三年
あの一か月の遠征から、僕は《暁の牙》と何度も町を出るようになった。
森へ行き、山を越え、雪原も湿地も歩いた。
最初は五人についていくだけで精一杯だった僕も、遠征を重ねるうちに少しずつ変わっていった。
鳥型魔物なら、自分で痕跡を探し、逃げる方向を読み、仕留めるところまで任される。負傷者が出れば、状況を見て治癒にも入る。
「テオ! 鳥は任せた!」
「はい!」
そんな言葉にも、もう迷わず返事ができるようになった。
冒険者としての評価も上がり、Cランクだった僕はBランクへ、そしてAランクへ昇格した。
「次はSだな!」
「簡単に言わないでくださいよ!」
グレンさんたちとの差は、今でも大きい。
それでも、もう五人の背中を追いかけるだけの冒険者ではなくなっていた。
店の方は、それ以上に大きくなった。
本店と町の支店だけだった『テオ・フライドチキン』は近隣の町へ広がり、商業都市にも進出し、ついには王都にまで店を出した。
もちろん、店だけ増やしても〖フライドチキン〗は増えない。
《定番》でも、とどめだけは僕が刺す必要がある。
だから飼育場で育った鳥をまとめて本店へ運び、僕が仕留め、その後の処理はスタッフへ任せる形になった。
保存した肉は、キアラたちが改良した保冷用の魔道具で各地へ運ばれ、それぞれの店で料理される。
それでも供給は追いつかなかった。
「テオさん、今日も全店完売です!」
「王都もですか?」
「もちろんです!」
「……店、増やしたんですよね?」
「売れる量も増えてますから!」
《特製》は数量限定。《極み》は今でも本店だけ。
売上は専任の人たちが何冊もの帳簿で管理するようになり、僕はとっくに把握するのを諦めていた。
客の顔ぶれも変わった。
遠くから来る冒険者や商人だけじゃなく、立派な馬車で貴族が訪れることも珍しくなくなった。
一度、ある伯爵家からその日の《極み》を全部買いたいと言われたけれど、それは断った。朝から並んでいる人がいるんだから、貴族だからといって特別扱いはできない。
翌月、その伯爵本人が普通に列へ並んでいたと聞いたときは、さすがに少し笑ってしまった。
飼育場も広がった。
エルナさんを中心に金羽キジの飼育はすっかり安定し、育てられる鳥型魔物の種類も少しずつ増えていった。
僕が早い段階から世話に入り、その関わりを途中で切らず最後まで続けた個体ほど、祝福が強くなる。それも何度もの比較ではっきりした。
町の店はコレットに任せておけば安心で、僕が遠征の日程を伝えれば、リリカさんは当たり前のように在庫と人員の予定を書き換える。
キアラも魔道具職人として腕を上げ、店や飼育場にはキアラが作った道具がどんどん増えていった。
「テオ、次いつ帰る?」
「今回は二週間くらいです」
「じゃ、帰ってきた次の日空けといて」
「もう予定入れるんですか?」
「いいじゃん。どうせ店行こうとするんでしょ?」
「……否定できません」
二人で出かけることも、いつの間にか当たり前になっていた。
遠征へ出て、帰ってくる。
店に立ち、鳥を育て、また町を出る。
昔は一か月店を離れるだけで大騒ぎだったのに、それがいつしか僕の日常になった。
春が来て、夏が過ぎた。
秋が来て、冬を越えた。
それを三度繰り返した。
三年が経った。




