第三章「破滅と奇蹟」~④~
物騒な話の回になったかと思います。お約束である主人公の過去の一部と共に何が起こっているのか。その理由の一端が語られます。では、次回。
~④~
全てが寝静まった丑三つ時。
数人の男達が棒立ちで白目を剥いていた。
地方都市を見渡す電波塔の中層階。
風の吹き抜けて行く場所にヒッソリと置かれた監視用のセーフスペース。
男達の周囲には録音機材、録画機材、撮影機材。
高品質の市販されていない軍事用端末が幾つか。
周辺に何者か近付く者があれば、すぐさまに対応出来るようご丁寧にも命中精度に優れたボルトアクション式のライフルが三丁。
しかし、その込められた弾丸は一発も使われた形跡がない。
男達の装備品の幾つかが冷たい床の上に並べられている。
一つ一つを確認しながら、棒立ちの男達を背に屈み込む影が一つ。
『【貴方は何を使いますか】……か。さすが補助金が出てるだけあって、良い装備だ……』
『首尾はどうだ?』
ガサガサとノイズ交じりに床に立てられた無線機から音声が入る。
『ええ、今三つ目のポイントをクリアしました』
『そうか。こちらは四つ目をクリアーした。あちらは事前の準備が功を奏して使い以外は全て掌握したと報告が入った』
『そうですか。無闇に焼いてなければいいですが』
『元々、あいつは放火に強盗で前科十一犯。人を殺す事よりも何かを燃やす事に意義を覚える芸術家タイプだ。無駄な殺しで遊ぶような気質でもない……ビルごと燃やして無ければ、大丈夫だろう』
『……今回の【仕事】は秘密裏にという方向性だったと記憶していますが、どうしてこんな派手な事を?』
『上の意向が変わった。どうやらクレームが付いてお冠らしい』
『それだけで?』
『それだけならば、まだ良かったが……本格的に対象が団体へ組み入れられる前にどうにかしたいという焦りも見える』
『【統括者】……』
『何だ?』
『今回の一件で【紅蓮朋友会】が本気になれば、どうなるかお分かりで?』
『分かっている。分かっているとも……だが、例え組織が潰れても遣り切らねばならない。それが今やステレオタイプと蔑まれる旧世界遺物最後の仕事だ』
『………』
『不思議か? 何故、それ程までにあんな子供を殺そうとするのか』
『あなた程の逸材ならば、他の組織に入る事も出来た。なのに、何故か不毛な作戦で命を散らそうとしている。世界を制した者達と戦おうとしている。その理由を不思議に思わず何を不思議に思えと?』
『………四年前の事を今も覚えているか?』
『忘れられるはずがない……』
『四年前、新聞で最も大々的に取り上げられた事件と言えば、何だと思う?』
『それは……幾つかありますが、やはり大陸からの核弾頭投下ですかね』
『そうだな。その時、その現場に居合わせた本人から言わせて貰うと、今回の一件は必然だ』
『どういう事です?』
『あの頃、この世界には災厄と奇蹟。二つの事象が顕現した』
『災厄と奇蹟?』
『災厄は言うまでも無い』
『【極点消失】……』
『そうだ。そして、もう一つはこんな極東の島国。それも最も奇蹟から遠いはずの地獄に顕れた』
ゴクリと影の唾が呑み込まれる。
『混乱のどさくさの中、執政権を奪った軍閥が北部地域から単独で発射した数発の核弾頭。国土に命中した二発の内、一発は日本海近海の無人島で炸裂し、もう一発は名も無い地方都市に落ちた』
『【統率者】も其処に?』
『ああ、生き残る術なんてあるはずがなかった。だが、実際には市街地で炸裂したにも関わらず、人口の三分の一近く、五千人もの人間が生き残り、人々は自衛隊の庇護の下、都市から退避する事となった』
『ですが、あれは弾頭が旧く、威力が小さかったからという話だったはず……』
『そうだな。政府も表向きはそう報告書を提出された。しかし、二年前に検証を終えた爆地委員会の報告には本来、不可思議な現象に関する“分厚い付帯”が張られていた』
『不可思議な? まさか、使いが関与していたと?』
『そうだ。当時はまだ使いも表側には出てきていない存在だった。政治家の一部や社会上層の一部有識者達は知っていたが、それにしても眉唾だと思われていたのは否めない。だが、報告書の一部が【紅蓮朋友会】の登場で“無かった事”にされた』
『使いの関与に関する条項ですか?』
『科学的に証明しようがない無い現場状態からの推測。そして、その推測に基く使いの危険性。政府は三年前の時点でコレを秘密裏に国家機関で対応するかどうか審議した。だが、余力が無かったんだろう。国連から紹介される形となった“初めて接触する使い”の団体に支援を約束する事で厄介な事態をそちら側へ投げた』
『如何にもありそうな話だ……あの当時の混乱やテロ組織の台頭。もし使いが更に場を掻き回していれば、復興はかなり遅れたはず』
『あの日、日本に四発目の核弾頭が落ちた日。政府は人類に人類以外の何かが混じっている事を知ったんだ』
『まるで宇宙人扱いだな……』
苦笑が夜風に溶ける。
『……そうだな。だが、正しいモノの見方だとは思わないか?』
『それは―――』
言葉に詰まった影は視線を落す。
『だが、だからこそ、今も政府は【紅蓮朋友会】に対してあのレポートを秘匿している』
『報告書の事ですか?』
『あれは……途中で当時の内閣府のお偉いさんが慌てて修整したものだ』
『本当の記載情報が歪められたと?』
『ああ。他にも内部は修整したが、表題にまでは気が回らず、発表当日にレポートの名前を書き換えた、なんてハプニングもあったらしい』
『本当の名前……』
『だが、そんな政府の混乱があったからこそ、我々は奴らよりも先に辿り着いた。在ってはならない奇蹟。本当の敵に、な』
『……』
『四年前の惨事を真に終わらせなければならない。それがどれだけ理不尽な遣り方だろうと』
その遠くにいるはずの上司の声に鬼気迫るモノを感じて。
静かに影が訪ねる。
『……報告書の名前を聞いても?』
無線機がしばしの沈黙を持って答えた。
『―――レポート名【ロクロクヒトマルマルヨン】』
風が吹き抜け、ザリザリとノイズが無言の間を埋めていく。
『米国首都に打ち込まれるはずだった新型の大陸間弾道弾(ICBM)。そこに搭載されていた複数の子弾……巨大都市ですら刹那で灰燼に帰す、人類の最終兵器を防ぎ切った存在。日本政府が初めて公式に確認した能力者―――仮称【破滅使い】の名前だ』
夜が明ける頃。
棒立ちの男達も影も監視用の機材も電波塔の上からは消えていた。




