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第四章「その痛みの行方」~①~

第四章始まりました。此処からは基本的にはようやく明確に見え始めた敵との戦闘がメインになっていくかと思います。では、次回。

第四章「その痛みの行方」~①~


 世界が破滅した四年前から現在に至るまで日本国内のみで見られるようになった光景というものがある。


 朝、街を闊歩する誰もが携帯端末を衣服から出して歩くのだ。


 老人から子供まで。


 どんな用事の時も殆ど必ず。


 そんなのは先進諸国では当たり前だと思うかもしれない。


 端末を使いながら歩くなんて行儀が悪いと言う広告もよく四年前なら見かけたはずだ。


 だが、実際にG8で唯一そんな“行儀の悪い行動”を全国民が行っていると思われるのは日本のみとなった。


 その理由の理屈はこうだ。


 日常空間における線量の生活計測活動。


 世界のあちこちで控えめに行われた核攻撃と地球環境の激変した結果。


 空間線量が高くなる地域が数多く現われた。


 俗に言われる死の灰もそれなりに舞い上がった為、大陸から流れてくる黄砂や寒気団に混じって日本全土に今も核物質がチラホラと上陸している。


 そんな中で日本の家電メーカーや精密機械部品を造る企業の仕掛けたマーケティングが生活計測活動の劇的な向上だったのである。


 世界経済の寸断と供給網サプライチェーンの破断。


 海洋環境の悪化に伴う航路の変更は原料や原油価格の高騰を招いた。


 複数の要因が重なった結果。


 日本の輸出入額は最盛期に比べて三分の一にまで激減。


 その主力であった製造業にも大きな打撃を与えた。


 各国が原発の崩壊の対応に追われ、運転停止に追い込まれる中。


 国民に安定した電力を供給する目的で、世界の破滅後も生き残った日本の原発は再び動き始めた。


 原子力危機と国内原発稼動の折。


 幸いにして国内に残っていた携帯端末部品の製造元は今までのような大規模輸出を断念したものの、生き残りを掛けて政府や家電メーカーと共同で日本独自規格となる精密線量測定の可能な携帯端末を開発。


 生活計測が当たり前となる状況を生み出した。


 体重だとか、血圧だとか、そのような計測行動の一環として線量計測を政府と共に国民の間で習慣化したのである。


 線量計測の重要性が説かれた此処数年、国の端末購入補助と自衛意識の高まり、線量計測教育が国民に浸透した結果。


 今では三歳程の幼児ですら端末を保持し、自分のいる空間の線量を測るようになった。


 これらの線量統計はアプリによって自動的に気象庁へと送られ、リアルタイムで政府広報番組や国営サイトで公表されている。


 人口が激減したとはいえ。


 それでも未だ数千万人が暮らす日本本土は他国では考えられないだろう詳細な線量計測結果を随時全国的な規模で公表する国となった。


 先進諸国の一部では日本の高度な線量計測活動計画を丸々導入しようとするところも現われ、核弾頭が落下しても未だ健在な極東の島国を驚きながら見つめているという。


 故に少しでも詳しい線量統計を、という名目の下。


 人々が片腕に端末を服の一部に括り付け歩く姿は決して珍しくない。


「………」


 そんな朝、少しずつ車が多くなる車道を抜けながら、静かな都市をスクーターが駆けていた。


 営業を開始するコンビニ。


 雲間から落ちる朝日。


 何も花壇。


 枯れっぱなしの並木道。


 小さなビルの隙間から吹く風は何処と無く人の気配を運んで。


 千四に以外な程、世界を瑞々しく感じさせた。


 今までの日常に色が付いた。


 言葉にするとそういう事になるだろうか。


 今も両手に感じる人の温もり。


 そういうものに餓えていたのかと己に尋ねれば、誰だってそうに決まっているとの答え。


(寂しいって感情は残ってないかと思ってた。けど……)


 黒尽くめの仕事服から着替えた少女。


 蘆夜豊。


 使いの新人ルーキーを守る為に今も傍にいる監察官。


 彼女の登場で人生にもうただの日常と平和しか求めていなかった自分も欲が出たのだろうかと。


 千四は後ろから横顔を見つめた。


「どうかした?」


「いえ」


「……大丈夫だよ。君は何があっても守るから。これでも使いとしては凄く強い方だし」


「不安なわけでは。それよりも一つ聞いても?」


「何かな?」


「凄く強いという事は蘆夜さんのクラスは……」


「あたしはCなんだ」


「C、ですか」


「あはは。大丈夫大丈夫。君よりクラスは下になるかもしれないけど、ずっと経験豊富だから。これでもAの人に勝っちゃった事もあるんだよ」


「そう、ですか。強いんですね」


「うん。伊藤さんからはあんまり使わないようにって言われてるんだけどね」


「使わないように?」


「人に迷惑が掛かっちゃう類の力なんだ。あたしの使いとしての力って」


「……僕の力もそうかもしれません」


「そんな事ないよ!? 気象系統って凄く便利って話を聞くし!! 千四君のクラスになったら物凄く稀少レアだよ!! 稀少レア!!」


「確かに強いものだとは思いますが、そこまで?」


「まだ自覚が無いだろうけど、クラスBは日本全体の使いの中でも1%未満なんだから」


「そこまで数が?」


「うん。Aに至っては10人。全員が【衛星サテライト】って言われる幹部でSに至っては2人。一番偉い人。総代のSSは世界で三人だけ。だから、使いの中だとDで大物扱いなんだよ?」


「じゃあ、Bは超々大物?」


「うんうん」


 何故か嬉しそうに頷く豊に自分は釣られた魚か何かかもしれないと千四は半笑いになる。


「そう言えば、クラスの一番下はZで合ってますか?」


「ううん。クラスはRまで在るの。SSが最高だから」


「知りませんでした」


「ちなみにEから下の人達は大体、戦闘能力とか皆無な人ばっかりだから、民間人に近くて。そういう人達の場合は使いの力は能力というより、才能や特技、技能程度に思っていいんだ。でも、直接的に超能力みたいなものじゃない分、生活とか職場とかで運用したら一部の人は凄い幸せだって場合もあるし」


 微妙に想像出来ず。


 千四が困惑しながらも「そうなんですか?」と頷いた。


「これから、伊藤さんや職員の人達に聞いてみれば、他にも色々教えてくれると思うから、頑張って」


「……はい」


 あの人には聞きたくないという本音を少年は飲み込む。


 いつの世の習いも沈黙は金、雄弁は銀。


 主張する事が実力よりも重視されるような社会が到来してすら、組織というのは実力の無い者には厳しい。


 まだまだ見習いの自分が遥かに組織の上にいるだろう相手の事を悪し様に言って後から問題になる可能性を考えれば、幾ら能力が高かろうと千四は驕る気などサラサラ無かった。


「今日はこのまま学校に行ってから、二人でまたビルの方に―――」


 赤信号で速度を落としながら止まろうとしていたスクーターが青信号に再び速度を上げようとした時。


 豊の頭部が弾かれたように横へ振れて。


 パンと渇いた残響が響いた。


 約一秒の誤差。


 たぶん、距離は換算して350m以上400m以下。


(………これが、これが人間のやる事か)


 理解出来ないわけがない。


 信じたくない思いはあった。


 今から冷たくなっていくのかもしれない身体にはまだ温もりがあって。


 少年は己の中に何かが芽吹くのを感じる。


 それは怒りかもしれなかった。


 ずっと、あの地獄のような四年前の当日にすら、感じられなかったものが、六六千四の脳裏を静かに冷たく冷やしていく。


(蘆夜さん……)


 まだ自分とそう歳も違わない少女。


 学校で結構愉しそうにしていた横顔は見ていて気持ちの良いものだった。


 本当なら団体の非合法活動なんてせず。


 自分のように学校にでも通っていればいいと。


 そう、何処かで思っていたのだ。


 千四にとって、友達と言える人間はあまりいない。


 近しい者となれば、皆無だ。


 その最たる人はもう消えてしまった。


 それでも、これから親しくなれるだろうかと。


 友達になれるだろうかと。


 彼は思っていた。


 期待していた。


 自分の日常にまた温かさが通うかもしれないと。


 少しだけ、ほんの少しだけ、嬉しかった。


 それが無残に消されたのは誰のせいか。


 言うまでも無い自分のせいだ。


 ならば、どうすればいい。


 仇くらいは取るべきだろう。


 ならば、どうやって戦えばいい。


 その為の方法なら、たぶん……彼にはきっと造作も無い。


 能力の使い方が精神の集中と精神修養でどうにかなる程度のものならば、そんなものは四年前、当の昔に終わっている。


 深淵の縁を覗き込んだ時、人の業の愚かしさが身を焦がせば、大抵のものに動じたりはしなくなる。


 壊れたか。

 狂ったか。


 そう言われないよう隠してはいても。


(推定)


 敵位置の特定。


 風を奔らせるまでもない。


 左から右へと頭部が弾かれた。


 ならば、敵は左だ。


 常識的に考えれば、狙撃場所は遠くからもこちらが観測出来、見晴らしの良い場所。


 風が凪いだ場所。


 好立地は建造物の中層から上層。


 しかし、左側にビルは然程多くない。


 地方都市に巨大なものは少ないし、大きなものは殆どない。


 ならば、マンションや空き店舗の多い小規模ビルが妥当だろう。


 即座に借りられるようなものではないし、無断で新入して使っている可能性が高い。


 人から見られる事を避けるという条件を付けるならば、住民が多数存在するマンションは除外していい。


 近頃、入居者が増えつつある貸しビルは警備が強化される傾向にある。


 そんな政府広報からの情報を信じるなら、もっとも人気が少ないのは廃ビル辺りが妥当。


 そうして、千四もそれなりに活用する市街地の国道沿い。


 その現在地点から300mから450m圏内にある廃ビルは一つしかない。


 取り壊されるが決まっている旧い貸しビルはもうテナントも入っていないし、老朽化が酷いという事で立ち入り禁止になっている。


 もし、そんな場所にこんな朝っぱらから誰かがいるとすれば、それは―――。


(敵だけで間違いない)


 倒れ込むスクーター。


 まだ少女が頭を横に弾けさせて二秒半。


 彼の視線の端が開けた地方都市の奥。


 ビルもあまり立っていない場所に置かれた廃ビルを見る。


 その瞳にキラリと何か輝く物が見えた。


 直後。


 千四の真横のアスファルトを捉えた弾丸が弾ける。


 きっと、弾かれた事を狙撃者は不思議に思っていただろう。


 風の凪いだ朝。


 どうして外れる道理が在るのかと。


 彼の能力を知る者が少なかったのは僥倖に違いない。


 風を起こす力。


 そのまだ解明もされていない本質も定かでは無い現象が、彼の周囲を渦巻いていた。


 まるで昆虫のように慈悲とは無縁な瞳が、輝くスコープの照り返しを見据えて。


 ツイッと指が虚空をなぞる。


 瞬間。


 凍て付いた風が廃ビルの中層階を直撃した。


 周囲の明度が急激に下がった都市の一角。


 ビル五階を中心に上下の階の窓硝子が全て割れ室内へと弾け飛ぶ。


(もう一撃)


 指が虚空をなぞろうとして―――。


「だめ」


「!?」


「大丈夫。凄く吃驚したけど、ギリギリ能力が間に合ったから。だから……」


「蘆夜さん!!」


「すぐに移動しよう。このまま支部の方へ。しっかり掴まってて」


 倒れ掛けたスクーターが立て直され、急加速でタイヤを削りながら旋回。


 即座に反対側の車道から時速80km以上で逃走を開始する。


「良かった……」


「あ、当たり前だよ!! クラスCのボーギョリョクは戦車砲の直撃にだって耐えるんだから!! でも、それより今さっきの事だけど」


「えっと、何ですか?!」


「あのビルの中層に誰かがいたのは見えたよ。でも、あれ以上の攻撃だと外壁や硝子が外側に落ちて誰かケガしたりしたかもしれないの。関係ない人を巻き込んだら、きっと凄く後味が悪い。死人を出したりしてないとは思うけど、能力の使い方はもう少し慎重に、ね?」


「……申し訳ありません」


「咄嗟の事だったし、正当防衛だったから、しょうがないとは思う。だけど、君に誰かを殺させたり、知らない人を傷つけたりして欲しくないんだ。あたし」


「蘆夜さん……」


 風音よりも明確にその言葉が千四の耳に届く。


「我侭だと思うし、自分の事は棚に上げちゃうわけだけど、それでもね。学校に通ってみて、分かった。君がどうして使いとしての力も使わずにずっと平穏に暮らせてたのか……」


「それは―――」


「それはきっと、日常を大切にしたいって、普通に暮らしていたいって、君が頑張ってたからなんだよね。あたしは四年前の事があって、ずっと日常と無縁だったから、もう昔自分がどんな風に生活してたかなんて思い出せないけど……君は違う……」


 確信の篭った声だった。


「使いの世界は裏社会みたいなものだと思ってるかもしれないけど。本当はね……皆、そんな風に割り切れてないんだよ……四年前からずっと皆思ってる。こんな場所じゃなくて、普通に暮らしていたいって。自分が使いだとは知らなかった頃。まだ、使いなんて言葉も無かった頃。力なんて必要とはしてなかった頃の暮らしがしたいって」


「能力や特権なんて要らないと?」


「だって、背負わされるものが本当にソレと吊り合うわけがないから。命の危険のある【仕事】や他人を殺して生き残る世界なんて、誰だって嫌だよ。でも、四年前の事件でそうしなければ、生き残れなかったり、そうしなければ、生活出来ないって使いは多くなっちゃった。誰かが使いを束ねなかったら、国は使いをきっと排除したり、必要以上に管理するようになってた……だから、【紅蓮朋友会フレア・フレンズ】は無くちゃいけない団体として今も使い達にある程度は支持されてる」


「………」


「使いとして生きなくてもいい世界。それがきっとこの力を持つ誰にとっても幸せなんだと。あたしはそう思ってるんだ」


「それが蘆夜さんの使いとして【仕事】をする理由、ですか?」


「この世界に入って、沢山の同じ使いを見てきたよ。悪い事をしなきゃ生きていけなかった使い。悪い事をして他者を虐げる事でしか生きてるって実感を得られなかった使い。四年前の事が無ければ、皆そんな風にならずに済んだ。あたしはこれから四年前みたいに使いが普通の日常を送れるような時代、力なんて人生に付いてきたおまけ程度の認識で済ませられる、そんな時代になって欲しいと思ってる」


 速度を下げながらスクーターが右折する。


「わざわざ悪事の為に使うような力じゃない。この力は……出来れば、ひっそり誰かの為に使ってあげられるような……そんな、ちょっとした魔法みたいなものであって欲しい」


 遠方に見えてくる支部のビル。


 まだ警戒を解かないまま。


 気を張った様子ながらも、優しい声で豊が続けた。


「ちょっとした魔法……」


「あはは。この歳でこういうのって自分でもちょっとメルヘンだなぁって思ってるんだけどね」


「いえ、きっとそんな事ありません」


「千四君?」


 僅かに自分の腹部を抱く手が強くなった気がして。


 豊が後ろを気にする。


「四年前。人は滅んだっておかしくなかった。けれど、今も何十億という人がこの地球に暮らしてる。もしかしたら、住めなくなる地域の増加や生態系の崩壊で緩やかに絶滅していくのかもしれない。でも、人間。だからって諦められるものでもないですよ。蘆夜さんの願いは他の誰かの願いでもある。きっと……」


「そっか」


 何に納得したのか。


 豊が前を向いて地下駐車場へと入る間際、呟いた。


「(だから、君は強いんだね……君は諦めなかったから……)」


 使いとして働きながら、ずっと目の前の現実を何とかしようとして、何も出来ずに諦めてきた彼女だからこそ、分かる。


 その現実を見ていないとも、子供の理想論だとも、ただのご託だとも言われるかもしれない、少年の言葉。


 実際にそんな言葉が吐けなくなるような現場を見続けてきた彼女とは何もかもが違う言葉。


 だが、確かに篭っている力を今一度自分の中に確認して。


「(……守るから、きっと……)」


 そう彼女は思いを新たにした。


「何か?」


「ううん。何でもない。それより早く退避しよう。此処なら安全なはず―――」


『だと、思うよなぁ?』


「「?!!」」


 ガラガラと地下駐車場の出入り口がシャッターで封鎖されていく。


『ざぁ~んねんだったな。悪いが此処でサックリ死んでくれや』


 スピーカーからの声が途絶えた瞬間。


 地下に一酸化炭素を含んだ消化剤が撒かれ、同時に駐車されていた車両が次々に爆発していく。


 全てが衝撃と閃光に呑み込まれる最中。


 それでも少年を庇った豊は力を発動させつつも、急激な酸欠に意識を遠のかせていった。


 爆発から五分後。


 シャッターが開かれ、生き残っている空調設備で換気が開始された地下駐車場にチーンと場違いな音が響く。


 エレベーターが停止し、開いた扉の中から出てきたのは小奇麗なグレーのスーツに黄色いシャツ。


 それからギラギラとしたラメ入りのネクタイをした三十代の男だった。


 柄の悪そうな顔には眉が無く。


 鋭い視線と皮肉げに歪んだ口元はその筋の人間にしか見えない。


 連続した車両の爆発時、内部へ大量に仕込まれていた螺旋や釘が工具等と共に炸裂したのだ。


 常識的に考えれば、相手は焼け焦げたグズグズの肉片として辺りに散乱している。


 しかし、そんな光景を見に来たヤクザ風の男の目に止まったのは駐車場内部の端に開いた外まで続く大きな円形の穴とスクーターの残骸。


 そして、スクーターのある地点から外部の穴まで続く綺麗な一本の道だった。


 その道以外には散乱したコンクリと鉄屑の破片が所狭しと散乱し、周囲は阿鼻叫喚の惨状となっている。


「どうなってやがる? 少なくとも酸素を断たれた状態で能力を発動維持。それも周辺からの光と衝撃を完全に遮断しながら、能力の複数起動だと? おいおい。本当に人間かよ……チッ」


 男が愚痴ったのも仕方ない。


 どんなに鍛えたところで使いは人間なのだ。


 音に身体の動きが一瞬止まるし、光に目が眩めば、隙が出来る。


 更にそれが酸欠状態で襲ってくれば、大概の人間はそこに釘付けでアウト。


 殆ど芸術的なまでの殺してやる感満々なトラップは十代そこらの餓鬼がどうにか出来る代物でも無い。


 使いとして戦うのが何も全てではないと常識的な範囲での必殺を仕掛けていたのだ。


 それをこうも簡単に切り抜けられては舌打ちの一つも出るだろう。


 彼が辛うじて見つけたのは血飛沫が焦げた跡だけだった。


『おい。そちらの首尾は?』


「テメェか。こっちはしくじった。後はそっちでやれ」


『あの罠を抜けたのか?』


「ンだよ。文句なら、餓鬼に言えッ!!」


『こっちは周辺の人間を扱うので手一杯だ。警察消防。野次馬。諸々を追い返している身にもなれ』


「【統括者コンダクター】はどうした。ああん?」


『今回は三段階まで予定を組んだからな。済ませた仕込みの最終確認をしている』


「クラスC以上のボーギョリョク。ついでに特殊部隊並みの冷静さ。能力による脱出の手際。馬鹿でも分かるぜ。あの餓鬼は何なんだ?」


『……そんなのはどうでもいい事だろう? お前はただ自分のやるべき事をやってればいい。今回の【仕事バイト】の報酬があれば、少なくとも外国で十年は遊んで暮らせる。余計な口を叩く暇があったら、支部所属の使いを殺して力を養うなり、爆薬を調達してこっちへ合流するなりしろ』


「【仕事】が終わったら、テメェを焼いて融かすのもアリだよなぁ。そう思うだろ?」


『お前にこちらの居場所が分かればな。人のいる限り、心休まる日の無い人生を送る勇気には敬意を評してもいい』


「ふん。で、此処の連中はどうする? 全部やっちまうのか?」


『……言っておくが、今回相手にしているのは野良の使いでも小競り合いばかりの弱小組織の連中でもない。【紅蓮朋友会】だ。無駄に殺せば、追及の手は貴様を確実に殺す。尻尾が出ていない内にさっさと遣り終えて逃げなければ、待っているのは確実な死だ』


「チッ……わぁったよ。さっさと此処を出る。合流ポイントは?」


『お前がやらかした場所だ』


「ッ、どうやって誘き出す?」


『物忘れが激しいようだな。都市で戦う限り、こちらは幾らでもやりようがある。そちらから連れて来た五人に連絡を入れさせる。無論、惨たらしく化粧願ってな』


「死ぬのはいやぁ~能力を使わずに助けに来てぇ~ってか?」


『人間。情に訴えるのは常道だろう? 周辺は全て掌握してある』


「木偶人形が何体いたところで足しになるとは思えねぇな」


『最後にモノを言うのは命と物量だ』


「そのゴタクで行けば、お前は最強でなくちゃならねぇんだがなぁ?」


『何故、お前が今回の【仕事】に駆り出されたと思ってる。その力の質が少なくともクラスAの【衛星サテライト】にすら届き得るからだ。余計な事を喋っている暇があったら、合流を急げ』


 ブツリと骨振動式の無線ヘッドセットの通信が途切れた。


「………絶対に焼き融かす。あの野郎……」


 ヤクザ風の男が地面にヘッドセットを投げ付けて踏み躙り、駐車場から出て行く。


 それから十五分程して。


 ようやく到着した警察車両と消防車が到着した時。


 駐車場には誰の姿も残ってはいなかった。

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