天を穿つもの
封鎖線を越えてから、僕たちは第四峰へ向かった。人の消えた街道を外れ、レオンさんと一緒に神鳥の痕跡を探しながら山へ入っていく。
神鳥そのものを見つけるのは簡単じゃない。でも、通った跡を見つけるのは難しくなかった。途中から折れた木が増え、さらに進むと、何本もの大木が同じ方向へ倒れていた。魔物に踏み荒らされたというより、巨大な力でまとめて吹き飛ばされたように見える。
「南西ですね。こっちの倒木の方が新しいです」
「ああ。俺もそう見る。このまま追うぞ」
レオンさんと進路を合わせ、そのまま山の奥へ進む。しばらくすると鳥の声が消え、獣の気配もほとんどなくなった。普段なら縄張りを持っているはずの魔物まで、まとめて姿を消している。
「みんな逃げたみたいですね」
「近いかもしれないな」
さらに進んだところで、岩の間に金色のものが引っかかっているのを見つけた。拾い上げると、僕の腕より長い一枚の羽だった。
「……これが、ガルーダの羽」
鋼羽鳥の羽とは比べものにならない。薄いのにびくともせず、日の光を受けた表面には傷一つ見当たらなかった。グレンさんが剣先を軽く当ててみたけれど、羽の方には何の変化もない。
「硬えな」
「これを全身にまとってるんですよね」
「ああ。だから今まで誰も抜けなかった」
僕も羽に触れてみる。けれど、〖フライドチキン〗からは何も伝わってこなかった。
「駄目です。落ちた羽だけじゃ何も分かりません」
「なら、本体を見るしかねえな」
そこから先は、痕跡がさらに新しくなっていた。折れた枝にはまだ水気があり、土には巨大な爪の跡が残っている。いつ遭遇してもおかしくない。
僕たちはそこで一度足を止め、決戦用に持ってきた鋼羽鳥の《極み》を食べた。冷めていても味は十分残っていて、食べ終える頃には体の表面を薄い何かで包まれたような感覚も戻ってくる。
「祝福は出てますね」
「だからといって、攻撃を受けていいわけではありませんよ」
セシルさんが全員を見回す。
「鋼羽鳥の攻撃を軽減するための祝福と、神鳥の攻撃に耐えられることは別です。少しでも負担を減らせればいい、そのくらいに考えてください」
「分かってるって!」
グレンさんが答えると、セシルさんはしばらく疑うような目で見ていた。
再び歩き始め、第四峰の斜面へ近づいた頃だった。
「……風が変わったわ」
ヴィオラさんの声に足を止める。
頬を撫でていた風が、急に強くなった。
いや、違う。
一定方向から吹いている風じゃない。何か巨大なものが動くたびに、周囲の空気そのものが押し出されている。
「上だ!」
レオンさんの声で、全員が空を見上げた。
雲の向こうを巨大な影が横切る。その直後、雲の切れ間から金色の翼が現れた。
「……でかい」
思わず声が漏れた。
三年前から何度も資料で見てきた。翼を広げれば町を覆うほど大きいことも知っていた。それでも、実際に空を飛ぶ姿は想像していたものとはまるで違う。
神鳥《天穿つガルーダ》。
黄金の羽をまとった巨体が、第四峰の上空をゆっくり旋回していた。一枚一枚の羽が光を弾き、太陽の前を横切るだけで辺りが暗くなる。
こちらを襲おうとしているようには見えなかった。ただ空を飛んでいる。それだけだった。
ガルーダが大きく旋回する。
その視線が、一瞬こちらを向いた気がした。
次の瞬間、進路を変えるために巨大な翼が一度だけ羽ばたいた。
「伏せろ!」
ドーガさんが前へ出て盾を構える。
轟音とともに、空気の壁が正面から叩きつけられた。風なんてものじゃない。僕の体は簡単に地面から浮き、伸ばした手も何にも届かないまま、そのまま何度も地面を転がった。
「っ……!」
ようやく止まったときには息が詰まり、胸の奥に鈍い痛みが走っていた。骨は折れていない。でも、鋼羽鳥の《極み》を食べていなければ、もっとひどいことになっていたはずだ。
顔を上げると、ドーガさんは盾を地面へ押しつけ、足元を大きく削られながらも踏みとどまっていた。グレンさんも剣を地面へ突き立てていたけれど、それでも何歩も後ろへ押されている。レオンさんたちも、それぞれ岩や木を使ってどうにか耐えていた。
「全員いるか!」
「います!」
立ち上がりながら空を見る。
「……今の、攻撃じゃないですよね」
「ああ」
レオンさんが短く答えた。
ただ、飛ぶ向きを変えるために羽ばたいただけだ。
「これ、食べてなかったらどうなってたんですか」
「考えんな!」
グレンさんが剣を引き抜き、空を睨んだ。
「来るぞ!」
見上げた先で、ガルーダが再び大きく旋回する。
今度は、その巨体がはっきりと僕たちへ向きを変えていた。




