神鳥を狩りに
神鳥の資料を引っ張り出してから、数日後だった。冒険者ギルドから《暁の牙》へ緊急の呼び出しが入り、通された会議室にはギルドの上役だけでなく、王国軍の将校まで待っていた。
「北方山岳地帯で、神鳥《天穿つガルーダ》の活動が確認された」
机の上には大きな地図が広げられていた。三年前から王国とギルドが集め続けてきた目撃情報に加え、避難が完了した村には印がつけられている。
「三日前から大型魔物が一斉に南へ移動している。昨日はこの一帯で森林が広範囲になぎ倒された。そして今朝、第四峰の南側を飛ぶ巨大な金色の鳥を偵察隊が確認した」
「ガルーダで間違いないんだな?」
「ああ。黄金の羽も回収されている」
正確な居場所までは分からない。ただ、今は第四峰を中心とした北方山岳地帯を移動している可能性が高いらしい。
「周辺の村には避難命令を出した。主要な街道も封鎖している。このまま南下すれば、複数の町が進路に入る」
一羽の魔物を相手に、国がこれだけの人間を動かしている。改めて、神鳥がただ強いだけの魔物ではないと分かった。
「王国軍からも戦闘部隊を出す。過去の記録を考えれば、可能な限り戦力を集めた方が――」
「いらねえ」
グレンさんが迷わず遮った。
「神鳥へ近づくのは、俺たち六人だけでいい」
「相手は神鳥だぞ」
「知ってる。前回は王国軍とSランク二組まで出して、それでも倒せなかったんだろ? 今回やるのは大人数での総攻撃じゃねえ」
グレンさんが僕の肩を叩く。
「俺たち五人でテオをあいつの懐まで連れてく。まずは、それだけだ」
将校の視線が僕へ向いた。僕も立ち上がる。
「最初に確かめたいことがあります。僕の〖フライドチキン〗が、神鳥にも反応するのかどうかです」
三年前は、それすら分からなかった。
「もし仕留める場所が見えるなら、次はそこまでどうやって届くかを探します。黄金の羽を破る方法じゃなくて、羽の向こうへ届く道がないかを見たいんです」
「見つからなかった場合は?」
「一度退きます」
今度は迷わなかった。
「位置と進路を報告します。その場合は、王国側の第二案に切り替えてください。討伐できないからといって、僕たちだけで無理に戦い続けるつもりはありません」
王国軍は戦闘に加わらなくても、外側で避難と監視を続ける。討伐に失敗した場合は、過去と同じように被害を抑えながら進路を変えるための準備へ移ることになっていた。
将校はしばらく僕たちを見たあと、頷いた。
「分かった。軍は外周の封鎖、避難、偵察を継続する。討伐部隊として神鳥へ接近するのは《暁の牙》だけとする」
「それでいい」
決まったのは、《天縛の鎖》で一度ガルーダを地上へ引きずり下ろすこと。そして、その間に僕が近づき、〖フライドチキン〗が反応するか確かめることだけだった。
そこから先は、実際のガルーダを見て判断するしかない。
会議を終えて廊下へ出ると、セシルさんが僕の隣へ並んだ。
「テオ。何も見えなかったら、すぐに退くんだよ」
「はい」
「見えたとしても、届かないと思ったら同じです。今回は確かめるだけでも十分だからね」
「分かってます」
セシルさんは僕の返事を聞くと、それ以上は何も言わなかった。
出発は翌朝に決まった。僕は本店へ戻ると、保存していた鋼羽鳥の肉で六人分の《極み》を用意する。防御の祝福がガルーダの攻撃をどこまで和らげてくれるかは分からないけれど、決戦の直前に食べられるよう準備しておいた。
「神鳥、ついに行くんですね」
厨房へ来たリリカさんが、いつもより少しだけ静かな声で言った。
「はい。たぶん、今までで一番危ない遠征になります」
「お店のことは考えなくていいですからね。こっちは何年テオさん抜きで回してきたと思ってるんですか」
「お願いします」
「任せてください!」
店のことは、本当に心配しなくていい。そう思えるようになったことも、この三年間で変わったことの一つだった。
準備を終えたところで、キアラがやってきた。
「テオ、本当に明日行くんだ」
「はい」
「そっか」
キアラは僕の荷物を見てから、いつものように笑った。
「じゃ、帰ってきたら次はテオが誘う番だからね」
「覚えてますよ」
「遠征から帰って、そのまま店直行とかなしだから」
「今回はさすがに休みます」
「ホントかなぁ」
「帰ったら誘いますって」
「ん。じゃ、待ってる」
翌朝、《天縛の鎖》を携えて、僕たち六人は北へ向かった。
数日後、王国軍が設けた最後の封鎖地点へ到着した。そこから先に人の姿はなく、遠くに見える村にも煙ひとつ上がっていない。いつもなら荷馬車や旅人が行き交う街道まで、今は完全に静まり返っていた。
「今朝の目撃は第四峰の南西です」
待機していた兵士が地図を差し出す。
「偵察隊が巨大な影を確認しました。ただ、その後は雲の中へ入り、見失っています。軍はこの外側で監視を続けます。討伐部隊として、この先へ進むのは皆さんだけです」
「十分だ。あとは俺たちで探す」
グレンさんが地図を受け取り、僕たちを振り返った。
「準備はいいな?」
「はい」
レオンさんが弓を確かめ、ドーガさんが盾を背負い直す。ヴィオラさんとセシルさんも静かに頷いた。
兵士たちが封鎖柵を開いた。
「ご武運を」
グレンさんが、その先へ一歩踏み出す。
「行くぞ!」
僕たち六人だけで、神鳥のいる山へ入った。




