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第三章「破滅と奇蹟」~①~

第三章が始まりました。学園と付くからにはお約束ですよね。転校してきた美少女って……初めてハーレム予定のタグが効果を発揮したかもしれません。色々とラブコメ展開を挟みつつ、此処から物語は展開されていくでしょう。では、次回。

第三章「破滅と奇蹟」~①~


「初めまして。蘆夜豊といいます。皆さん宜しく願いします」


「………」


『す、すげぇ。ビッチじゃねぇ。あ、有り得るのか?! 在り得ないだろ!!? なぁ!!? マジであんな人が漫画じゃない現実にいるもんなんだな!!?』


「………」


『うぁぉ!? こ、これは新手の精神攻撃!? ど、どどど、どうせぇぇ!!? 中身はビッチなんだろ!? ビィィイイイイイッチなんだろッッ!!? だ、騙されるもんか!? 騙されるもんかぁ!?』


「………」


『んだょぉ。あの笑顔……チッ、ウチの猿共にもう一度餌付けしなきゃなんねぇのかぁ? ったく。今時、セージュンとかジュンジョーとか意味分かんねぇ』


「………」


『ほ、ほほ、ほらぁああ!? あれが普通の反応!! あれが普通なんだって!!? せ、聖女? まさかの聖女降臨なのか!? 僕達は今何を見ているんだ!!?』


「………」


『せ、聖女!? セイジョナンデ!!? セイジョォォオオオ!!?』


「………」


『これが漫画じゃないゲ・ン・ジ・ツ!? アニメじゃない?! アニメじゃない!!? マジで?!!?』


「………」


『ありゃぁ、男子共が騒ぐわけだ……あたし達から見てもお嬢℃がMAXだもん。いいなぁ~ああいう普通に可愛いオンナノコって何処に生えてるんだろ……妹に一匹欲しい』


「………」


『蘆夜豊。アシヤトヨ。あしやとよ。とよ。とよ。とよ。古風でいい名前だ。とよ。とよ……ハッ!? これはまさか天啓? ゴッドの啓示!? とりあえず、あだなは……とよたん? とよっち? とよとよ? どれがいいのか見極めねば……』


「………」


「男子~静まれ~漫画の話はするなよ~蘆夜さんは本来お嬢様でこういう場所には不慣れだって話だからなぁ~丁重に節度ある対応をしないと先生が校長からどやされるからなぁ~」


「………」


『『『『了解しました。柏木先生』』』』


「………」


「お、おぅ。わ、分かってればいいんだ。分かってれば……ちなみに女子も苛めたりすんなよ。いや、ガチで止めろよ? まだ先生はこのご時勢職を失いたくない」


「………」


『『『『分かってるってぇ~センセ? お店でサービスちゃうからさぁ~ちょっとしたカラミならイイッしょ?』』』』


「………」


「サ、サービス。ごほん。ごほんごほん。ん~では、お前ら真面目に自習してなさい。先生はこれから火災事件に付いての職員会議がある。では、これでSHRを終わるぞ」


『ケッコンしてあげてもい~よ~センセ♪』


「ごほん!? ごほんごほんごほん!!!」


 今年で四十一歳独身教師柏木洋司がソソクサと前屈みになりつつ、その場を去っていく。


 風営法が順次改正され、諸々の就業年齢が駄々下がりした昨今。


 民法の結婚可能な年齢も引き下げられた。


 年上が年下と結婚するのを犯罪的だと見る風潮が今も生き残ってはいるのだが、四年前までの常識はかなり崩れつつある。


 というのも、今や五十代や六十代の脂ぎった親父と生活の安定を求めて結婚する“可愛い大人”が後を立たないからだ。


 ぶっちゃけると犯罪にしか見えない夫婦が大量に生産されていたりする。


 だが、それらに政府があまり口を出さず黙認しているのは全国で生活の不安定な若年層が増加の一途を辿っているからであり、一種の緊急措置としての養子縁組や重婚を認める生活安定策に近い。


 人倫が崩壊しつつある国では実際に重婚が社会福祉政策として推奨され、高齢の高額所得者が複数の人間を養う事が義務化された場所も存在する。


 昔ならば人身売買と人権屋や自称有識者が反論していただろう事態も、人類の消滅という不安に際しては大きな声となる事無く。


 生徒が教師の通う風俗店の店員なんて事態は然程珍しい事でもなくなっていた。


「あ、千四君」


『『『『ぁあん? セ・ン・シ・君?』』』』


 男子達がトテトテと歩くお嬢様。


 蘆夜豊の向かう先を見つめた。


 半分以上座席が埋まっていない教室の窓際最後列。


 微妙な顔をしたヲタクゲーマーを向く視線は凍て付いている。


「蘆夜さん。これは」


 ピタリと言い掛けた唇を人差し指が留めた。


「それは後で……今はクラスメイトなんだから、ね?」


 軽くウィンクする少女が事態を愉しんでいるような気がして。


 千四は静かに内心、溜息を吐いた。


 ダンプと炎に命を奪われそうになってから三日。


 危険な【仕事】は初っ端からフルスロットルだったせいか。


 昨日、今日と殆ど授業も覚えていない。


 下校時に特定の場所で待ち合わせしてビルへの立ち入りを続けているとは言っても、まだまだ新人研修的な意味合いの付き合いが抜けていない二人の間柄は上司と部下というより、上級生と下級生のような温いものとなっていた。


 それが瞬間的に同級生にまで格下げされる事態は千四の予想斜め上。


 お約束のように転向してきた彼女がどうしてそんな事をする必要があったのか。


 後で理由を聞かなければと彼は思案する。


 嬉々として誰も座っていない千四の横に陣取った豊。


 その姿は仕事の時とはまるで別人だ。


 そもそも黒い外套を着込んでいない、黒い手袋もしていない。


 顔半分を蓋う冷たい色のゴーグルも掛けていない。


 この時点でいつもの外見的特長は絶無である。


「どうかしたのかな?」


 その代わりのように剥き出しの中身は清楚な黒髪ロングのお嬢様。


 最も印象的なのは個性的な眉だろう。


 何処の平安貴族かという丸みを帯びた楕円形。


 涼やかな二重に睫が長いとくれば、後は卵型をしている顔のラインが絶妙な美少女を演出する。


 明らかに柄の悪い公立高校に通うのは無理のある容姿だ。


 背丈こそ仕事時と殆ど変わらないが、基本的に着膨れている感があるので手足の細さに千四は気付いていなかった。


 今にも手折れそうな華。


 評するならば、高嶺とは形容するまい。


 何故なら、自然の笑顔は触れ合える近さを演出している。


 クラスメイト(主に男子)からの質問攻めをサラリとスルーしつつ、自分から相手に何事かと雑談を持ち掛けさえする様子は高貴というよりは清廉を思わせた。


 面白くなさそうな女生徒達が途中で男子との間に介入してきても、下品さの欠片もなく優しい視線を相手に投げ掛けている様子は崩れない。


 意地の悪い質問にすら、イエスでもノーでもない巧みな話術を駆使して話題を逸らす様はカウンセラー顔負けだ。


「もういいわよ……」


 舌打ちして退散した女生徒が半数。


 もう半数は少し気後れしながらも友達になりませんか、なんて慣れない敬語で言い出す始末。


(これが使い? それともこの人の?)


 生死を掛けた逃走劇の時よりも頼もしい。


 否、恐ろしいとの感情を持ちつつ。


 千四はあっと言う間に味方を増やしつつある豊を横目に見ていた。


 やや残念なのはたぶん胸の大きさくらいに違いないと男子達の思考を読みながら。

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