑ましそうに伊藤が見つめる。


「お二人には今回の一件が終わったら、勿論特別給をお出ししますよ。金額は頑張らせてもらいます」


「二人とも。余計な事をしなきゃ死なないと思ってるだろうが、それだって相手次第だ。事態が悪化すれば、即死する事だって在り得る。喧嘩するなとは言わないが、せめて連携が取れる程度の距離でいてくれ」


「佐上がそう言うなら。ま、別にこっちはキモヲタクよりは仕事するし~」


「ビッチうぜぇ。少なくともミスなんざしねぇよ。これでもプロだからな」


 やれやれと肩を竦めた佐上が伊藤を見やる。


「では、現在の装備の確認して。侵入ルートの策定と予定を分単位で構築しましょう。三人とはこちらで詰めておきますから、二人は互いの能力の確認でもしておいて下さい」


「分かりました」


「はい」


 四人がああでもないこうでもないと喧々諤々市街地への突入プランを立てるのを背に豊と千四はイソイソその場を後にした。


 旅館背後に続く大きな休憩場。


 卓球台の置いてある一角のベンチに二人が腰掛ける。


 もう彼ら以外居ないが、まだ電源は落されていないらしく。


 自販機と電灯は生きていた。


 自動で点灯した灯りの下。


 千四がポツリと漏らす。


「三人も残ってくれるなんて思いませんでした」


「うん。きっと、皆……職員の人を助けたいんだよ。伊藤さんにさっき聞いたら、三人とも支部の中じゃ古株であの支部が出来た時から居るんだって」


「……蘆夜さんは良かったんですか? 今日、何度も死に掛けたばかりなのに……」


「あたしはほら。最初から何かあった時の為に残らなきゃいけないから」


「でも、今回の事は僕が原因みた―――」


 ピタリと唇に人差し指が当てられた。


「君が確かに原因かもしれない。でも、もう違う」


「違う?」


「死人が沢山出たし、支部にもたぶん怪我人や死者が出てる。これはもう君を狙って殺そうとする誰かと君だけの問題じゃないの。このまま何もせずに逃げ出せば、あたし達【紅蓮朋友会】がやってきた事が無駄になっちゃう。喧嘩も売られたし、仲間を酷い目にも合わされた。戦ってみせなきゃ、誰もあたし達の言う事なんか聞かなく成っちゃう。そうしたら、また沢山の使いが危険に晒されたり、犯罪に手を染めなきゃ生きていけなくなる。だから、この一件は君だけのものじゃないの」


「そう、ですね」


「それにせっかく出来たのに守れなかったら相棒失格だよね」


「蘆夜さん……」


「伊藤さんから君の能力の事は聞いたよ。凄く便利だし、強い。だから、絶対生き残れる。絶対、死んだりしない」


 手がそっと重ねられる。


「伊藤さんから、蘆夜さんの能力は聞きました」


「そうなの?」


「はい。ですから、僕からも一つだけ」


「何かな?」


「死なないで下さい。そうしてくれないと今日みたいに忠告してくれる人がいなくなりますから」


「……あはは。新人ルーキーなのに生意気なんだ♪」


「脅威の大型新人(仮)ですから」


「うん。君にならなれるよ。きっと……」


 互いに笑い合ったところで能力に付いてアレコレと豊は千四にコアなレクチャーをし始めた。


 これから一人で敵の陣中へと乗り込む後輩が死ななくて済むように。


 ようやく出会った相棒を慈しむように。


 それからの数時間で何とか相手への対抗策を練り上げた六人が動き出したのは午前十一時ジャスト。


 ワゴン車に四人。


 大型のタンデム可能な黒いバイクに二人。


 事態は動き出した。


 刻一刻と過ぎ行く時間は既に火を上げる導火線の如く。


 加速していく車両は互いに左右の道へと別れた。


―――午前11時44分。


 曲りくねった山間部を抜けて市街地一歩手前まで最速で駆け抜けてきたバイクが速度を落とす。


 制服と風除けのゴーグル。


 そして、指を保護する革製の手袋だけを身に付けた使いお届け便の主が腹部にしがみ付いている年上な少年に声を掛けた。


「おーい。生きてる~そろそろ市街地だから」


「とりあえず。死ぬかと思いましたが」


「そーなんだ。でも、案外震えてない……やるじゃん。むろっち」


 高弓智紗。


 レーサー顔負けに峠を走破した彼女の顔は何処か輝いていた。


「むろっち……」


「あ、むろむろのほーがいーい?」


「千四で構いませんが……」


「きゃ、マジで!? もう明日にはズッコンバッコンやっちゃう? ちゃっちゃう?」


「とりあえずお友達からお願いします。色々な意味で……」


 ビッチ炸裂。


 $の瞳がキラキラと輝く今時の大人で女子学生である智紗はにんまりする。


(目付きは悪いけど、けっこー顔は好みっぽい。後、身体とかも弛んだりしてないみたいだし、これは中々ホリダシモンの気配が……)


「もし、生き残って帰ってきたら、付き合っちゃう?」


「そういうフラグは出来れば遠慮願いたいというか」


「フラグ? ふんふん。あのキモヲタクみたいに漫画っ子が好きとか?」


「漫画は普通に好きですが、そう入れ込む程でも」


「あんたって、話してみると割りと楽しいかも……ノリでこの間は八つ当たりしちゃったけど、ごめんね」


「いえ、別に気にしては」


「へぇ~あの馬鹿キモヲタクとは別の意味で根暗っぽいけど、結構いい奴じゃん。あんた」


「ありがとうございます」


「……ホントに今回の事で死ななかったら、マジでちょっとくらいならいいよ? けっこー顔、好みだし。これであっちも凄かったら、ケッコンしちゃったりして。きゃ~~♪」


 微妙にハイテンションなのはどうしてなのか。


 後ろを向いて話しているというのに事故る気配も無い智紗の力を千四は朧げながらも理解した。


「もしかして、高弓さんの使いとしての力は」


「分かっちゃった? あたしのって、直接戦闘出来るようなもんじゃないから、クラスGなんだけど、けっこーレアだよ」


「バイク使い……」


「ハズレ~正解は乗り物使い、でした~」


「乗り物使い……」


「あたし、昔っから、何でも乗れたんだよね。マジで。うん。三輪車、自転車、スクーター、バイク、車、大型車、飛行機、戦闘機、ホント何でも」


「………」


「引いちゃった?」


「いや、そもそも戦闘機の下りで想像が付かなくなりました」


「そーだよね~。普通、わかんないよね。でも、あたしは分かるんだ。分かっちゃうって言った方がいいかな。これはこう使う。こうすれば、ここまでの事が出来て、こんな芸当が出来る。みたいなのがあたまん中にバーって流れるわけ。そんで、身体が思い通りに動くから、何でもかんでも動かせちゃうと。でも、さすがにショーヨンで大型バイク乗りこなしたら、ウチのバカオヤが気味悪がってさ~。んな時に四年前の大惨事なわけよ。ま、支部は今じゃ家みたいなもんかな」


「……絶対とは言いませんが、出来る限りの事は必ず」


「え? あ、別にんな気張らなくてもいいって!? 死なせたいわけじゃねーし」


 何処か慌てた様子になる仕草が歳相応でクスリと千四は笑みを浮かべた。


「あ、や、こ、これじゃぁ、あたしが良い子みたいじゃん?!」


「違うんですか?」


「違うっしょ!! だって、今じゃバカオヤだって、あたしの事怖がって近付いてこないんだよ?! あたしはもう使いだし、こーいう仕事で死なない程度に稼いで暮らせリャいいなって!! それだって、金の為で誰かの為なんかじゃ!?」


 必死に言い募る姿があまりにも愛らしく思えて。


 ポンポンと千四は思わず智紗の頭を撫でていた。


「む、むろっち?」


「もし帰ってきたら、とりあえず三人の仲間に入れてもらえませんか?」


「え?」


「支部で使いの仲間というのが欲しいと思ってたので」


「そ、そーなんだ……ふ、ふーん……///」


 顔を赤らめながら、何故か頭を撫でるのを止めろとも言えず。


「お願いします」


「……うん。分かった。考えとく……」


 以外な程、あっさりと頷いた少女がポツリと呟く。


「じゃ、さっきの無し……ダチからって事で……」


「勿論」


 頷いた千四は市街地へと入った瞬間。


 きゅっと智紗の腹に抱き付いた。


「……お願いします」


「うん。やっぱ、死なないで戻ってよ。そしたら、今度は遊びに行こ。一緒にさ」


「分かりました」


 二人の顔が引き締まる。


 最初に伊藤が作戦会議で予想していた通り。


 市街地内部はまるでゴーストタウンのようになっていた。


 それは計画停電のせいだけではない。


 本来、自家発電が働いているはずの場所すら機能が止まっているのか。


 一切の光源が無い。


 なのに、本来もう車両が通っていないはずの、封鎖されているはずの国道には複数の車両がライトを付けて待っていた。


 国道を流しながら不気味な車両の群れの中を通過していたバイクが右折しようとした時だった。


 カッと周辺道路の至る場所から車両のライトが点灯し、猛烈なエンジン音を響かせ始める。


「捕まっててよ!! 絶対、送り届けるから!!!」


「はい!!」


 ギュルッッッッ!!!!!


 ギアチェンジされたバイクが猛スピードで道を疾走するのと二人の前に次々に車両が飛び出して衝突し、押し合い圧し合い彼らを追掛け始めたのは同時だった。


 左、右、左、左、左、右後方、左前方、駐車場二階、三階からのダイブで真上、逆走からの前方、無数の車両が二人を轢き殺そうとブレーキを掛ける様子も無く追突してくる。


 その度に巧みな速度で相手を交わしながら少年の髪の毛一本持って行かせずに目的地へと距離を詰めていく智紗のテクニックは尋常のモノではなくなっていく。


 だが、それももう終わりだとばかりに車両がついに往く手にある全ての通路をその図体で封鎖するという荒業に出た。


 市街地の中心街。


 車両に封鎖された大通りの光景は正に圧巻だ。


 クラクションを鳴らしまくって圧力を掛け、危機感を煽っているのか。


 全ての車両がエンジンを猛烈に猛らせて、蠢く様は一種生き物にも見えた。


 しかし、その壁を前にしても、バイクを操る智紗の顔にあるのは皮肉と侮蔑だ。


「ばっかじゃねーの。そんな事で使いがどうにかなるわけないじゃん♪」


 車体のスピードが急激に上がった。


 そして、蠢く車両の壁が封鎖した道にエグゾーストが鳴り渡る。


「な?!」


 千四は自分の身体に掛かる慣性の力がおかしいことに気付き、閉じてしまった瞳を開く。


 車両が、猛烈な勢いで壁を斜めに駆け上がっていた。


 振り落とされそうになる程のパワー。


 何処の米映画のSFバイクかと目を見張ったのも束の間。


 ボッとマフラーが炎を吹き、ビル壁面の終わりが―――。


「どっ、こいしょぉおおおおおお!!!!?」


 ガンッと前輪が跳ね上がった。


 二輪の片方が無くなれば、当然の如く後輪だけで壁昇りなんて出来るはずが無い。


 だが、瞬間的な跳躍が何を意味するのか。


 千四にはまだ想像も出来ていなかった。


 30m以上の壁走りでそれなりの高度にあったバイクの先にはビル横に据え付けられた看板。


 まるで曲芸。


 宙を舞った後輪が縦長の○○生命と描かれた足場を蹴って、更に跳んだ。


「~~~ッッ!?!」


「いぃぃやっほぉおおおおおお!!!」


 泡を食って目を白黒させる千四とは裏腹に喝采を上げた智紗はヒラリと無駄に宙で一回転を演じた後。


 反対側ビル側面の看板へと後輪で着地して、更に10m以上下の地面へと壁にタイヤ痕を残しながら降りていく。


「良い子は真似しないでねっと!!」


 ガゴンと舌を噛みそうな衝撃と共に再び地面に降り立ったバイクが走り出す。


「―――乗り物使い恐るべし」


「幾らあたしが使いでも普通のバイクでこんな事出来るわけないじゃん♪ ウチの団体って変なとこで無駄に超技術持ってるから、そのオンケーってやつ!!」


「そう、です、か……」


 殆ど放心状態で何とか意識を立て直した千四が呟く。


「ウチの幹部【衛星】に何だっけ? 確か、カガク使いってのがいるんだって」


(科学すらも使う……正しく何でもありか……)


 改めて使いの理不尽さを思い知った千四はもう殆ど妨害車両も消えている道を冷や汗に背中を濡らしながら、進んでいった。


 それから五分後。


 空滝高校校門前に付いた彼は智紗を見送って。


 ようやく夜の母校を見上げる。


 未だブルーシートの掛かった一角が彼の視線を誘い。


 決意は固く。


 足は玄関前へと向けられた。

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